Candida albicans由来のオキシドスクアレン-ラノステロール環化 酵素の大腸菌における発現について 佐藤 努1*・星野 力1 (平成15年12月24日受付) 要約 古くから、オキシドスクアレン-ラノステロール環化酵素(OLC)の研究が成されてきているが、酵素アミノ 酸残基レベルでの触媒機構こついては不明な点が数多く残されたままである。その解明には、異種細胞での高発現 糸の構築が必須であり、当面の課題となってきている。我々は、大腸菌におけるCandida albicans由来OLCの高発 現糸の構築を目的として実験を行った。まず、天然型のOLCを大腸菌で発現させた。しかし、不溶性であり、酵 素活性も検出できなかった。次に、他の酵素の研究における可溶化の成功例やスクアレンーホペン環化酵素の研究 を通して得た知見を参考にして、 TrxまたはDsb融合型、 N末端削除型、 QWモチーフ改変型の合計9種頬のOLC を大腸菌で発現させてみた。しかし、不溶性のままであり、酵素活性も検出できなかった。様々な方法によって OLCを大腸菌で発現させたにも関わらず、不溶性の問題を解決できなかったことから、 OLCの発現宿主には酵母や 昆虫細胞などの真核生物を利用する必要があることが示唆された。 真核生物である真菌類や動物に存在するオキシドスクアレンーラノステロール喝化酵素(OLC) [EC 5.4.99.7] は、 (3S)-2,3-オキシドスクアレン1のラノステロール2への変換反応を触媒する(Scheme 1),その反応は、一 連のカルポカチオン中間体を経由した他段階反応・熱力学的に不利なアンチマルコフニコフ付加反応・厳密な 一連のヒドリドとメチル基の転位反応が達成されており(Scheme 1)、現在知られている単一酵素による生合成 反応として長も複雑なものの一つである1-3)。それ故、古くから7人のノーベル賞受賞者を含む数多くの有機 化学者によって環化反応機構に洞察が加えられてきた1-3)0 我々は、既に一部の細菌(原核生物)に存在するOLCの類縁酵素であるスクアレンーホペン環化酵素(SHC) (scheme 1)の大腸菌における大量発現系を構築しており4)、基質と酵素アミノ酸残基との微細な相互作用を含 めた詳細な触媒機構を解明してきている1)。 oLCとSHCのタンパク質一次構造は、互いに約30%の相同性があ り、 QWモチーフと呼ばれる特徴的な繰り返しの部分配列[(K偲)(G/A)xM(F〝∧V)(L/I!V)x3Qx2.5GxW]を持って いる(Fig. 1),グラム陽性細菌のSHCで8個、グラム陰性細菌のSHCで7個(QW5bが欠如)が高度に保存さ れている(Fig. 1),一方、 OLCにおいてQW5bは存在せず、 QW4とQW5aの保存性が低い(Fig. 1).以前、 QWモチーフは活性部位ではないかと提案されていたが、我々は部位特異的変異法によって全てのQWモチー フは活性部位ではないことを明らかにしている5)。それに加え、 OLCにおいて保存性が低いQW4とQW5aの トリプトファン残基(W)が熱に対するタンパク質構造の維持に非常に重要な役割を担っていることを見出して いる5)。また、 OLCはSHCと比較してN末端領域においてアミノ酸残基が55個長いことが特徴である[Fig. 1(B)3。 現在、 OLCについては高発現系の構築が当面の課題となっており、触媒搬桝については不明な点が数多く残 されたままである。今回、其菌類であるC. albicans由来OLCの大腸菌における高発現系を構築することを目的 として合計10種類のプラスミドを作製し、酵素の可溶性の増加と酵素活性の保持を検討した。 材料および方法 1. 0LCの大腸菌発現プラスミドの構築 方法の概略をFig. 2に示した C. albicans由来のolc遺伝子は、 TexasA&M大学のC.A. RoessnerとA.I. l新潟大学農学部 ●代表著者: [email protected] -105- 新潟大学農学部研究報告 第56巻2号(2004) 単車/二 1 3S)-2,3-0xidosqualcnc -- Anti-Markovnikov addition SHC 一手=寅 Enz-AH*蝉串玖squalcnc H Hopcnc C2211opanyl cation --Anti-Markovnikovaddition Scheme lオキシドスクアレンーラノステロール硬化酵素(OLC)およびスクアレンーホペン環化酵素(SHC) が触媒する反応機構 OLC : (3S)-2,3-オキシドスクアレン1を♪re-chair-boat-chair型のコンフォメ-ションに折り畳み、 エポキシ基のプロトン付加によって反応を開始し、一連のカルポカチオン中間体を経由した 環化反応が進行し、 C20-プロトステリルカチオン中間体における一連のヒドリドとメチル 基の転位反応とC9位での脱プロトン化によってラノステロール2を形成するo SHC :スクアレンをalllre-chair型のコンフォメーションに折り畳み、末端二重結合のプロトン付 加によって反応を開始し、一連のカルポカチオン中間体を経由した環化反応が進行し、 C22 -ホパニルカチオン中間体におけるC29位での脱プロトン化によってホペンを生成する。 (A) QW1 QW5a 672 RGIQFu妊KHQLPTGEW 687 SHC-P 576 SHC-N 595 RGVQYLVETQRPDGGV1 591 RGZ汀汀LAQNQDEEGLW 610 OLC 410 KSYLFLVRSQFTENO正確427 SHC-P 335 KAGEWLLDRQI-TVPGDW 351 SIIC-N 350 sALSWLKPQQILDVKGDW 3G7 QW5b QW2 0工.C 61 4 KGCDFLISKQLPDGGW 629 OLC SHC-P 518 RALDWVEQHQNPDqGW 533 SHC-P 243 RALDWLLERQAGDGSW 258 SHC-N 536 KAVAWLKTIQNEDGGW 551 SHC-N QW3 QW5c OLC 562 SAIQYILDSQDNIDGSW 577 SHC-P 470 RmYLKKEQKP-DGSW 485 SHC-N 488 AAVDYLLKQEE-DGSW 503 126 EMIRYIVNTA月PVDGGW 141 SHC-P 63 KIRRYLLHEQRE-DGTW 78 SHC-N 59 KIGRYLRRIQGE-HGGH 74 OW6 QW4 0エ蝣C 482 davejUllq i由*V - GEW 496 OLC 79 KGAD FLKLLQLDNGI F 84 SHC-P 402 KGFRWIVG出QS SNGGH 417 SIIC-P 17 RAVEYLLS CQKDEGXW 32 SHC-N 420 RAMEWTIGMQSDNGGW 435 SIiC-N 24 KATRALLEKQQQD G汀v 29 QW6 QW5c QWSa QW4 QW3 QW2 QWl ㌣ト55 a.I-: QW6QW5c QW5b QW5a QW4 QW3 QW2 QWl SHC h2n Fig. 1 OLCとSHCのタンパク質一次構造の比較 (A)QWモチーフ[(】</R)(G/A)x2.3(F〝∧V)(L〟V)x3Qx,うGxW]の比較 C. albicans由来のOLC、グラム陽 性細菌であるAlicyclobacillus acidocaldarius由来のSHC (SHC-P)そしてグラム陰性細菌であるZym0monas mobilis由来のSHC (SHC-N)が示されている。黒の網掛けで白抜きの文字は、本研究でOLC のQWモチーフを改変するためにターゲットにしたアミノ酸残基である。 (B)OLCとSHCのタンパク質一次構造の概略図。 OLCのN末端はSHCと比較して、アミノ酸残基が55 個長いことが措かれている。また、 QIVモチーフの相対的な位置も示されている。 -106- 佐藤・星野:オキシドスクアレン環化酵素の発現 ScottのグループによってクローニングされているプラスミドpML196)を鋳型にして、 PCRによって増幅し た。プライマーは、 PET-3a挿入用にNdel部位を付加したSlとBam HI部位を付加したAl、 PET-32bおよび PET-39b用にBam HI部位を付加したS2とXho l部位を付加したA2を用いた.配列を以下に示す(下線は挿 入した制限酵素部位) : S I , 5 -CATTGACATATGTATTATTCAGCGGAAATTGG-3 A l , 5 -CATGCACGGATCCTTAAACTAACACTTTATCACC-3 S2. 5 -GGAACAGGATCCAATGTATTATTCAGAGGAAATTGG-3' A2, 5 -CATGCACCTCGAGTTAAACTAACACTTTATCACC-3'。 反応液の組成は以下のようである: 100ngpML19. 0.5 〃Mセンスプライマー. 0.5 〃Mアンチセンスプライ マー, 200 iiM dNTPs. 2.5 UPfu DNA polymerase(STRATAGENE社製)。反応条件は以下のようである:98℃ で3分後、 95℃で1分と60℃で1分と72℃で4分を30サイクル、そして72℃で10分。 