『企業システムにおけるサーバOSの現状と選定方針』〜軽視

ITR White Paper
企業システムにおけるサーバOSの現状と選定方針
∼軽視できないサーバOS選定∼
株式会社アイ・ティ・アール
C15010072
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目 次
第1章
軽視されがちな OS ................................................................................................... 1
IT インフラにおける仮想化の台頭 .......................................................................... 1
第2章
企業におけるサーバ OS の現状 ................................................................................ 3
大企業におけるサーバ OS の利用状況 .................................................................... 3
OS の選定要因 ......................................................................................................... 5
利用満足度から見た UNIX と Linux の差 ................................................................ 5
Linux から UNIX へのリプレース事例..................................................................... 7
第3章
サーバ OS の選定指針 ............................................................................................... 9
サーバ OS の選定状況 ............................................................................................. 9
慎重な選択が求められるサーバ OS....................................................................... 10
サーバ OS の選定方針の作成 ................................................................................ 11
第4章
i
提言 .......................................................................................................................... 13
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企業システムにおけるサーバ OS の現状と選定方針 ∼軽視できないサーバ OS 選定∼
第1章
軽視されがちなOS
ITインフラにおける仮想化の台頭
ここ数年のITインフラにおいて注目されてきたのは仮想化であり、特にサーバ仮想
化は、サーバの効率的な利用を行ううえで不可欠な技術として用いられるようになっ
た。さらに、最近では仮想化する範囲をサーバからストレージやネットワークまでの
ITインフラ全体に広げ、ITインフラ全体の仮想化を意味するSoftware-Defined
Datacenter (SDDC)や、SDDCを実現化する手段として、サーバ、ストレージ、
ネットワーク機器、仮想化ソフトウェア、管理ソフトウェアを集約し、アプライアン
スとして提供する垂直統合型プラットフォーム(コンバージド・インフラストラク
チャ)が話題となっている。その一方で、サーバやオペレーティングシステム(OS)
が話題となることは少なくなっている。これは、サーバ仮想化はIAサーバの利用を前
提としており、
IAサーバではどこのベンダーの製品を選択しても、
Intel社またはAMD
社のX86アーキテクチャをベースとしたプロセッサを搭載し、OSにはMicrosoft
Windows ServerまたはLinuxを採用していることから、ベンダーごとの機能や性能に
