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随伴関手
alg-d
http://alg-d.com/math/kan_extension/
2016 年 8 月 15 日
定義. C, D を圏,F : C −→ D ,G : D −→ C を関手とする.c ∈ C ,d ∈ D に関して自
然な同型 HomD (F c, d) ∼
= HomC (c, Gd) が成り立つとき,F を G の左随伴関手,G を F
の右随伴関手という.これを記号 F ⊣ G : C −→ D もしくは単に F ⊣ G で表す.
F ⊣ G : C −→ D を随伴とする.即ち Hom(F c, d) ∼
= Hom(c, Gd) である.ここで d :=
F c とすれば Hom(F c, F c) ∼
= Hom(c, GF c) である.この同型で idc ∈ Hom(F c, F c) に
対応する ηc ∈ Hom(c, GF c) を取ると,この ηc は次のような普遍性を持つ.
命題 1. F ⊣ G : C −→ D を随伴とする.c ∈ C に対して上のように ηc : c −→ GF c を
取ると,⟨F c, ηc ⟩ は c から G への普遍射である.
証明. 任意の f : c −→ Gd を取る.同型 HomD (F c, d) ∼
= HomC (c, Gd) により f ∈
Hom(c, Gd) に対応する g ∈ Hom(F c, d) を取る.このとき Gg ◦ ηc = f ,即ち次の図式
が可換である.
c
ηc
GF c
Fc
g
Gg
f
Gd
d
. .
. ) HomD (F c, d) ∼
= HomC (c, Gd) の自然性により,次の左の図式は可換である.
Hom(F c, F c)
∼
=
g◦−
Hom(F c, d)
Hom(c, GF c)
Gg◦−
∼
=
Hom(c, Gd)
1
idF c
∼
=
ηc
Gg◦−
g◦−
g
∼
=
Gg ◦ ηc
f
故に idF c ∈ Hom(F c, F c) の行き先を比べれば,右のようになり Gg ◦ ηc = f が分
かる.
一意性を示すため,g ′ : F c −→ d が Gg ′ ◦ ηc = f を満たすとする.次の図式
Hom(F c, F c)
∼
=
Hom(c, GF c)
g ′ ◦−
Hom(F c, d)
idF c
Gg ′ ◦−
∼
=
∼
=
ηc
Gg ′ ◦−
g ′ ◦−
g′
Hom(c, Gd)
Gg ′ ◦ ηc = f
が可換であるから同型 HomD (F c, d) ∼
= HomC (c, Gd) により g ′ と Gg ′ ◦ ηc = f が対応す
る.f に対応するのは g だったから,g ′ = g でなければならない.
※ この証明の中で示されたように,同型 Hom(F c, d) −→ Hom(c, Gd) は ηc を使っ
て g 7−→ Gg ◦ ηc により与えられる.
実は,ある意味でこの命題の逆が成り立つ.即ち
定理 2. G : D −→ C を関手として,各 c ∈ C に対して普遍射 ηc : c −→ Gdc が存在する
とする.このとき G は左随伴関手 F : C −→ D を持つ.
証明. まず関手 F : C −→ D を定義する.c ∈ C に対する普遍射 ηc : c −→ Gdc を使って
F c := dc と定める.射 f : c −→ c′ に対して射 F f : F c −→ F c′ を,ηc : c −→ GF c の普
遍性から一意に定まる射とする (次の図式参照).
c
ηc
GF c
f
GF f
c′
ηc′
GF c′
Fc
Ff
F c′
この F が関手 C −→ D であることは ηc の普遍性から容易に分かる.またこの図式の可
換性は η : idC =⇒ GF が自然変換であることを示している.
F ⊣ G を示す.c ∈ C ,d ∈ D に対して写像 φc,d : HomD (F c, d) −→ HomC (c, Gd) を
φc,d (f ) := Gf ◦ ηc で定める.
c
ηc
GF c
Fc
Gf
φc,d (f )
Gd
2
f
d
この φ は自然変換である.
. .
. ) まず c に関する自然性,即ち h : c −→ c′ に対する次の可換性を示す.