3種類のPCR産物を¥ % アガロースゲル電気泳動によって確認したが、全てはぽシングルバンドであった。 Fig.2に示したように、 PCR産物を制限酵素WdeトBam HIまたはBam Hl-Xho l)によって切断後、ライゲ-ション反応(TAKARA 社製DNA Ligation Kit Ver. 2)によってpET-3a (Novagen社製)、 PET-32b (Novagen社製)およびpET-39b (Novagen社製)に挿入した。それぞれのプラスミドをpETOLCl. pETOLC2そしてPETOLC3と名付けた ok の配列は、 DNAシーケンサー(LI-COR社製LIC-4000)によって確認した pETOLClとPETOLC3は大腸菌 BL21 (DE3)へPETOLC2はAD494(DE3)へエレクトロポレ-ション法(BIO-RAD社製E. colt Pulser)によっ て導入した0 2. 55個のN末端アミノ酸残基を削除したOLCの大腸菌発現プラスミドの構築 55個のN末端アミノ酸残基を削除したC. albicatis由来OLCの大腸菌発現プラスミドは、 PCRを利用した方 法によって行った(Fig.2),アンチセンスプライマーはAlを用い、センスプライマーは以下に示すものを用い た(下線は挿入した制限酵素部位、太字は新たに挿入された開始コドン) : Bam ¥-量産 pML19 ≠ 1 。k暮亡枇(ORF) ;& I^^P^^H‖mu slプ/ \→ ^2 川 215的b Xhc ¥ N<U¥(-16Sbp.-55n)Bw 蝣Iolcicnc(ORF)蝣川 卜ET-3a 「 PET-32b 卜ET.9b 卜ET-3a 天焦里 Tut!台Ll / \\ N末は557ミノ放牧暮榊除空 / 1 \ OW4改定聖 QW5a改文型 OW4/OWSa改文型 N末抜群韓 N末qN輪 N末増刷捨 OW4鞍文型 OW5a改文型 OW4/OWSa故だ聖 Fig.2 OLC発現プラスミドの構築のストラテジー pcRまたは部位特異的変異法によってpETOLCl -pETOLCIOの10種類のプラスミドを構築した。 pETOLC1 - pETOLCIO上にある白抜き矢印は、 T7プロモ-ダーを意味する PETOLC5 - PETOLCIO 上の▼と▽は、それぞれQW4とQW5aの改変を示している。方法の詳細は「材料と方法」に記述した。 -107- 新潟大学農学部研究報告 第56巻2号(2(泊4) S3, 5'-CCAGATCATATGTCTCCGCCATCGTCAGATATTC-3 その他の操作は「材料と方法 2」と同様に行った。得たプラスミドをPETOLC4と名付けた pETOLC4は大腸 菌BL21 (DE3)に導入した。 3. QWモチーフ4と5aをSHC型に改変したOLCの大腸菌発現プラスミドの構築 QW4のSHC型への改変(V486W)とQW5aのSHC型への改変(V425G/G427W)は、 Unique Site Elimination Kit (Pharmacia社製)を用いた部位特異的変異法によって行った(Fig. 2),使用したプライマーの配列を以下 に示す: V486W, 5'-pd【GATGCTGTTGAATGGTTGCTGCAGATTCAAAATGTGj-3 (ft/ 1) V425G/G427W, 5'-pd【CAATTTACAGAGAATTCTGGCGATTGGAGTTTCAGAG】-3 (JEco RI) 太字は変えた塩基、斜体はターゲットにしたコドン、下線は容易にスクリーニングするためにサイレント変異 を入れた制限酵素部位(V486W : PstI, V425G/G427W :Eco RI)を意味している QW4とQW5a両者のSHC 型への改変(V425G/G427W∧7486W)は、 2つのプライマーを反応系に加えることによって行った。詳細な操 作法は省略するが、 Kitのプロトコールに従った pETOLClを鋳型にして作製したQW4改変型、 QW5a改変 型そしてQW4/QW5a改変型をそれぞれPETOLC5, pETOLC6およびPETOLC7と名付けた(Fig. 2),また、 pETOLC4を鋳型にして作製したN末端削除QW4改変型、 N末端削除QW5a改変型そしてN末端削除QW4/QW5a 改変型、をそれぞれPETOLC8, pETOLC9およびpETOLCIOと名付けた(Fig. 2)。全てのプラスミドは、個々 に大腸菌BL21 (DE3)に導入した。 4.