線形ポールトラップにおけるクーロン結晶の画像観測と制御
原子物理研究室
<研究目的>
A0574013
飯田
貴之
線形ポールトラップの場合は電荷密度は r に依存せずに
レーザー冷却により生成される極低温イオンのクーロ
ン結晶は、量子計算機やレーザー冷却が困難な原子・分子
一定となる特徴がある。
<実験結果>
イオンの共同冷却への応用が可能である。当研究室では既
本研究では、内径r0=3.5mm、全長 39mm の線形ポ
に線形ポールトラップ(線形四重極トラップ)におけるク
ールトラップを用いた。トラップの中心部の長さは 10mm
ーロン結晶の画像観測に成功しているが[1]、イオン数は
であり、従来のトラップより、短くすることでクーロン結
高々100 個程度のものであり、また安定性は不十分であり、
晶の変形を行いやすくした。図1(a)に観測されたクーロ
イオン-分子衝突実験等への応用は困難であった。そこで
ン結晶の CCD 画像を、(b)にその時得られた蛍光スペクト
本研究では従来用いていた線形ポールトラップを小型化
ルを示す。図1(b)のスペクトル幅から求められた温度は T
し、さらに改良したレーザーシステムと、蛍光検出光学系
= 128mK であり(1)(2)式からイオン数はおよそ 1300 個、
を用いることで、より安定なクーロン結晶の生成・観測と
プラズマ結合定数はΓ = 7.3 と求められた。本実験では従
結晶構造の制御を行うことを目的として実験を行った。ま
来よりも安定で大きなクーロン結晶を生成することが可
た量子計算機への応用が期待されている二次元クーロン
能であり、極低エネルギーイオン-分子衝突実験への応用
結晶の生成も試みた。
が期待できる結果を得た。発表では、クーロン結晶のトラ
<プラズマ結合定数とイオン電荷密度>
ップパラメータ依存性と二次元クーロン結晶の観測結果
トラップされたイオン集団がレーザー冷却によって十
についても報告を行う。
分に冷却されると、イオンの熱運動エネルギーとイオン-
<参考文献>
イオン間のクーロン相互作用エネルギーが匹敵し、各イオ
[1]宮前
明雄, 2004 年度卒業研究
ンがランダムに運動しているイオン雲の状態からイオン
[2]小暮
悟史, 2007 年度卒業研究
が配列した状態、すなわちクーロン結晶が生成される。こ
900
の相転移が起きるかどうかは、イオンの熱的エネルギー
マ結合定数

q2
(kB:ボルツマン定数、q: イオン電荷) (1)
4 0 aW k BT
の大きさにより決まる。ここで T はイオン温度であり、イ
(b))
800
LIF intensity(arb.units)
(kBT)とイオン間のクーロンエネルギーの比であるプラズ
(a)
700
600
500
400
300
200
0.8mm
100
0
100
200 300 400
500 600 700
800
laser sweep frequency (MHz)
オン数密度を nq とすると、aW= [3/4πnq]1/3 と表せる。線形
図1.実験で観測された Ca+クーロン結晶の(a)CCD 画像
ポールトラップにおけるイオンのゼロ温度数密度はポア
と(b)蛍光スペクトル。CCD カメラの露光時間は10秒で
ソン方程式から次式のように求められる。
ある。トラップパラメーターは f = 5.63 [MHz] , Vac =
nq 
4 0Vac2
m 2 r04
(2)
m, q:イオンの質量と電荷, r0:イオントラップの内径, Vac:
高周波交流振幅
241.5 [V] , Vdc = 0 [V] , Vz = 12.51 [V] ,である。図(b)のピ
ークにおけるレーザー周波数で CCD 画像を撮影した。