ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係

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ワークスタイル変革とクライアント仮想化
の関係
∼ ワークスタイル変革実現におけるクライアント仮想化の役割とは ∼
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目 次
第1章
ワークスタイル変革が求められる背景 ................................................................. 1
ワークスタイル変革が求められる背景 ......................................................................... 1
グローバル化の進展 ...................................................................................................... 1
就労者と就労形態の多様化............................................................................................ 2
トライブ化する組織と人材............................................................................................ 3
第2章
ワークスタイル変革の取組状況と目的 ................................................................. 5
ワークスタイル変革における各種施策の実施状況とその効果 ..................................... 5
多様なワークスタイルを支える IT ................................................................................ 6
ワークスタイル変革の目的............................................................................................ 7
第3章
ワークスタイル変革とクライアント仮想化 .......................................................... 8
ワークスタイル変革施策とクライアント仮想化の関係 ................................................ 8
ワークスタイルの現状分析例とクライアント仮想化 .................................................. 10
DaaS 市場動向 .............................................................................................................. 11
提言 ................................................................................................................................... 13
i
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ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係
第1章
ワークスタイル変革が求められる背景
スマートデバイスの普及やデジタル化の進展を受けて、多くの企業においてワークスタイル変革が重
要な IT 戦略テーマの一つとなっている。一方で、将来の組織運営や働き方に目を向けると、より広範
な戦略課題としてのワークスタイルの変革が迫られている。本章では、この戦略課題としてワークス
タイル変革が求められる背景について述べる。
ワークスタイル変革が求められる背景
近年、ワークスタイル変革に対する企業の関心は高まりを見せている。ITRが毎年
実施している「IT投資動向調査」では、企業にとって重要なIT戦略テーマを問うてい
るが、最重要のみを集計したランキングにおいて「従業員のワークスタイル革新」が
2013年の15位から2014年には10位に浮上している。その背景として、スマートフォ
ン/タブレット端末、クラウド型PBX、ビデオチャットやライブミーティング、オン
