PT 調査データを用いた平日・休日別の買い物交通行動特性の分析

PT 調査データを用いた平日・休日別の買い物交通行動特性の分析
神戸大学大学院海事科学研究科
神戸大学大学院海事科学研究科
神戸大学大学院海事科学研究科
田中 祐太
小谷 通泰
寺山 一輝
1. はじめに
岡本商店街
至 大阪方面
阪急線
都市における交通政策は、これまでは通勤・通学目的
JR
による交通を中心に議論されてきた。しかしながら、わ
国道2号
甲南大通商店街
が国では、近年、少子高齢化が著しく進行し、通勤・通
学交通が減少し、買い物、通院、娯楽・レジャーなどの
青木商店街
自由目的による交通が大幅に増加した。こうしたことか
阪神線
ら、自由目的による交通に配慮した交通政策を立案する 至 三宮方面 国道43号
ことが求められている 1)。
一方、
こうした状況を踏まえて、
[大規模小売店舗]
:スーパー
最新の近畿圏パーソントリップ調査(以後、PT 調査と呼
:ホームセンター
:百貨店
ぶ)では、従来の平日調査と同規模で休日調査を実施す
:専門店
[小規模小売店舗]
るとともに、自由目的による交通については、目的の細 0
:食料品・日用品
1.0 km
を取り扱う店舗
2)
分化など、詳細に把握する工夫がみられる 。
そこで本研究では、第 5 回近畿圏 PT 調査を用いて、神
図-1 分析対象地域
戸市東灘区の居住者を対象に、こうした自由目的の中か
ら買い物交通を取り上げ、平日・休日による交通行動の 休日 2,126 サンプルである。ただし、休日に関しては、
「日
差異や、平日と休日の買い物行動の組合せパターンにみ 常食品の買い物(以後、日常的な買い物という)
」
「日常
られる特徴を示す。
食品以外の買い物(以後、非日常的な買い物という)
」に
区分されているので、以下では両者を区別して分析する。
2. 分析対象地域と使用データの概要
図-2 は、買い物トリップ数を平日・休日別に示してい
る。これによると、
「平日の買い物」と、
「休日の日常的
(1) 分析対象地域
な買い物」のトリップ数はほぼ等しく、
「休日の非日常的
図-1 は、分析対象地域である神戸市東灘区の地図を示 な買い物」はそれらの半分以下となっている。
したものである。東灘区は神戸市の臨海部に位置してお
また、平日・休日別に買い物トリップの発着地の構成
り、市域の東端を占め芦屋市と隣接している。また、2010 を示したものが図-3 である。この図をみると、
「平日の買
年時点の人口は 21 万人、
高齢化率は 19.8%となっている。 い物」と「休日の日常的な買い物」では、発着地ともに
域内には、鉄道網として、東西に JR、阪神電鉄、阪急電 東灘区内であるトリップがそれぞれ 69%、75%となって
鉄が、道路網として国道 2 号、43 号が走っていることか いる。一方、
「休日の非日常的な買い物」においては、発
ら、神戸市中心部や大阪市などの域外へのアクセス性に 着地ともに東灘区内であるトリップは 44%に留まり、東
優れている。また、域内の商業施設としては、大規模小 灘区内から区外へのトリップが 35%を占めており、区外
売店(店舗面積 1,000m2 以上)については、スーパーが最も での買い物の比率が高くなっている。
多く 16 件、次いで専門店が 6 件、ホームセンターと百貨
店がそれぞれ 3 件ずつ立地している。そして域内の 3 箇 3. 買い物トリップの生成原単位にみられる特徴
所には商店街が存在し、小売店舗の集積がみられる。
図-4は、
平日・休日別の買い物トリップの生成原単位(グ
(2) 使用データ
ロス)を示している。なお、生成原単位は、買い物のトリ
本研究では、平成 22 年に実施された第 5 回近畿圏 PT ップ数の総計を回答者の総数(外出しなかった回答者を含
調査データを用いる。分析対象としたのは、このうち、 む)で除したものである。これによると、
「平日の買い物」
東灘区居住者による、平日・休日別の買い物目的のトリ と「休日の日常的な買い物」の原単位はほぼ同程度とな
ップである。分析対象サンプル数は平日 1,473 サンプル、 っている。一方、
「休日の非日常的な買い物」は、それら
0.5
1400
平日 買い物
1200
休日 日常的な買い物
1000
休日 非日常的な買い物
800
1473
0.4
原単位
トリップ
1600
0.2
0.1
1386
600
0.3
400
