PDF版

モデル圏
alg-d
http://alg-d.com/math/
2014 年 11 月 3 日
目次
1
定義と導入
1
2
基本的性質
4
3
ホモトピー圏の構成
17
4
導来関手
22
1 定義と導入
通常の圏では同型な対象は同じものとみなすが,数学では同型でないものでも同じとみ
なすことがある.例えば位相空間の圏 Top においてはホモトピー同値や弱ホモトピー同
値という概念がある.更にこの Top は cofibration,fibration と呼ばれる種類の射も持っ
ている.このような,「weak equivalence」「cofibration」「fibration」と呼ばれる射を持
つ圏のことをモデル圏という.
定義. 可換図式
a
f
x
p
i
b
g
1
y
のリフトとは,射 h : b −→ x であって f = h ◦ i,g = p ◦ h を満たすものをいう.即ち次
の図式が可換となるような h である.
f
a
x
h
i
b
p
g
y
定義. 圏 C がモデル圏である
⇐⇒ C は完備かつ余完備であり,W, Cof, Fib ⊂ Mor(C) が与えられ,以下の条件を満
たす.
(1) (2-out-of-3) C の射 f, g が cod(f ) = dom(g) を満たすとする.f, g, f ◦ g のうち少
なくとも 2 つが W に属するならば,残りの 1 つも W に属する.
(2) (Retracts) g が f の retract で,f ∈ W (f ∈ Cof, f ∈ Fib) ならば g ∈ W
(g ∈ Cof, g ∈ Fib) である.
(3) (Lifting) 可換図式
a
f
x
p
i
b
g
y
は
(a)i ∈ Cof ,p ∈ Fib ∩ W ならばリフトを持つ.
(b)i ∈ Cof ∩ W ,p ∈ Fib ならばリフトを持つ.
(4) (Factorization) 任意の射 f : x −→ y は
(a)f = p ◦ i,i ∈ Cof ,p ∈ Fib ∩ W と分解できる.
(b)f = p ◦ i,i ∈ Cof ∩ W ,p ∈ Fib と分解できる.
W, Cof, Fib に属する射をそれぞれ weak equivalence,cofibration,fibration と呼び,記
∼
号で a → b,a → b,a ↠ b と書く.また Cof ∩ W, Fib ∩ W に属する射をそれぞれ trivial
cofibration,trivial fibration と呼ぶ.
定義. f : a −→ b が g : x −→ y に対して LLP(Left Lifting Property) を持つ (もしくは
g が f に対して RLP(Right Lifting Property) を持つ)
2
⇐⇒ 任意の可換図式
a
x
g
f
y
b
がリフトを持つ.
例. 位相空間の圏 Top を考える.任意の CW 複体 A に対する包含写像 A × {0} −→
A × [0, 1] に対して RLP を持つ射を Serre fibration という.
• f ∈ Top が weak equivalence ⇐⇒ f が weak homotopy equivalence
• f ∈ Top が fibration ⇐⇒ f が Serre fibration
• f ∈ Top が cofibration ⇐⇒ f が trivial fibration に対して LLP を持つ
と定めると,Top はモデル圏となる.
例. R を単位的環とする.左 R 加群の鎖複体の圏 Ch≥0 (R) において
• f が weak equivalence ⇐⇒ f がホモロジー群の同型を誘導する
• f : M −→ N が cofibration ⇐⇒ 任意の n ≥ 0 に対して fn : Mn −→ Nn が単射
であり,coker fn が射影的
• f : M −→ N が fibration ⇐⇒ 任意の n > 0 に対して fn : Mn −→ Nn が全射
と定めると,Ch≥0 (R) はモデル圏となる.
モデル圏では weak equivalence を同型射と扱いたいのであるが,実はモデル圏 C の
「weak equivalence を同型射とした」圏 Ho(C) を構成することができる (これをホモト
ピー圏という).先の Ch≥0 (R) の例では,このホモトピー圏が導来圏になっている.ま
た C, D をモデル圏,F : C −→ D を関手とするとホモトピー圏に対して自然に関手
P : C −→ Ho(C),Q : D −→ Ho(D) が得られるから,次の図式を得る.
Ho(C)
P
C
F
D
Q
Ho(D)
よってもし Kan 拡張が存在すれば,自然に関手 Ho(C) −→ Ho(D) を得ることができる
のである.この関手を F の導来関手という.
3
この PDF の目的はホモトピー圏 Ho(C) を構成し,(ある程度の条件の下で) 導来関手
が存在することを示すことである.
2 基本的性質
命題 1. モデル圏 C において
(1) f が cofibraton ⇐⇒ f は trivial fibration に対して LLP を持つ.
(2) f が trivial cofibraton ⇐⇒ f は fibration に対して LLP を持つ.
(3) f が fibraton ⇐⇒ f は trivial cofibration に対して RLP を持つ.
(4) f が trivial fibraton ⇐⇒ f は cofibration に対して RLP を持つ.
証明. 同様なため,1 のみ示す.
=⇒ はモデル圏の定義である.⇐= を示すため,f : a −→ b が trivial fibration に対し
∼
て LLP を持つとする.f = a → x ↠ b と分解すれば,次の実線の可換図式を得る.
p
i
i
a
x
g
b
p
∼
f
b
id
故に点線の射 g : b −→ x が存在する.これにより次の可換図式を得る.
a
ida
ida
a
f
a
f
i
b
g
x
∼
p
b
idb
即ち f は cofibration i のレトラクトであり,従って cofibration である.
命題 2. Cof (Cof ∩ W ) は射の合成について閉じている.即ち,f : x −→ y ,g : y −→ z
が cofibration (trivial cofibration) ならば g ◦ f も cofibration (trivial cofibration) で
ある.
∼
証明. 命題 1 を使う.f : x → y ,g : y → z を cofibration とする.p : a ↠ b を任意の
4
trivial fibration として次の実線の可換図式を考える.
x
a
h0
f
y
∼
p
h
g
z
b
f が cofibration で p が trivial fibration だから,リフト h0 : y −→ a が存在する.g が
cofibration で p が trivial fibration だから,リフト h : z −→ a が存在する.故に,g ◦ f
は trivial fibration に対して LLP を持つから,命題 1 により cofibration であることがわ
かる.
trivial cofibration についても同様である.