ラインストレージといった新たなコミュニケーションやコラボレーションの手段を
提供する技術が矢継ぎ早に台頭してきていることがあげられよう。一方、将来の組織
運営や働き方に目を向けると、より広範な戦略課題としてのワークスタイルの変革が
迫られているいくつかの要因が浮かびあがってくる。
グローバル化の進展
その1つ目の要因は、さらなるグローバル化の進展である。グローバル化の波は、
製造業だけでなく、流通業やサービス業などあらゆる業種の企業に押し寄せている。
以前は、グローバル化といえば製品を輸出する市場を求める販売拠点と、低廉な労働
力を求めて工場を展開する生産拠点という位置づけが主流であった。この時点で、市
場のグローバル化と製造のグローバル化は、必ずしも同期しておらず、生産地として
の海外と消費地としての海外は、1対多または多対1の関係で結びつけられる傾向に
あった。しかし、リーマンショック後のグローバル化は、生産地としての海外と消費
地としての海外を直接的かつダイナミックに結びつける動きが活発化している。
今後さらにグローバル化が進展し、縦横無尽に生産/消費が行われるようになろう。
また、国境や広域経済圏を越えた分業や協業も活発化することが予想される。さらに、
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合弁会社の設立、M&A、拠点の設立・移転・廃止がこれまで以上に短いサイクルで
行われるようになると考えられる。すなわち、企業は世界中のどこでも、安全かつ快
適に分業や協業を行うことのできる環境を必要とし、その迅速な展開が求められる
(図1)。
図1
グローバル化の進展の推移
リーマンショック以前
日本
海外
生産地
リーマンショック以後
今 後
日本
日本
グローバル生産・消費地
グローバル経済圏
広域
経済圏
海外
消費地
• 販売拠点と生産拠点をそれ
ぞれ展開
• 日本と海外拠点の関係は
1対1、1対多、多対1
• 生産地と消費地としての
海外が直接的につながる
• 日本と海外拠点の関係は
多対多
• 国境や広域経済圏を越えて
分業や協業が活発化する
• 拠点の設立・移転・廃止が
短いサイクルで行われる
出典:ITR
就労者と就労形態の多様化
2つ目は、就労者と就労形態の多様化である。少子高齢化の進行によって日本人の
就労人口は減少すると予想されている。厚生労働省は、今後の政府の対策がうまくい
かない場合、労働力人口は2010年の約6,630万人から2030年には約950万人減少する
との予測を発表している。企業は労働力の不足を補うために、高齢者、結婚・出産後
の女性、外国人などの雇用を促進することとなる。就労者のダイバーシティが進行す
るに従って、多様な雇用形態や就労形態への対応が迫られることになるだろう。
雇用形態に関しては、フルタイムでない就労者や期間契約の就労者にも対応した柔
軟な運用が求められる。就労形態についても、在宅勤務、直行直帰、不定期勤務など、
自由度の高い働き方を受け入れる必要があるだろう。このような多様化する雇用形態
や就労形態に対応するためには、人事評価制度や就労管理の方法を高度化する必要が
生じ、組織マネジメントは複雑化することが予想される。
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ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係
また、この後述べるトライブ化した組織には、社外のメンバーが参加することがあ
るため、雇用という形態にとらわれない人材活用についても考慮しておかなければな
らない。そのような業務形態においては、指揮命令系統、協調業務支援、意思決定手
法にも変革が求められることとなるだろう。
トライブ化する組織と人材
3つ目に、組織と人材のトライブ化が予想される。トライブとは、もともとは部族
を意味し、何らかの共通の興味や目的を持ち、互いにコミュニケーションの手段があ
ることでつながっている集団を指す(「トライブ∼新しい 組織 の未来形」セス・ゴー
ディン著、講談社)。トライブ化が進行した組織は、所属するメンバーが固定的でな
いこと、情報の流れや指揮命令系統がいわゆる上意下達ではなく対等で縦横無尽であ
ること、部署や会社という枠を超えた協調や交流が実現されていることが要件となる
(図2)。そうした組織で遂行される業務(主に知的業務)は、社内外を問わずそれ
ぞれの得意領域を持ったメンバーが、タスクフォースを組んでプロジェクト型で遂行
し、成果を分配するようになるだろう。
図2
これまでの組織とトライブ化した組織
これまで(縦社会の組織)
未来(トライブ化した組織)
制作会社
コピー
ライター
B社
X事業部
個人
イベント会社
C社
Y企画部
D社
広告代理店
Z研究所
デザイナー
• 情報の流れは上意下達
• 意思決定はトップダウン型
