機械システム応用実験 機械システム応用実験 熱伝導解析の応用実験

2014
2014 年 4 月 28 日版
熱流体システム研究室
2014
2014 年度
機械システム応用実験
熱伝導解析の
熱伝導解析の応用実験
応用実験
本テキストは,実験者たのめの現場マニュアルであり必要最低限のことしか記していない.また,
実験に立ち会っていない他人に報告して説明するレポートとはまったく異なる方向から書かれ
たものである.よって,本テキストの内容を丸写してレポート冒頭の部分(目的,理論,実験装
置等の章)を作成した者にはゼロから書き直しを命じることになる.
当日持参するもの
本テキスト,筆記用具,A4方眼紙,電卓
可能であれば USB メモリ
メモリ,ポケットブック
1.本実験の学習目標
実験の学習目標
熱の移動を扱う工学の分野を伝熱工学と呼ぶ.熱移動は「熱は温度の高い場所から低い
場所へと移動する」という極めて単純な原理に従って起こる.つまり温度分布が分かれば
熱移動の様子が理解できるのであり,伝熱解析では温度分布を求めることがもっとも重要
な作業となる.本実験では,円筒形をした金属製供試体の底面をヒーターで熱し,定常状
態に達した状態で供試体内部の温度分布について調べる.
温度分布を調べるために,3 つの方法(理論解析,実験計測,シミュレーション)を用い
る.これらの方法により得られた結果は互いに異なっているのが普通であり,真の物理現
象はどうなっているかを考察する力がエンジニアには求められる.そのために,何を考察
すればよいのか判断する力(問題発見能力)がなければならない.次にデータのどういう
特徴に着目すれば説明が付くかを見極めて問題解決策をもち引き出す力(問題解決能力)
が必要である.この両者を磨くのが重要な学習目標であり,レポート評価においてもこの 2
点が最重要視される.
注意:これは学習目標.実験の目的ではない.
2.伝熱
2.伝熱の
伝熱の 3 形態
面積 A を単位時間に通過する熱量を Q とすると,単位面積・単位時間当たりの通過熱量の
大きさは
q=
∆Q
∆A
(2.1)
で表わされる.この q を熱流束
熱流束という.熱の移動には,(1)熱伝導,(2)対流熱伝達,(3)放射
熱流束
の 3 形態があるが,いずれの形態であっても,伝熱解析を行うということはこの熱流束を
調べることに他ならない.
2.1 熱伝導
熱伝導とは,固体内部を熱が伝わっていく現象であり,熱流束は温度勾配に比例すること
が知られている.すなわち,
q = −λ
dT
dx
(2.2)
と表わされる.これをフーリエの法則という.比例定数のλは熱伝導率
熱伝導率 (heat conductivity)
と呼ばれる物性値である(物質により異なった値を持つ).熱伝導率は,物質の熱の伝えや
すさを表わす物性値である.
実際の熱伝導では,固体内を様々な向きに熱が移動しているので,熱流束はベクトル量
となる.その場合,式(2.2)の常微分を偏微分に代えて,
q x = −λ
∂T
∂x
q y = −λ
∂T
∂y
q z = −λ
∂T
∂z
(2.3)
とすればよい.
2.2 対流熱伝達
対流熱伝達とは,固体と流体との間に発生する熱移動のことである.本実験では,固体
の円筒から空気に向かって熱が移動するので,以下の説明においては流体が空気であるこ
とを前提とする.また,熱伝達は周囲の流体の流れの有無によって 2 種類に分類される.
流体に最初から速度が与えられている強制対流熱伝達
強制対流熱伝達と,元々は流体は静止しているが固
強制対流熱伝達
体から流体への熱移動の結果流れが発生する自然対流熱伝達
自然対流熱伝達である.なお,対流熱伝達に
自然対流熱伝達
おいては熱移動の方向が固体面の法線方向と決まっている.つまり熱流束ベクトルの面に
平行な成分はゼロとなる.
一様な温度 Tair である空気中に固体が置かれており,その固体壁面の温度が T2 のとき,
固体から空気に向かう熱流束は,次式により与えられる.
q 2 = h (T2 − Tair )
(2.4)
熱流束は温度差に比例しており,その比例定数 h を熱伝達率
熱伝達率 (heat transfer coefficient)と
呼ぶ.熱伝達率 h は熱伝導率λと異なり,定数でも物性値でもないことに注意が必要であ
る.強制対流か自然対流かによって h の値は大きく異なるし,表面温度 T2 の影響も受ける.
また,同じ強制対流であっても固体の形状や空気の流速分布により大きく値が変わる.自
然対流では,熱伝達率 h に重力が大きく影響し,その度合いは面の向きによっても異なる.