命題 3. Cof (Cof ∩W ) は pushout について閉じている.即ち,f : x −→ y が cofibration
(trivial cofibration) で g : x −→ a が射ならば,pushout で得られる射 f : a −→ a
⨿
x
y
も cofibration (trivial cofibration) である.
g
x
a
f
y
a
⨿
f
y
x
※ 定義よりモデル圏は余完備だから,この pushout は存在する.
∼
証明. f : x → y を cofibration,g : x −→ a を射とする.任意の trivial fibration p : b ↠ c
と次の可換図式を考える.
a
p
f
x
∼
a
⨿
b
c
y
f が cofibration だから,リフト h0 : y −→ b が存在する.
x
g
a
y
a
h
⨿
x
5
y
p
∼
h0
f
b
c
よって pushout の普遍性から射 h : a
⨿
x
y −→ b が存在する.従って命題 1 から f は
cofibration である.trivial cofibration に関しても同様である.
命題 4. 同型射は weak equivalence かつ cofibration かつ fibration である.
証明. これも命題 1 から容易に分かる.
定義.
(1) x ∈ C が cofibrant object ⇐⇒ 一意な射 0 −→ x が cofibration
(2) x ∈ C が fibrant object ⇐⇒ 一意な射 x −→ 1 が fibration
定義. x ∈ C とする.射 (id, id) : x
⨿
x −→ x が得られる.この射が (id, id) = (x
⨿
i
x−
→
∼
a → x) と分解するとき,この a を x の cylinder object と呼ぶ.更に
p
(1) i が cofibration のとき good cylinder object と呼ぶ.
(2) i が cofibration で p が fibration のとき very good cylinder object と呼ぶ.
モデル圏の定義から,各 x ∈ C の very good cylinder object が少なくとも一つ存在す
る.(一意とは限らない.) x の cylinder object を x ∧ I で表す.
l
定義. f, g : x −→ y が left homotopic (記号 f ∼ g で表す)
⇐⇒ ある cylinder object x
⨿
∼
i
x→
− x ∧ I → x と射 h : x ∧ I −→ y が存在して,次が可
換となる.
x∧I
h
i
x
⨿
y
x
(f,g)
このときの射 h を f から g への left homotopy という.更に x ∧ I が (very) good
cylinder object のとき,h を (very) good left homotopy という.
x
⨿
i
∼
ν
0
x−
→ x ∧ I → x を x の cylinder object とする.x −→
x
⨿
ν
1
x ←−
x を coproduct
の標準射として i0 := i ◦ ν0 ,i1 := i ◦ ν1 : x −→ x ∧ I とおく.
x
ν0
x
⨿
ν1
x
i
i0
x
i1
x∧I
命題 5. x ∈ C が cofibrant で x
⨿
∼
x → x ∧ I → x を x の good cylinder object とする
i
6
とき,i0 , i1 : x −→ x ∧ I は trivial cofibration である.
証明. 定義から次の図式が可換である.
x
id
i0
ν0
x
⨿
i
x
∼
x∧I
x
(id,id)
id : x −→ x は weak equivalence だから,i0 も weak equivalence である.(この証明から
分かるように,i0 ∈ W は x が cofibrant でなくても成り立つ.)
次に,x が cofibrant だから,0 −→ x が cofibration である.次の図式を考える.
x
0
ν0
x
x
ν1
⨿
i0
x
i
x∧I
i1
左上の四角は pushout である.よって ν0 は cofibration であり,合成 i0 = i ◦ ν0 も
cofibration である.よって i0 が trivial cofibration であることが分かった.i1 について
も同様である.
l
命題 6. f ∼ g : x −→ y のとき,f ∈ W ⇐⇒ g ∈ W である.
証明. h : x ∧ I −→ y を f から g への left homotopy とする.定義から次の図式が可換で
ある.(命題 5 で示したように i0 ∈ W となる.)
x
0
ν0
x
ν1
x
⨿
∼
f
i0
x
i
x∧I
h
(f,g)
y
g
2-out-of-3 より f ∈ W ⇐⇒ h ∈ W が分かる.同様にして g ∈ W ⇐⇒ h ∈ W である.
よって f ∈ W ⇐⇒ g ∈ W となる.
7
l
命題 7. f ∼ g : x −→ y のとき,f から g への good left homotopy が存在する.もし y
が fibrant ならば,very good left homotopy が存在する.
l
証明. f ∼ g だから,cylinder object x
⨿
∼
i
x→
− x ∧ I → x と h : x ∧ I −→ y が存在して,
p
次が可換となる.
x∧I
h
i
x
(x
⨿
i
x−
→ x ∧ I) = (x
⨿
⨿
y
x
(f,g)
∼
x→
a ↠′ x ∧ I) と分解する.
′
i
p
∼
x
p
∼
x∧I
p′
h
a
i
i′
x
x
⨿
⨿
y
x
(f,g)
∼
x →
a →′ x は x の good cylinder object である.故に h ◦ p′ : a −→ y が f から g
′
i
p◦p
への good left homotopy となる.
∼
そこで,h : x ∧ I −→ y を改めて good left homotopy とする.今度は (x ∧ I → x) =
p
∼
′
(x ∧ I →
a ↠′ x) と分解する.2-out-of-3 により i は trivial cofibration である.これに
′
i
p
終対象 1 を加えて,次の実線の図式を得る.
∼
x
p′
a
∼
p
i′
h′
1
x∧I
!
i
x
x
⨿
⨿
h
x
y
(f,g)
∼
x →
a ↠′ x は very good cylinder object である.今 y が fibrant だから,一意な射
′
i ◦i
p
8
! : y −→ 1 は fibration である.i′ が trivial cofibration だから,モデル圏の条件より点線
のリフト h′ : a −→ y が存在する.この h′ が very good left homotopy である.
命題 8. x が cofibrant なら,left homotopic は Hom(x, y) の同値関係となる.
証明. f : x −→ y とする.x
⨿
∼
(id,id)
x −−−−→ x → x は cylinder object で,図式
id
x
f
(id,id)
x
⨿
x
x
(f,f )
l
は可換である.故に f ∼ f である.