• 情報格差が大きい
• 他の組織は見えない
個人
A社
• 情報の流れは縦横無尽
• ハブとなる人はいるが、意思決定は全員参加型
• 情報格差はない
• 全ての組織が論理的に対等で透過
※
ロール例
出典:ITR
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このような組織運営は一部の業務分野ではすでに取り入れられている。例えば、広
告宣伝の分野では、企業内の広告宣伝部門の担当者、広告代理店、制作会社、イベン
ト運営会社、個人で活動するコピーライターやデザイナーがチームを組んで、CMの
制作やイベントの企画運営を行っている。また製造業の最終製品メーカーと素材や部
品メーカーは、製品開発や試作品の制作を共同で行ってきた。弁護士やコンサルタン
トなど専門家の知恵を、必要に応じて活用することもあった。ただし、これまでは発
注者、受注者、受注者の協力会社という明確な契約の上に成り立っている関係にとど
まっていた。一方、未来のトライブ化した組織では、資金、設備、人材などをメンバー
が持ち寄ったり、その都度調達したりする。メンバー間の関係も、発注者と受注者と
いう関係ではなく、起案者と協力者であったり、共同出資者や共同事業体であったり
する。
現在、ビジネス変革の分野で注目されている、オープンイノベーション(自社技術
だけでなく他社や大学などが持つ技術やアイデアを組み合わせ、革新的なビジネスモ
デルや革新的な研究成果、製品開発につなげるイノベーションの方法論)、コ・クリ
エーション(商品やサービスを開発したり、用途を変更・追加したりする際などに、
顧客にそのプロセスに参加してもらうことで、顧客の経験価値を高める戦略)、API
エ コ ノ ミ ー ( プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と な る ア プ リ ケ ー シ ョ ン や サ ー ビ ス の API
(Application Programming Interface)を公開し、他社がこの公開されたAPIを活用
して新たなサービスを開発し提供することで、元のプラットフォームやプラット
フォーム上の情報の付加価値を高めるような経済活動、またはそれによって形成され
たビジネス商圏)などの動きも、組織のトライブ化を後押ししている。
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第2章
ワークスタイル変革の取組状況と目的
本章では、企業におけるワークスタイル変革に対する各種施策の実施状況を概観する。さらに、前述
のとおり、グローバル化、就労者や就労形態の多様化によってトライブ化した組織・人材がプロジェ
クト型で業務を遂行していくようなワークスタイルを支える IT ソリューションの全体像、そして真の
目的について述べる。
ワークスタイル変革における各種施策の実施状況とその効果
ワークスタイル変革への取り組み状況を最初に見てみよう。ITRが実施した「ワー
クスタイル変革動向調査」(2014年3月実施)では、ワークスタイル変革に取り組み
済みの企業に対してその効果を問うている。これについて指数化し、実施状況を横軸
に、効果を縦軸にしてポートフォリオ図に表したものが図3である。図3の縦軸と横軸
は調査結果を指数化しているが、横軸は回答企業のすべてが、半数以上の従業員に対
して実施していると回答した場合に2となり、縦軸はある程度の効果が出ていると回
答した場合に2となる。
図3
ワークスタイル変革における各種施策の実施状況とその効果
1.8
2
フレックスタイム制
の導入
効
果1
社外からの社内システ
ムへのアクセス
効
果
フリーアドレスの実施
業務用タブレット端末/
スマホ/携帯電話の貸
与
業務用パソコンの社外
への持ち出し
成果主義人事評価制度
の導入
直行直帰の許可
0
0
1
2
在宅勤務の許可
実施状況
私物パソコンの
業務利用の許可
私物タブレット端末/ス
マホ/携帯電話の業務
利用の許可
1.3
0
実施状況
2
出典:ITR「ワークスタイル変革動向調査」(2014年3月実施、N=249社)
まず、実施状況を見ると「成果主義人事評価制度の導入」「直行直帰の許可」が比
較的高い結果を示している。これに対して、「フリーアドレスの実施」「在宅勤務の
許可」などの実施率は低い。また、私物デバイス利用の許可、いわゆるBYODについ
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ては、パソコンおよびタブレット端末/スマートフォン/携帯電話とも低調な実施状
況となっている。「フレックスタイム制の導入」「社外からの社内システムへのアク
セス」「業務用タブレット端末/スマートフォン/携帯電話の貸与」などの施策は、
実施率は中程度であるが、実施した企業における効果では比較的高い評価となってい