Hom(F c, d)
φc,d
f ◦ Fh
Hom(c, Gd)
−◦F h
−◦h
′
Hom(F c , d)
φc′ ,d
φc,d
−◦F h
′
Hom(c , Gd)
φc′ ,d
f
G(f ◦ F h) ◦ ηc
Gf ◦ ηc′ ◦ h
−◦h
Gf ◦ ηc′
即ち ηc′ ◦ h = GF h ◦ ηc を示せばよいが,これは F h の定義
c
ηc
GF c
h
c′
Fc
GF h
ηc′
Fh
GF c′
F c′
により明らか.次に d に関する自然性,即ち g : d −→ d′ に対する次の可換性である
が,それは φ の定義から明らか.
Hom(F c, d)
φc,d
g◦−
Hom(F c, d′ )
Hom(c, Gd)
f
Gg◦−
φc,d′
φc,d
g◦−
Hom(c, Gd′ )
g◦f
Gf ◦ ηc
Gg◦−
φc,d′
Gg ◦ Gf ◦ ηc
また普遍射の性質から明らかに,各 φc,d が全単射であることが分かる.故に自然同型
φc,d : HomD (F c, d) ∼
= HomC (c, Gd) が成り立つ.よって F ⊣ G である.
今の証明により,随伴 F ⊣ G から得られる ηc : c −→ GF c が自然変換 η : idC =⇒ GF
を定めることもわかる.この η を F ⊣ G の unit と呼ぶ.
定理 3. G : D −→ C の左随伴は,存在するならば (同型を除いて) 一意である.即ち,
F ⊣ G : C −→ D かつ F ′ ⊣ G : C −→ D ならば自然同型 F ∼
= F ′ が存在する.
証明. F ⊣ G かつ F ′ ⊣ G とすれば,それぞれの unit を η, η ′ としたときに ηc : c −→ GF c
と ηc′ : c −→ GF ′ c が普遍射となるから,普遍射の普遍性により F c ∼
= F ′ c が分かる.こ
の同型は c について自然だから F ∼
= F ′ となる.
3
以上の双対を取れば以下のことも分かる.
定 理 4. F ⊣ G : C −→ D を 随 伴 と し ,d ∈ D を 取 る .同 型 HomD (F Gd, d) ∼
=
HomC (Gd, Gd) により idGd に対応する εd ∈ HomD (F Gd, d) を取れば,⟨Gd, εd ⟩ は
F から d への普遍射であり, 同型 HomC (c, Gd) −→ HomD (F c, d) は f 7−→ εd ◦ F f によ
り与えられる.
c
f
Gd
Fc
g
Ff
F Gd
εd
d
また ε は自然変換 F G =⇒ idD となる.(これを counit と呼ぶ.)
逆に F : C −→ D を関手として,各 d ∈ D に対して普遍射 εc : F cd −→ d が存在すれ
ば F は右随伴関手 G を持つ.また, 右随伴は一意的である. 例 5. U : Ab −→ Set を忘却関手とする.X ∈ Set から U への普遍射は常に存在し,自
由アーベル群 F X となるのであった.故に X 7−→ F X は U : Ab −→ Set の左随伴関手
となる.故に X ∈ Set と G ∈ Ab に関して自然に HomAb (F X, G) ∼
= HomSet (X, U G)
である.このような,忘却関手の左随伴関手を自由関手と呼ぶ.
例 6. J, C を圏,∆ : C −→ C J を対角関手とする.T ∈ C J の余極限とは T から ∆ への
普遍射のことであった.故に任意の T ∈ C J に対して余極限 colim T ∈ C が存在するな
らば colim : C J −→ C は ∆ の左随伴関手である.即ち,T, c について自然な同型
HomC (colim T, c) ∼
= HomC J (T, ∆c)
が成り立つ.
同様に,任意の T ∈ C J に対して極限 lim T ∈ C が存在するならば lim : C J −→ C は
∆ の右随伴関手である.