⨿
l
次に f ∼ g : x −→ y とする.cylinder object x
∼
i
x→
− x ∧ I → x と h : x ∧ I −→ y が
p
存在して,次が可換となる.
x∧I
h
i
x
ν
0
x −→
x
⨿
⨿
y
x
(f,g)
ν
1
x ←−
x を標準射とすれば,普遍性から次の射 s を得る.
x
ν0
ν1
x
⨿
s
x
ν0
⨿
x
x
ν1
x
以上を組み合わせて次の図式を得る.
x∧I
x
⨿
ν0
h
i
x
s
x
⨿
y
x
(f,g)
ν1
g
x
普遍性により (f, g) ◦ s = (g, f ) である.また x
9
⨿
i◦s
∼
x −−→ x ∧ I → x は cylinder object で
p
l
ある.よって次の図式が得られて g ∼ f が分かる.
x∧I
h
i◦s
x
l
⨿
y
x
(g,f )
l
最後に f ∼ g かつ g ∼ h とする.命題 7 により f から g への good left homotopy
s : x ∧ I −→ y ,g から h への good left homotopy t : x ∧ I ′ −→ y が取れる.
x ∧ I′
x∧I
s
i
i0
x
⨿
i0
y
x
x
(f,g)
ν0
x
t
i′
⨿
y
x
(f,g)
ν0
f
g
x
x
f
ν0
x
⨿
ν1
x
i
g
x
(f,g)
x∧I
s
y
t
i′
ν0
x
⨿
x ∧ I′
(g,h)
x
ν1
h
x
x ∧ I ← x → x ∧ I ′ の pushout を a とする.
i0
x∧I
x
s
y
a
i1
x ∧ I′
この a は x の cylinder object である.
10
t
. .
. ) 定義から,次の図式が可換である.
x
⨿
x
i
x∧I
∼
ν0
(id,id)
id
x
x
(id,id)
ν1
x
⨿
∼
x
i′
x ∧ I′
よって pushout の普遍性により射 a −→ x が得られる.
x
ν0
⨿
x
i
x∧I
∼
∼
i0
x
a
∼
ν1
x
⨿
x
i1
∼
x
i′
x ∧ I′
trivial cofibration の pushout は trivial cofibration であることと,2-out-of-3 により
a −→ x が weak equivalence だと分かる.よって a は x の cylinder object である.
この a と先の図式を組み合わせて次の図式が得られる.
11
x
f
ν0
x
ν0
⨿
x
i
x
⨿
x∧I
i′
ν1
u
a
x
x
⨿
y
x ∧ I′
x
ν1
h
x
この図式から u : a −→ y が f から h への left homotopy であることが分かる.
l
定義. C をモデル圏,x, y ∈ C を対象とする.HomC (x, y) 上の同値関係 R を,∼ で生成
されるものとして,π l (x, y) := HomC (x, y)/R と定める.
l
今示した様に,x が cofibrant ならば π l (x, y) = HomC (x, y)/∼ である.
l
l
命題 9. s : y −→ z とする.このとき f ∼ g : x −→ y ならば s ◦ f ∼ s ◦ g : x −→ z で
ある.(よって写像 s∗ : π l (x, y) ∋ [f ] −→ [s ◦ f ] ∈ π l (x, z) は well-defined である.) 更
∼
に x が cofibrant で s : y ↠ z が trivial fibration であるとする.このとき s∗ は全単射で
ある.
l
証明. f ∼ g : x −→ y とする.f から g への left homotopy h : x ∧ I −→ y を取る.
x∧I
h
x
⨿
x
y
(f,g)
z
s
l
このとき s ◦ h は s ◦ f から s ◦ g への left homotopy である.よって s ◦ f ∼ s ◦ g : x −→ z
l
l
l
l
である.従って [f ] = [g] とすると f ∼ f1 ∼ · · · ∼ fn ∼ g とできるが,このとき
l
l
l
l
s ◦ f ∼ s ◦ f1 ∼ · · · ∼ s ◦ fn ∼ s ◦ g となり [s ◦ f ] = [s ◦ g] である.よって s∗ は
well-defined である.
∼
次に x が cofibrant で s : y ↠ z が trivial fibration であるとする.s∗ の全射性を示す
ため,f : x −→ z を任意に取る.次の可換図式を考えれば,リフト g : x −→ y が得ら
12
れる.
y
0
g
∼
s
x
z
f
このとき s∗ ([g]) = [s ◦ g] = [f ] である.
l
s∗ の単射性を示すため,f, g : x −→ y が s ◦ f ∼ s ◦ g を満たすとする.命題 7 により
⨿
∼
good cylinder object x x → x ∧ I → x と h : x ∧ I −→ z が存在して次が可換となる.
i
x∧I
h
i
x
⨿
x
z
(sf,sg)
次の可換図式を考えれば,リフト g : x ∧ I −→ y が得られる.
⨿
x
x
(f,g)
y
g
∼
s
i
x∧I
z
h
この g が f から g への left homotopy である.
l
l
命題 10. z が fibrant で f : x −→ y とする.このとき s ∼ t : y −→ z ならば s ◦ f ∼
t◦f : x −→ z である.(よって写像 f ∗ : π l (y, z) ∋ [s] −→ [s◦f ] ∈ π l (x, z) は well-defined
である.)
l
証明. f ∗ の well-defined 性を示す.s ∼ t : y −→ z とする.命題 7 により,very good
cylinder object y
⨿
∼
y → y ∧ I ↠ y と h : y ∧ I −→ z が存在して次が可換となる.
p
i
y∧I
h
i
y
x の good cylinder object x
⨿
⨿
y
(s,t)
∼
z
x → x ∧ I → x を取る.次の図式の実線部分は可換で
j
q
13
ある.
z
(s,t)
h
x
⨿
x
(f,f )
y
⨿
i
y
∼
q
x∧I
p
∼
k
j
y∧I
y
x
f
よってリフト k : x ∧ I −→ y ∧ I が存在する.このとき h ◦ k が s ◦ f から t ◦ f への left
homotopy である.