る。これに対して、実施率の低い3つの施策はいずれも効果が低く見えるが、効果が
出ないわけではない。私物パソコンやタブレット端末/スマートフォンの業務利用の
許可や在宅勤務といった施策は、効果が見えにくい施策であるため、調査結果では「効
果は不明だが継続している」(指数化では1)の選択率が高い施策である。よって、
これらが他の施策に比べると効果が低い結果になるのはやむを得ないと言える。
多様なワークスタイルを支える IT
第1章で述べたように、さらなるグローバル化、就労者や就労形態の多様化によっ
てトライブ化した組織・人材がプロジェクト型で業務を遂行していくためには、こう
した各種ワークスタイル変革に関する施策の遂行だけでなく、それらのワークスタイ
ルに対応した業務環境を提供していかなければならない(図4)。
図4
ワークスタイル変革を支えるITソリューション群
仮想プライベートクラウド
パブリッククラウド
クラウドストレージ
電子メール、ワークフロー、各種業務システム、テレビ/Web会議、ナレッジ共有など
デスクトップ仮想化
モバイルデバイス管理
認証とアプリケーション/データごとの権限管理によるリモートアクセス
国内事業所
海外事業所
移動中/出張先
自宅など
社外のメンバー
出典:ITR
国内外の事業所、移動中/出張先、自宅など、さらにはパートナー企業や個人など、
社外のメンバーによる自社オフィス外から、認証およびアクセス権限が管理された自
社所有の仮想空間(仮想プライベートクラウド)や外部所有のリソース(パブリック
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ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係
クラウド)上の各種アプリケーション/データに安全にアクセスすることで、いつで
もどこでも安心して、連絡、会議、情報共有、業務遂行が可能な環境を整えることが
求められる。
現在、事業所に固定的に設置されたパソコンを中心としたクライアント・デバイス
が活用されているが、将来的にはスマートフォンやタブレット端末の活用機会が増大
し、各人の働き方や場面に合致した機器を選択的に利用するマルチデバイス環境とな
るだろう。このような多様なクライアント端末に対する運用管理負荷の軽減の観点と、
情報漏洩などへのセキュリティ対策の観点から、クライアント仮想化、そしてモバイ
ルデバイス管理の重要性が高まると考えられる。また、私物端末の利用(BYOD)に
対する方針についても用途に応じて明確化することが求められる。
ワークスタイル変革の目的
それでは、ワークスタイル変革の目的とは何であろうか。モバイルデバイスの展開
やテレビ/Web会議システム、クライアント仮想化の導入が最終的な目的ではないこ
とは言うまでもない。目の前の目的としては、従業員一人ひとりの業務効率を高めた
り、チーム内の業務連携の強化があげられるかもしれないが、それらは将来の働き方
を見据えた広義のワークスタイル変革という観点から見れば、最初の一歩に過ぎない。
冒頭で述べたように、グローバル化の進展やトライブ化のような協業体制の台頭が
ワークスタイル変革を求める背景となっていることからもわかるように、企業の競争
力を維持・強化することがワークスタイル変革の目的となるはずだ。これまで企業の
競争力の源泉は、資本力、生産力、商品力といった規模の論理が働きやすい要素が多
かった。しかし、競争の激化、ビジネス環境の著しい変化、顧客や市場の多様性など
によって競争原理に変化が生じている。昨今では、変化に俊敏に適応し、賢く生き抜
いていく「人材力」の総和(≒「組織力」)が、企業競争力の重要な要素となってき
ている。
ワークスタイル変革が最終的に目指すところは、個人やチームが最大のパフォーマ
ンスを発揮することによって「人材力」の総和(≒「組織力」)を極大化し、組織全
体が機動的かつ創造的に動き、その結果としてこれからのビジネス環境下で競争優位
性を獲得することにある。
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第3章
ワークスタイル変革とクライアント仮想化
現時点においても各々の従業員は異なるワークスタイルで業務を遂行しており、デバイスやコラボ
レーション環境へのニーズも多岐にわたる。変革の第一歩として現状のワークスタイルを分析し、将
来の働き方を見据えて目指すべき姿を描くことが求められる。
ワークスタイル変革施策とクライアント仮想化の関係
ではここで、前述のワークスタイル変革における各種施策の中で、多くのユーザーが
関係するパソコンをはじめとするクライアント環境に大きな影響を与えるものについ
て、IT部門が留意すべき点と共にみてみよう。図5では、前述のワークスタイル変革
における各種施策によるメリット/デメリットを整理しているが、どの施策においても、