740
200
買い物
日常的な買い物
平日
非日常的な買い物
買い物
日常的な買い物
0.11
0.5
区内→区内
区内→区外
区外→区内
0.4
区外→区外
原単位
凡例
0.3
69%
平日 買い物
休日 日常的な買い物
休日 非日常的な買い物
0.2
0.1
買い物[n=1473]
非日常的な買い物
休日
図-4 買い物トリップの生成原単位
休日
図-2 平日・休日別にみた買い物トリップ数
平日
0.21
平日
0
休日
0.22
0.0
10% 10% 12%
0.14
0.17
0.0
0.30
0.24
0.11
0.11
男
日常的な買い物[n=1386]
75%
非日常的な買い物[n=740]
44%
35%
5%
a) 男女別
16%
0.5
40%
60%
80%
100%
の約半数程度である。
図-5 a) b) c) は、男女別、職業別、年齢別に買い物トリ
ップの生成原単位を示している。まず男女別にみてみる
と、
「平日の買い物」と「休日の日常的な買い物」につい
ては、男性よりも女性のほうが原単位は大きい。これに
対して「休日の非日常的な買い物」では男女による差は
ほとんどみられない。
次に職業別にみてみると、
「平日の買い物」と「休日の
日常的な買い物」では、専業主婦・無職の原単位が大き
い一方で、就業者・学生の原単位は小さくなっている。
「休
日の非日常的な買い物」では、無職でやや小さくなって
いるものの、職業による差は小さい。
さらに年齢別でみると、
「平日の買い物」と「休日の日
常的な買い物」では 50~64 歳で、
「休日の非日常的な買
い物」では 20~49 歳で最も大きくなっている。
なお、19 歳以下の大半が学生であり、また 65 歳以上の
大半が無職であるため、これらの属性間の原単位は類似
した傾向を示している。
4. トリップ属性別にみた買い物交通にみられる特徴
図-6 から図-8 は、平日・休日別にみた買い物トリップ
の利用交通手段と移動距離、到着施設(大規模・小規模
小売店)の構成をそれぞれ示したものである。これらよ
り以下のことがわかる。
まず、利用交通手段の構成をみると、平日は徒歩・自
転車の利用率が 62%と高くなっている。一方、休日では、
日常的・非日常的な買い物のいずれにおいても自動車の
利用率が高く、特に非日常的な買い物では全体の 47%を
占めている。また、非日常的な買い物では公共交通の利
0.4
原単位
20%
図-3 平日・休日別にみた発着地の構成
0.3
平日 買い物
休日 日常的な買い物
休日 非日常的な買い物
0.43
0.2
0.1
0.32
0.16 0.21 0.14
0.04 0.12 0.11
就業者
学生
0.30
0.18 0.07
0.10
0.0
専業主婦
無職
b) 職業別
0.5
0.4
原単位
0%
女
11% 8% 5%
0.3
平日 買い物
休日 日常的な買い物
休日 非日常的な買い物
0.2
0.1
0.03 0.14 0.12
0.21 0.22
0.28 0.27
0.15
0.27
0.11
0.18 0.06
0.0
19歳以下
20-49歳
50-64歳
65歳以上
c) 年齢別
図-5 個人属性別にみた買い物トリップの生成原単位
用率も 24%と高い。
次に、移動距離をみると、
「平日の買い物」と「休日の
日常的な買い物」では移動距離の構成に類似性がみられ、
比較的近距離のトリップが多く、約半数が 1km 未満とな
っている。これに対して、
「休日の非日常的な買い物」で
は遠距離のトリップが多くみられ、4km 以上のトリップ
が全体の 41%を占めている。
最後に、到着施設の構成をみると、平日・休日ともに 7
割以上が大規模小売店に到着している。また、対象地域
には商店街が存在していることから、
「平日の買い物」で
は小規模小売店の割合が若干高くなっている。
5. 一日における買い物行動にみられる特徴
(1) 買い物トリップ数
図-9 は、買い物トリップ回数ごとの回答者数の構成を
平日・休日別に示したものである。平日・休日ともに、8
割以上が 1 トリップのみとなっており、買い物行動を複
数回行っている回答者はほとんどみられない。
凡例
徒歩
自転車
自動車
バス
鉄道
その他
45%
日常的な買い物[n=1360]
17%
12%
3%
15%
非日常的な買い物[n=727]
23%
0%
4%
47%
20%
40%
2%
60%