大きな差異がなくなったことに起因すると考えられる。
では、実際はどうなのであろうか、図1は、2014年12月3日に発表した「国内IT投
資動向調査2015」から仮想化とサーバおよびサーバ向けOSの来期に向けた投資意欲
を示したものである。縦軸の投資増減指数は、2015年度予想の回答に重み付けを行っ
た合計値(市場規模指数)を、各項目に対して投資計画を持つ回答件数で除した平均
値である。ここでは、投資予定の企業がその額をどのように変動させるかに着目して
おり、上に位置する分野ほど2015年度の投資額の伸びが大きいことを示す。ちなみに、
増減なしを意味するベースラインは「1」である。一方の横軸には、2015年度の市場
規模指数を2014年度の市場規模指数で除し、その伸び率をプロットした。これは、市
場の規模感が来期に向けてどの程度拡大するかを見ており、右に位置する分野ほど、
2015年度に新規で投資を行う企業が多く、裾野が拡大することを示している。こちら
は値をパーセンテージで示しており、ベースラインは「0%」である。
この調査結果を見ると、やはり仮想化関連の項目は全て投資増減指数がプラスとな
り、来期に向けての投資が増加することを示しているが、サーバやサーバ向けOSは
「サーバ向けWindows」以外はマイナスとなっており、サーバやOSに対しては、単
に話題が減っただけでなく、実際の投資意欲も減少していることが明らかとなった。
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なお、「サーバ向けWindows」に対する投資増減指数が高いのは、Windows Server
2003のサポート切れの影響で、「サーバ向け独自OS」の市場規模指数が高いのは、
特定の金融業および公共機関でのメインフレームの更改があったためであるが、どち
らも一時的なものと考える。
図1
仮想化、サーバ、OSに関する来期に向けた投資意欲
投資増減指数(2015年度)
1.02
1.015
サーバ仮想化
1.01
ストレージ仮想化
ネットワーク仮想化/SDN
1.005
サーバ向けWindows
1
サーバ向けLinux
小型サーバ
0.995
サーバ向け独自OS
サーバ向けUNIX
中型サーバ
0.99
大型サーバ
0.985
-10%
-8%
-6%
-4%
-2%
0%
2015年度に投資を
計画する企業の割合
2%
4%
6%
8%
10%
2015年度に向けての市場規模指数の伸び率
出典:ITR「IT投資動向調査2015」
このように、ITリソースが物理環境から仮想化環境へと移行している背景には、企
業を取り巻く経営環境の変化速度が高まり、変化に対応するために、これまで以上に
迅速なシステム稼働と柔軟なリソース配分が望まれていることがある。しかし、仮想
化はアプリケーションから見て、ハードウェアリソースを抽象化するだけで、OSま
で仮想化され、簡単に変更できるわけではない。
現在においても、OSは、システムの性能や機能、そして運用管理コストなどに大
きな影響を及ぼす。したがって、今後、ITインフラに対する仮想化が進み、SDDC化
や垂直統合システムが一般的になったとしても、OSの選択は慎重に行わなければな
らない重要事項に変わりはない。
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第2章
企業におけるサーバOSの現状
大企業におけるサーバOSの利用状況
企業におけるサーバOSの現状を把握するために、ITRでは、売上高1,000億円以上
の大企業を対象にサーバOSの利用動向に関するユーザー調査を行った。
【調査概要】
調査名:大企業におけるサーバOSの利用状況に関する調査
実施期間:2014年10月31日∼11月4日
調査方法:ITRの独自パネルを対象としたインターネット調査
調査対象:売上高1,000億円以上の国内企業に勤務しており、IT施策に対する意思決定または製品
選定を行っている個人
有効回答数:189件
図2に示したのは、回答者に対して、現在利用しているサーバOSの全ての種類を確
認した結果である。最も利用されているのはWindows Server(86.8%)であり、次
いで、UNIX(60.8%)、Linux(59.3%)独自OS(39.7%)の順となった。一般社団
法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が公開している統計資料から国内のサーバ・
ワークステーションの出荷実績を見てみると、2009年度から2013年度までの5年間の
サーバの出荷台数は9割以上をIAサーバが占めている。つまり、企業が利用している
OSはWindows ServerとLinux で占められているかと思いきや、実際企業においては、
