岩崎氏資料 - 日本精神保健福祉士協会

基調講演Ⅱ(シンポジウム)
我が国の精神保健医療福祉のMerkmal
ー北欧の実践ー
日本精神保健福祉士協会
第50回全国大会・第13回学術集会
早稲田大学 岩崎香
北欧の福祉国家をめぐるキーワード
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社会民主主義
普遍主義的な社会保障
平等
同一労働、同一賃金
高負担、高福祉
などなど
スウェーデンの特徴
高い社会保障水準(GDP比 約3割)
社会保障の財源に対する国民負担率(社会保障にかかる
費用における国民所得の比率)は約6割
スウェーデンには21のランスティング(日本の都道府県)と
290のコミューン(市町村)があり医療はランスティング、保育、
教育、福祉はコミューンと明確に役割が分かれている。直接
サービスを実施している自治体への納税比率が高くお金の動
きが見えやすい。高齢者だけに手厚いのではなく、保育、教育
といった現役世代への還元が大きい
IT先進国であり、合理性を優先
個の自立ということに強い信念をもっており、国づくりは人づくり
というような考え方の浸透
北欧における優生思想と福祉国家論
スウェーデンでも各国と同様に、1934年 断種法を制定
1970年代まで、優生学を背景とし、精神疾患、知的障害、その
他の精神機能の障害によって、子どもを養育する能力がない場合、
もしくはその遺伝的資質によって精神疾患ないし知的障害が次世
代に伝達されると判断される場合、その者に対し不妊手術を実施し
てきた(すでに被害者に対する国家賠償も行われている)
教育に力をいれ、少ない人口の中で優秀な人材が多く育つ、そうし
た人材が現在の不況にも強い経済を支えてきたことを考えるとス
ウェーデンの人たちの合理主義や個人主義と優生思想というものが
無縁ではないと感じる
スウェーデンは早くから個人番号制を導入しており、生活のすべてが
管理されているといっても過言ではないくらい浸透している。コンピュー
ターで情報が管理され、IT技術やその普及は世界有数である。そう
した現状は、スウェーデンの合理性を示す一端といえる。有限な資
源の効果的配分を行う福祉国家は人間を家族がではなく、社会が
扶養する理想的な仕組みであると同時に、個に介入する権限を
持っているともいえる
スウェーデンにおける脱施設化と
精神障害者の地域生活
• 1970年代初頭まで、スウェーデンにおいても大規模な
精神科病院が建設されており、3万を超える病床が存
在していた。ノーマライゼーションが提唱された北欧諸国
においても、精神障害者は長年、医療・施設ケアの対
象とされてきた
• 1966年に「精神障害者施設入院ケア法」が制定され
たことにより、脱施設化が進んでいくこととなる。病院が
国から県の管轄になり、総合病院の中に精神科が置か
れるようになったのもこの頃のことである
1990年「精神障害者に関する調査委員会」の調査
精神障害者の生活状況が劣悪であり、医療や社会福祉
サービスが不足していること、少しの手助けがあればもっと豊
かで安全なものになること、本人の自己決定を支える支援
が必要であることなどが指摘された
1994年「機能障害者を対象とする援助およびサービスに関
する法律(LSS法)」が制定
以後、障害者福祉改革が、開始
1995年より「精神保健福祉改革」実施
パーソナル・オンブズマンの誕生
• 1992年に出された「精神障害者に関する調査委員
会」最終報告書「福祉と選択の自由」
精神障害者の地域生活を支える住居や雇用、リハビ
リテーションの推進が提案され、その具体的なアプローチ
の一つとして、パーソナル・オンブズマン(以下、POとす
る)による支援に、1995年から限定的な予算措置
「社会庁通達2000年度第14号」 を根拠として、施
設や病院を出て地域で生活する精神障害者の生活の
質であり、自分で生活をマネジメントできるよう支援する
ことを目的に2000年5月から予算措置が講じられた
POの特徴
• POは、精神医療、ソーシャルサービス、あるいはほか
の何らかの行政当局そして患者の家族や周囲の人か
ら完全に独立している
• 管轄するのは社会庁であり、自治体(コミューン)単
位で実施されているが、必置義務があるわけではない
• 実施主体は自治体だけではなく、自治体が中心だが
共同入札で、民間団体への委託も行われている
• ひとりのPOに対する予算は302400クローナ(2011
年)で、自治体によっては上乗せ補助をしているとこ
ろがある
POの現状
2013年PO活動補助金支給制度が法的に成立