このように,熱伝達率の値を一概に決めることは不可能である.実験に基づく過去の知見
の蓄積があるので,データブックやハンドブックの類を参照して実用的な値を引用するの
が熱伝達率の値を知るための近道である(簡単な場合については付録に計算法を示す).
2
2.3 放射
非接触状態であっても電磁波により熱が移動する現象を放射
放射と呼ぶ.今,物体
A 表面の絶
放射
対温度が TA であるとすると,物体 A から放射される熱エネルギの熱流束は T の 4 乗に比例
して,
q = εσ T A4
(2.5)
と表わされる.ただし,εは放射率であり 0~1 の値をとる.黒体でε=1,鏡面でε=0 で
ある.また,σはシュテファン・ボルツマン定数と呼ばれる定数で,σ=5.67×10-8W/(m2・
K4)である.
式(2.5)は放射により物体が失うエネルギを表わしているが,同時に他の物体から放射に
よりエネルギを受け取っているので,実際にこの物体が失うエネルギは式(2.5)よりも小さ
くなる.2 つの面 A, B の間での放射伝熱量は以下の式で与えられる.
(
q = FAB f sσ T A4 − TB4
)
(2.6)
ここで FAB は形態係数と呼ばれ,2 面の面積,距離および角度によって決まる係数である.
また,fs は放射係数であり,2 面の放射率の関数である.本実験では,供試体は十分大きな
壁に囲まれており,壁の温度や放射率は一定であるとの仮定して以下の簡略化された式を
用いる.
(
q = εσ T A4 − TB4
)
(2.7)
2.4 物体表面から失われる熱量
本実験では金属供試体の上面温度 T2 が室温より高くなる.このとき,対流熱伝達と放射の
両者が円筒表面から失われる熱の原因となっている.周囲の物体の温度 TB が気温 Tair と同
じであると仮定すれば,このときの熱流束 q2 は式(2.4)と(2.7)の両者を足した以下の形で表
現することができる.
(
q 2 = h (T2 − Tair ) + εσ T24 − Tair4
{
)
(
)}
= h + εσ T23 + T22Tair + T2Tair2 + Tair3 (T2 − Tair )
(2.8)
式(2.8)の{ }内は対流熱伝達と放射伝熱の効果を総合した熱伝達率であり,総合熱伝達率と
呼ばれる.すなわち,総合熱伝達率 htotal は次式で表わされる.
q 2 = htotal (T2 − Tair )
,
(
htotal = h + εσ T23 + T22Tair + T2Tair2 + Tair3
)
(2.9)
3.熱伝導方程式
3.熱伝導方程式
固体内部の温度分布 T は以下の熱伝導方程式によって決定される.
 ∂ 2T ∂ 2T ∂ 2T 
∂T
ρc
= λ  2 + 2 + 2  + Q
∂t
∂y
∂z 
 ∂x
(3.1)
ただし,c は固体の比熱,ρは固体の密度,Q は発熱量である.本実験では金属供試体内部
での発熱はなく,定常状態を仮定しているので,は以下のラプラス方程式に帰着される.
3
∂ 2T ∂ 2T ∂ 2T
+
+
=0
∂x 2 ∂y 2 ∂z 2
(3.2)
本実験で使用する供試体は円筒形であるから,式(3.2)をデカルト座標(x,y,z)から円筒座標
(r,θ,z)における表現に変換すると以下の通りである.
1 ∂  ∂T  1 ∂ 2T 1 ∂  ∂T 
⋅ r
+ ⋅ r
+ ⋅
=0
r ∂r  ∂r  r 2 ∂θ 2 r ∂z  ∂z 
(3.3)
式(3.2)ないし(3.3)は,供試体内部で熱が空間のあらゆる方向に移動していることを示して
いる.これを 3 次元熱流れという.
次元熱流れ
3.1
2 次元熱流れ
温度差があれば必ず熱はその方向に流れるので,ほとんどの熱流れは 3 次元熱流れであ
る.ところが,条件によっては次元を少なくすることができる.本実験の供試体は軸対称
な円筒であることから,温度分布も軸対称であるとみなすことができる.このとき,θ方
向に温度変化がないので,熱伝導方程式(3.3)は以下のように簡略化される.