UNIXや独自OSも含めて、複数のOSが利用されていることが明らかとなった。
さらに、業務システムごとのデータベースサーバで利用されている主要なOSを問
うた(図3)。全般的にWindows Serverが最も利用されているOSであるが、基幹系
システム(「受発注」「生産・在庫管理」など)や管理業務系システム(「経理・財
務会計」「管理会計」「人事・給与」など)では独自OSやUNIXの利用割合が高い傾
向を示し、業務支援・情報系システム(「顧客管理(CRM)」「営業支援(SFA)」
および「Eメール・グループウェア・Web会議」など)やWebフロント系システム(「企
業Webサイト(WCM)」「ECサイト(eコマーズ)」)ではLinuxの利用割合が高
い傾向を示した。また、基幹系システムでは、Windows Serverの利用も他の領域に
比べて割合が低いことから、一般にミッションクリティカルと呼ばれるような基幹系
システムでは、実績ある独自OSやUNIXの利用が依然として好まれていると考えられ
る。
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図2
サーバOSの利用状況(複数回答)
0%
50%
独自OS(メインフレームなど)
100%
39.7%
UNIX
60.8%
Windows Server
86.8%
Linux
59.3%
(N=189)
出典:ITR(2014年11月調査)
図3
業務システムごとのサーバOSの利用状況
0%
受発注(N=160)
基幹系
生産・在庫管理(N=149)
仕入・調達管理(N=154)
販売管理(N=159)
25%
業務支援・情報系
21.5%
21.4%
16.2%
19.5%
18.9%
14.2%
19.1%
14.3%
顧客管理(CRM)(N=155)
14.8%
14.8%
営業支援(SFA)(N=145)
14.5%
14.5%
9.9%
12.4%
Eメール・ グループウェア・Web会議(N=175) 7.4% 9.7%
Web・フロント系 企業Webサイト(WCM)(N=161) 10.6% 12.4%
ECサイト(eコマース)(N=134)
経理・財務会計(N=167)
管理会計(N=167)
人事・給与(N=166)
独自OS(メインフレームなど)
11.2%
18.0%
15.6%
18.1%
44.2%
18.2%
42.8%
18.9%
46.1%
51.2%
56.5%
54.8%
52.4%
12.7%
15.4%
16.8%
15.5%
18.6%
17.7%
69.4%
13.1%
68.6%
14.3%
60.9%
15.7%
17.5%
19.5%
58.2%
14.2%
文書・コンテンツ管理(N=160) 7.5% 10.0%
管理業務系
38.8%
100%
40.9%
18.2%
23.0%
経営情報(N=161)
マーケティング支援・管理(N=141)
75%
21.3%
22.5%
18.1%
勘定(N=165)
資金決済(N=162)
50%
56.7%
16.1%
16.4%
13.2%
52.7%
16.2%
17.4%
50.9%
16.2%
16.3%
UNIX
50.6%
Windows Server
15.1%
Linux
出典:ITR(2014年11月調査)
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OSの選定要因
では、企業はサーバOSを選定する際に何を重要視しているのであろうか。今回の
調査では15種類の選定要因の重要度を業務システム分野別に調査した。図4に示した
のは、4段階で問うた重要度に重み付け(「非常に重要」を+3、「重要」を+1、「あ
まり重要ではない」を−1、「重要ではない」を−3)を行い、その合計値を項目ごと
の回答数で除した加重平均値を業務システム分野別に表したものである。文字が赤い
項目は、各選定要因で業務システム分野の平均値を上回るものを示している。
一般的には、基幹系システムでは、RAS(Reliability, Availability, Serviceability)
が重要視されるといわれているが、今回の調査結果でもその傾向が見受けられ、基幹
系分野では、他の分野に比べ「信頼性」「可用性」「保守性」「サポート期間」「サ
ポート体制」「導入実績」などの項目において重要度が高い結果を示し、「初期導入
コスト」「市場シェア」では他の分野よりも低い結果を示した。このことから、基幹
系分野は他の分野とは異なる基準で選択されていると言える。
図4
サーバOS選定要因の重要度(業務システム分野別)
初期導入コスト
1.3
1.5
1.4
1.5
業務システム分野
平均値
1.4
運用管理コスト
1.7