生産性の向上や働き方の質や自由度が増すのと引き換えに、機密情報の漏洩といったセ
キュリティ・リスクが増大する。また、在宅勤務時の自宅PC利用や、社内外での私物
スマートフォンやタブレット端末など、業務利用可能な端末が増えれば、管理対象とな
るデバイスの増加により、クライアント環境の運用管理コストも増大する。
図5
ワークスタイル変革を支えるクライアント仮想化
ワークスタイル変革施策
メリット
デメリット
在宅勤務の許可
• ワークライフバランスの推進
• 多様な人材の採用・雇用維持
フリーアドレスの実施
• 部門を超えたコミュニケーション
の活性化
• オフィススペースの有効活用
• 社外での移動時間や空き時間の
有効活用
• 適材適所のデバイスの活用
• 業務可能な場所の拡大
業務用パソコンの
社外への持ち出し
社外からの社内システムへの
アクセス
業務用タブレット端末/スマホ
/携帯電話の貸与
• 新たなデバイス向けの
アプリケーション改修・開発
コストの発生
• 管理対象デバイスの増加による
脆弱性対策などの運用管理
コスト増大
• 端末の紛失・盗難、通信の盗聴
による情報漏洩リスクの増大
私物パソコンの
業務利用の許可
• 使い慣れたデバイスの使用
私物タブレット端末/スマホ/
携帯電話の業務利用の許可
場所やデバイスに
縛られない働き方の推進
クライアント
仮想化
セキュリティリスクと
運用管理負荷の低減
出典:ITR
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ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係
そこで、高いセキュリティによる安全性と、クライアント環境の集中管理による運
用負荷軽減を実現しつつ、ワークスタイル変革を遂行していくために、クライアント
仮想化が重要な役割を担うといえる。
各施策を詳細に見ていくと、フリーアドレスでは、固定席から社内全体へと執務ス
ペースが拡大することで機動性が向上し、さらに業務用パソコンの社外への持ち出し、
さらに在宅勤務も含む社外からの社内システムへのアクセスへと機動性は高まる。一
方で、会社で支給しているパソコンの社外への持ち出しや、タブレット端末やスマホ
も含むクライアント・デバイスからの社内システムへアクセスを許可する際には、紛
失や盗難時にも、端末にデータを残さないクライアント仮想化は、ファイルやHDD
の暗号化以上に高いセキュリティといえる。さらに、これまでPCで利用してきた業
務アプリケーションのすべてをスマホやタブレット向けに開発し直せる企業は多く
ないが、クライアント仮想化により開発コストを抑えつつ、迅速に展開可能となる。
また、業務アプリケーション利用に限定された会社支給のデバイスでなく、在宅勤務
時や社内外での私物パソコンや私物タブレット/スマホの業務利用においては、OS
やアプリケーション、閲覧可能なWebサイトなどが個人の裁量に委ねられており、そ
れらの脆弱性からウイルス感染や情報漏洩に繋がることも少なくないが、クライアン
ト仮想化ではスマートデバイスのプライベートの領域から、業務利用の領域を安全に
隔離できるため、こうしたセキュリティ・リスクを抑えつつ、利用デバイスを私物に
まで広げることができる。
また、このように多様なデバイスの業務利用を許可していくと、その運用管理は煩
雑化し、IT部門の負荷増大を伴うことになる。私物まで拡大した多様なデバイスで利
用されるOS、業務アプリケーション、ブラウザなどを安全に利用するには、これら
すべてのパッチの適用/アップデートがなされているかなど、IT部門が運用管理して
いく必要がある。しかし、データセンター側で一元管理可能なクライアント仮想化は、
運用管理負荷を軽減しつつ、ワークスタイル変革を安全に進展させていくには、必須
の基盤技術/サービスであるといえよう。さらに、仮想化されたクライアント環境の
運用管理に関する知識・経験が少ないIT部門にとっては、これらをアウトソースの形
態で利用できるDaaSは、ワークスタイル変革において検討に値するサービスといえ
るだろう。
すなわち、アプリケーション/デスクトップ仮想化といったクライアント仮想化製
品やそのクラウドサービスであるDaaSは、さまざまなワークスタイル変革に関わる
施策を展開する際の、前提条件と位置づけられるといっても過言ではない。
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ワークスタイルの現状分析例とクライアント仮想化
しかし、クライアント仮想化を導入すれば、ワークスタイル変革に一気に近づくわ
けではない。次世代のワークスタイルのあるべき姿を描いたり、IT環境に対する潜在
的なニーズを把握したりするためには、IT活用を視野に入れた新たな調査・分析を加
