博士論文の内容の要旨 - UU-AIR

は
し
が
き
博士の学位を授与したので、学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条の
規定に基づき、その論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨をここに公表する。
氏
名
范
日
1980年
籍
中華人民共和国
学 位
の 種 類
博士(国際学)
学 位
記 番 号
博第10号
生
年
月
本
喜春
2月
3日
学位記授与年月日
平成26年3月24日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項
研究科・専攻の名称
宇都宮大学大学院国際学研究科(博士後期課程)国際学研究専攻
学 位 論 文 題 目
日本語と中国語における数量表現の対照研究
―形式と意味の観点から―
論 文 審 査 委 員
主査
教
授
佐々木
一
隆
教
授
倪
永
茂
教
授
松
金
公
正
教
授
高
際
澄
雄
教
授
梅
木
由美子
教
授
鈴
木
猛
博士論文の内容の要旨
専攻名
国際学研究専攻
氏
范喜春
名
1.論文題目
日本語と中国語における数量表現の対照研究
―形式と意味の観点から―
2.論文の概要
本論文の目的は、『中日対訳コーパス(第一版)
』および母語話者の内省に基づいて、日
本語の Q ノ NC 型、NQC 型、N ノ QC 型、NCQ 型を含む原文とそれらに対応する中国語の訳文を
取り上げ、形式と意味の観点から考察して両言語の対応関係および対応関係に関わる規則
性を示し、こうした対応関係から得られる説明への示唆を行うことである。Q は数量詞、N
は名詞、C は格助詞を表し、代表例を挙げれば、Q ノ NC 型は「五本の鉛筆を(削る)」、NQC 型
は「鉛筆五本を(削る)」
、N ノ QC 型は「鉛筆の一本を(削る)」
、NCQ 型は「鉛筆を五本(削る)」
となる。本論文の成果を章ごとに簡単にまとめると以下のようになる。
第一章では、形式、意味などの観点に基づく先行研究の問題点を指摘した上で、本論文
がめざす方向性と方法論の妥当性について述べ、本論文の目的を示した。
第二章では、
「五冊のノートを(買った)」のような日本語の Q ノ NC 型に対応する中国語の
数量表現は陳(2007)、洪(2008)が指摘した qn 型、q 的 n 型のほかに、q1q 的 n 型、qn1 的 n
型、vq 型、nq 型、qv 型、数量詞が明示されていないものと中国語訳文に日本語原文 Q ノ
NC 型の名詞 N が明示されていないものがあることを示した。q は数量詞、n は名詞、「的」
は数量詞と名詞の間に置かれて連体修飾関係を構成する語、v は動詞をそれぞれ表す。
第三章では、記述の面で陳(2007)が扱わなかった事実を指摘した。陳(2007)では「本
を三冊(買った)」のような日本語の NCQ 型に対応する中国語数量表現は qn 型であると示
したが、本章では日本語の NCQ 型に対応する中国語の数量表現には qn 型、q 的 n 型、qv 型、
sq 型、vq 型、中国語訳文に数量詞が明示されていない場合の 6 種類があると主張した。
第四章では、
「学生の一人が(死んでしまった)」のような日本語の N ノ QC 型の意味機能
と使用傾向および日本語の N ノ QC 型と中国語の数量表現の対応関係を述べた。奥津(1983)、
Downing(1996)、岩田(2007)によると、N ノ QC 型の意味は三つのタイプに分けられる。1つ
目は部分数量で、2 つ目は総括的同格(summative appositive)で、3 つ目は N が Q の属性とし
て解釈できるものである。しかし、本章ではコーパスから N ノ QC 型を含む文 179 例を収集
し、その意味機能を 9 種類に分類した。この型は格助詞「ノ」を含む連体修飾構造であり、
「ノ」の意味機能が多種多様であるため、9 種の意味を持つことができるとした。さらに、
コーパスから集めた例文をそれぞれの意味に従って分類・整理した。
第五章では、日本語 NQC 型に対応する中国語の数量表現形式について、中川・李(1997)
や陳(2007)の指摘した結論よりも広範な事実を示した。これらの研究では、「シャツ一枚を
(買った)」のような日本語 NQC 型に対応する中国語の数量表現形式は、qn 型、nq 型である
と述べているが、本章では、日本語の NQC 型に対応する中国語の数量表現には qn 型、nq 型、
q 的 n 型、n 的 q 型、vq 型、数量詞が明示されていない場合の 6 種類があると主張した。
第六章では、第二章から第五章までの日中語数量表現の対応関係の考察から、両言語の
数量表現に関する説明への示唆が三つ得られた。第一の示唆は、日本語における Q ノ NC 型、
NCQ 型、N ノ QC 型、NQC 型の数量表現すべてが、意味などの共通点の存在に起因して、中国
語 qn 型と最も高い頻度で対応するという点である。第二の示唆は、両言語の数量表現には、
ある特定の意味を表す時にはある特定の形式を用いる傾向があるという点である。例えば、