1.6
1.6
1.6
1.6
処理性能
1.6
1.5
1.4
1.3
1.5
性能拡張性(スケール・アップ)
1.1
1.3
1.2
1.2
1.2
性能拡張性(スケール・アウト)
1.1
1.1
1.2
1.1
1.1
信頼性
1.9
1.6
1.5
1.6
1.7
可用性
1.5
1.3
1.4
1.4
1.4
保守性
1.6
1.5
1.4
1.4
1.5
セキュリティ機能
1.9
1.8
1.9
1.7
1.8
サポート期間
1.3
1.2
1.2
1.2
1.3
サポート体制
1.3
1.2
1.2
1.2
1.3
アプリケーション資産の保護
1.2
1.2
1.1
1.1
1.1
頻繁なバージョンナップ
0.3
0.4
0.5
0.5
0.4
導入実績
0.8
0.7
0.7
0.7
0.7
市場シェア
0.4
0.5
0.6
0.5
0.5
基幹系
業務支援・情報系
Web・フロント系
管理業務系
出典:ITR(2014年11月調査)
利用満足度から見たUNIXとLinuxの差
企業のITインフラでは、1990年以降のオープンシステムの台頭によって、汎用機な
どの独自OSはレガシーと呼ばれたが、そのオープンシステムを牽引してきたUNIXが
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現在ではレガシーであると言われ始めている。UNIXは、40年にわたる進化によって
現在では、企業の基幹システムを支える堅牢なOSとして利用されているが、主要な
サーバ向けLinuxディストリビューションでは、すでにLinuxはUNIXと同等かそれ以
上の信頼性、可用性、柔軟性を実現していると言われている。そして、UNIXユーザー
に対して、コマンド体系やファイルシステムが似ているLinuxへのリプレースをマー
ケティング施策の柱のひとつとしている。では、本当にLinuxはUNIXに追いついた
のであろうか。
図5に示したのは、15種類の選定要因に対して満足度を4段階で問うた結果に重み付
け(「大変満足」を+3、「満足」を+1、「不満」を−1、「非常に不満」を−3)を
行い、その合計値をそれぞれの回答数で除した加重平均値を示したものである。
図5
UNIXとLinuxの満足度
1.4
1.21
UNIX(N=115)
1.2
1.0
Linux(N=112)
0.97
1.06
0.86
0.8
0.83
0.77
0.79
0.70
0.70
0.62
0.68
0.71
0.63
0.58
0.57
0.63
0.56
0.55
0.32
0.44
0.57
0.54
導
入
実
績
市
場
シ
ェ
ア
0.41
0.27
0.2
0.79
0.72
0.79
0.6
0.4
0.84
0.77
0.29
0.0
ル
・
ア
ッ
プ
ル
・
ア
ウ
ト
保
守
性
ー
セ
キ
ュ
リ
テ
ィ
機
能
サ
ポ
サ
ポ
ト
期
間
ト
体
制
)
)
ア
プ
リ
ケ
頻
繁
な
バ
シ
ョ
ン
資
産
の
保
護
ジ
ョ
ン
ア
ッ
プ
ー
ス
ケ
可
用
性
ー
ス
ケ
信
頼
性
ー
性
能
拡
張
性
(
性
能
拡
張
性
ー
処
理
性
能
ー
運
用
管
理
コ
ス
ト
(
初
期
導
入
コ
ス
ト
出典:ITR(2014年11月調査)
回答数はUNIXが115件、Linuxが112件とほぼ同数で、図3で示した業務システム
ごとの利用割合ではそれほど大きな差がなかったが、満足度では明確な差が表れた。
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企業システムにおけるサーバ OS の現状と選定方針 ∼軽視できないサーバ OS 選定∼
コストに関しては、「初期導入コスト」「運用管理コスト」ともLinuxがUNIXを
大きく上回って満足度が高い結果となった。これは、LinuxはUNIXのようなソフト
ウェア・ラインセスや更新ライセンスがなく、サブスクリプション・ライセンスまた
は無償であるため、OSの費用が低く抑えられることが影響していると思われる。一
方、残りの13項目はUNIXの満足度が高い結果となった。特に、「信頼性」「セキュ
リティ機能」「サポート体制」ではより大きな差が生じた。
今回の調査結果を見た限りでは、コスト面を除いては依然としてUNIXに対する満
足度はLinuxよりも高く、企業におけるシステムでは単に製品が持つ機能や性能だけ
ではなく、それを利用してシステムを構築し、運用していくためのノウハウが重要と
なっていることがうかがえる。UNIXが従来の汎用機に追いついたように、将来的に
はLinuxもUNIXに追いつくと思われるが、現時点ではまだUNIXに一日の長があると
言えよう。
LinuxからUNIXへのリプレース事例