味する必要がある。図6は、その一例として従業員の移動性(モビリティ)とITの活
用形態に着目したワークスタイル分析の手法である。図6では例として、モバイル・
ライトやデスク・ライトといった「高機能なデスクトップ環境の必要性」が低いユー
ザーには、シンクライアント端末が適していると記載している。
図6
クライアント環境にみるワークスタイル分析例
大 ←
快適なモバイル環境
の必要性
離席時間÷就労時間
モバイル・ライト
モバイル・ヘビー
(スマートデバイス1台と
フリーアドレス設置の
シンクライアント端末)
(スマートデバイスとパソコンの
2台持ちまたは
キーボード付きタブレット)
デスク・ライト
小
→
(固定席またはフリーアドレス
設置のシンクライアント端末)
デスク・ヘビー
(デスクトップPCまたは
大型ディスプレイとキーボードを
接続したノートPC)
小 ← 高機能なデスクトップ環境の必要性
A 電子メール/スケジュール/掲示板等閲覧(簡単な返信を含む)
B 電子メール/スケジュール/掲示板等作成(長文入力を含む)
C 業務システム閲覧(簡単な入力を含む)
D 業務システム入力(複雑な入力を含む)
E オフィスソフト閲覧(簡単な入力を含む)
F オフィスソフト入力(複雑な入力を含む)
G Webサイト(地図、路線案内ソフトを含む)閲覧
H 画像・CADなどのシステム利用
→ 大
左記のクライアントデバイス利用時間
に占める(B + D + F + H)の
作業割合
出典:ITR
しかし、詳細に見るならば、モバイル・ライトには特定のアプリケーション、例え
ば、メールやスケジュール、オフィスソフトの閲覧においては、デスクトップ仮想化
ではなく、アプリケーション仮想化を同時アクセスライセンスでコストを抑えつつ提
供するといったことが考えられる。一方、デスク・ヘビーは、これまでであれば高ス
ペックなPCが求められてきた層であるが、GPU(グラフィックスプロセッサ)の仮
想化技術も登場してきており、ゲームや映画、アニメーションの作成や製品設計にお
いて利用される3D CADの利用においても、クライアント仮想化が、性能・コストの
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ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係
両面で高機能なワークステーションを1人1台用意するよりもROIが高くなるなど実
用段階に入ってきている。すなわち、クライアント仮想化技術により、従来の設計用
ワークステーションと一般業務用PCをシーンで分けて利用してきたエンジニアが、
さまざまな場所、端末で利用できるようになり、生産性を高めることに繋がるように
なっているのである。
クライアント仮想化製品の導入において、これらの仮想化製品の技術動向や方式の
違いを理解し、製品選定や適用部署を整理し、複数の仮想化方式をハイブリッドで利
用する企業は少なくない。DaaSに関しても同様に、バックエンドで採用している仮
想化技術・製品の違いや、提供メニューを精査することが重要である。DaaSによっ
ては、モバイル・ヘビーやデスク・ヘビーには適していないサービスも少なくないだ
けでなく、単一の方式の仮想デスクトップサービスしか提供していないプロバイダも
少なくないので、サービス選定時には注意が必要である。
また、ここで紹介した2軸4象限の分析に加えて、集合会議および遠隔会議への出席
頻度、外出先からのワークフローへの承認などの必要性、電子メールへの反応の緊急
度、取引先など社外との文書ファイルの共有の必要性など、さまざまな観点から従業
員のワークスタイルを把握することも有効である。これにより、コミュニケーション
/コラボレーション環境への潜在的なニーズが浮かび上がることも考えられる。
DaaS 市場動向
最後に、DaaS市場の動向についてみてみよう。国内DaaS市場の2013年度の売上金
額40億1,000万円、前年度比40.7%増と高い伸びとなった。シェア上位のベンダーを
含め、前年度比が200%を超えるベンダーが数社存在しており、これらのベンダーを
中心に2014年度も高い伸びが見込まれるため、2014年度の予測値でも前年度比37.7%
増を予測している。
シェアトップの新日鉄住金ソリューションズの「M3DaaS(エムキューブダース)
@absonne(アブソンヌ)」は、同社のIaaS「absonne」を基盤としており、ユーザー
数が数千を超える大規模な仮想デスクトップ基盤を安定かつ安全に供給できること
が最大の特徴といえる。実際に、全日本空輸株式会社(以下、ANA)では、DaaSの
導入規模としては珍しい1万を超えるユーザー数を想定し、同サービスを採用し利用
を拡大している。また、同社のDaaSは、ANAの事例でも見られるのだが、顧客の要