大腸菌におけるOLCの発現および無細胞抽出液の作製 20%グリセロール凍結保存菌(10〃1)を50mg凡のアンピシリンを含むLB培地(1%ポリペプトン. 0.5% 酵母エキス, 0.5% NaCl) (100ml)に種菌し、 ODeが約0.5になるまで37℃で振とう培賛したO最終濃度0.1 mM になるようにIPTGを加え、 15℃,20℃,25℃,30℃または37℃で3時間インキュベーションした。遠心分離 (6000rpm, 10分, 4℃)によって集菌し、 0.1Mリン酸が)ウム緩衝液(pH6.4)で2回洗浄後、緩衝液[0.2% Trト tonX-100,20%グリセロール, 3 mMDTT, 1 mMEDTAおよび10mMMgCl2を含む0.1Mリン酸カリウム(pH 6.4)] (10ml)に懸濁した。超音波破砕処理(10秒× 8回, 4℃)によって溶菌し、遠心分離(120∞rpm, 15分, 4℃)した。上清を可溶性画分(無細胞抽出液)、沈殿物を不溶性画分とした。 5.大腸菌において発現した0LCの酵素活性検定 無細胞抽出液(4 ml)に1 (0.5mg)とTritonX-100 (10mg)を加え、 20℃で16時間インキュベーションし た15%メタノール性KOH (6 ml)を加えてケン化処理(80℃で30分)した後、 1l-ヘキサン(4 ml)で3回抽 出した。抽出物をGCによって分析したo GC分析は、DB-1キャピラリーカラム(0.53mm x30m,J&W社製) を用いてShimadzu社製GC-8Aによって以下の条件で行った:インジェクション温度290℃,カラム温度270℃, N2キャリアーガス1.0kg/cm 結果と考察 1.大腸菌において発現した天然型0LCの可溶性と酵素活性 PCRによって増幅したolc遺伝子をpET-3aに挿入したpETOLClを大腸菌BL2KDE3)に導入し、 OLCを発 現させた(Fig. 2)0 SDS-PAGE解析においてOLCは高い発現圭であることを確認できた(Fig.3),しかし、 OLCの大部分は不溶性画分であり、可溶性画分には殆どなかった。可溶性を増加させるため、 IPTGによって oLCを発現誘導させる時の温度を15, 20, 25, 30,または37℃に変えてみたが、可溶化状態に変化はなかった。 SDS-PAGE上で可溶性画分のバンドとしてOLCを確認できなかったが(Fig. 3)、一部可溶化している可能性も あると考え、酵素活性を調べた Fig.4に示したように、 GC分析において基質1とTritonX-100のピークの みが確認でき、生成物2のピークは検出できなかった。大腸菌におけるタンパク質の発現は、酵母や昆虫細胞 などの他の生物種宿主に比べ、発現量が多く、また扱いやすいことから遺伝子操作の宿主として最も一般的に 使用されてきている。その一方で、真核生物由来のタンパク質は、原核生物である大腸菌で発現させると不溶 性となる例が数多く報告されてきている。その理由としては、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、イソプレニ ル化などの翻訳後修飾の欠如やタンパク質を正常にフォールティングさせるためのシャペロンの欠如が考えら -108- 佐藤・星野:オキシドスクアレン環化酵素の発現 (kDa)M I S A C Fig.3 大腸菌で発現したOLCのSDS-PAGE解析 代表してpETOLClを導入した大腸菌BL2KDE3)の試料を示した。左 のレーンから分子丑マーカー(M)、不溶性両分(I)、可溶性両分(S)、 大腸菌全タンパク質(A)そしてコントロールとしてpET-3aを導入し た(olc遺伝子を導入していない)大腸菌BL2KDE3)の全タンパク質 (C)が示されている。矢印の位置がOLC (77,132Da)である。 pETOLC2 - pETOLCIOの試料も類似の結果であった。 C} tJ) c l⊃ 【コ. 【′】 q} h gコ ■・一I k■ Fig. 4大腸菌で発現したOLCの酵素活性のGCによる分析 pETOLClを導入した大腸菌の無細胞抽出液(4 ml)に1 (0.5mg) とTritonX-100 (10mg)を加え、 20℃で16時間インキュベーショ ンした後、桁へキサン抽出物をGCによって分析した。基質の(3 S)-2,3-オキシドスクアレン1以外のピークはTritionX-100のピー クであり、生成物のラノステロール2のピークは確認できなかっ た Authentic試料の2の保持時間は、 15.06分であった pETOLC2 ・ pETOLCIOの試料も同様な結果であった。 10 20 30 40 Retention time (min) れてきている。