22%
80%
1%
平日
凡例
買い物[n=1340]
500999m
10001999m
29%
日常的な買い物[n=1307]
25%
21%
買い物[n=1705]
非日常的な買い物[n=690]
9%
0%
13%
22%
20%
15%
40%
0%
20%
平日
休日
小規模小売店
買い物[n=1428]
大規模小売店
20%
日常的な買い物[n=1337]
16%
非日常的な買い物[n=712]
15%
10%
13%
0%
20%
40%
100%
日常的のみ
29%
15%
日常的・非日常的
両方
57%
(n=1358)
100%
その他
11%
76%
7%
12%
80%
80%
日常的
79%
70%
60%
60%
非日常的
21%
17%
80%
73%
40%
4%
非日常的のみ
15%
図-7 平日・休日別にみた移動距離帯の構成
凡例
17%
図-9 買い物トリップ回数別の回答者の構成
41%
60%
11% 2%
80%
休日
26%
21%
3トリップ
以上
2トリップ
87%
4000m
以上
20003999m
24%
買い物[n=1274]
100%
図-6 平日・休日別にみた交通手段の構成
500m
未満
1トリップ
3%
7%
2% 1%
38%
休日
40%
17%
平日
買い物[n=1424]
休日
平日
凡例
100%
図-8 平日・休日別にみた到着施設の構成
図-10 a) b)は、休日の買い物について、移動目的(日常
的な買い物・非日常的な買い物)ごとの回答者の構成を
トリップ数別に示したものである。ただし、ここで、3
トリップ以上についてはサンプル数が少ないため分析か
ら除外する。1 トリップの場合は、日常的な買い物を行う
回答者が 79%を占めている。一方、2 トリップの場合は、
日常的な買い物と非日常的な買い物の両方を行う回答者
が 57%を占めている。また、日常的な買い物のみを行う
回答者の方が非日常的な買い物のみを行う回答者よりも
多くなっている。
(2) 買い物トリップの出発施設
図-11 は、買い物トリップにおける出発施設の構成を平
日・休日別に示したものである。図に示すように、平日
では約半数が自宅からのトリップとなっている。また、
勤務先から出発しているトリップも 12%みられる。さら
に、商店、医療機関、教育・文化施設、公共施設などを
起点とするトリップもみられ、買い回りや、通院やその
他用務と組み合わせて買い物を行っていることが推測さ
れる。
(n=284)
a) 1 トリップ
b) 2 トリップ
図-10 休日の買い物目的別にみた回答者の構成
(3) 買い物トリップ終了後の到着施設
図-12 は、買い物トリップを終えた後の到着施設の構成
を平日・休日別に示したものである。この図によれば、
平日では、全体の 79%が自宅に到着している。また、休
日の日常的な買い物と非日常的な買い物を比較すると、
日常的な買い物では 83%が自宅に到着しているのに対し、
非日常的な買い物では、その比率が 63%と低くなってい
る。特に、非日常的な買い物では商店に到着している比
率が高くなっている。こうしたことから、非日常的な買
い物では、非日常的な買い物を複数回行う、あるいは非
日常的な買い物の後に日常的な買い物を行うなどといっ
た連鎖を形成している比率が高いことが窺える。
6. 平日・休日の買い物行動の組合せパターンの特徴
(1) 買い物行動の組合せの頻度
ここでは、平日・休日の買い物行動の組合せ(ただし、
休日は日常的な買い物と非日常的な買い物の区分を考慮
する)として 7 通りのパターンを考え、各パターンの回
答者の頻度とともに、個人属性によるパターンの構成比
率にみられる差異を明らかにする。
図-13 は、7 通りのパターン別に回答者数を示したもの
である。これより、
「平日の買い物」のみ行うとする回答
者が最も多く、これに劣らず「休日の日常的な買い物」
のみを行うとする回答者が多くなっている。このことか
ら、週末におけるまとめ買いが日常化していることが類
推できる。そして、頻度はこれらのパターンの半数程度
であるが、
「平日の買い物」と「休日の日常的な買い物」
の両方を行う回答者も多くなっている。また、
「休日の非
日常的な買い物」のみを行う回答者が、上述の 3 パター
800
700
勤務
医療
教育・文化 会社 公共 飲食 娯楽
商店
住宅
その他
先
施設
施設
官公庁 施設 店 施設