自分だけを強調する意味を表す時は日本語では NQC 型、中国語では nq 型しか用いられない。
第三の示唆は、日本語数量表現 Q ノ NC 型には数量と属性の両方を表す点で曖昧性が存在し
ているが、中国語数量表現には日本語の Q ノ NC 型に見られるような曖昧性がないという点
である。すなわち、中国語では数量の場合には qn 型が、属性の場合には q 的 n 型が用いら
れており、中国語の方が数量表現形式の細分化が進んでいると考えられる。
最後に第七章では、言語研究上の意義と外国語教育への応用の可能性について述べた。
1)言語研究における意義
①本論文により、既存の研究では指摘されていなかった言語事実を示した。
②第二章から第五章までの日中数量表現の対応関係の考察から、両言語の数量表現に
関する説明への三つの示唆が得られた。
・日本語における Q ノ NC 型、NCQ 型、N ノ QC 型、NQC 型の 4 種類の数量表現は、意
味などの共通点により、中国語 qn 型と最も高い頻度で対応する。
・日中両言語の数量表現には、ある特定の意味を表す時にはある特定の形式を用い
る傾向がある。
・日本語数量表現 Q ノ NC 型には曖昧性が存在しているが、中国語数量表現には日本
語の Q ノ NC 型に見られるような曖昧性がない。
③言語事実についての考察を、内省のみというよりも、コーパスに基づく大量の事実
観察を行いつつ、内省も併用するという方法論を用いる妥当性を示した。
2)外国語教育への応用
日中両言語における数量表現の様々な対応関係の規則性は、日本語母語話者を対象
とする中国語教育および中国語母語話者を対象とする日本語教育の現場において、数
量表現の指導とそれぞれの学習者の数量表現の理解に貢献する可能性がある。
博士論文審査結果の要旨
専攻名
国際学研究専攻
氏
范喜春
名
1.審査概要
1)予備論文審査
学位請求のための予備論文「日本語と中国語における数量表現の対照研究 ——形式と意味の
観点から——」は 2013 年 9 月 13 日に提出された。この論文に対して、国際学研究科教員の
審査委員 5 名および学外審査委員 1 名からなる予備論文審査委員会が設置され、10 月 9 日
に同委員会が開催された。
レフリー付き学会誌(日本学術会議登録)への掲載や分量などにより博士論文としての水
準を確認し、各委員から意見を聞いた。そのあと面接を実施して、教育的な観点から以下
のような指摘を行った。両言語の数量表現について独自の事実調査により詳細に論じてお
り、個々の点では一定の完成度が見られるが、序論の述べ方、章どうしの整合性、基本的
概念や表現の明確化、記述と説明のバランス、資料や例文の扱い方、先行研究の参照など
について改善すべきであるとの指摘があった。以上を総合した結果、学位論文の請求に値
するという合意が得られた。
2)学位論文審査
学位請求論文は 2013 年 12 月 16 日に提出された。これを受けて、予備審査委員会と同じ
構成員 6 名からなる学位審査委員会を 2014 年 1 月 29 日に開催し、第 1 回委員会、口述に
よる最終試験、第 2 回委員会を実施した。
(1)第 1 回学位審査委員会
予備論文審査において指摘された以下の改善事項を確認した結果、いずれも改善が認
められ、全員一致で最終試験を行うことにした。
①序論を見直し、5 章までの部分と 6 章・7 章とのつながりをよくする。
②基本概念や表現をより明確にし、事実に対する説明力をもう少し高める。
③資料の扱い方、例文や記号の提示、日本語訳、参考文献の参照を吟味する。
(2)最終試験
最終試験は第 1 回学位審査委員会に引き続いて行われた。最初に著者である范喜春氏
に対して本論文がどのように改善されたかを中心に説明を求め、そのあとで質疑応答を
行った。具体的には、コーパスに掲載されている出典、例文や符号の吟味、用語や分類
の検討、個々の事例からの一般化、研究の発展などについての質疑がなされた。訂正を
必要とする箇所が若干見られたが、大筋において問題がないことを確認した。
(3)第 2 回学位審査委員会
論文審査および最終試験での范氏との質疑応答の結果から、本論文については最終的
に以下のような評価がなされ、学位論文[博士(国際学)]の要件を満たしているとの
結論に達した。
・予備審査において改善が求められた事項が十分に改善されていると確認できる。
・序論については、研究の背景と目的や使用データの提示などが明確になり、例文の
符号に関する凡例も加えられた。
・1 章から 7 章までのつながりが格段によくなり、論文としてのまとまりも整った。
・6 章の内容も全面的に改訂され、確実なものとなっている。
・基本概念や表現がより明確になり、中国語の例文も自然な日本語訳となった。
・先行研究への言及もさらに改善されている。
・本論文は、中日対訳コーパスと母語話者の内省を有効に組み合わせる手法により、
形式と意味の観点から、日本語数量表現と中国語数量表現についての新しい事実を
記述し、両者の対応関係および対応関係に関わる規則性を示した点が斬新であり、
両言語数量表現に関する説明への示唆も行っている。
・様々な面でさらなる研究の発展が期待できる。
2.審査結果
合