我々は、可溶化の成功例が報告されている7&)融合型OLCの発現や他のステロール生合成酵素 で成功例が報告されている N末端削除型OLCの発現そしてSHCの研究を通して得た知見に基づいたQW モチーフ改変型OLCの発現を試みたので以下に述べる。 2.大腸菌において発現したTrxまたはDsb融合型OLCの可溶性と酵素活性 大腸菌における単独発現で不溶性となるタンパク質をTrx (チオレドキシン)またはDsbとの融合タンパク 質として発現させると可溶性となることが、他のタンパク質の研究で報告されてきている TrxとDsbはそ れぞれcytoplasm表層とペリプラズム内に存在し、両者ともジスルフイド結合を促すタンパク質である。 Fig. 2に示したストラテジーで得たPETOLC2とPETOLC3を大腸菌で発現させた後、 SDS-PAGE解析した。その 結果、高発現量を確認できたが、不溶性のままであった(Fig.3と疑似結果)。また、酵素活性も検出できなかっ た(Fig.4と類似結果)。さらに、 IPTGによるOLC発現誘導温度を15,20,25,30,または37℃に変えてみたが、 可溶化状態に変化はなかった C. albicans由来OLCは、 TrxまたはDsbとの融合発現でも可溶性は増加しない ことが解った。 3.大腸菌において発現したN末端削除型OLCの可溶性と酵素活性 ステロール生合成経路においてOLCのすぐ上流に位置するスクアレン合成酵素やスクアレンエポキシダー ゼは、 N末端額域を削除させると大腸菌における可溶性が増加することが報告されている9.10)。その理由は定か ではないが、膜結合ドメインが可溶化を阻害していると考えられている Fig. 1-(B)に示したように、 OLCと sHCの一次構造を比較するとN末端側でアミノ酸が55個長い SHCは大腸菌における発現で可溶性であるこ とから、 OLCのN末端をSHCと同じ長さまで削除(55個削除)させれば可溶性が増加するのではないかと考え、 -log- 新潟大学農学部研究報告 第56巻2号(2004) Fig.2に示したストラテジーでPETOLC4を構築した。しかし、 Fig.3と4に示した結果と同様であり、可溶 性は増加せず、酵素活性も検出できなかった。また、 IPTGによるOLC発現誘導温度を15,20,25,30,または 37℃に変えてみたが、可溶化状態に変化はなかった。 C.albkans由来OLCは、スクアレン合成酵素やスクアレ ンエポキシダーゼのようにN末端を削除させても可溶性は増加しないことが解った。 4.大腸菌において発現したQWモチーフ改変型OLCの可溶性と酵素活性 我々は、 SHCに高く保存されているQW4とQW5aのトリプトファン残基(W)がタンパク質構造の維持に 極めて重要な役割を担っていることを明らかにしている Fig.1-(A)に示したように、 C.albicans由来OLCの QW4とQW5aにおいてWが他のアミノ酸残基に置き換わっている(486番目のアミノ酸残基はV、 427番目の アミノ酸残基はG)。また、 QW5aのV425もQWモチーフの共通配列のGと異なる。したがって、 QW4と QW5aをSHCと類似の配列(それぞれV486WとV425G/G427W)に改変すれば、酵素の正常なフォールディ ング形成が促され、可溶性も増加するのではないかと考え、実験を行った Fig.2に示したように、鋳型として pETOLClを用い、部位特異的変異法によってpETOLC5 (QW4改変型). pETOLC6 (QW5a改変型)および PETOLC7 (QW4/QW5a改変型)を得た。また、 PETOLC4 (N末端削除型)の鋳型からもQWモチーフ改変型 を作製し、 PETOLC8 (N末端削除QW4改変型). pETOLC9 (N末端削除QW5a改変型)およびpETOLCIO (N末端削除QW4/QW5a改変型)を構築した。しかし、 Fig.3と4に示した結果と同様であり、可溶性は増加 せず、酵素活性も検出できなかったO また、 IPTGによるOLC発現誘導温度を15, 20, 25, 30,または3rCに変え てみたが、可溶化状態に変化はなかった C. albicans由来OLCは、 QWモチーフをSHC型に改変しても可溶 性は増加しないことが解った。結果として、OLCの一次構造をSHCに近づけることを試みたが成功しなかった。 ま と め 酵素アミノ酸残基レベルでのSHCの触媒機構の解明は、大腸菌における大量発現系の構築りを契機に、 X一線 結晶構造解析11)や部位特異的変異法による機能解析l)によって飛躍的に進んできている。