瞑想技法の違いが脳の機能的結合性に与える効果 ◯藤野正寛 1・上田祥行 2・齋木潤 3・野村理朗 1 (1 京都大学大学院教育学研究科・2 京都大学こころの未来研究センター・3 京都大学大学院人間・環境学研究科) キーワード:マインドフルネス瞑想・機能的結合性・機能的磁気共鳴画像法 Different types of meditation change the functional connectivity of the brain Masahiro FUJINO1, Yoshiyuki UEDA2, Jun SAIKI3 and Michio NOMURA1 1 ( Graduate School of Education, Kyoto Univ, 2Kokoro Research Center, Kyoto Univ, 3 Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto Univ) Key Words: mindfulness meditation, functional connectivity, fMRI 目 的 近年マインドフルネス瞑想に対する注目が高まっている。 マインドフルネス瞑想とは,原始仏教を源流とする瞑想群の 総称であり,特定の対象に意図的・継続的に注意を集中する 集中瞑想(focused attention meditation: FA)と今この瞬間に生 じている経験に気づき,判断せずにありのままを受け入れる 洞察瞑想(open monitoring meditation: OM)の 2 種類の瞑想技 法が含まれている[1]。マインドフルネス瞑想の継続的な実践 は,自己参照的な反すうの減少を通じてうつの再発防止に効 果があると指摘されている[2,3]。しかしそのような減少が FA あるいは OM のどのような効果によるものかは明らかになっ ていない。 先行研究では,後帯状皮質(posterior cingulate cortex: PCC) の活性が,自己参照中に上昇し,OM 中に低下すると指摘さ れている[4]。また,デフォルトモードネットワーク(default mode network: DMN)を形成する PCC-右下頭頂小葉(inferior parietal lobule: IPL)間の機能的結合性が,自己参照中に減少 し[5],マインドフルネス瞑想実践者の安静時に増加している と指摘されている[6]。これらの指摘から,PCC-右 IPL 間の機 能的結合性が OM によって増加するとともに瞑想後も持続す ることによって,自己参照的な反すうが減少している可能性 が考えられる。本研究では,この点を明らかにするために, FA 中と OM 中の PCC-右 IPL 間の機能的結合性を比較した。 方 法 実験参加者 仏教瞑想実践者 4 名(女性 1 名, 平均年齢 30.8 ± 3.4 歳, 平均瞑想実践時間 637.5h ± 197.4h)が参加した。 装置・撮像条件 3 テスラの MRI 装置(Siemens)を用い て,参加者の脳活動を測定した(TR = 2000 ms, TE = 25 ms, flip angle = 75°, field of view = 224 mm, matrix size = 64×64 pixels, slice thickness = 3.5 mm, slice gap = 0 mm)。 手続き 測定は,瞑想技法の種類(FA,OM)ごとに 3 回 (瞑想前安静時,瞑想中,瞑想後安静時)実施した(各 6 分)。 なお FA と OM の効果が混同することを避けるために,FA と OM の測定を別の日に実施した。また瞑想中に適切な瞑想状 態が実現されていることを確保するために,参加者は瞑想前 安静時と瞑想中の測定の間に防音室で 60 分の瞑想を実施し た。さらに,瞑想後安静時に瞑想が実施されていないことを 確保するために,参加者は瞑想中と瞑想後安静時の測定の間 に,MRI 装置から出て,身体的な伸びを含む休憩をとった。 解析 SPM8 を用いて前処理を実施した。次に GIFT toolbox で独立成分分析法を用いて DMN を同定するとともに,DMN 内の ROI を設定した。最後に設定した ROI の時系列の BOLD 信号からバンドパスフィルタ(0.027Hz—0.073Hz)によって 低周波 BOLD 信号を抽出した。 統計的検定 始めに参加者ごとに,各測定時の ROI 間の 偏相関係数を算出した。次に ROI 間ごとに,平均値について 瞑想技法の種類(FA・OM)とタイミング(瞑想前安静時・ 瞑想中・瞑想後安静時)の参加者内 2 要因分散分析を行った。 結 果 解析の結果 PCC・左 IPL・右 IPL を ROI に設定した。 統計的検定の結果 瞑想の種類ごとに,各測定時の ROI 間の編相関係数を図 1 に示す。FA と比較して OM において瞑 想中に PCC-右 IPL 間の機能的結合性が増加した(F(2, 6) = 5.48, p = .04, partial η2 = .65)。また,FA と比較して OM において瞑 想中に左 IPL-右 IPL 間の機能的結合性が減少した(F(2, 6) = 17.92, p < .01, partial η2 = .86)。 a 1.0# 0.8# Z PCC#$# FA# IPL OM# b 1.0# 0.8# 0.6# 0.6# 0.4# Z 0.4# 0.2# 0.2# 0.0# 0.0# IPL$%$ IPL FA# OM# 図 1. PCC-右 IPL 間(a)および左 IPL-右 IPL 間(b)の偏相関係数 (Z 値)。エラーバーは標準誤差を示す。 考 察 OM 中に PCC-右 IPL 間の機能的結合性が増加した。この結 果は,OM の PCC-右 IPL 間の機能的結合性を増加させる効果 が自己参照的な反すうを減少させることを示唆している。ま た,OM 中に左 IPL-右 IPL 間の機能的結合性が減少した。両 側 IPL が PCC を駆動・制御し,両側 IPL 間には因果関係がな いことから[7],この結果は,PCC-右 IPL 間の機能的結合性が 増加するとともに PCC-左 IPL 間の機能的結合性が変化しなか ったために得られた,副次的な結果であると考えられる。 本研究では,OM 中の機能的結合性の変化が瞑想後も持続 することは確認できなかった。ただし,参加者の瞑想前の機 能的結合性が既に変化している可能性があるため,瞑想未実 践者の安静時の機能的結合性と比較検討する必要がある。 引用文献 1 Lutz et al. (2008). Trends Cogn Sci, 12(4), 163-169. 2 Teasdale et al. (2000). J Consult Clin Psychol, 68(4), 615-623. 3 Segal et al. (2002). NY: Guilford Press. 4 Farb et al. (2007). Soc Cogn Affect Neurosci, 2(4), 313-322. 5 van Buuren et al. (2010). Hum Brain Mapp, 31(8), 1117-1127. 6 Taylor et al. (2013). Soc Cogn Affect Neurosci, 8(1), 4-14. 7 Di et al. (2014). NeuroImage, 86, 53-59. 謝辞 本研究の fMRI 解析にご協力いただきました京都大学大学 院情報学研究科の水原啓暁先生(非会員)に深くお礼申し上 げます。
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