米田の補題 alg-d http://alg-d.com/math/ 2014 年 10 月 13 日 C を圏とする.c, d ∈ C に対して HomC (c, d) ∈ Set だった.よって対応 HomC (c, −) : Ob(C) ∈ ∈ Ob(Set) d HomC (c, d) を考えることができる.これは実は関手になる.その為には C の射 f : d −→ d′ に対して Hom(c, f ) : HomC (c, d) −→ HomC (c, d′ ) を ∈ HomC (c, d′ ) ∈ HomC (c, f ) : HomC (c, d) g (c − →d− → d′ ) g (c − → d) f で定めればよい. 同様のことを HomC (−, c) に対して考えることもできる.つまり f : d′ −→ d に対して ∈ HomC (d, c) ∈ HomC (f, c) : HomC (d′ , c) g (d′ − →d− → c) f (d − → c) g と定めるのである. こうして関手 Hom(−, c) が定義されたのであるが,更にこの c の部分を変数にするこ b := SetC とができる.即ち,関手 y : C −→ C op が以下のようにして定まる. • c ∈ C に対して y(c) := HomC (−, c). • f : c −→ d に対して y(f ) : y(c) =⇒ y(d) を,e ∈ C に対して y(f )e = Hom(e, f ) で定める. 1 この関手 y は圏論で重要な役割を持つが,まず基本的な性質として次の定理がある. 定理 1 (米田の補題). C を圏,c ∈ C を対象,P : C op −→ Set を関手とする.このとき (Set における) 同型 HomCb (y(c), P ) ∼ = P (c) が成り立つ. 証明. α ∈ Hom(y(c), P ) とすれば,αc は写像 Hom(c, c) −→ P (c) である.そこで写像 φc : Hom(y(c), P ) −→ P (c) を φc (α) := αc (idc ) で定める.これが同型であることを示 すため,逆写像 ψc : P (c) −→ Hom(y(c), P ) を定義する. ※ そのためには ψc をどのように定義すればよいか,考察してみる.x ∈ P (c) に対し て β = ψc (x) : y(c) =⇒ P が定義できたとする.β はどのような自然変換だろうか. まず φc ◦ ψc = id とならないといけないので,x = φc ◦ ψc (x) = φc (β) = βc (idc ) で ある.これで idc ∈ Hom(c, c) の行き先 βc (idc ) は定まった.他の f ∈ Hom(c, c) の 行き先はどうなるであろうか.ここで β が自然変換であることを考えると,次の図式 が可換にでなければならない. c Hom(c, c) f c βc ◦f Hom(c, c) Pf βc f Pc Pc βc P f (x) ◦f Pf idc βc x よって βc (f ) = P f (x) でなければならない.こうして βc は確定した.他の d ∈ C , f ∈ Hom(d, c) に対しても同様にして,βd が以下の可換図式により定まる. Hom(d, c) d f c βd ◦f Hom(c, c) Pf βc f Pd Pc βd P f (x) ◦f idc Pf βc x 即ち βd (f ) = P f (x) である. x ∈ P (c) に対して ψc (x)d : Hom(d, c) −→ P (d) を ψc (x)d (f ) := P f (x) で定める.こ のとき ψc (x) は自然変換 Hom(−, c) =⇒ P である. 2 . . . ) f : d −→ e に対して次が可換であることを示せばよい. Hom(d, c) d f e ψc (x)d ◦f Hom(e, c) g◦f Pd Pf ψc (x)e ψc (x)d ◦f Pf g Pe P (g ◦ f )(x) P f (P g(x)) ψc (x)e P g(x) しかしそれは P が関手だから P (g ◦ f )(x) = (P f ◦ P g)(x) = P f (P g(x)) となり明 らか. 後は φc ◦ ψc = id と ψc ◦ φc = id を示せばよい.前者は φc ◦ ψc (x) = φc (ψc (x)) = ψc (x)c (idc ) = P (idc )(x) = id(x) = x だからよい.後者は ψc ◦ φc (α) = ψc (αc (idc )) だから ψc (αc (idc )) = α を示せばよい.そ の為には d ∈ C に対して ψc (αc (idc ))d = αd を示せばよい.f ∈ Hom(d, c) に対して次が 可換である. Hom(d, c) d f c αd ◦f Hom(c, c) f Pd Pf αc ◦f idc Pc αd αd (f ) P f (αc (idc )) Pf αc αc (idc ) 故に ψc (αc (idc ))d (f ) = P f (αc (idc )) = αd (f ) となることが分かり,ψc (αc (idc ))d = αd である. ※ C として C op を考えれば,P : C −→ Set に対して HomSetC (HomC (c, −), P ) ∼ = P (c) が分かる. 定理 2. 前定理で得られた同型 φc : Hom(y(c), P ) ∼ = P (c) は c に関して自然である.即 ち,φc は自然同型 φ : Hom(y(−), P ) =⇒ P を与える. 3 証明. C の射 f : c −→ d に対して,次が可換になればよい. c Hom(y(c), P ) f d φc Pc ◦y(f ) Pf Hom(y(d), P ) Pd φd 即ち,α ∈ Hom(y(d), P ) に対して P f ◦ φd (α) = φc (α ◦ y(f )) を示せばよい.まず φd の 定義から P f ◦ φd (α) = P f (αd (idd )) である.一方 φc (α ◦ y(f )) = (α ◦ y(f ))c (idc ) = αc ◦ Hom(c, f )(idc ) = αc (f ) となる.ここで α : y(d) =⇒ P が自然変換であるから,次が可換である. c Hom(c, d) f d αc ◦f Hom(d, d) f Pc Pf αd ◦f idd Pd αc αc (f ) P f (αd (idd )) Pf αd αd (idd ) よって αc (f ) = P f (αd (idd )) となり,P f ◦ φd (α) = φc (α ◦ y(f )) が分かった. b は忠実充満である. 系 3. 米田埋込 y : C −→ C 証明. 米田の補題により c, d ∈ C に対して Hom(y(c), y(d)) ∼ = Hom(c, d) であるが,証 明から分かるようにこの同型 Hom(c, d) ∼ = Hom(y(c), y(d)) は f 7−→ y(f ) で与えられ る. b は埋込になっていることが分かる.この y を米田埋込と呼ぶ.また 即ち,y : C −→ C 忠実充満関手の性質から次が分かる. 系 4. y(c) ∼ = y(d) ならば c ∼ = d である. ここで,y(c) ∼ = y(d) というのは勿論自然同型を表している.そこで,自然同型である ことを具体的に書くと次の定理が得られる. 定理 5. C を圏,c, d ∈ C とする.x ∈ C について自然に HomC (x, c) ∼ = HomC (x, d) な らば,c ∼ = d である.また,x ∈ C について自然に HomC (c, x) ∼ = HomC (d, x) ならば, c∼ = d である. 4 即ち,c と d が同型であるかどうかは,射によって決定されるのである.(これは非常に 良く使う重要な事実である.) 5
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