したがって、 OLC も大腸菌における大量発現系を構築できれば、その後の研究の進展を多いに期待できる。しかし、様々な方法 によってOLCを発現させたにも関わらず、不溶性の問題を解決できなかった。その理由は定かではないが、酵 素活性を持つ可溶性のOLCを発現させるには、翻訳後修飾や他のタンパク質との相互作用など大腸菌(原核生 物)に欠如している其核生物特有の必須なファクターがあるのかもしれない。結論として、 OLCの発現宿主に は、酵母や昆虫細胞などの其核生物を利用する必要があることが示唆された。 謝 辞 C. albicans由来のolc遺伝子を提供して頂いたTexas A & M大学のC.A. Roessner博士とA.I. Scott教授に感 謝致します。本研究の一部は新潟大学プロジェクト推進経費(若手研究者奨励研究)および科学研究費補助金若 手研究(B) (No. 15780083)の助成によって行われた。 引用文献 1 ) Hoshino, T. and Sato, T. Squalene-hopene cyclase: catalytic mechanism and substrate recognition (Feature Article),/. Chem. Soc. Chem. Commiin. 291-301 (2002). 2) Wendt, K.U., Schulz, G.E., Corey, E.J., and Liu, D.R., Enzyme mechanisms for polycyclic triterpene formation. Angew. Chem. Int. Ed., 39, 2812-2833 (2000). 3 ) Abe, I., Rohmer, M., and Prestwich, G.D., Enzymatic cyclization of squalene and oxidosqualene to sterols and tnterpenes. Chem. Rev., 93, 2189-2206 (1993). 4 ) Sato, T., Kanai, Y., and Hoshino, T., Overexpression of squalene-hopene cyclase by the PET vector in Escherichia coli and first identification of tryptophan and aspartic acid residues inside the QW motif as active sites. Biosci. Biotechnol. 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First, a natural type of OLC was expressed in E.coli. However, it was insoluble in E.coli cell and had no enzymatic activity. Therefore, nine kind of altered OLCs were constructed on the basis of successful methods for other enzymes to increase the solubility or the suggestion from our experimental results for the squalene-hopene cyclase: a fused OLC with Trx or Dsb, a OLC deleted Nterminal domain and mutant OLCs having squalene-hopene cyclase types of QW motif. However, all types of OLC were insoluble and had no enzymatic activity. These results suggested that the expression host of OLC must be eucaryotic cells such as yeast and insect. Faculty of Agriculture, Niigata Urllversity ◆ Correspounding auther : [email protected] -112-
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