QC雑感②

平成 26 年8月
QC雑感
安全性の考え方
NHK・Eテレで、戦後史証言プロジェクト、「日本人は何をめざしてきたか」で、湯川秀樹氏
と武谷三男氏の言動が取り上げられていた。若いころ、武谷の弁証法に感動したが、改めて「フェ
ールセーフ神話の崩壊」
、
「安全性の考え方」を読んだ。これらの本の発刊は、日本で、原発建設、
環境・公害問題、医療問題、コンピュータに関わる事故、航空機事故、等により安全性が問われた
時期であるが、以下に紹介する安全性に関する武谷語録は、今こそかみしめなければならない。
・安全性の原則。①安全が証明されたものでない限り、実施してはならない。安全では、疑わしき
は罰する。②許容値や基準値は、安全を意味するものではない。(それによって得られる有利と有
害を比較し、はるかに有利と認められる場合に許容される量である。)③人間に被害が出ていない
から実施してよいという論理は誤りである。④有害性は直ちに医学的に検出されるとは限らない。
・大型化と高エネルギー(速度が2倍でエネルギーは4倍)
、毒物、危険物の存在は危険である。
・2重、3重の独立事象の故障率の積による確率論はまやかし。ラスムッセン報告で、原発事故の
確率は、人が隕石にあたる程度といったら、すぐにスリーマイル島の原発事故が起きた。共倒れ、
連鎖事故のように複雑にするほど故障は増える。
・巨大なもの、性能のよいものほど小さなミスから大事故をもたらす。事故は専門家のセクショナ
リズムの隙間、ほんの微妙な絡み合いから、専門家の意表をついて起きる。
・性能がよいことと安全であることは反対。(ノロノロの車の方は猛スピードの車より安全)
・コンピュータの問題点。①コンピュータ依存は危険をもたらす。この程度でいいだろうという近
似計算で一旦できると、それが事実になる。シミュレーションでは、金属疲労やゆるみによる欠陥
は見えない。②コンピュータはブラックボックスである。計算した入力と出力の全てを確認しただ
けで、中身は検討されていない。③コンピュータに関わるシステム事故の再現は困難である。
・実験はやらなければならないが、やったからといって安全ということにはならない。(実験は危
険性テストにはなるが、安全性テストにはならない。
・普段と変わった操作、調整をやれば人為ミスは起きる。人が関与する領域の自動化は、複雑にな
り点検が必要になる。
・理論だけで、経験しなければ技術にならない。実際に働かせ、訓練しなければ技術にならない。
信頼性、安全性は経験の積み重ねが大切である。
・原発はトイレのないマンション。
(廃棄物処理を考えていない)そして、立地条件が最重要。
・原発は毒物をギリギリで動的に抑制しているから、制御システムの計測の信頼性が課題。
・原子力は安全だと考えている人が携わると危険。(利潤の側にいる人が危険と言ったら商売にな
らない。)危険だと考えている人がやってかろうじて安全である。
・安全は、驕り高ぶった時、必ず大事故になる。
・科学者、技術者は危険性を指摘できる職能を有しているから、企業の歯車になってはならない。
すさまじい威力をもった科学技術と、適用限界を外してそれを使いまくる社会体制を放置してい
けば、人類の滅亡は目の前であると警告する。ますます高度化、複雑化する現代社会において、
「文
明とか公共の名における高度な哲学」をもって、公共、公衆を守らなければならない。憲法の基本
的人権を守ることが「安全の哲学」の根本にあるという。
(杉山哲朗)