日米医学医療交流財団 留学助成 氏名:熊倉純子 A項 研 修 報 告 書 (平成20 年度 助成者) 作 成 日 平 成 22 年 10 月 5 日 研修先 期間 University of California Riverside Extension 2008.9.22 2009.6 .11 (UCR Ex), Global Nursing Review Program (GNRP), California Riverside Com m unity Hospital, California 2009.3.8 North Okaloosa M edical Center, Florida 2009.9 .14 2009.6.8 2010.7.12 留学生活の前半1年間は、各国からの学生とともに、米国で医療、看護 に 携 わ る 準 備 段 階 と し て UCR Ex, GNRP に て 、現 役 RN の 講 義 を 受 講 し 、 Riverside Community Hospital で は Clinical Care Extender と し て CNA レ ベ ル の 看 護 介 入 を 体 験 す る こ と で 医 療 、 看 護 シ ス テ ム な ど を 学 ん だ。 ( GNRP に 関 し て は 、渡 米 中 の 報 告 書 に 記 載 し て あ る た め 、今 回 の 報 告 書 で は 割 愛 す る 。)そ の 後 、RN と し て 就 職 活 動 を 開 始 し た 。以 前 、UCLA や Children’s hospital of Los Angels な ど 有 名 な 病 院 を 見 学 し た こ と も あ り 、評 判 の 良 い teaching hospital や magnet hospital へ の 就 職 を 希 望 し て い た 。日 本 で の 6 年 半 の 看 護 師 経 験 と と も に 、CV 作 成 、イ ン タ ビ ュ ー準備など用意周到で望んだが、徐々に有名病院への就職は現実的では な い こ と を 目 の 当 た り に す る 。 F-1 visa/Optional Practical Training (OPT) と い う 1 年 間 限 定 の 就 労 ビ ザ 保 持 と い う こ と 、 米 国 に て 看 護 師 経 験が皆無であり米国の看護学校を卒業していないという点、米国が過去 に 例 を み な い 不 景 気 で あ っ た た め 就 職 活 動 は 困 難 を 極 め た 。 GNRP 修 了 後 、一 定 期 間 内 に 就 職 が 決 定 し な い と 、学 生 ビ ザ( F-1/OPT)の 規 定 上 、 日 本 へ の 帰 国 が 余 儀 な く さ れ る と い う 厳 し い 状 況 の 中 、全 米 70 余 病 院 へ ア プ ラ イ し 、書 類 選 考 後 、数 カ 所 よ り 簡 単 な 電 話 面 接 を 受 け る 。そ の 後 2 病 院( い ず れ も 飛 行 機 で 乗 り 継 ぎ 6~7 時 間 か け 面 接 へ 。)か ら 対 面 の 面 接 の オ フ ァ ー を 受 け る 。そ の 後 、や っ と の 思 い で NOMC へ の 就 職 が 決 定 し 、 California 州 の RN license を Florida 州 へ の endorsement を 申 請 。 米 国では人事課、看護部長等とのインタビューに加え、必ず、アプライし ているポジションの直属の上司となる師長がインタビューを行う(率直 に 、 こ の 上 司 の も と で 働 き た い か 、 ま た 、 上 司 も こ の RN と 働 き た い か を 決 め る 機 会 と な る 。)日 本 と は 異 な り 、新 人 一 斉 募 集 の よ う な こ と は 一 般的ではなく、通年、各ポジションへの応募が可能である。実力主義社 会 の 米 国 で は 、専 門 分 野 に お い て の 知 識 、経 験 、RN 資 格 以 外 の 取 得 資 格 な ど 自 分 の 経 歴 を い か に 効 果 的 に CV に ま と め 、 自 分 を 売 り 込 む か と い うことが書類選突破の鍵となる。 ( 私 も RN ラ イ セ ン ス の ほ か に 、新 た に BLS な ど 3 つ の certificates を 取 得 し た 。) そ の た め 、 現 場 の ニ ー ズ は 新 人より経験者の方が遥かに高い印象があった。米国では特定の科の特定 のポジションへアプライするため、日本のように希望していない病棟に 配 属 さ れ る こ と は な い 。勤 務 し て い た NOMC は 、人 口 20000 人 の 小 さ な 町 に あ る 、 地 域 に 根 ざ し た ベ ッ ド 数 100 床 余 り の community hospital である。日本で6年半勤務していた慶應義塾大学病院とは規模的にはだ い ぶ 異 な る が 、 全 米 29 州 に 120 の 病 院 を 経 営 す る Com m unity Health System s(CHS) と い う ヘ ル ス ケ ア カ ン パ ニ ー が 経 営 し て お り 、 小 さ な 病 院 で あ り な が ら 、JCAHO accredited と い う こ と か ら も 、シ ス テ ム は 整 備 さ れている印象があった。就職後、1週間の病院全体のオリエンテーショ ン 後 、試 験 と 課 題 を 終 え 、小 児 科 病 棟 で の 勤 務 が 開 始 し た 。同 僚 お よ び 、 管 理 職 と と も に 30 日 、 90 日 の 評 価 を な が ら プ リ セ プ タ ー の 指 導 の も と 徐々に病棟業務に慣れていった。一般小児科であったため、以前日本で 勤 務 し て い た NICU な ど よ り 、 仕 事 の ペ ー ス は 緩 や か で あ っ た た め 、 時 間をかけてプリセプターや、同僚から技術、業務の指導を受けることが できたのは幸いであった。1ヶ月ほどプリセプターの指導を受け、業務 を身につけた後、夜勤に移行した。日本で勤務していた大学病院とは違 い 、 数 名 の hospitalist を 除 い て 、 ER 以 外 は 医 師 が 常 駐 し て お ら ず 、 医 師は病院とは異なる場所でクリニックを経営しているか、病院併設の外 来 ク リ ニ ッ ク で 勤 務 し て い る 。 患 者 は そ う い っ た ER や ク リ ニ ッ ク か ら 送られてくれてくるため、入院オーダーや、医師への問い合わせは電話 で 行 う こ と が 多 く 、Florida 州 北 西 部 の 南 部 訛 り も 手 伝 い 、最 初 は 苦 戦 し た 。 日 本 よ り 遥 か に RN の autonomy が 発 達 し て お り 、 医 師 も RN の 裁 量に任せている部分が多くあった。小児への鎮痛剤(麻薬)の投与であ っ て も 、医 師 か ら の 幅 持 ち の 頓 用 オ ー ダ ー を も と に 、RN が 患 者 の 状 態 を ア セ ス メ ン ト し 、投 与 量 、時 間 を 決 定 す る こ と さ え で き る の に は 驚 い た 。 一方、日本では当たり前のようにおこなっていた患者への気配り、丁寧 で繊細なケアが、米国では、患者や同僚から驚かれると同時に感謝され ることも多くあり、驚くとともに日本で得た基礎看護教育の有り難さを 感じた。看護システムや看護業務範囲などに関してはいくつか顕著な違 い が あ っ た よ う に 感 じ る 。 日 本 で は 大 学 病 院 の NICU お よ び 小 児 科 で 勤 務していたため大半の手技は研修医が行っており、看護師が行う技術は 比 較 的 少 な か っ た が 。 NOMC で は RN が 病 棟 で の 手 技 は 、新 生 児 ,乳 幼 児の採血、点滴挿入、血培採取などの大半を行う。小児病棟は8床のみ 全 室 個 室 、 患 者 は 新 生 児 か ら 16 歳 頃 ま で で あ り 、 家 族 の 24 時 間 付 き 添 いが義務づけられていたが、一長一短であった。病床稼働率の変動時へ の 対 策 と し て 、オ ン コ ー ル シ ス テ ム の 他 に 、多 く の RN が cross training を 受 け 、必 要 に 応 じ て 2 病 棟 以 上 の 病 棟 で 勤 務 で き る よ う に な っ て い た 。 