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望に応じて機能強化やユーザビリティの改善なども実施する、オンプレミスの大規模
なクライアント仮想化製品の導入と中堅企業向けのDaaSの中間的な位置づけのサー
ビスであることが、大企業を中心に賛同を得られているといえる。
また、同サービスは、前述のGPU仮想化の適用も将来的に可能であるため、モバイ
ル・ヘビーやデスク・ヘビーのユーザー層でも不満なく仮想デスクトップを活用でき
る。さらに、同サービスは、アプリケーション仮想化を基盤とした「画面転送型(SBC
型)」、共通の仮想デスクトップイメージを利用する「仮想デスクトップ(プール型)」、
そしてユーザーごとに仮想デスクトップを割り当てる「仮想デスクトップ(固定型)」
の3方式のサービスを提供しており、また、これらをユーザーグループごとに最適な
方式を組み合わせて提供できる。
こうしたサービスの特徴を武器に「M3DaaS@absonne」は、IaaS「absonne」の
既存ユーザーを中心に大口案件の獲得が進んだことから、2013年度は売上金額ベース
で前年度比109.7%増と大幅な伸びとなり、2012年度の2位から順位をあげトップに躍
り出ている(図7)。
図7
2013年度のベンダー別DaaS売上金額シェア
新日鉄住金ソリューションズ
16.2%
A社
30.7%
B社
13.7%
C社
D社
5.0%
12.5%
E社
10.0%
12.0%
その他
出典:ITR「ITR Market View:クラウド・コンピューティング市場2015」を基に作成
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ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係
提言
モバイルやクラウドといった技術革新の潮流は、企業のワークスタイルだけでなく、
経営やビジネスのあり方にも大きな影響を及ぼしている。従来の企業ITの進展は成熟
段階に向かっており、今後はコンシューマーITの進展や社会インフラのデジタル化な
どの潮流が、さらに経営やビジネスに大きな影響を及ぼしていくことが予想される。
顧客との関係におけるデジタル化はマーケティングのあり方を変え、社会・産業のデ
ジタル化はモノづくりや物流を大きく変容させていく可能性を秘めている。オープン
データやIoT(Internet of Things)などの新潮流によって新たなビジネスが創造され
るかもしれない。
こうしたデジタル・イノベーションおよびそれに対応できる将来の働き方を実現す
るためには、IT部門の拡張機能として位置づけられるか、別部門を設置するかを問わ
ず、企業はこれに対応する機能を保有する組織・チームを持つことが求められる。技
術シーズを踏まえて企業の将来像を描き、ビジネス・イノベーションやワークスタイ
ル変革を実現していくためには、IT部門は要件が確定してからではなく、構想化の段
階からこのイニシアチブに積極的に関与し、ITの適用可能性や技術の適切な選定にお
ける知見を提供していくことが求められる。
ワークスタイル変革の実現を支えるITソリューションとして、スマートフォン/タ
ブレット端末といった多様なデバイスの業務活用は、会社支給か私物かを問わず、注
目度が高いことは、誰もが感じていることだろう。また、これらの多様なデバイスを
利用し、どこにいてもクラウド型PBXで内線電話を利用したり、Web会議や社内ソー
シャルなどによるコミュニケーションが不足することへの対策などにも、注目が高
まっている。しかし、どのようなデバイスであれ、どのようなコミュニケーション・
ツール、業務アプリケーションを利用するのであれ、IT部門ではクライアント仮想化
技術の適用をワークスタイル変革に向けた前提条件として、検討することが推奨され
る。なぜなら、クライアント仮想化は、企業レベルの高いセキュリティの提供とクラ
イアント環境の運用管理負荷の抑制を実現しつつ、デスクトップ環境のポータビリ
ティによる機動性の向上と生産性の向上を実現できるからである。また、クライアン
ト仮想化環境の運用を外部に任せられるDaaSは、運用管理負荷を極限まで低減し、
急変するビジネス環境において、IT部門が新たな役割を果たすために検討に値する。
分析: 内山 悟志/三浦 竜樹
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ワークスタイル変革とクライアント仮想化の関係
∼ ワークスタイル変革実現におけるクライアント仮想化の役割とは ∼
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発行
2015年5月21日
発行所
株式会社アイ・ティ・アール
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