G : D −→ C を関手,c ∈ C を対象とすると,同値「c から G への普遍射が存在する
⇐⇒ Hom(c, G(−)) が表現可能関手」が成立するのであった.これと定理 2 を組み合わせ
て次の系を得る.
系 7. 関手 G : D −→ C が左随伴を持つ
⇐⇒ 各 c ∈ C に対して Hom(c, G(−)) が表現可能となる.
双対を考えれば
4
系 8. 関手 F : C −→ D が右随伴を持つ
⇐⇒ 各 d ∈ D に対して Hom(F (−), d) が表現可能となる.
さて,F ⊣ G の unit η : id =⇒ GF と counit ε : F G =⇒ id を図式で書くと次のよう
になる.
id
D
ε
G
F
C
G
=⇒
=⇒
D
η
C
id
よってこの自然変換の合成を考えることができる.
命題 9. 合成 Gε ◦ ηG : G =⇒ GF G =⇒ G は idG : G =⇒ G に等しい.
ε
G
F
C
=⇒
=⇒
D
id
D
G
=
η
id
G
id
G
C
D
=⇒
id
D
C
C
id
証明. f ∈ Hom(c, Gd) に対応する g ∈ Hom(F c, d) を取れば Gg ◦ ηc = f であった.こ
こで c := Gd,f := idGd と取れば Gεd ◦ ηGd = idGd である.即ち Gε ◦ ηG = idG .
双対的に,εF ◦ F η : F =⇒ F GF =⇒ F は id : F =⇒ F に等しいことも分かる.実
は,これもある意味で逆が成り立つのである.即ち
定理 10. F : C −→ D,G : D −→ C を関手,η : idC =⇒ GF ,ε : F G =⇒ idD を自然
変換とする.Gε ◦ ηG = id,εF ◦ F η = id が成り立つならば F ⊣ G である.
証明. c ∈ C ,d ∈ D を取る.φcd : Hom(F c, d) −→ Hom(c, Gd) を φcd (f ) := Gf ◦ ηc
で定める.また,ψcd : Hom(c, Gd) −→ Hom(F c, d) を ψcd (g) := εd ◦ F g で定める.
c
ηc
GF c
φcd (f )
Gf
Gd
c
Fc
g
f
d
Gd
φ,ψ は自然変換である.
5
Fc
Fg
F Gd
ψcd (g)
εd
d
. .
. ) k : c −→ c′ を射とする.まず次の図式が可換であることを示す.
Hom(F c, d)
φcd
−◦F k
Hom(F c′ , d)
f ◦ Fh
Hom(c, Gd)
−◦k
φc′ d
φcd
−◦F k
Hom(c′ , Gd)
G(f ◦ F h) ◦ ηc
Gf ◦ ηc′ ◦ h
−◦k
f
φc′ d
Gf ◦ ηc′
その為には GF k ◦ ηc = ηc′ ◦ k を示せばよいが,これは η : idC =⇒ GF が自然変換
だから次が可換となり分かる.
c
ηc
GF c
k
GF k
c′
GF c′
ηc′
同様の議論を行うことにより,φ,ψ が自然変換であることが分かる.
ε : F G =⇒ id は自然変換だったから,次の図式が可換である.
εF c
F GF c
Fc
F Gf
f
F Gd
εd
d
即ち εd ◦ F Gf = f ◦ εF c となる.仮定により εF ◦ F η = id だったから,φ, ψ の定義に
より
ψcd ◦ φcd (f ) = ψcd (Gf ◦ ηc )
= εd ◦ F (Gf ◦ ηc )
= εd ◦ F Gf ◦ F ηc
= f ◦ εF c ◦ F ηc
=f
である.故に ψcd ◦ φcd = id となる.双対的に φcd ◦ ψcd = id も成り立つことが分かる.
従って φ : Hom(F c, d) ∼
= Hom(c, Gd) であり F ⊣ G が分かった.
b := SetC
補題 11. C を圏,y : C −→ C
op
を米田埋込とする.f : c −→ d を C の射とす
るとき
6
(1) y(f ) がモノ射 ⇐⇒ f がモノ射
(2) y(f ) がエピ射 ⇐⇒ f が分裂エピ射
証明. y(c) = HomC (−, c) であり自然変換 y(f ) : HomC (−, c) =⇒ HomC (−, d) は e ∈ C
に対して y(f )e : HomC (e, c) ∋ g 7−→ f ◦ g ∈ HomC (e, d) で与えられるのであった.