私 は med-surg unit で の cross training を 受 け 、 稼 働 率 低 下 時 に Med-Surg Unit(一 般 外 科 )で 成 人 看 護 を 行 う 機 会 も 得 る こ と が で き た 。米 国 の 医 療 現 場 で は RN は LPN、 CAN, RT (呼 吸 療 法 士 )な ど に 業 務 を 移 譲 できる。日本の病棟看護師は急性期の病棟であっても患者の寝衣交換、 食 事 介 助 、排 泄 介 助 な ど あ り と あ ら ゆ る ケ ア を 行 い 、残 業 時 間 も 長 く 煩 雑 な 印 象 が あ る 。し か し 、米 国 に お い て は こ う い っ た 業 務 は 全 て CNA が RN か ら 移 譲 さ れ て い る 。 入 院 時 の ア セ ス メ ン ト や 、 ICU, Pediatrics を 除 き 、バ イ タ ル サ イ ン 測 定 は CNA が 行 う 。CNA が 収 集 し た デ ー タ を RN に 報 告 し 、 最 終 責 任 は RN が 負 う と い う シ ス テ ム に な っ て い る 。 日 本 で は馴染みのない業務委譲システム下では十分なコミュニケーション、ア セスメント能力なしには、患者の安全性は確保されない。現場では業務 移 譲 す る こ と に 抵 抗 を 感 じ て い る RN も い た 。 ま た 、 患 者 の 権 利 に 重 き を 置 く ば か り に 過 剰 な Pain Control や 、 長 年 の 食 生 活 を 変 更 す る 食 事 管 理の困難な現状も見受けられた。日本の医療は依然パターナリズムであ ると言われることもある一方、米国では、患者の権利主張の強さが治療 過程や、看護過程に及ぼす影響が日本より大きいように感じる場面があ っ た 。 米 国 は 50 州 そ れ ぞ れ に Nursing Board が あ り 州 に よ り 看 護 の 規 律 は 異 な る 。California 州 で は nurse-patient ratio が 1:5 と 決 め ら れ て い る が 、 私 が 勤 務 し て い た Florida 州 で は 基 準 は な く 、 Med-Surge Unit で は 多 い と き で は 1:8~9 人 で あ り 、 労 働 環 境 は 州 、 病 院 ご と に 異 な る と い え る 。 日 本 と は 異 な り 、 nurse-patient ratio は 1 日 を 通 し て 同 じ で あ る た め 、勤 務 に よ っ て 業 務 量 の 差 が さ ほ ど な く 、こ の 点 に お い て は nurse の 負 担 は 軽 減 さ れ て い る と い え る 。 勤 務 体 制 は 12 時 間 勤 務 、 2 交 替 制 の 固定シフトが主流である。米国の看護師免許は 2 年ごとの免許の更新が 義務づけられており、州ごとに決められている継続教育の要件のクリア が必須である。継続教育のためのプログラムは幅広い分野から自由に教 材を選び自分の興味のある分野において単位を稼いでいくことができる システムである。また、多くの病院で就労要件となっている心肺蘇生法 (BLS, PALS, ACLS, NRP)の certificate も 講 習 、 テ ス ト を 受 け て の 2 年 更新が必須となっている。講習時間は、仕事とみなされ給与の支給およ び受講料も病院持ちであり無理なく受講できるようになっていた。 Quality Assurance の 一 環 と し て NOMC で は 退 院 し た 患 者 へ 継 続 的 に ア ンケートや、投書箱を設置し患者の声を収集していた。クレーム対応チ ー ム も あ り 、 患 者 の 不 満 に 対 し て は 24 時 間 迅 速 な 対 応 が な さ れ て い る 。 また、訴訟が起きた際などに状況証拠として用いられるツールとして始 ま っ た 小 さ な デ ィ バ イ ス 、 NST(nurse trucking system)と い う も の が あ る 。 こ れ を つ け る こ と に よ り 、 RN, CNA が い つ 、 ど こ で 、 ど の く ら い の 時間を過ごしたのかがコンピューターにデータとして取り込まれ保存さ れる。