命題 11. fibrant な z ∈ C に対して π l (y, z) × π l (x, y) ∋ ([s], [f ]) −→ [s ◦ f ] ∈ π l (x, z)
は well-defined である.
l
l
証明. f ∼ g : x −→ y ,s ∼ t : y −→ z に対して [s ◦ f ] = [t ◦ g] を示せばよい.z が
l
l
fibrant だから命題 10 により s ◦ f ∼ t ◦ f である.また命題 9 により t ◦ f ∼ t ◦ g であ
る.よって [s ◦ f ] = [t ◦ g] である.
双対的に path object,right homotopic を定義する.
∼
定義. x ∈ C とする.射 (id, id) : x −→ x × x が得られる.この射が (id, id) = (x →
i
p
a−
→ x × x) と分解するとき,この a を x の path object と呼ぶ.更に
(1) p が fibration のとき good path object と呼ぶ.
(2) i が cofibration で p が fibration のとき very good path object と呼ぶ.
x の path object を xI で表す.
r
定義. f, g : x −→ y が right homotopic (記号 f ∼ g で表す)
∼
y
⇐⇒ ある path object y → y I −
→ ×y と射 h : x −→ y I が存在して,次が可換となる.
p
yI
h
x
p
(f,g)
y×y
勿論,path object に対しても cylinder object と同様な命題が成り立つ (省略).
14
l
r
命題 12. f, g : x −→ y とする.x が cofibrant ならば「f ∼ g ならば f ∼ g 」である.同
r
l
様にして,y が fibrant ならば「f ∼ g ならば f ∼ g 」である.
l
証明. x が cofibrant で,f ∼ g : x −→ y とする.命題 7 より good cylinder object
x
⨿
∼
∼
x → x ∧ I → x と left homotopy h : x ∧ I −→ y が取れる.y の good path object
p
i
y → y I ↠ y × y を取る.次の図式が得られる.
j
q
p
∼
x
f
x∧I
h
i
i0
x
⨿
∼
y
x
j
(f,g)
q
yI
y×y
ν0
f
x
y
id
ここから次の実線の可換図式が得られる.
x
f
i0
x∧I
j
y
k
(f ◦p)×h
yI
q
y×y
x が cofibrant だから,命題 5 により i0 は trivial cofibraton である.q は fibration だか
ら,リフト k : x ∧ I −→ y I が得られる.このとき k ◦ i1 が right homotopy である.
よって,x が cofibrant で y が fibrant ならば π l (x, y) = π r (x, y) となる.これを π(x, y)
で表す.
命題 13. x, y を cofibrant かつ fibrant として f : x −→ y を射とする.このとき
f が weak equivalence
⇐⇒ ある射 g : y −→ x が存在して g ◦ f ∼ idx かつ f ◦ g ∼ idy となる.(このとき g を
f の homotopy inverse という.)
∼
証明. (=⇒) f : x −→ y を weak equivalence とする.f = (x → a ↠ y) と分解する.
i
2-out-of-3 により p も weak equivalence である.
15
p
y が fibrant だから,次の図式を考えれば g : a −→ x で g ◦ i = idx となるものを得る.
x
∼
i
id
x
g
a
1
次に命題 9 の双対により i∗ : π(a, a) −→ π(x, a) は全単射である.i∗ ([i ◦ g]) = [i ◦ g ◦ i] =
[i],i∗ ([idx ]) = [i] だから [i ◦ g] = [idx ] となり,即ち i ◦ g ∼ idx である.故に g が i の
homotopy inverse であることが分かった.同様にして p の homotopy inverse h が存在
することも分かる.このとき g ◦ h が f = p ◦ i の homotopy inverse である.
∼
(⇐=) g ◦ f ∼ idx ,f ◦ g ∼ idy とする.f = (x → a ↠ y) と分解する.p が weak
i
p
equivalence であることを示せばよい.h : y ∧ I −→ y を f ◦ g から idy への good left
homotopy とすると次の可換図式を得る.
g
y
∼
x
i
ν0
y
⨿
a
y
p
f
(f ◦g,idy )
y∧I
y
h
左の縦の射の合成 i0 は命題 5 により trivial cofibration である.故にリフト k : y∧I −→ a
が存在する.
y
y∧I
∼
x
i
a
p
∼
i0
g
k
y
h
16
s := k ◦ i1 とおけば p ◦ s = h ◦ i1 = idy である.
s
y
a
id
p
∼
i1
k
y∧I
y
h
∼
ここで,i : x → a は weak equivalence だから,homotopy inverse r : a −→ x を持つ.
f = p ◦ i だから f ◦ r = p ◦ i ◦ r ∼ p ◦ ida = p となる.また k, s の取り方から k は i ◦ g
から s への left homotopy であり,
s ◦ p ∼ i ◦ g ◦ p ∼ i ◦ g ◦ f ◦ r ∼ i ◦ idx ◦ r = i ◦ r ∼ ida
となる.id は weak equivalence だから,命題 6 より s ◦ p も weak equivalence である.
また次の図式が可換となる.
a
a
s◦p
y
s
ida
a
p
∼
p
ida
a
p
y
即ち p は weak equivalence s ◦ p の retract である.故にモデル圏の定義から p も weak
equivalence である.
3 ホモトピー圏の構成
定義. モデル圏 C に対して,充満部分圏 Cc , Cf , Ccf ⊂ C を以下により定める.
(1) Ob(Cc ) := {x ∈ C | x は cofibrant object}.
(2) Ob(Cf ) := {x ∈ C | x は fibrant object}.
(3) Ob(Ccf ) := {x ∈ C | x は cofibrant object かつ fibrant object}.
更に,圏 πCc , πCf , πCcf を以下により定める.(命題 11 に注意する.)
(1) Ob(πCc ) := Ob(Cc ) で,HomπCc (x, y) := π r (x, y)
(2) Ob(πCf ) := Ob(Cf ) で,HomπCf (x, y) := π l (x, y)
17
(3) Ob(πCcf ) := Ob(Ccf ) で,HomπCcf (x, y) := π(x, y)
∼
各 x ∈ C に対して分解 (0 −→ x) = (0 → Q(x) ↠ x) を考える.但し,cofibrant な x
px
に対しては Q(x) := x,px := idx と取っておく.