(1) e ∈ C に対して
y(f )e が単射 ⇐⇒ 任意の g, h ∈ HomC (e, c) に対して
y(f )e (g) = y(f )e (h) ならば g = h
⇐⇒ 任意の g, h ∈ HomC (e, c) に対して
f ◦ g = f ◦ h ならば g = h
だから「y(f ) がモノ射 ⇐⇒ f がモノ射」である.
(2) y(f ) がエピ射とする.このとき y(f )d : HomC (d, c) −→ HomC (d, d) はエピ,即ち
全射である.よって g ∈ HomC (d, c) で y(f )d (g) = idd となるものが存在する.このとき
idd = y(f )d (g) = f ◦ g である.よって f が分裂エピ射となることが分かった.
逆に f が分裂エピ射,即ち f ◦g = id とする.各 e ∈ D に対して y(f )e : HomC (e, c) −→
HomC (e, d) の全射性を示せばよい.それは h ∈ HomC (e, d) に対して y(f )e (g ◦ h) =
f ◦ g ◦ h = id ◦ h = h となるから分かる.
定理 12. 随伴 F ⊣ G : C −→ D の unit を η ,counit を ε とする.
(1) F が忠実 ⇐⇒ 任意の c ∈ C に対して ηc がモノ射
(2) F が充満 ⇐⇒ 任意の c ∈ C に対して ηc が分裂エピ射
(3) F が忠実充満 ⇐⇒ 任意の c ∈ C に対して ηc が同型射
(4) G が忠実 ⇐⇒ 任意の d ∈ D に対して εd がエピ射
(5) G が充満 ⇐⇒ 任意の d ∈ D に対して εd が分裂モノ射
(6) G が忠実充満 ⇐⇒ 任意の d ∈ D に対して εd が同型射
∼
=
F
証明. y(ηc )b は合成 Hom(b, c) −
→ Hom(F b, F c) −
→ Hom(b, GF c) と一致する.よって
7
補題 11 を使えば
F が忠実 ⇐⇒ 任意の b, c ∈ C に対して F : Hom(b, c) −→ Hom(F b, F c) が単射
⇐⇒ 任意の b, c ∈ C に対して y(ηc )b が単射
⇐⇒ 任意の c ∈ C に対して y(ηc ) がモノ射
⇐⇒ 任意の c ∈ C に対して ηc がモノ射
F が充満 ⇐⇒ 任意の b, c ∈ C に対して F : Hom(b, c) −→ Hom(F b, F c) が全射
⇐⇒ 任意の b, c ∈ C に対して y(ηc )b が全射
⇐⇒ 任意の c ∈ C に対して y(ηc ) がエピ射
⇐⇒ 任意の c ∈ C に対して ηc が分裂エピ射
であるから F についての証明が終わった.G についても同様である.
定理 13. F, H : C −→ D,G : D −→ C で F ⊣ G ⊣ H とする.このとき
F が忠実充満 ⇐⇒ H が忠実充満
証明. (=⇒) F が忠実充満であるとする.前定理により η : id =⇒ GF が自然同型であ
る.よって Hom(c, GHc′ ) ∼
= Hom(F c, Hc′ ) ∼
= Hom(GF c, c′ ) ∼
= Hom(c, c′ ) となるから
米田の補題により GH ∼
= id が分かる.この同型は,G ⊣ H の counit ε : GH =⇒ id に
より与えられることが分かる.故に前定理により H は忠実充満である.
(⇐=) 同様である.
定義. J, C を圏,T : J −→ C を関手として,T の極限 ⟨lim T, µ⟩ が存在するとする.関
手 F : C −→ D が極限 ⟨lim T, µ⟩ と交換する ⇐⇒ ⟨F (lim T ), F µ⟩ が F T の極限である.