アンケート調査では、Linuxに比べ高い満足度を示したUNIXであるが、一般的に
は、UNIXからLinuxにリプレースを行う場合が多いと考えられている。そこで、Linux
からUNIXへのリプレース事例を調べたが、Webなどで公開されている事例に該当す
る情報が見当たらなかったため、日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日
本HP)からの協力を得て、インタビュー調査を行った。日本HPを選択したのは以下
の理由による。
 同社がサーバ・ハードウェアにおいて世界で最も高いシェアを持っていること。
 UNIX、Linuxを含む多種多様なOSを取り扱っていること。
 自社独自のLinuxディストリビューションを持たないために、公平な意見が得やす
いと判断したこと。
 UNIXとLinux両方で国内の大企業に対する販売実績が豊富なこと。
インタビュー調査の結果、2010年以降LinuxからUNIXへとリプレースを行うケー
スが国内に存在することがわかった。その多くは基幹系のミッションクリティカルな
システムであり、コストや時代のトレンドから一度はLinuxを利用したものの、その
時点では必要な機能や性能が得られず、再度UNIXを採用している。このような情報
が一般的に公開されないのは、当該企業がOS選定に失敗したと捉えており、事例と
して公開する許可が得られないからであり、その数は決して少なくない。
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事例1:金融業
このシステムは高度なトランザクションを必要とする新システムであったが、
Linuxで構築したシステムは、高負荷状況における安定性が不十分でシステム停止を
起こし、その原因究明が十分にできなかった。また障害時にUNIXサーバのようにI/O、
メモリ、CPUといった細かいパーツレベルでの回避機能がなく、頻繁にクラスタによ
るフェールオーバーが発生することで、サーバ切り替えによるサービスの停止時間が
拡大してしまった。結局、UNIXで稼働する他のシステムに比べ安定性が劣ると判断
し、UNIXにリプレースを実施した。
事例2:通信業
このシステムは通信設備の監視/制御を行うもので、計画停止すら難しいという
ミッションクリティカルなシステムであった。しかし、Linuxは頻繁なパッチ適用を
行う必要があり、また、障害発生時の対応でもさまざまな代替手段を講じなければな
らなかったために、運用管理に多くの工数が必要となり、安定的な稼働を維持するこ
とが困難となった。また、10年間の長期利用が求められるシステムでもあったが、IA
サーバでは、10年間のサポート期間を維持することが難しく、UNIXへのリプレース
を判断している。
どちらの事例も決して安易にサーバOSを選択したわけではなく、導入前に十分と
思われる検証を実施したうえでLinuxを採用したのであるが、本番環境において事前
検証ではわからないような問題や課題が発生してしまっている。
インタビューの結果から高信頼を求められるシステムにおいては、やはりハード
ウェア製品やソフトウェア製品の仕様上の機能や性能だけではなく、実際に運用する
ためのノウハウも重要であると言える。また、今回の例のようにLinuxからUNIXへ
戻さないまでも、運用でカバーする範囲が増加することで、初期コストは削減できて
も、運用コストが増加し、総合的にはコスト・パフォーマンスが下がっているケース
もあるであろう。
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第3章
サーバOSの選定指針
サーバOSの選定状況
では、今後企業がサーバOSを選定する際にはどのようなことに注意していけばよ
いだろうか。前述したユーザー調査で、企業がOSを選定する際の方針について調査
を実施した。調査結果では、「システムの種類に応じて最適なサーバOSを選択する」
が52.9%と過半数を占めた。
以下
「IAサーバ上のWindows Serverに統合する」
(23.3%)
、
「パブリック・クラウドへの移行を前提としている」「方針を持っていない」(とも
に7.9%)、「IAサーバ上のLinuxに統合する」(6.9%)という順となった(図6)。
図6
サーバOSに対する選定方針
方針を持っていない
7.9%
パブリック・クラウドへ
その他
の移行を前提として
1.1%
いる
7.9%
IAサーバ上の
Linuxに統合する
6.9%
IAサーバ上の
Windows Serverに
統合する
23.3%
システムの種類に
応じて最適なサーバ
OSを選択する
52.9%
(N=189)
出典:ITR(2014年11月調査)