命題 14. この Q は関手 Q : C −→ πCc を定める.
証明. f : x −→ y を取る.f, px , py と 0 から次の実線の可換図式を得る.
Q(y)
0
f
Q(x)
x
∼
py
∼
px
y
f
Q(x) が cofibrant,即ち 0 −→ Q(x) が cofibration で,py が trivial fibration だから,リ
フト f : Q(x) −→ Q(y) が存在する.このような f : Q(x) −→ Q(y) は right homotopic
を除いて一意である.
. .
. ) 今 Q(x) が cofibrant だから,命題 12 より left homotopic を除いて一意である
ことを示せばよい.それは命題 9 から従う.
よって Q(f ) := [f ] ∈ π r (x, y) = HomπCc (x, y) と定義することができる.後はこの Q
が関手 C −→ πCc となることを示せばよい.
Q(idx ) = [idQ(x) ] は明らかである.
C の射 f : x −→ y ,g : y −→ z を取る.次の可換図式を考える.
0
Q(y)
0
g
Q(y)
0
f
Q(x)
x
g
z
idz
∼
py
∼
px
y
∼
pz
∼
py
y
f
g
z
図式から明らかに,Q(g ◦ f ) = Q(g) ◦ Q(f ) である.
この Q を cofibrant replacement functor と呼ぶ.また px : Q(x) −→ x を x の cofi-
brant resolution という.
18
例. Ch≥0 (R) の場合,X = {Xn } ∈ Ch(R) が cofibrant であるとは各 Xn が射影的であ
ることである.よって R-加群 M を鎖複体
··· → 0 → 0 → M
∼
と同一視して cofibrant resolution 0 → Q(M ) ↠ M を取れば,Q(M ) は M の射影分解
である.
命題 15. Q : C −→ πCc を Cf に制限することで,関手 Q : πCf −→ πCcf が得られる.
∼
証明. x ∈ C を fibrant object とする.0 → Q(x) ↠ x ↠ 1 だから,Q(x) は fibrant か
つ cofibrant である.よって関手 Q|Cf : Cf −→ πCcf が得られる.
l
後は,x, y ∈ C が fibrant で,f ∼ g : x −→ y のとき Q(f ) = Q(g) を示せばよい.
Q(y)
0
f ,g
Q(x)
∼
px
∼
py
y
x
f,g
l
今 y が fibrant だから,命題 10 により f ◦ px ∼ g ◦ px である.即ち [f ◦ px ] = [g ◦ px ] で
ある.よって命題 9 により Q(f ) = Q(g) が分かる.
∼
双対的に,fibrant replacement functor R : C −→ πCf が x → R(x) ↠ 1 により定ま
ix
る.これにより関手 R : πCc −→ πCcf が定義される.よって関手 RQ : C −→ πCcf が
得られる.
定義. モデル圏 C のホモトピー圏 Ho(C) を以下のように定める.
• Ob(Ho(C)) := Ob(C).
• HomHo(C) (x, y) := HomπCcf (RQx, RQy).
また関手 P : C −→ Ho(C) を以下のように定める.
• 対象 x ∈ C に対して P (x) := x.
• f ∈ HomC (x, y) に対して P (f ) := RQ(f ).
定義. C を圏,W ⊂ Mor(C) とする.C の W による局所化とは組 ⟨W −1 C, P ⟩ であって
以下を満たすものである.
19
(1) W −1 C は圏,P : C −→ W −1 C は関手であり,f ∈ W に対して P (f ) は同型射で
ある.
(2) 関手 S : C −→ D が「f ∈ W に対して S(f ) は同型射」を満たすならば,関手
F : W −1 C −→ D が一意に存在して F ◦ P = S となる.
P
C
W −1 C
F
S
D
定理 16. モデル圏 C のホモトピー圏 Ho(C) は,圏 C の W による局所化 W −1 C と一致
する.
∼
証明. まず f : x → y を C の weak equivalence とするとき P (f ) が同型であることを示
す.次の可換図式のリフト f ′ を取る.
0
Qy
f′
py
∼
x
∼
Qx
∼
px
y
f
このとき Q(f ) = [f ] である.また 2-out-of-3 により f ′ は weak equivalence である.さ
らに次の可換図式のリフト f ′′ を取る.
Qx
f′
Qy
∼
iQx
∼
iQy
∼
RQy
f ′′
RQx
1
このとき RQ(f ) = [f ′′ ] である.また 2-out-of-3 により f ′′ は weak equivalence である.
RQx,RQy は cofibrant かつ fibrant だから,命題 13 により f ′′ は homotopy inverse を
持つ.即ち P (f ) = RQ(f ) = [f ′′ ] は逆射を持つから同型射である.
次に D を圏,S : C −→ D を関手で「f ∈ W に対して S(f ) は同型射」を満たすと
する.
※ 証明に入る前に次のことを確認しておく.f : x −→ y を C の射とする.上のよう
20
に f ′′ : RQx −→ RQy を取る.
iQy
∼
iQx
Qx
f′
Qy
∼
py
∼
px
RQy
∼
f ′′
RQx
y
x
f
′′
−1
「f ∈ W に対して Sf は同型射」だから Sf = Spy ◦ Si−1
Qy ◦ Sf ◦ SiQx ◦ Spx が成
り立つ.
k ∈ HomHo(C) (x, y) = HomπCcf (RQx, RQy) とする.ある C の射 h : RQx −→ RQy
−1
を使って k = [h] と書ける.この h を使って F k := Spy ◦ Si−1
Qy ◦ Sh ◦ SiQx ◦ Spx と定
める.これは well-defined である.
. .
l
. ) f ∼ g : a −→ b に対して Sf = Sg であることを示せばよい.good cylinder
⨿
∼
object x x → x ∧ I ↠ y と h : x ∧ I −→ y が存在して次が可換となる.
i
p
p
ida
∼
a
a∧I
i0
a
ν0
h
i
a
⨿
a
(f,g)
b
f
p ◦ i0 = ida = p ◦ i1 だから Sp ◦ Si0 = Sp ◦ Si1 となる.今 p が weak equivalence だ
から Sp は同型射となり Si0 = Si1 が分かる.故に Sf = Sh ◦ Si0 = Sh ◦ Si1 = Sg
である.