当初、10か所、32名のPOにより、250名の精神障
害者への支援が実施された。生活保護や医療費の
減少に効果が認められ、2013年には、POは331
人となり間約6000人の支援を行うまでになっている。
PO社会庁報告書2014年度(2013年までの報告)
http://www.socialstyrelsen.se/publikationer2014/2014-3-23
POの職業経験
・POの88%が過去に精神障害者のケアに経験を持
ち、この内、約50%が10年以上の長い経験者
精神科看護
法律専門家
2%
OT
2%
SW
15%
精神科准
看護師
9%
その他
師
16%
29%
教育者
27%
社会庁
支援の対象者
1人のPOが担当する人数は13人~20人
ADHD,アスペルガー、双極性障害、統合失調症、
PTSD、人格障害 など多様
対象者の年齢
56~65歳
14%
46~55歳
27%
66歳以上
3%
18~25歳
12%
26~35歳
21%
36~45歳
23%
9割が福祉のサポートで生活。1割が就労
約6割が単身生活
生存問題、生きる悩み
人間関係
一日の生活ルーティーン
孤立からの脱出
PO
必要事項の整理整頓
仕事、教育、訓練、やること
当事者
住居問題
医療・支援機関とのコンタクト
収入や経済面の問題
役所関係とのコンタクト
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
POになった動機
クライエント中心に長期的な支援ができる興味深い仕事
であるから
一緒に何かを築く可能性を持った環境の中で助けを求め
る人に時間を費やし可能性を広げる仕事であるから。
クライエントがより価値ある質の高い人生を過ごせなくては
ならない。
“人間の権利の活動”に関連した良い仕事をしようと思っ
たから
2011年POに対する調査(岩崎)より
POとして満足している点
自治体との交渉がうまく行くとき。
クライエントが私を信頼し、状況がポシティブに変化し
て行けそうに明るくなったとき。
クライエントが自分の望む目標に近づいているとき、達
成されたとき。
クライエントの生活が改善されて行くことを、彼らと一
緒にやっていけたとき。
困難を感じる点
ひとりでの活動が多いため、問題がなかなか解決しな
いと重荷を感じることがある。
自治体の反応がなかったり、クライエントが望むことへ
の支援を得る見通しが暗い知ったとき。(例えば住
居)
役所の人が私を真剣に受け止めないとき。重要な会
合に私の出席をもとめないとき。
クライエントと私の間で一致したクライエントの状況が
良くなると思う解決策が、自治体の規定原則に合わ
ないと云うことで拒否しまう時が辛い。
PO活動成果達成率の推移比較
PO社会庁報告書2014年度(2013年までの報告)
http://www.socialstyrelsen.se/publikationer2014/2014-3-23
90
80
70
60
50
2004
40
2007
30
2013
20
10
0
収入・経済
住居
活動
関係支援
他支援
活動=何かをしている。関係支援=役所・施設の担当者・他の人と人間関係
日本の障害者ケアマネジメントへの示唆
クライエントの側に立つ姿勢
個の重視
アウトリーチ中心の実践
情熱
成果を求める姿勢
実践の質の向上
参考文献
Personligt ombud för psykiskt funktionshindrade personer.
Socialstyrelsen. Stockholm 1999
Personligt ombud för personer med psykisk funktionsnedsättning
Uppföljning av verksamheten med personligt ombud.Stockholm
2014
二文字 理明・東 泰弘・石田 晋司他、スウェーデンにおける精神障害者の支援に
関する基本資料の翻訳と解題(Ⅰ)-「社会庁通達2000年度第14号」(社
会庁2000)および「新しい専門職の誕生・PO」(社会庁2009)、発達人間学
論叢 13, 2010, 1-20
石田 晋司・石橋 正浩・岩切 昌宏、構造的エンパワーメントにおける精神障害者
を支援するスウェーデンのPersonligt ombudの役割、発達人間学論叢 14,
2010, 143-149
スウェーデンにおける精神障害者支援から考える
石田 晋司 日本の精神障害者地域生活支援の在り方 海外社会保障研究
Spring 2013 No. 182,30-40
他