さらに、この結果を回答企業の業績を4段階で問うた結果で分けて集計してみると、
業績の良い企業ほど「システムの種類に応じて最適なサーバOSを選択する」とする
回答割合が高くなる傾向が見られた(図7)。また、「方針を持っていない」と回答
した割合は全体では7.9%であったが、業績別に見ると好調な企業ほど「方針を持って
いない」と回答した割合が低く、「非常に好調」と回答した層では0%であった。
これらのことから、企業はシステムの種類に応じて最適なOSを選択するも、そこ
では何らかの社内方針を基に採用するサーバOSを選択していると考える。
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図7
業績別に見たサーバOSに対する選定方針
0%
25%
非常に好調(N=38)
50%
75%
60.5%
18.4%
100%
5.3% 15.8%
4.2%
やや好調(N=120)
54.2%
25.0%
7.5%
8.3% 0.8%
4.8%
やや不調(N=21)
非常に不調(N=10)
47.6%
20.0%
9.5%
19.0%
50.0%
10.0%
14.3% 4.8%
20.0%
システムの種類に応じて最適なサーバOSを選択する
IAサーバ上のWindows Serverに統合する
IAサーバ上のLinuxに統合する
パブリック・クラウドへの移行を前提としている
方針を持っていない
その他
出典:ITR(2014年11月調査)
慎重な選択が求められるサーバOS
ビジネス環境は常に変化しており、経営や事業が情報システムに対して求める要件
も変動する。また、IT技術も常に進化しており、技術要素やその組み合わせは多様で
複雑なものとなる。一方で、実際の企業のITシステムは一定期間運用する構造物であ
るため、変動よりも安定を求める性質を持っている。したがって、IT製品選定に関す
る標準や方針を決めることは、ビジネス環境の変化や技術革新というダイナミック
(動的)な要素と、ITシステムというスタティック(静的)な要素の両方を考慮しな
ければならない。
現実の企業のITシステムの多くは、一度に同時構築されたのではなく、数年間をか
けて順次構築されている。また中には10年以上の利用が求められるシステムも存在し
ている。したがって、サーバOSのようなシステムの基盤となるITインフラ技術は、
機能追加による変更はあったとしても基本的アーキテクチャは長期間の利用に耐え
るものでなければならない。さらに、多くの場合、ITシステム同士は何らかの関係性
を持っているので、単体のシステムであっても、安易に変更や追加を繰り返すことは、
企業全体のシステムの安定性、運用管理性に悪影響を及ぼす可能性がある。したがっ
て、ITインフラに関わる製品選定は慎重に行わなければならない。
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サーバOSの選定方針の作成
それでは、サーバOSの選定指針を作成するためには、どのようなプロセスが必要
となるのかを見てみよう(図8)。
図8
サーバOSの選定方針の作成アプローチ
期待
ニーズ
経営戦略
経営課題
トップダウン
(将来視点)
選定方針
技術シーズ
技術課題
ITのあるべき姿
タスク名
概要
留意事項
現状把握
当該技術・製品分野について、現時点で利用している製品・技術、バージョン、ライセンスや契約
の状況、ユーザー数などを把握する。
• この時点では、多数のユーザーを調査対象とせず、システム担当者などが調査可能な詳細度の
内容でよい。
• 利用している製品・技術やバージョンが複数ある場合は、できる限り把握する。
組織名または
システム名
製品名
バージョン
ライセンス数
備考(特記事項)
AAA
BBB
CCC
DDD
EEE
現状で見えて
いる課題
関係性や優先
順位の整理
ボトムアップ
(現在視点)
現行システムのサポート期間、
リース期間、減価償却などの情報
出典:ITR
指針を作成するには、経営戦略やIT方針といったトップダウンの視点と、現行シス
テムの棚卸しや現状で見えている課題の整理といったボトムアップの視点の両方か
らの検討が有効である。すなわち、将来からと現在からの挟み撃ちのアプローチと言
える。
特に、将来に向けて注力していこうとする事業、競争優位を目指して変革していこ
うとするビジネスモデルや業務形態などに対する経営方針は、長期的なIT施策を考え
るうえで重要なインプットとなる。また、将来的に活用が見込まれる新規技術、技術
における主流や標準の動向などは、指針を検討するうえで押さえておかなければなら
ない視点である。
一方、実際のITインフラの構成要素であるハードウェアやソフトウェアには、アッ
プグレード、リース切れ、資産償却、技術の陳腐化、サポート切れなど、ビジネス・