対象 x ∈ Ho(C) に対して F (x) := S(x) とすれば関手 F : Ho(C) −→ D が定まる.こ
のとき f ∈ HomC (x, y) に対して上のように f ′′ : RQx −→ RQy を取れば
′′
−1
F P (f ) = F [f ′′ ] = Spy ◦ Si−1
Qy ◦ Sf ◦ SiQx ◦ Spx = S(f )
21
となるから F P = S である.
後はこのような F の一意性を示せばよい.k = P (f ) と書ける射 k ∈ HomHo(C) (x, y)
に対しては,上から分かるように F (P (f )) = S(f ) でなければならない.従って,任意の
射 k ∈ HomHo(C) (x, y) が P (f ) (f ∈ Mor(C)) の合成で書けることを示せばよい.
x, y ∈ C に対して RQx, RQy は cofibrant かつ fibrant だから,f : RQx −→ RQy に
対して上のように f ′′ を取れば f ′′ = f となる.
RQRQx
f
RQRQy
id=iQRQx
iQRQy =id
QRQx
f
QRQy
id=pRQx
pRQy =id
RQx
f
RQy
故に P : HomC (RQx, RQy) −→ HomHo(C) (RQx, RQy) は全射であることが分かる.一
∼
∼
∼
∼
iQx
py
iQy
方 x ↞ Qx → RQx,y ↞ Qy → RQy から Ho(C) の同型 P (iQx ) ◦ P (px )−1 ,P (py ) ◦
px
P (iQy )
−1
が得られる.これにより全単射 HomHo(C) (RQx, RQy) −→ HomHo(C) (x, y)
が f −→ P (py ) ◦ P (iQy )−1 ◦ f ◦ P (iQx ) ◦ P (px )−1 により得られる.以上により全射
HomC (RQx, RQy) −→ HomHo(C) (x, y) が得られる.即ち,任意の k ∈ HomHo(C) (x, y)
はある f ∈ HomC (RQx, RQy) により k = P (py ) ◦ P (iQy )−1 ◦ P (f ) ◦ P (iQx ) ◦ P (px )−1
と表される.
4 導来関手
定義. C をモデル圏,D を圏,F : C −→ D を関手とする.局所化 P : C −→ Ho(C) に
沿った F の右 Kan 拡張 LF := P ‡ F を F の左導来関手という.局所化 P : C −→ Ho(C)
に沿った F の左 Kan 拡張 RF := P † F を F の右導来関手という.
C
LF
⇐=
P
Ho(C)
F
P
D
C
RF
=⇒
Ho(C)
F
D
補題 17. F : Cc −→ D を関手とし,f ∈ Cc が trivial cofibration ならば F f は同型射
22
であるとする.このとき Cc の射 f, g : x −→ y が right homotopic ならば F f = F g で
ある.
∼
証明. y の very good path object y → y I ↠ y × y と right homotopy h : x −→ y I が取
p
i
れる.ν0 , ν1 : y × y −→ y を標準射影とすれば次の可換図式を得る.
∼
yI
h
x
y
i
p
0
(id,id)
y×y
(f,g)
ν0
f
y
y が cofibrant だから y I も cofibrant となる.よって仮定から F i は同型射である.
(id, id) = p ◦ i だから F (id, id) = F p ◦ F i となり,よって F p = F (id, id) ◦ F i−1 であ
る.f = ν0 ◦ p ◦ h,g = ν1 ◦ p ◦ h だから
F f = F ν0 ◦ F p ◦ F h
= F ν0 ◦ F (id, id) ◦ F i−1 ◦ F h
= F id ◦ F i−1 ◦ F h
= F ν1 ◦ F (id, id) ◦ F i−1 ◦ F h
= F ν1 ◦ F p ◦ F h
= Fg
である.
定理 18. C をモデル圏,D を圏,F : C −→ D を関手とする.x, y ∈ C が cofibrant で
f : x −→ y が weak equivalence ならば,F f は同型射であるとする.このとき右 Kan 拡
張 P ‡ F ,即ち F の左導来関手が存在する.
証明. F の Cc への制限 F |Cc に補題 17 を適用して,関手 F : πCc −→ D を得る.
f ∈ C を weak equivalence とすれば F Q(f ) ∈ D は同型射である.よって局所化
P : C −→ Ho(C) の普遍性により,関手 L : Ho(C) −→ D が一意に存在して LP = F Q
となる.
Ho(C)
L
P
C
Q
πCc
23
F
D
x ∈ C に対して ηx := F (px ) : F Qx −→ F x と定める.これにより自然変換 η : LP =
F Q =⇒ F が定まる.
Ho(C)
L
=
P
Q
πCc
D
F
⇐
C
η
F
. .
. ) C の射 f : x −→ y に対して,次を可換とするような C の射 f を取る.
Q(y)
0
f
∼
px
Q(x)
∼
py
y
x
f
Q の定義から Q(f ) = [f ] である.また F が関手だから次が可換となる.
ηx =F px
Qx
x
Ff
Ff
y
Qy
ηy =F py
よって F Qf = F f である.故に η : LP = F Q =⇒ F は自然変換である.
⟨L, η⟩ が P に沿った F の右 Kan 拡張であることを示す.その為に S : Ho(C) −→ D
を関手,θ : SP =⇒ F を自然変換とする.
Ho(C)
S
L
⇐=
P
⇐=
τ
θ
η
C
F
24
D
τ : S =⇒ L が η ◦ τP = θ を満たすとする.次の図式が可換となる.
θQx
SP Qx
τP Qx
LP Qx
SP px
ηQx
F Qx
LP px
SP x
τP x
LP x
F px
Fx
ηx
θx
x ∈ C に対して px : Qx −→ x は weak equivalence だから,SP px : SP Qx −→ SP x は同
型射である.また Qx は cofibrant だから pQx = idQx であり,よって ηQx = F pQx = id
である.LP = F Q もあわせて次の図式を得る.
