重力レンズの波動効果を用いて、レンズ天体の構造を決

重力波の重力レンズでの
波動効果
高橋 龍一 (国立天文台PD)
0. Abstract
重力波源
レンズ天体
重力レンズを受けた重力波
検出器
1. Introduction
世界の重力波検出器
●地上のレーザー干渉計
周波数: 10 103 Hz
LIGO(米)、TAMA(日)、VIRGO(仏・伊)、GEO(独・英)等 (運転中)
将来計画
advanced LIGO (米、~2007年) 、LCGT(日)
●スペースのレーザー干渉計
LISA(米・欧、~2013年)
周波数:104  101 Hz
将来計画(2020年以降)
DECIGO(日)、BBO(米) 周波数: 102  10 Hz
◆ 重力波源
(Cutler & Thorne 2002 )
●地上の検出器
・中性子星(NS)やブラックホール(BH)連星の合体
NS merger  10 103 events/yr for advanced LIGO
(Kalogera et al. 2004)
・超新星爆発
・中性子星の自転
●スペースの検出器
・超巨大BHや中質量BH連星の合体
SMBH merger  0.1 102 events/yr for LISA
・銀河中心の超巨大BH
・銀河系内の白色矮星の連星
 103 sources for LISA
・初期宇宙(インフレーション)起源の重力波
◆ 重力波の重力レンズ
重力波がレンズ天体の近傍を通過
重力ポテンシャルにより進路が曲げられる
重力波
観測者
レンズ天体
重力レンズは(光と同様に)受ける
重力波の振幅・位相の両方とも、影響を受ける
◆ 重力波の重力レンズを研究する動機
●重力波の波形(template)への影響
(e.g. Thorne 1987)
様々なレンズモデル(密度分布)
●detection rate への影響
(Wang et al, 1996, T.T. Nakamura 1998,
Varvella et al, 2003)
レンズ効果により重力波の振幅が増幅
遠方からの弱いシグナルが受かりやすくなる
detection rate が上がる?
ほとんど、影響なし
●距離決定の不定性
(Holz & Hughes 2002)
チャ-プシグナル f から直接決定
連星までの距離 D
周波数
観測者
観測される振幅
f
連星
D
f
A 3
f D
f , f , A から距離 D が決定
レンズを受けると、振幅が増幅・減衰される
距離決定に不定性
2. 重力レンズの波動効果
(Schneider, Ehlers & Falco 1992; T.T. Nakamura & Deguchi 1999)
波動効果:回折・干渉効果
●重力レンズ(幾何光学)
光の経路
レンズ天体
光の重力レンズは通常、幾何光学近似を用いて記述される
光の波長

レンズ天体のサイズ
2.1 回折効果
重力波は光と比べ波長が非常に長いため、波の性質が現れやすい
重力波の波長
可視光
  10 km  f Hz
-1
5

1 μm
波長がレンズ天体のサイズ(シュワルツシルト半径)より
長くなると回折効果が現れる
M  10 M sun  f Hz
1
5
M : レンズの質量
回折効果
入射波
波が壁の後ろにまわりこむ現象
波長が長いほうが現れやすい
壁
(理化学辞典より)
●複スリット (T.T. Nakamura 1998)
rE
観測者
1 /2


r E  MD
レンズ天体
M
D
(c  G  1)


r
観測者
行路差
E

        M
D
単色波
複スリット
 M
Einstein 半径
スクリーン
波動効果 (回折)
●波長が長い極限
  M
重力波源
レンズ
重力波はレンズ天体の存在を感じずに伝播する
2.2 干渉効果
重力波:コヒーレントな波
干渉
rE  MD
1/ 2
波の強度


r
E

X
D
単色波
行路差
スクリーン
複スリット
明暗の間隔
 
干渉パターン
      n
n  0,  1,  2,
X
D

rE

M
 0.1 AU  6
 10 M sun
波長



-1/2
1/2
 D   f 

 

10kpc
kHz


 
1
(Ruffa 1999)
●チャープシグナルでの干渉パターン
(RT & Nakamura 2003)
行路差     


波長

振幅
  n
明
 (n  1 2)
暗
n  0,  1,  2,
合体
1年前
合体
SMBH binary
106  106 M sun
at z  1
detected by LISA
質点レンズ 108 M sun
干渉パターン
周波数
●光(電磁波)の重力レンズとの違い
・光学的に厚い領域が見える
・重力レンズを受けたかどうかは、time delay で調べる
・軽いレンズ天体まで確認出来る
(電磁波)
 E :Einstein angle
 E   M D1/ 2   lim
M  10 M sun
11
 D   lim 





