KURENAI : Kyoto University Research Information Repository Title Author(s) Citation Issue Date URL 医薬品製造工程における品質管理手法の開発( Abstract_要 旨) 中川, 弘司 Kyoto University (京都大学) 2014-09-24 http://hdl.handle.net/2433/192197 Right Type Textversion Thesis or Dissertation ETD Kyoto University 京都大学 論文題目 博士(工学) 氏名 中川 弘司 医薬品製造工程における品質管理手法の開発 (論文内容の要旨) 本論文は,固形製剤製造工程を対象とし,プロセス状態のリアルタイム測定情報に基 づく品質管理を実現するために必要な迅速測定技術,オンラインモニタリング技術につ いて検討した成果をまとめたもので,5 章からなる. 第 1 章は序論であり,医薬品製造工程の管理に関する現状と課題を述べ,これを改善 しようとする近年の流れ及び既往の研究について説明し,本研究の目的を示した. 第 2 章では,製造設備の洗浄工程における残留薬物量の迅速測定技術の開発を目的と し て 行 っ た 研 究 の 成 果 を ま と め て い る . 残 留 薬 物 量 の In-situ 分 析 に は ス ペ ク ト ル を 用 いた手法が有用であることから,まずスペクトルを用いた機器分析手法として,紫外分 光 法 及 び 赤 外 反 射 分 光 法 ( IR-RAS 法 ) を 用 い た 残 留 薬 物 量 推 定 精 度 の 予 備 評 価 を 行 い , そ の 結 果 に 基 づ い て IR-RAS 法 を 選 定 し た . IR-RAS 法 は , 従 来 の 有 効 成 分 を 検 出 対 象 と して設定した高速液体クロマトグラフィ法よりも迅速な測定が可能となる事に加え,対 象 残 留 薬 物 量 以 外 の 成 分 量 も 高 感 度 で 検 出 で き る と い う 特 徴 を も つ .In-situ 分 析 で は , 用いるスペクトル解析手法の選定も推定精度向上の重要な要素となる.そこで,これま で 提 唱 さ れ て き た PLS ( Partial least squares ) 法 に 加 え , LWR ( Locally weighted regression) 法 , 及 び LW-PLS( Locally weighted partial least squares) 法 を 用 い て 構築した各モデルの推定精度の比較を行った.そして,新規に提案した残留薬物の純ス ペ ク ト ル の 吸 光 度 を 各 入 力 変 数 ( 波 数 ) の 重 み と す る LW-PLS 法 ( LW-PLS S 法 ) を 適 用 す ることで,残留薬物量の推定精度を大幅に改善できることを示した.また,今回提案し た LW-PLS S 法 は , モ デ ル 構 築 の た め に 選 定 さ れ た 潜 在 変 数 と 残 留 薬 物 量 の 間 の 関 係 に お い て 非 線 形 性 が 強 い 場 合 に , 従 来 の PLS 法 よ り も 顕 著 に 推 定 精 度 が 改 善 さ れ る こ と を 示 し た .以 上 の 結 果 よ り ,残 留 薬 物 量 の 洗 浄 工 程 中 で の 迅 速 測 定 技 術 と し て は ,IR-RAS 法 と LW-PLS S 法 の 組 み 合 わ せ が 最 も 有 用 で あ る と 結 論 し た . 第 3 章では,混合工程における成分濃度の高精度なリアルタイムモニタリング技術の 開発を目的として検討した結果をまとめている.混合中の成分濃度を非破壊かつリアル タイムで測定するための機器分析手法としては,これまでに本検討対象に対して多くの 研 究 報 告 の あ る 近 赤 外 分 光 法( NIRS)を 選 定 し た .NIRS を 選 定 し た 場 合 ,第 2 章 で 採 用 し た IR-RAS 法 と 同 様 に , モ デ ル 構 築 に 適 用 す る ス ペ ク ト ル 解 析 手 法 の 選 定 が 高 精 度 推 定を実現するための鍵となる.そこで,本検討対象に対し,第 2 章で有用性が検証され た LW-PLS S 法 を 適 用 し て モ デ ル を 構 築 し ,そ の 推 定 精 度 を 評 価 し た .