定理 14. 左随伴関手は任意の余極限と交換する.即ち,F ⊣ G : C −→ D を随伴関手,
T : J −→ C を関手で colim T が存在するとするとき,F は colim T と交換する.
証明. ⟨colim T, µ⟩ を T の余極限とする.即ち µ : T =⇒ ∆(colim T ) は普遍射である.
F µ : F T =⇒ F ∆(colim T ) = ∆(F (colim T )) が普遍射であることを示せばよい.d ∈ D
について自然に
HomD (F colim T, d) ∼
= HomC (colim T, Gd)
∼
= HomC J (T, ∆(Gd))
∼
= HomC J (T, G∆(d))
∼
= HomDJ (F T, ∆(d))
8
となるから HomDJ (F T, ∆−) ∼
= HomD (F colim T, −) は表現可能関手である.故に F T
から ∆ への普遍射は存在し,それは F µ で与えられる.
双対的に,右随伴関手は極限と交換する.
F : C −→ D を関手,U を圏とするとき,二つの関手 F : C U −→ DU と F −1 : U D −→
U C が得られるのであった.
命題 15. F ⊣ G : C −→ D を随伴とする.このとき,圏 U に対して随伴 F ⊣ G : C U −→
DU が成り立つ.
証明. 随伴 F ⊣ G の unit,counit を η, ε とする.K ∈ C U ,L ∈ DU に関して自然に
HomDU (F K, L) ∼
= HomC U (K, GL) となることを示せばよい.
θ ∈ Hom(F K, L) に対して次の図式の自然変換の合成を αK,L (θ) : K =⇒ GL とする.
L
θ
K
F
C
=⇒
D
=⇒
U
G
η
C
id
このとき αK,L : Hom(F K, L) −→ Hom(K, GL) は K, L に関して自然である.
. .
. ) L についても同様に分かるから,K に関する自然性のみ示す.
K, K ′ ∈ C U の間の射 τ : K =⇒ K ′ を考える.図式
αK,L
Hom(F K, L)
Hom(K, GL)
−◦τ
−◦F τ
Hom(F K ′ , L)
αK ′ ,L
Hom(K ′ , GL)
が可換であることを示す.左の縦の射 ◦F τ は θ ∈ Hom(F K ′ , L) に対して合成
L
K
⇒
τ
K
′
D
=⇒
U
θ
C
9
F
を与える射である.よって
Hom(F K, L)
αK,L
−◦τ
−◦F τ
Hom(F K ′ , L)
θ ◦ Fτ
Hom(K, GL)
αK ′ ,L
αK,L
−◦F τ
Hom(K ′ , GL)
G(θ ◦ F τ ) ◦ ηK
Gθ ◦ ηK ′ ◦ τ
−◦τ
θ
αK ′ ,L
Gθ ◦ ηK ′
となるが,自然変換の合成の性質により Gθ◦ηK ′ ◦τ = Gθ◦GF τ ◦ηK = G(θ◦F τ )◦ηK
であるから可換である.
よって αK,L が同型であることを言えばよいが,それは逆射が次の βK,L によって
与えられることから分かる.θ ∈ Hom(K, GL) に対して次の図式の自然変換の合成を
βK,L (θ) : F K =⇒ L とする.
=⇒
L
η
U
=⇒
id
D
D
θ
G
F
C
K
β が α の逆になっていることは,unit η と counit ε の性質から分かる.
命題 16. F ⊣ G : C −→ D を随伴,U を圏とすると,随伴 G−1 ⊣ F −1 : U C −→ U D が
成り立つ.
証明. F ⊣ G の unit,counit を η, ε とする.θ ∈ Hom(KG, L) に対して次の図式の自然
変換の合成を αK,L (θ) : K =⇒ LF とする.
=⇒
F
η
C
=⇒
L
D
U
θ
G
K
C
id
この α が自然同型 HomU D (KG, L) ∼
= HomU C (K, LF ) を与えることが前命題と同様に
分かる.
命題 17. F ⊣ G : C −→ D を随伴とする.このとき随伴 G ⊣ F : D op −→ C op が成り
立つ.