∂  ∂T  ∂  ∂T 
r
=0
 + r
∂r  ∂r  ∂z  ∂z 
3.2
(3.4)
1 次元近似
本実験では金属の供試体の周囲に断熱材を巻いている.このために r 方向の熱流れが抑制
されて,z 方向の熱流れが支配的である.よって,式(3.4)中の r 方向微分を無視して,
1 d  dT 
⋅ r
=0 ⇒
r dz  dz 
d 2T
=0
dz 2
(3.5)
と近似することができる.式(3.5)は,
「温度を z で 2 階微分したら 0 になる」ことを意味し
ている.2 階微分して 0 になる関数とは一次関数のことであるから,式(3.5)を満たすのは,
T = C1 z + C 2
(3.6)
である.C1 と C2 は境界条件により決まる定数である.
4.実験装置およびシミュレーションの解析領域
実験装置およびシミュレーションの解析領域
Fig.1 に実験装置の構成を示す.供試体は Fig.2 に示すような円筒であり,アルミ製であ
る.供試体の下面はヒーターに接しており,全体は断熱材(グラスウール)で包まれてい
るため,供試体上面のみが空気に露出している.円筒の高さ zmax=60mm, 半径 rmax=60mm
である.Fig.2 に示す 2 つの●は温度測定点であり,熱電対がそれぞれ埋め込まれている.
一方,Fig.3 はシミュレーションを行う際の解析領域を示したものである.中心線を通り
z 軸に平行な平面で供試体をカットしたときの切り口の半分が解析領域であり,アルミ円筒
断面(r 方向 60mm)とグラスウールの断面(r 方向 20mm)を合わせた領域でシミュレー
ションを行う.
4
Fig.1 実験装置
アルミ供試体
断熱材
T2
T1
Fig.2 アルミ供試体
Fig.3 供試体断面内の解析領域
5.一次元理論による温度分布の推定
電流計と電圧計の読み値よりヒーターの単位時間当たり発熱量 Q が計算できる.この熱
量がすべて供試体に供給されるとすれば,これを供試体断面積 A で除した値が熱流束 q で
あるので,これと式(2.2)を同値すれば,温度勾配 dT/dz=C1 を求めることができる.
次に表面温度 T2 を理論的に計算する.まず,T2 のおおよその値を予測し,これを T02 と
する.T2=T02 として式(2.9)の総合熱伝達率 htotal を計算する(対流熱伝達率には別途与えられ
る値を用いる).
式(2.9)の q2 と式(5.1)で求めた q を同値すれば,
T2 を求めることができるが,
5
その値は当初の T02 とは一致していないはずである.そこで今求められた最新の T2 の値を改
めて T02 として同様の計算を繰り返していく.すると,T2 と T02 は互いに近づいていき,有
効桁数の範囲内で一致するようになるので,この値を最終的な T2 とする.
T2 の値がわかれば式(3.6)中の定数 C2 も求めることが可能であり,これで温度分布が求まっ
たことになる.ちなみに,原点 z=0 を底面にとれば,C2= T1 である.
6.二次元シミュレーションによる熱伝導解析
二次元シミュレーションによる熱伝導解析
6.1 基礎式
Fig.3 に示す 2 次元の解析領域を r 方向に∆r,z 方向に∆z の間隔でそれぞれ分割してコン
トロールボリューム(CV)を設定する.Fig.4 はある 1 つの CV に着目して,その周囲の CV
との位置関係および温度定義点を示したものである.同図で温度定義点は〇で示されてい
る.温度の定義点はアルファベットの大文字 P, N, S, E, W で表わすものとする.P は着目
する CV(塗られている長方形)の中央点である.また,着目する CV の 4 つの界面に n, s,
e, w とそれぞれ小文字の名前を付ける.また,温度や熱流束は定義されている場所を明確
にするためにこれらのアルファベットを付して表わすものとする.たとえば,TP は点 P に
おける温度を意味する.
CV 内で式(3.4)を積分すると,
 ∂  ∂T 
 ∂T 
∂  ∂T 
∫  ∂r  r ∂r  + ∂z  r ∂z  drdz = ∆z  r ∂r 
V
e
 ∂T   ∂T  
 ∂T  
− r
  + ∆r  r
 
 − r
 ∂r  w 
 ∂z  n  ∂z  s 
 r (T − TP ) rw (TP − TW ) 
 TN − TP TP − TS 
= ∆z  e E
−
−
 + ∆r rP 
=0
rP − rW 
 rE − rP
 zN − zP zP − zS 
(5.1)
これを整理して,以下の形式に表わすことができる.
a P TP = a E TE + aW TW + a N TN + a S TS + S
(5.2)
ただし,係数は以下の通りである.
aE =
∆zre
rE − rP
aW =
∆zrw
rP − rW
aN =
a P = a E + aW + a N + a S
∆r rP
∆r rP
aS =
zN − zP
zP − zS
S =0
(5.3)
(5.4)
式(5.2)は温度についての線形な代数方程式であり,すべての CV で同様な方程式が立てら
れるので,方程式の数は CV の数と一致する.