な お ,LW-PLS S 法 に お け る 入 力 変 数 の 重 み と し て は 有 効 成 分 の 純 ス ペ ク ト ル を 用 い , 従 来 法 で あ る PLS 法 と 推 定 精 度 を 比 較 し た . ま た , 第 2 章 で は , LW-PLS S 法 の 推 定 精 度 に 影 響 を 与 え る キ ャ リ ブレーションセットの選定やスペクトル前処理等の各パラメータの影響については検 討しなかったが,本章では各パラメータが推定精度に及ぼす影響について詳細に評価し た.具体的には,製剤開発及び商用生産におけるスケールアップ,製造条件変更,及び 原材料物性の変動を想定したモデル構築及び更新を行い,高精度な推定モデルを構築す るための手順を提示した.一連の検討の結果,どのようなパラメータを採用した場合に お い て も ,ス ペ ク ト ル 解 析 手 法 と し て LW-PLS S 法 を 適 用 す る こ と に よ り 従 来 法 で あ る PLS 京都大学 博士(工学) 氏名 中川 弘司 法よりも高い推定精度を実現できること,キャリブレーションセットに対象となる混合 機でのインライン測定で得られたスペクトルを組み込んでおくことが高精度なモデル 構築の鍵になることを明らかにした.また,スペクトル前処理法と選択波長は,推定精 度に相互作用をもって影響することが確認され,ベースライン補正やピーク強調の効果 の強いスペクトル前処理(一次微分+標準正規化,二次微分等)を選択する場合は選択 波長を絞り,逆に同効果の弱いスペクトル前処理(標準正規化,一次微分等)を選択す る場合は広範囲な波長を選択することが,高精度な推定モデル構築に有用であることを 示した.以上の検討結果より,混合工程における成分濃度のリアルタイムモニタリング 手 法 と し て は , NIRS と LW-PLS S 法 の 組 み 合 わ せ が 最 も 効 果 的 で あ る と 結 論 づ け た . 第 4 章では,滑沢剤混合工程における滑沢剤混合状態のリアルタイムモニタリング技 術の開発を目的として行った研究の成果をまとめている.滑沢剤混合工程は,固形製剤 の種類によらずほぼ必須の工程であり,滑沢剤混合状態のリアルタイムモニタリング技 術の開発にあたっては,製剤毎にモデル構築が必要ではないモデルフリーの手法が望ま し い . そ こ で 機 器 分 析 手 法 と し て , 第 3 章 で 適 用 し た NIRS に 加 え , 熱 浸 透 率 法 の 適 用 可 能 性 評 価 を 行 っ た . モ デ ル フ リ ー 手 法 の 開 発 に あ た っ て は , NIRS を 選 定 し た 場 合 は , 第 2 章や第 3 章で適用した高精度なモデルによる推定値ではなく,汎用的な滑沢剤であ る Mg-St に 特 有 な 吸 収 ピ ー ク の 面 積 値 を 滑 沢 剤 混 合 状 態 の 指 標 と す る こ と と し た . 実 験 室 ス ケ ー ル の 設 備 を 用 い た 検 討 に お い て , 本 指 標 を 用 い る こ と に よ り , 混 合 中 の Mg-St 濃度の推移及び展延性の評価が可能であることを確認した.さらに,商用生産スケール の 設 備 を 用 い た 検 討 で は , 本 指 標 を 用 い て Mg-S 濃 度 の 推 移 や 展 延 性 を 評 価 す る こ と の 妥 当 性 を 検 証 し た . 一 方 , 熱 浸 透 率 法 を 適 用 し た 場 合 に は , 混 合 中 の Mg-St 濃 度 の 推 移 を 評 価 す る こ と は 困 難 で あ る が ,そ の 展 延 性 の 変 化 に つ い て は ,NIRS よ り も 高 感 度 で 測 定可能であることが商用生産の設備を用いた検討にて検証された.以上の検討結果よ り ,NIRS あ る い は 熱 浸 透 率 法 に よ り ,滑 沢 剤 混 合 工 程 に お け る Mg-St 混 合 状 態 の リ ア ル タ イ ム モ ニ タ リ ン グ が 可 能 で あ る と 結 論 づ け た . ま た , 両 測 定 法 は , Mg-St を 滑 沢 剤 と して使用する製剤に対して,有効成分やその他の処方成分の種類によらず適用可能であ る が , Mg-St 混 合 状 態 の 検 出 感 度 に そ れ ぞ れ 異 な る 特 徴 を 有 す る こ と か ら , 適 用 目 的 に 応じて使い分けることが重要であることを指摘した. 第 5 章 は 結 論 で あ り ,本 論 文 の ま と め と 固 形 製 剤 製 造 工 程 管 理 に 関 す る 研 究 の 展 望 を 示している. 