証明. HomC op (Gd, c) = HomC (c, Gd) ∼
= HomD (F c, d) = HomDop (d, F c).
10
b −→ C
b が成り立つ.
系 18. F ⊣ G : C −→ D のとき F −1 ⊣ G−1 : D
b = SetC
証明. C
op
だったから,前二つの命題を組み合わせればよい.
e ⊂ C,
定理 19. F ⊣ G : C −→ D を随伴,η を unit,ε を counit とする.充満部分圏 C
e ⊂Dを
D
e := {c ∈ Ob(C) | ηc : c → GF c が同型 }
Ob(C)
e := {d ∈ Ob(D) | εd : F Gd → d が同型 }
Ob(D)
e −→ D
e が得られる.
と定める.このとき圏同値 C
e に対して F c ∈ D
e である.
証明. まず c ∈ C
. .
e とすれば ηc : c −→ GF c は同型である.よって F ηc : F c −→ F GF c も同
. )c∈C
型である.今 F η ◦ εF = idF だったから,idF c = F ηc ◦ εF c となり εF c も同型であ
e が分かった.
る.よって F c ∈ D
e −→ D
e を定める.同様にして G から関手 G
e: D
e −→ C
e が得ら
よって F は関手 Fe : C
e ◦ Fe ∼
e∼
れる.定義から明らかに G
= idCe ,Fe ◦ G
= idDe である.
命題 20. F : C −→ D ,G : D −→ C ,η : idC ∼
= GF ,ρ : F G ∼
= idD を圏同値とすると
き,η を unit とするような随伴 F ⊣ G が存在する.
−1
証明. 自然変換 ε : F G =⇒ idD を ε := ρ ◦ F ηG
◦ ρ−1
F G により定める.
D
C
id
=⇒
ρ−1
η −1
=⇒
D
G
id
G
=⇒
F
ρ
C
F
D
id
このとき Gε ◦ ηG = id と εF ◦ F η = id を示せばよい.まず Gρ−1 : G =⇒ GF G が自然
変換だから,次の図式が可換である.
Gd
Gρ−1
d
ηGd
GF Gd
GF Gd
GF ηGd
Gρ−1
F Gd
11
GF GF Gd
−1
−1
即ち GρF
Gd ◦ ηGd = GF ηGd ◦ Gρd となる.よって
(Gε ◦ ηG )d = Gεd ◦ ηGd
−1
= G(ρd ◦ F ηGd
◦ ρ−1
F Gd ) ◦ ηGd
−1
◦ Gρ−1
= Gρd ◦ GF ηGd
F Gd ◦ ηGd
−1
= Gρd ◦ GF ηGd
◦ GF ηGd ◦ Gρ−1
d
= id
となるから Gε ◦ ηG = id が成り立つ.
同様にして εF ◦ F η = id も分かる.
定義. C を直積を持つ圏とする.すると対象 a ∈ C に対して − × a : C −→ C は関手と
なる.このとき − × a から b ∈ C への普遍射 ⟨ba , ev⟩ を exponential object という.
ba
g
ba × a
g×ida
x
ev
b
f
x×a
ev : ba × a −→ b を evaluation map という.また ba は [a, b] などと書くこともある.
例 21. C = Set の場合,ba は集合としての冪 ba = HomSet (a, b) であり,ev : ba ×a −→ b
は ev(f, x) = f (x) で与えられる.
定理 2 により
命題 22. C を有限直積を持つ圏として,任意の a, b ∈ C に対して ba が存在するとする.
このとき C ∋ b 7−→ ba ∈ C は関手 (−)a : C −→ C を定め,随伴 − × a ⊣ (−)a が成り立
つ.よって b, c ∈ C について自然に HomC (b × a, c) ∼
= HomC (b, ca ) となる.
このような圏を Cartesian 閉圏という.
定義. Cartesian 閉圏 (Cartesian Closed Category, CCC) とは次の条件を満たす圏 C の
ことである.
(1) C は有限直積を持つ.
(2) 任意の a ∈ C に対して − × a は右随伴を持つ.
