日心第70回大会(2006) 逆遠近錯視における断眠の影響 ○村田まゆ 1 雨宮俊彦 2 (1 関西大学大学院総合情報学研究科、2 関西大学社会学部) key words:RP、逆遠近錯視、断眠 の方が有意に距離が遠かった(p<.01)。これらは Papathomas 【目的】 RP(Reverse Perspective)とは、立体パネルに実際の奥行きと (2002)と同様の結果である。 矛盾する線遠近法で絵画的奥行きが描かれたものである。RP は、 体、または首を左右に振って見ると、絵が観察者の動きに追従して 変形して見える錯覚が生じる。RP を使った実験として、 Papathomas(2002)は、反転の閾値観察距離測定、臨界距離での 反転頻度測定、の二つの方法でRP の錯視の強さを測定し、絵画的 手掛かりの強さを測定している。また、Schneider et al.(1996) のスライドプロジェクターを用いた立体視テストでは、断眠によっ てトップダウン処理がボトムアップ処理に比べ相対的に弱化し、奥 行き反転が起こりにくくなったと報告している。本実験では、RP を刺激とし、絵画的手掛かりの強さによる錯視効果の強さを、反転 の閾値観察距離測定によって行い、断眠前後の絵画的手掛かりの強 図 2:両眼条件における断眠前後の閾値距離の箱ひげ図 さによる錯視効果の強さの変化を調べた。絵画的手がかりによる奥 図 2 に、刺激 1 と刺激 2(図 1)に対する、両眼条件における断 行きの錯覚がトップダウン処理、両眼視差を用いた実際の奥行き知 眠前後の閾値距離(接近条件と後退条件の平均値)の箱ひげ図を示 覚がボトムアップ処理であるとすれば、断眠後は Schneider et al. した。1 名のデータが外れ値となっている。この 1 名のデータを除 (1996)の一般的な仮説に基づけば、トップダウン処理の弱化に いた 9 名のデータについて、刺激(2)と断眠前後(2)を被験者内 より両眼での閾値観察距離が長くなることが予想される。 要因とする分散分析を行った。刺激の差は有意傾向 【方法】 (F(1,8)=4.41,p<.1) 、断眠前後は有意差(F(1,8)=6.67,p<.05)がみ 被験者:関西大学・関西大学大学院に在籍している学生 10 名(男 られた。刺激と断眠前後の交互作用は見られなかった 性 5 名、女性 5 名、平均年齢 21.7 歳)で、全員、両眼視差による (F(1,8)=0.05,n.s.) 。刺激 1 の方が閾値距離が近い傾向が見られた。 立体視機能は正常であった。実験は 2005 年 11 月 25 日~26 日、 これは刺激 1 の方がより線遠近法手がかりが強く描かれており、つ 12 月 2 日~3 日の 2 回に分けて行った。 なぎ目も目立たないなどの刺激の特性によるものと考えられる。断 刺激:2 種類のRP を用いた。 立体パネルの大きさは、 120cm×41cm 眠後は閾値距離が有意に短くなっている。これは予測とは逆の変化 である。以下に、2 種類の刺激のうち 1 つを示す。 である。 本実験と同じ被験者と、更に 2 人の計 12 人を断眠被験者とした Schneider et al. (1996)の追試(佐藤・2006)結果で、断眠後、 両眼視差に基づく正答が増す傾向が見られるので、両眼視差の機能 が低下したり、絵の有意味性そのものによる奥行き感が増したりし 図 1:RP 刺激(不安神宮) 手続き:被験者の同意のもと、断眠開始当日の午前 7 時から翌日の たとは考えにくい。これらの要因は、断眠後のRP において両眼で の閾値観察距離を長くする方向に働くと予想される。 夕方まで 32~34 時間程度の断眠を行った。実験は、Papathomas 本実験で示された傾向には、スライドプロジェクターを用いた立 (2004)の実験を参考に、(1)立体パネルから 10cm の距離から首 体視テストにはない、立体パネルに遠近法で絵が描かれた刺激を動 を振りながら後退し、錯覚が生じた距離と、(2)(1)で錯覚が生じた いて観察するという条件に特有の要因が影響していることが考え 地点から更に 1m 程後退し、首を振りながら立体パネルに接近し、 られる。この要因が断眠によるものなのか、経験効果かを確認する 錯覚が消失した距離を、右目・左目・両目で各4 回、断眠前と断眠 ためには、断眠なしのコントロール実験が必要である。 後に測定した。 【参考文献】 【結果と考察】 Papathomas T. (2002) Perception 31, 521-530. 刺激 1・2 共に後退・接近条件における閾値観察距離に有意差が あり (それぞれ刺激1:F(1,9)=23.60, p<.001、 F(2,18)=41.29, p<.001、 刺激 2:F(1,9)=30.42, p<.001、F(2,18)=41.27, p<.001) 、接近条件 よりも後退条件の方が有意に距離が遠く(p<.01) 、単眼よりも両眼 Papathomas T. (2004) Perception 33, 1129-1138. Schneider et al. (1996) European archives of psychiatry and clinical Neuroscience 246, 256-260. (MURATA Mayu, AMEMIYA Toshihiko)
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