6.2 境界条件
下面では供試体がヒーターから受け取る熱の熱流束 q を境界条件として与える.また,熱
伝達面である上面と側面では,対流熱伝達と放射を合わせた熱流束が供試体内部から外面
に達する熱流束と等しいことより表面温度を決定して境界条件とする(つまり第 5 章の一
次元理論計算で行う方法とまったく同じ).
6
Fig.4 コントロールボリュームと温度定義点
6.3 計算結果
計算結果(温度分布)を出力した CSV ファイルを配布する.同ファイルには 1 行目に z
座標が降順に出力されている.続く 2 行目以降では 1 列目に半径 r がやはり降順に記され
ている.残りのセルには該当する温度値が出力されている.
EXCEL 等のソフトウェアを使って計算結果を可視化してみよ.ただし,r≦0.06mm の
金属部分では温度差が小さすぎるため,断熱材部分と同時にグラフを描画した全体の絵で
は熱の流れが明確に読み取れないきらいがある.そこで,計算領域全体,金属部分,断熱
材部分と別々に 3 種類のグラフを描画すると温度場の把握が容易である.
7.実験に関連する
実験に関連する諸量
関連する諸量
以下に本実験に関連する諸量を列挙する(すべて使うとは限らない)
.
7.1 固体の熱伝導率
アルミの熱伝導率 206 W/(m・K)
グラスウール(断熱材)の熱伝導率 0.04W/(m・K)
7.2 空気の物性値
熱伝導率 0.0241 W/(m・K)
粘性係数 1.83×10-5 Pa・s
密度
1. 185 kg/m3
定圧比熱 1005 J/(kg・K)
7.3 放射に関連する諸量
シュテファン・ボルツマン定数
5.67×10-8W/(m2・K4)
酸化したアルミ表面の放射率
0.18
7
7.4 シミュレーションに関連する諸量
半径方向格子間隔
∆r =0.5mm
高さ方向格子間隔
∆z=0.5mm
総 CV 数
19,200
8.レポート作成上の注意
レポートは第 2 週目(火曜日)の昼休みの時間に提出
レポート提出後は 4 限目に講評と再提出指示を行うので 12 号館に再集合のこと
データの処理や図表の作成に PC を使用するのはかまわないが,レポート本文は手
書きのこと
レポート作成に当たって TA,担当教員に積極的に質問をすることは大いに推奨す
る.ただし,「何を考察したらよいか」という類の低レベルな質問は受け付けない
学生ではなく社会人としてロールプレイをしながら本実験のレポートを作成する
こと.つまり,上司や顧客にレポート作成を命じられたエンジニアがどのような
レポートを書けば読み手(上司や顧客)に喜ばれ
読み手(上司や顧客)に喜ばれ高く
読み手(上司や顧客)に喜ばれ高く評価される
高く評価されるか深く考えてレ
評価される
ポート作成をすること
レポートとは「そのテーマについて良く理解している人が良く知らない人に懇切
丁寧に教えてあげるためのもの」である.自分が理解していないことを書いても
相手に伝わらないのは当然である
本現場マニュアルの第 1 章に書いた通り問題発見能力と問題解決能力に重点を置
いてレポートの成績評価を行う
付録
対流熱伝達率
自然対流の場合
h = C (Gr ⋅ Pr ) ⋅
m
プラントル数: Pr =
λair
(Ex.1)
L
ν
α
グラスホフ数: Gr =
(Ex.2)
gβ (T2 − Tair )L3
ν2
(Ex.3)
ただし,g:重力加速度,ν:空気の動粘度,α:空気の熱拡散率,β:空気の体積膨張率,
λair:空気の熱伝導率,L:代表長さ,である.C と m は定数であり,壁の向きにより,
垂直壁: (C , m) = (0.59, 0.25)
水平な上面壁: (C , m) = (0.54, 0.25)
水平な下面壁: (C , m ) = (0.58, 0.2)
とする.
8
強制対流の場合(温度一様である平板の境界層)
h = Nu ⋅
λair
x
ヌッセルト数: Nu = 0.664 Re 1 / 2 Pr 1 / 3
Ux
レイノルズ数: Re =
ν
(Ex.4)
(Ex.5)
(Ex.6)
ただし,U:境界層の主流速度,ν:空気の動粘度,λair:空気の熱伝導率,x:平板前縁か
らの距離である.式(Ex.5)は Re<105 であるときに使用可である.
式(Ex.4)~(Ex.6)より,熱伝達率は結局以下の式で表わされる.
Nu = 0.664 Pr 1 / 3 λ air
9
U
νx
(Ex.7)