氏 名 中川 弘司 (論文審査の結果の要旨) 本 論 文 は ,固 形 製 剤 製 造 工 程 を 対 象 と し ,プ ロ セ ス 状 態 の リ ア ル タ イ ム 測 定 情 報 に 基 づ く 品 質 管 理 を 実 現 す る た め に 必 要 な 迅 速 測 定 技 術 ,オ ン ラ イ ン モ ニ タ リ ン グ 技 術 に つ いて検討した成果をまとめたもので,得られた主な成果は以下の様にまとめられる. 1 ) 洗 浄 工 程 終 了 時 に お け る 装 置 内 残 留 薬 物 の 高 精 度 In-situ 分 析 法 の 開 発 装 置 内 残 留 薬 物 の In-situ 分 析 に は ス ペ ク ト ル を 用 い た 手 法 が 有 用 で あ る が ,そ の 推 定 精 度 は ,そ こ で 使 わ れ る 機 器 分 析 手 法 や ス ペ ク ト ル 解 析 手 法 に 大 き く 依 存 す る .本 研 究 で は 様 々 な 手 法 の 組 み 合 わ せ に つ い て 検 討 し ,赤 外 反 射 吸 収 分 光 法 と 対 象 薬 物 の 純 ス ペ ク ト ル を 重 み と し て 用 い た 局 所 PLS 法 ( Locally Weighted Partial Least Squares) の 組 み 合 わ せ が 最 適 と 判 断 し , そ れ に 基 づ く 高 精 度 な In-situ 分 析 法 を 提 案 し て い る . 2 )固 形 製 剤 の 混 合 工 程 に お け る 成 分 濃 度 の 非 破 壊 リ ア ル タ イ ム モ ニ タ リ ン グ 手 法 の 開 発 混 合 工 程 に お け る 成 分 濃 度 の リ ア ル タ イ ム 測 定 分 析 手 法 と し て は ,近 赤 外 分 光 分 析 法 (NIRS)が 広 く 用 い ら れ て い る . 本 研 究 で は NIRS に お け る キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン セ ッ ト の 選 定 法 ,ス ペ ク ト ル 解 析 手 法 ,ス ペ ク ト ル 前 処 理 法 お よ び 選 択 波 長 が 予 測 誤 差 に 及 ぼ す 影 響 を 検 証 し ,高 精 度 な リ ア ル タ イ ム モ ニ タ リ ン グ 手 法 と し て ,キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン セ ッ ト に 適 用 対 象 の 混 合 プ ロ セ ス に て 得 ら れ た イ ン ラ イ ン 測 定 デ ー タ を 組 み 込 ん だ ,NIRS と 局 所 PLS 法 を 組 み 合 わ せ た 手 法 を 開 発 し て い る .そ し て ,提 案 す る モ デ ル 構 築 手 法 の 妥当性を,様々なスケールや混合機を用いて実施した混合実験結果により検証してい る. 3 )滑 沢 剤 混 合 プ ロ セ ス に お け る 滑 沢 剤 展 延 状 態 の モ デ ル フ リ ー モ ニ タ リ ン グ 手 法 の 開 発 滑 沢 剤 混 合 プ ロ セ ス は ,固 形 製 剤 の 種 類 に よ ら ず 打 錠 工 程 に 必 須 の プ ロ セ ス で あ る こ と か ら ,そ の 滑 沢 剤 展 延 状 態 の モ ニ タ リ ン グ に は ,製 剤 毎 に モ デ ル を 構 築 す る 必 要 の な いモデルフリーの手法の適用が望ましい.本研究では,滑沢剤混合プロセスにおける Mg-St 混 合 状 態 の リ ア ル タ イ ム モ ニ タ リ ン グ が ,NIRS あ る い は 熱 浸 透 率 セ ン サ ー を 用 い る こ と で モ デ ル フ リ ー で 可 能 で あ る こ と を 示 し ,両 手 法 の 有 用 性 を 実 生 産 設 備 を 用 い て 検証している. こ の 様 に ,本 論 文 は 医 薬 品 製 造 プ ロ セ ス に お い て ,迅 速 か つ リ ア ル タ イ ム の 品 質 管 理 を 実 現 す る た め に 必 要 な ,新 規 か つ 有 用 な 知 見 を 多 く 含 ん で お り ,学 術 上 ,実 際 上 寄 与 す る と こ ろ が 少 な く な い .よ っ て ,本 論 文 は 博 士( 工 学 )の 学 位 論 文 と し て 価 値 あ る も の と 認 め る .ま た ,平 成 2 6 年 8 月 2 1 日 ,論 文 内 容 と そ れ に 関 連 し た 事 項 に つ い て 試 問 を 行 っ て ,申 請 者 が 博 士 後 期 課 程 学 位 取 得 基 準 を 満 た し て い る こ と を 確 認 し ,合 格 と 認めた.
© Copyright 2024 ExpyDoc