ニーズや技術シーズに関わらず、買い替えや更新のタイミングが必ずある。したがっ
て、現行システムの棚卸しや、現状で見えている課題の整理を行うことにより、この
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ようなタイミングを逃すことなく計画的な移行が可能となる。
選定基準を策定する際に、起点となるのはOSやサーバの機能や性能ではなく、業
務要件である。現状のシステムと今後求める要求事項から業務要件を抽出し、それを
業務分類ごとにまとめる。さらに、業務分類ごとに機能、性能、コスト、サポートな
どの評価カテゴリごとに評価項目を選定する。選定した評価項目ごとに選定基準を作
成する。評価項目の選定では過去に実施したRFPの要求項目やクラウド事業者のSLA
などが参考となるであろう。ただし、評価項目ごとの基準は、個々のシステムごとの
要件を明確化するRFPとは異なり、あくまでも業務システムごとの基準値であるので、
3段階から5段階程度にとどめておくことで、汎用性を持たせることを考慮すべきであ
る(図9)。
選定方針を作成することは、現在と将来、利用部門とIT部門などの異なる要求や課
題に対してバランスを取った、より適切な選定ができるという結果をもたらすであろ
う。
図9
選定基準の作成例
業務分類
選定基準作成
評価カテゴリ
業務分類
対象システム 評価カテゴリ
評価項目
内容
評価方法
選択基準
要求度
(1→3)
基幹系
業務要件
業務管理
系
対象システム 評価カテゴリ
評価項目
内容
評価方法
レベル3
(上位)
レベル2
(中位)
レベル3
(上位)
レベル2
(中位)
レベル3
(上位)
レベル2
(中位)
選択基準
要求度
(1→3)
レベル1
(下位)
レベル0
サービスレベル値
レベル1
(下位)
レベル0
性能
業務分類
Web・フロ
ン ト系
レベル2
(中位)
機能
業務分類
業務支援・
情報系
サービスレベル値
レベル3
(上位)
対象システム 評価カテゴリ
評価項目
内容
評価方法
要求度
(1→3)
コスト
業務分類
サポート
選択基準
対象システム 評価カテゴリ
評価項目
内容
評価方法
サービスレベル値
レベル0
サービスレベル値
選択基準
要求度
(1→3)
レベル1
(下位)
レベル1
(下位)
レベル0
出典:ITR
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企業システムにおけるサーバ OS の現状と選定方針 ∼軽視できないサーバ OS 選定∼
第4章
提言
1)変わらないサーバOSの重要性
企業のITインフラの仮想化が進んでいるが、仮想化はアプリケーションから見て、
ハードウェアリソースを抽象化するだけで、OSまで仮想化するわけではない。した
がって、今後サーバ仮想化を進めてSDDC化や垂直統合システムを導入しても、さら
にはハイブリッド・クラウドを採用したとしても、OSの選択が重要なポイントであ
ることに変わりはないことを再認識すべきである。
2)一日の長を示したUNIX
主要なサーバ向けLinuxディストリビューションでは、すでにLinuxはUNIXと同等
かそれ以上の信頼性、可用性、柔軟性を実現していると言われており、UNIXはレガ
シーであると言われ始めているが、今回のユーザー調査結果を見た限りでは、コスト
面を除き、UNIXに対する満足度は依然としてLinuxよりも高く、企業における実際
のシステムでは単純に製品が持つ機能や性能だけではなく、それを利用してシステム
を構築し、運用していくためのノウハウが重要であることがうかがえる。
3)作成すべきサーバOSの選定方針
調査によれば、過半数の企業は「システムの種類に応じて最適なOSを選択してい
る。IAサーバが主流となった現在では、サーバOSはWindows ServerかLinuxかの二
者択一のように考えられているが、業績が好調な企業ほどシステムの種類に応じた慎
重な選定を行っている。したがって、今後、現在と将来、利用部門とIT部門など異な
る要件のバランスを保ち、適切な選定を行うためには、サーバOSに関する選定方針
を策定することを推奨する。
分析: 生熊 清司
text by Seiji Ikuma
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企業システムにおけるサーバOSの現状と選定方針
∼軽視できないサーバOS選定∼
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2015年1月15日
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