※ C を Cartesian 閉圏,a ∈ C として − × a の右随伴を Ga とする.命題 1 から,
12
− × a から b ∈ C への普遍射,つまり exponential object (ba , ev) が存在することが
分かる.すると命題 22 から − × a ⊣ (−)a である.故に右随伴の一意性 (定理 3 の双
対) から Ga ∼
= (−)a となる.よって Cartesian 閉圏の定義の「− × a の右随伴」は最
初から (−)a と思ってよい.
定理 14 とその双対から次が分かる.
命題 23. C を Cartesian 閉圏とすると,a ∈ C に対して − × a は余極限と交換し,(−)a
は極限と交換する.特に b, c ∈ C に対して
(b ⨿ c) × a ∼
= (b × a) ⨿ (c × a)
(b × c)a ∼
= ba × ca
が成り立つ.また 0 × c ∼
= 0,1c ∼
= 1 である.
命題 24. Cartesian 閉圏 C において (ab )c ∼
= ab×c .
証明. (ab )c が − × (b × c) から a への普遍射を与えることを示せばよい (そうすれば普遍
射の一意性から (ab )c ∼
= ab×c が分かる).その為には,自然同型
HomC (− × (b × c), a) ∼
= HomC (−, (ab )c )
を示せばよい.それは,x ∈ C に対して自然に
HomC (x × (b × c), a) ∼
= HomC (x × (c × b), a)
∼
= HomC ((x × c) × b, a)
∼
= HomC (x × c, ab )
∼
= HomC (x, (ab )c )
となるから成り立つ.
命題 25. Cartesian 閉圏 C において ab × ac ∼
= ab⨿c .
証明. 前命題と同様で,x ∈ C に対して自然に
HomC (x × (b ⨿ c), a) ∼
= HomC ((x × b) ⨿ (x × c), a)
∼
= HomC (x × b, a) × HomC (x × c, a)
∼
= HomC (x, ab ) × HomC (x, ac )
∼
= HomC (x, ab × ac )
となるから ab × ac ∼
= ab⨿c である.
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命題 26. Cartesian 閉圏 C において a0 ∼
= 1,a1 ∼
= a.
証明. x ∈ C に対して自然に
HomC (x × 0, a) ∼
= HomC (0, a) ∼
=1∼
= HomC (x, 1)
HomC (x × 1, a) ∼
= HomC (x, a)
である.
以上により,Cartesian 閉圏においては,所謂「指数法則」が成り立つのである.
定理 27. F : C × X −→ D を関手とし各 x ∈ X に対して随伴 F (−, x) ⊣ Gx : C −→ D
が存在するとする.このときある関手 G : X op × D −→ C が存在して G(x, c) = Gx (c)
となる.
証明. 随伴 F (−, x) ⊣ Gx : C −→ D の counit を εx : F (Gx −, x) =⇒ idC とする.d ∈ D
に対して εxd : F (Gx (d), x) −→ d は普遍射である.
f : x −→ y に対して Gf (d) : Gy (d) −→ Gx (d) を εxd の普遍性により次のように定
める.
εx
d
Gx (d) F (Gx (d), x)
Gf (d)
F (Gf (d),x)
Gy (d) F (Gy (d), x)
F (id,f )
d
εy
d
F (Gy (d), y)
G(x, d) := Gx (d) として f : c −→ d,g : x −→ y に対して F (f, g) := Gg (d) ◦ Gy (f ) と
定めれば G : X op × D −→ C は関手である.
よって Cartesian 閉圏では,(a, b) 7−→ ba は関手 C op × C −→ C を与える.
以下,随伴の例を挙げる.
例 28. Set を集合の圏,k を体,Vectk を k-線型空間の圏,U : Vectk −→ Set を忘却
関手とする.F : Set −→ Vectk を集合 X に対して X で生成される k 上の線型空間を与
える関手とすれば F ⊣ U である.
例 29. Grp を群の圏,U : Ab −→ Grp を忘却関手とする.F : Grp −→ Ab を集合
X に対して X で生成される自由群を与える関手とすれば F ⊣ U である.