θQx
SP Qx
τP Qx
id
F QQx
F Qx
F ′ Qpx
SP px
SP x
τP x
F Qx
F px
Fx
ηx
θx
ここで Q の定義から,Qpx = [id] である.
Qx
0
id
∼
id
Qx
px
(
∼
Qx
px
x
SP p−1
x
θQx
よって F Qpx = id が分かる.故に τ は τP x = SP x −−−−→ SP Qx −−→ F Qx = LP x
を満たさなければならない.従って τ はもし存在すれば一意である.
逆に τ をこの合成で定義すれば,τ : S =⇒ L は自然変換である.
25
)
. .
. ) 先ほどと同様にして次が可換である.
SP Qx
SP px
SP f
SP f
SP Qy
SP x
SP py
SP y
また θ が自然変換だから次が可換となる.
SP (Qx)
θQx
F (Qx)
SP f
SP (Qy)
F f =F Qf
θQy
F (Qy)
故に τ も自然変換である.
以上により ⟨L, η⟩ が P に沿った F の右 Kan 拡張であることが分かった.
定理 19. 前定理の条件の下で存在する右 Kan 拡張は絶対右 Kan 拡張である.
証明. G : D −→ E を関手とする.このとき GF : C −→ E は前定理の条件 (x, y ∈ C
が cofibrant で f : x −→ y が weak equivalence ならば,GF f は同型射である) を満た
す.故に右 Kan 拡張 ⟨P ‡ (GF ), η ′ ⟩ が存在するが,前定理の証明での構成法からこれは
P ‡ (GF ) = G(P ‡ F ),η ′ = Gη を満たすことが分かる.即ち任意の関手 G : D −→ E と
交換するから P ‡ F は絶対右 Kan 拡張である.
双対的に
定理 20. C をモデル圏,D を圏,F : C −→ D を関手とする.x, y ∈ C が fibrant で
f : x −→ y が weak equivalence ならば,F f は同型射であるとする.このとき左 Kan 拡
張 P † F ,即ち F の右導来関手が存在する.この P † F は絶対左 Kan 拡張である.
命題 21. モデル圏 C, D の間の随伴 F ⊣ G : C −→ D に対して次が成り立つ.
(1) F が cofibration を保つ ⇐⇒ G が trivial fibration を保つ.
(2) F が trivial cofibration を保つ ⇐⇒ G が fibration を保つ.
証明. 全て同様なので,1 の =⇒ のみ示す.
26
F が cofibration を保つとして,D の射 f : x −→ y を trivial fibration とする.Gf が
cofibration に対して RLP を持つ事を示せばよい.そこで g : c0 −→ c1 を cofibration と
してして,次の図式が可換であるとする.
c0
Gx
g
Gf
c1
Gy
随伴 F ⊣ G により,次の実線の可換図式が得られる.
x
F c0
f
Fg
y
F c1
F g が cofibration で,f が trivial fibration だから,点線の射が存在して可換となる.こ
のとき再び随伴により
c0
Gx
g
Gf
c1
Gy
が可換となる.
定義. モデル圏 C, D の間の随伴 F ⊣ G : C −→ D に対して,以下の条件が同値であるこ
とが命題 21 により分かる.
• F が cofibration と trivial cofibration を保つ.
• G が fibration と trivial fibration を保つ.
• F が cofibration を保ち,G が fibration を保つ.
• F が trivial cofibration を保ち,G が trivial fibration を保つ.
これらの条件を満たす随伴 F ⊣ G を Quillen 随伴と呼ぶ.また F を左 Quillen 関手,G
を右 Quillen 関手という.
命題 22. F ⊣ G : C −→ D を Quillen 随伴とするとき
(1) F は cofibrant object の間の weak equivalence を保つ.
(2) G は fibrant object の間の weak equivalence を保つ.
27
証明. 同様なので 1 のみ示す.
x, y ∈ C を cofibrant object として f : x −→ y を weak equivalence とする.pushout
0
x
y
⨿
ix
x
iy
y
を考える.cofibration の pushout は cofibration だから,ix , iy は cofibration である.
f : x −→ y ,idy : y −→ y から普遍性により得られる射 h : x
⨿
y −→ y を取る.
x
0
ix
iy
x
⨿
y
∼
y
f
∼
h
y
idy
h = (x
⨿
∼
y → a ↠ y) と分解する.
i
p
0
x
y
⨿
ix
x
y
∼
iy
f
i
a
∼
∼
p
idy
y
p, f, idy ∈ W だから 2 out of 3 により i ◦ ix , i ◦ iy ∈ W である.よって i ◦ ix , i ◦ iy は
trivial cofibration となる.F は cofibrant object の間の weak equivalence を保つから,
次の図式を得る.
Fx
F (i◦ix )
∼
Fy
∼
F (i◦iy )
Ff
Fa
∼
Fp
idF y
28
Fy
F (i ◦ iy ), idF y が weak equivalence だから F (p) も weak equivalence となる.従って
F (f ) = F (p) ◦ F (i ◦ ix ) も weak equivalence である.
定義. C, D をモデル圏,F : C −→ D を関手とする.P : C −→ Ho(C),P ′ : D −→
Ho(D) を局所化とする.
LF
Ho(C)
Ho(D)
RF
P′
P
C
D
F
このとき P ′ F : C −→ Ho(D) の左導来関手を F の total left derived functor といい LF
で表す.また P ′ F の右導来関手を F の total right derived functor といい RF で表す.
補題 23. C, C, D, D を圏,S : C −→ C ,T : D −→ D を関手,F ⊣ G : C −→ D を随
伴関手とする.
S ‡ (T F )
C
D
†
T (SG)
S
T
F
C
D
G
絶 対 右 Kan 拡 張 S ‡ (T F ),絶 対左 Kan 拡張 T † (SG) が 存在 する とす る .この とき
S ‡ (T F ) ⊣ T † (SG) : C −→ D である.
証明. 随伴 F ⊣ G の unit,counit を η : id =⇒ GF ,ε : F G =⇒ id とする.また絶対右
Kan 拡張 X := S ‡ (T F ),絶対左 Kan 拡張 Y := T † (SG) が存在するとする.