このシステムは米国ならではといえる。本来、患者から訴訟を起 こされた際などに、証拠データとして使用する目的で考案されたようで あるが、使用目的の1つに看護師が決められたラウンドを行っているか 上司が把握するためのツールとなっているという話もあった。次に、指 紋認証システムを搭載した薬のコンピューター管理に関して、使用目的 の1つに薬剤取り出し時のエラー防止の他に、医療者による麻薬乱用な ど不適切な使用への対策というものがあった。 (採用時のスタッフへの厳 重 な ド ラ ッ グ テ ス ト に も 驚 か さ れ た 。)NST と と も に 使 用 す る こ と で 、薬 品の使用状況を追跡することが可能である。米国では、エラー防止のた めのソフト面に時間をかけるよりもシステムの改善、コンピューター導 入 な ど ハ ー ド 面 に 力 が 注 が れ て い る よ う な 印 象 を 受 け た 。 ま た 、 pain control に 関 し て 、近 年 日 本 で も pain clinic な ど 普 及 し て き て は い る が 、 一 般 的 に 、日 本 人 は 痛 み の 耐 性 が 高 い と い わ れ て い る 。米 国 で は JCHAO standard や 、 American Pain Society が 、 pain check は 第 5 の バ イ タ ル サ イ ン と し 、 バ イ タ ル サ イ ン 測 定 時 に は pain scale を 用 い 、 ア セ ス メ ン トすることを義務づけている。患者は痛みを訴えやすい環境にあり、術 後 は 特 に 早 期 離 床 を 促 す た め 積 極 的 に pain control を 行 っ て い る 印 象 が あった。米国は日本と比較すると圧倒的に短期入院であるため、手術後 も麻薬性の鎮痛剤を退院処方されるケースが多く、退院後の処方薬内服 の コ ン プ ラ イ ア ン ス の 維 持 が 困 難 で あ る こ と も あ り 、 過 剰 摂 取 で ER へ 搬送されてくるケースも頻繁に見られ問題視されていた。また、日本と 異なり処方薬がメディアで自由に宣伝できるため、患者の薬に対する関 心、知識も多いように感じた。余談ではあるが、米国では日常生活にお い て は feet, oz, lbs, ℉な ど の 単 位 を 使 用 し て い る が 、 医 療 現 場 で は ml, mg な ど メ ー ト ル 法 を 用 い る の が 主 流 で あ る 。 し か し 、 患 者 に 説 明 す る 際 に は oz や lbs に 再 度 換 算 す る 必 要 が あ り 慣 れ る ま で 不 便 で あ っ た 。勤 務 し た NOMC は community hospital で あ っ た た め 、NP や CNS な ど と 仕 事をする機会があまりなかったことは残念だったが、看護システムや、 その文化的背景について多くを日本と比較、考察することができたこと は有意義であった。今後も米国の臨床で学び続けたい希望はあったが、 不 況 や テ ロ の 影 響 を 受 け 、看 護 師 用 の H1-C ビ ザ 2009 年 に 関 し て は カ テ ゴ リ ー そ の も の が 撤 廃 さ れ る な ど 、 OPT 終 了 後 の 就 労 ビ ザ の 取 得 が 現 状 で は 不 可 能 で あ っ た 。今 回 の 留 学 は CGFNS, NCLEX, IELTS の 準 備 な ど 多大な時間と労力と資金をかけての念願叶っての渡米であったため、外 国 人 看 護 師 の 就 労 が 非 常 に 厳 し い 中 、 米 国 の RN と 同 等 の ポ ジ シ ョ ン に 就き、米国の医療、看護を知る貴重な体験できたことを心から嬉しく思 っている。また、周囲に看護師として臨床留学する者が少ない中、 JANAMEF の 助 成 者 と し て 、 留 学 す る こ と が で き た こ と は 心 強 く 励 み に なった。この留学の経験を生かし、今後も視野を広く持ち、日本の看護 をより良くしていくため努力していきたいと思う。この場をかりて支援 して下さった全ての方に深く御礼申し上げたいと思います。
© Copyright 2024 ExpyDoc