51%
12%
8%
8%
5% 5% 5% 3%
500
400
300
720
675
200
385
340
100
136
0%
20%
40%
60%
3%
3% 3% 6%
80%
100%
平日のみ
図-11 買い物トリップの出発施設の構成
勤務
医療
教育・文化 会社 公共 飲食 娯楽
商店
住宅
その他
先
施設
施設
官公庁 施設 店 施設
買い物[n=1440]
79%
日常的な買い物
[n=1364]
8%
3%
8% 4%
休日
83%
非日常的な買い物
[n=732]
63%
0%
20%
22%
40%
60%
67
平日・休日両方とも
3%
80%
休日のみ
専業主
婦
学生
就業者[n=1075] [n=616] [n=176] 凡例
自宅
休日のみ
102
図-13 買い物行動の組合せパターン
5%
100%
無職[n=544]
平日
凡例
平日と休日日常的のみ
15%
日常・非日常両方とも
63%
非日常的のみ
非日常的な買い物
[n=724]
14%
3%
3% 5% 3%
休日
65%
日常的のみ
0
日常的な買い物
[n=1367]
買い物3目的すべて
買い物[n=1446]
600
平日と休日非日常的のみ
自宅
サンプル数
平日
凡例
平日のみ
日常的
のみ
平日・休日両方
非日常的 日常的・非日常的 平日と日常的 平日と非日常的
のみ
両方
のみ
のみ
11%
39%
33%
36%
女[n=567]
23%
27%
男[n=508]
女[n=258]
20%
5%
10%
60%
16%
21%
3%
3% 3%
5% 4%
11%
4% 3%
21%
40%
24%
24%
19%
41%
0%
16%
38%
45%
男[n=286]
5% 3%
28%
18%
11%
全て
19%
5% 4%
6% 3%
5% 3%
4%
80%
100%
図-12 買い物トリップ終了後の到着施設の構成
図-14 職業別にみた買い物行動の組合せパターンの構成
ンに次いで多くなっているが、その他のパターンは少数
にとどまっている。
平日と休日の買い物行動の組合せパターンを分類するこ
とによって、買い物交通の行動特性を明らかにした。
今後の課題としては、世帯単位での買い物行動(構成
員による役割分担など)を分析すること、また 1 日のト
リップチェインに着目して買い物行動の発生メカニズム
を明らかにすること 3)、があげられる。
(2) 個人属性別にみた買い物行動の組合せパターン
図-14 は、職業別に 7 通りの買い物行動の組合せパター
ンの構成を示したものである。なお、就業者と無職につ
いては男女別に区分してその構成を示している。これよ
り以下のことがわかる。
まず、学生は、その大半が平日は就学中であるため、
休日に日常的な買い物や非日常的な買い物を行っている。
これに対して、専業主婦は、平日に買い物を行う割合が
高く、平日のみが 36%、平日の買い物に加えて休日の日
常的な買い物を行うパターンが 24%となっている。
次に、就業者の男女を比較すると、男性は休日、女性
は平日に買い物を行う割合が高くなっている。無職につ
いては、他の属性よりも時間の制約が少ないため、男女
ともに平日の買い物の割合が最も高く、次いで平日と休
日の両方に買い物を行うパターンも多くなっている。
7. おわりに
本研究では、PT 調査データを用いて、平日・休日(日
常的・非日常的)別に、個々の買い物トリップの特徴や、
買い物トリップの前後のトリップの連鎖を示すとともに、
参考文献
1) 土井勉, 白水靖郎, 隅田道男, 森文彦, 南部浩之
(2013): パーソントリップ調査データからみた総合交通
政策の課題に関する考察~近畿圏 PT 調査から~, 土木
計画学研究・講演集, Vol.47, CD-ROM.
2) 京阪神都市圏交通協議会: 平成 22 年の京阪神都市圏
における人の動き~第 5 回近畿圏パーソントリップ調
査結果から~, 平成 24 年 12 月.
3) Dong, X., Ben-Akiva, M.E., Bowman, J.L., Walker, J.L.
(2006): Moving from trip-based to activity-based measures of
accessibility, Transportation Research Part A, Vol.40,
pp.163-180.