X
Y
C
α
F
C
T
S
D
C
29
D
=⇒
S
D
⇐=
C
β
G
T
D
次の合成で自然変換 id ◦ S =⇒ Y T F を得る.
id
C
C
⇐=
S
id
C
idC
⇐
G
η
C
D
F
⇐=
S
Y
β
D
T
今 X は絶対右 Kan 拡張だから,S ‡ (Y T F ) = Y X である.よって S ‡ (Y T F ) の普遍性か
ら自然変換 η : id =⇒ Y X を得る.
⇐
η
C
D
F
G
Y
β
=
X
S
C
D
T
C
C
⇐=
C
idC
⇐=
⇐=
id
S
id
C
S
⇐=
id
C
η
α
D
F
Y
D
T
同様にして T † (XSG) の普遍性から自然変換 ε : XY =⇒ id を得る.
C
D
Y
⇐=
⇐=
β
id
D
D
⇐
α
F
T
D
id
id
T
X
D
ε
G
ε
D
T
C
=
⇐
X
C
G
C
S
⇐
S
id
D
このとき εX ◦ X η = idX ,Y ε ◦ ηY = idY を示せばよい.
C
F
D
Y
=
id
S
idC
T
D
id
⇐
ε
η
C
D
30
F
D
X
C
G
β
T
Y
⇐=
α
X
C
S
⇐=
η
C
⇐=
⇐=
⇐=
X
S
id
C
⇐=
id
C
ε
D
id
D
id
C
η
C
⇐
D
F
⇐
D
ε
G
⇐
=
idC
α
F
C
⇐
⇐=
id
S
C
S
T
D
id
id
T
id
id
C
id
C
F
D
=
⇐
T
D
id
id
T
id
X
D
C
F
⇐
S
C
⇐
⇐=
idC
D
⇐
=
S
α
F
C
D
C
S
id
X
α
D
X
T
D
であるが,右 Kan 拡張 ⟨X, α⟩ の普遍性から εX ◦ X η = idX が分かる.同様にして
Y ε ◦ ηY = idY も分かる.
定理 24. C, D をモデル圏,F ⊣ G : C −→ D を随伴関手とする.F は C の cofibrant
object の間の weak equivalence を D の weak equivalence に送り,G は D の fibrant
object の間の weak equivalence を C の weak equivalence に送るとする.このとき
LF, RG が存在し LF ⊣ RG : Ho(C) −→ Ho(D) は随伴である.
証明. P : D −→ Ho(D) を局所化とすれば P F : C −→ Ho(D) は cofibrant object の間
の weak equivalence を同型に送る.よって定理 18 により左導来関手 LF が存在する.
同様にして右導来関手 RG も存在する.定理 19 により,これらは絶対 Kan 拡張である.
故に補題 23 により LF ⊣ RG である.
定理 25. C, D をモデル圏,F ⊣ G : C −→ D を Quillen 随伴関手とする.このとき
LF, RG が存在し LF ⊣ RG : Ho(C) −→ Ho(D) は随伴である.
定義. Quillen 随伴 F ⊣ G : C −→ D が Quillen 同値
⇐⇒ LF ⊣ RG : Ho(C) −→ Ho(D) が圏同値を与える.
31
定理 26. Quillen 随伴 F ⊣ G : C −→ D に対して次は同値である.
(1) F ⊣ G が Quillen 同値
ηc
Gi
Fc
→ GRF c が weak equivalence
(2) cofibrant object c ∈ C に対して合成 c −→ GF c −−−
F pGd
εd
であり,fibrant object d ∈ D に対して合成 F QGd −−−→ F Gd −→ d が weak
equivalence である.
(3) cofibrant object c ∈ C と fibrant object d ∈ D に対して,f : F c −→ d が weak
equivalence ⇐⇒ 随伴で f に対応する射 c −→ Gd が weak equivalence
証明. (1 =⇒ 2) c ∈ C を cofibrant とする.圏同値 LF ⊣ RG により Ho(C) の同型射
k : c −→ RG ◦ LF (c) を得る.定理 18 の証明から RG ◦ LF (c) = GRF Q(c) である.
よって C の射 f : c −→ GRF Q(c) を使って k = [f ] と書ける.
(2 =⇒ 1) Quillen 随伴 F ⊣ G の unit を η ,LF ⊣ RG の unit,counit を η, ε とする.
各 c ∈ C ,d ∈ D について ηc , εd が同型であることを示せばよい.
定理 18 の証明と補題 23 の証明を見れば ηc = P G(iF c ) ◦ P (ηc ) ◦ (P pc )−1 と書けるこ
とが分かる.仮定 2 により P G(iF c ) ◦ P (ηc ) = P (G(iF c ) ◦ ηc ) は同型射である.故に ηc
も同型射である.εd についても同様.
(2 =⇒ 3) c ∈ C を cofibrant,d ∈ D を fibrant,f : F c −→ d を weak equivalence と
する.fibrant resolution により次の可換図式を得る.
∼
Fc
RF c
∼
∼
iF c
d
f
id
Rf
Rd
2-out-of-3 より Gf も weak equivalence である.これに G を作用させて次の可換図式を
得る (G は fibrant object の間の weak equivalence を保つことと仮定 3 に気をつける).
c
ηc
∼
Gf
GF c
Gd
GRF c
∼
GRf
∼
Gid
GiF c
GRd
よって 2-out-of-3 により Gf ◦ ηc も weak equivalence である.逆も同様にして分かる.
∼
(3 =⇒ 2) c ∈ C を cofibrant とする.F c の fibrant resolution iF c : F c → RF c を考
える.c が cofibrant で RF c が fibrant だから,仮定 2 を使えば iF c に随伴 F ⊣ G で対
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ηc
GiF c
F pGd
εd
応する射 c −→ GF c −−−→ GRF c も weak equivalence であることが分かる.同様にし
て F QGd −−−→ F Gd −→ d も weak equivalence である.
参考文献
[1] W. G. Dwyer and J. Spalinski, Homotopy theories and model categories, HANDBOOK OF ALGEBRAIC TOPOLOGY, 1995
[2] M. Hovey, Model Categories, volume 63 of Mathematical Surveys and Monographs. American Mathematical Society, Providence, RI, 1999.
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