Gpc
1



 lim : 角度分解能
2
銀河スケール
・レンズ確率が上がる (Ruffa 1999; RT & Nakamura 2003)
・重力波源は十分コンパクトなので、大きさを考慮しなくていい
3. 曲がった時空上での重力波の伝播
(Misner, Thorne & Wheeler 1973; Schneider, Ehlers & Falco 1992)
基礎方程式
Background metric
( B)
ds2   1  2U dt2  1  2U dr 2  g
dx dx
U (r ) :レンズ天体の重力ポテンシャル
波動方程式
h : 重力波テンソル
( B)
h ; ;   2R
h  0
h
;


2

2

 0, h  0 : TTgauge
~
~
2
h  4 U h

(B )
: Background
R
Riemann tensor
~
h ( ) : h のフーリエ成分
(Peters 1974)
◆ レンズを受けた重力波波形
波動方程式      h~  4 U h~ の解
2
2

2

・回折積分 with thin lens 近似(Schneider, Ehlers & Falco 1992)
・幾何光学近似   M
・球対称レンズ(Suyama, RT & Michikoshi in preparation)
角度と動径成分の変数分離
常微分方程式
・弱い重力ポテンシャル(RT, Suyama & Michikoshi in preparation )
重力ポテンシャルの1次摂動(Born近似)
・質点レンズの場合 U   M r
解は超幾何関数で与えられる(Peters 1974; Deguchi & Watson 1986)
●回折積分
源、レンズ、観測者の配置図
(Schneider, Ehlers & Falco 1992)
thin lens 近似
: レンズ面上のみで U  0
他は U  0
重力波はレンズ面上のみ
で散乱される
thin lens 近似の妥当性
(Suyama, RT & Michikoshi in preparation)
レンズ面
●Amplification factor (又はTransmission function )
~L
~
F ( )  h ( ) h ( )
~L
h :レンズを受けた波
~
h :レンズなしの波
DS

2
F (, η) 
d
ξ exp i  td (ξ, η)

DL DLS 2 i
time delay
t d (ξ, η) 
DL DS
2 DLS
2
 ξ
η 

  (ξ )

 DL DS 
 (ξ ) : レンズ面上の2次元重力ポテンシャル
Amplification factor
F (, η) 
DS

2
d
ξ exp i  td (ξ, η)

DL DLS 2 i
D D
t d (ξ, η)  L S
2 DLS
2
 ξ
η 

  (ξ )

D
D
S 
 L
: time delay
●幾何光学近似    
t d の停留点 (stationary point) が積分へ寄与する
 td (ξ, η)  ξ  0
: レンズ方程式
像の位置 ξ j が決まる
レンズ面上での積分
F ( , η)    j
j
1/ 2
それぞれの像の和

exp i  t d , j

j
: j 番目の像の magnification
td , j : j 番目の像の time delay
時間空間での波
hL ( t )    j
1/ 2
h ( t  t d , j )
j
hL :レンズを受けた波
h :レンズなしの波

例:
1 , td ,1
レンズ
源
h ( t )  1
1/ 2
h ( t  t d ,1 )   2
上の経路
t d : time delay
観測者
2 , t d , 2
L
: magnification
1/ 2
h ( t  t d , 2 )
下の経路
Flux は  倍
1/ 2
Amplitude は  倍
●質点レンズ  (ξ)  M  (ξ) 
2
w  1 : 増幅率 (magnification) は十分小さい (回折効果)
w  1 : 幾何光学近似
F ( )   
1/ 2
 i 
1/ 2
e i  td
F ( )        2    
2
t d : time delay の差
1/ 2
sin  t d 
干渉
y   E
E  4MDLS DS DL 1/ 2 : Einstein 半径
w  4M
F の位相  F  i ln F F
w  4M
4. レンズを受けたシグナルの見分け方
・同じ形の波形が同じ方向から複数来た場合
Time delay だけ遅れてシグナルが到着
・チャープシグナルの振幅に(干渉による)振動パターンが
ある場合
・理論的に予想される振幅 Ath と観測されたもの Aobsとが
一致しないとき

1/ 2
 Aobs Ath


Ath  f f 3 D
D : host galaxy までの距離
redshift から決定
●重力レンズを受ける確率
遠方の QSOs が手前の銀河により重力レンズをうけて多重像を
作る(strong lensing)確率 : 0.1-1 %
銀河より軽いレンズ天体も含めれば確率は上がる
弱い重力ポテンシャルによる散乱(weak lensing)なら起こる
5. まとめ
重力波の重力レンズでの波動効果
回折と干渉効果
・回折
重力波の波長 
> レンズ天体のシュワルツシルト半径 M
M  10 M sun  f Hz
5
・干渉
重力波がコヒーレントな波
1