例 30. Ab をアーベル群の圏,U : Ab −→ Set を忘却関手とする.F : Set −→ Ab を
集合 X に対して X で生成される自由アーベル群を与える関手とすれば F ⊣ U である.
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例 31. Grp を群の圏とする.U : Ab −→ Grp を忘却関手とする.F : Grp −→ Ab を
アーベル化 F G := G/[G, G] とすれば F ⊣ U である.
例 32. R を可換環,ModR を R 加群の圏とする.U : ModR −→ Ab を忘却関手
とする.F, G : Ab −→ ModR を F (A) := R ⊗Z A,G(A) := HomZ (R, A) とすれば
F ⊣ U ⊣ G である.
例 33. Top を位相空間の圏,U : Top −→ Set を忘却関手とする.F : Set −→ Top を
集合 X に対して離散位相空間 X を与える関手,G : Set −→ Top を集合 X に対して密
着位相空間 X を与える関手とすれば F ⊣ U ⊣ G である.
例 34. Monoid をモノイドの圏,Ring を環の圏とする.U : Ring −→ Monoid を
忘却関手 (環に対して乗法モノイドを与える関手) とする.F : Monoid −→ Ring を
M ∈ Monoid に対して Z[M ] を与える関手とすれば F ⊣ U である.
例 35. Ring∗ を基点付き環の圏とする.即ち対象は環 A と a ∈ A の組 ⟨A, a⟩ で,
射 ⟨A, a⟩ −→ ⟨B, b⟩ は環準同型 f : A −→ B で f (a) = b を満たすもの,とする.
U : Ring∗ −→ Ring を忘却関手とする.F : Ring −→ Ring∗ を環 R に対して多項式
環 R[x] を与える関手とすれば F ⊣ U である.
例 36. Dom を整 域の 圏,Field を 体の圏とす る.U : Field −→ Dom を忘却 関
手,Quot : Dom −→ Field を整域 D に対して商体 Quot(D) を与える関手とすれば
Quot ⊣ U である.
例 37. LocRing を局所環の圏,Hensel を Hensel 環の圏とする.U : Hensel −→
LocRing を忘却関手,F : LocRing −→ Hensel を Hensel 化とすれば F ⊣ U である.
例 38. Latt を束の圏とする.U : Latt −→ Set を忘却関手とする.F : Set −→ Latt
を X ∈ Set に対して X で生成される自由束を与える関手とすれば F ⊣ U である.
例 39. CptHaus をコンパクト Hausdorff 空間の圏,U : CptHaus −→ Top を忘却関
手とする.U の左随伴関手 SC : Top −→ CptHaus が Stone-Čech コンパクト化であ
る.
例 40. X を位相空間,PSh(X) を X 上の前層の圏,Sh(X) を X 上の層の圏とする.
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U : Sh(X) −→ PSh(X) を忘却関手とする.F : PSh(X) −→ Sh(X) を層化とすれば
F ⊣ U である.
例 41. Ban1 を Banach 空間と linear contraction がなす圏とする.B : Ban1 −→ Set
を単位球体を与える関手とする.B は左随伴関手を持つ.
例 42. X, Y を集合,f : X −→ Y を写像とする.このとき順像 f : P(X) −→ P(Y ),逆
像 f −1 : P(Y ) −→ P(X) は関手である.また f! : P(X) ∋ A 7−→ Y \ f (X \ A) ∈ P(Y )
も関手である.このとき f ⊣ f −1 ⊣ f! が成り立つ.
例 43. 圏 Idem を次のように定める.Ob(Idem) := {⟨X, v⟩ | X は集合,v : X −→ X
は冪等 } として ⟨X, v⟩,⟨Y, w⟩ の間の射は f : X −→ Y で w ◦ f = f ◦ v を満たすものと
する.F : Idem −→ Set を F (⟨X, v⟩) := X ,G : Set −→ Idem を G(X) := ⟨X, idX ⟩
で定めれば F ⊣ G かつ G ⊣ F である.
参考文献
[1] Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, Springer, 2nd ed.
1978 版 (1998)
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