文部科学省の定義 • 学習障害の定義 平成11年7月 文部科学省 学習障害児(LD児)の 理解と指導 Wakayama University Yusuke Eda 定義の要点 • 一般知能には遅れがない • 特定能力の習得と使用に著しい困難がある – 読む、書く、聞く、話す、計算する、推論する • 視覚や聴覚、知能や情緒の障害などが直接の原 因ではない • 養育環境や、本人の意欲の問題ではない – 学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導 方法に関する調査研究協力者会議 • 学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に 遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する 又は推論する能力のうち特定のものの習得と使 用に著しい困難を示す様々な状態を指すものであ る。学習障害は、その原因として、中枢神経系に 何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障 害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、 環境的要因が直接の原因となるものではない。 LDと他の学習困難との相違 • 【例】 次のような問題が学習上の困難の第一要因 となっている状態は「LD(学習障害)」と言わない • (LDの結果、二次的に意欲や自信の低下を生じる ことは当然あり得る。しかし、意欲低下はLDの結果 であって原因ではない) – 経験量が乏しい、学習の機会を逸した – その教科に苦手意識をもつ、自信がない – 勉強をする意欲がない、根気がない – 知的な発達に遅れがある、全般に知能が低い – 視覚や聴覚、運動などに障害がある 1 LDの機能的な定義 • 「学習」 同一または類似の経験の反復により 認識や行動が比較的永続的に変容すること • 「学習障害」 – 通常ダイナミックに乗り越えるステップでつまずく – 経験の積み重ねが一般に 期待される変化へと結 びつきにくい – 非効率な学習,独特のやり方,定着の遅れ – インプットとアウトプットの落差 学習課題の分析 • 基礎的なことがらでのつまずきほど指導は 難しい → 通常いつの間にかできている • 「がんばれ」をくり返す指導は効果的でない → 同じ経験の反復により自然に要領を会 得することは期待できない • 学習課題の分析が必要 • 目標と指導の手続きを明確にする 学習課題の分析の方法 • つまずきの原因を分析し指導の展開を検討する • 【例】 漢字を覚えない – 原因は多様であり、本人の問題に即した指導が必要 – 1.記憶の使い方に問題がある • 書き取り練習は、ずっと1画ずつ書き写していては覚えない。 • 段階的に、見ないで書くようにして、記憶を使うことが必要 – 2.日常での利用語彙が乏しい • 漢字を長期的に記憶する能力は、日常の利用語彙に比例 • ふだん使わない言葉は、漢字も記憶に残らない • 覚えた漢字を使う機会をつくることが必要 1. 課題の順序・配列を考える方法 • 活動の手順を重視する • 【例 】「手を洗う」 – 「ちゃんと手を洗いなさい」 具体的な要求が分からない – 「ちゃんと」とは、何をどうすれば評価できるかを考える – – – – ① ③ ⑤ ⑦ 水道の蛇口をひねる 石けんをつける 手をすすぐ タオルで手をふく - - - ※ ② 手を水にかざす ④ 手をこすり合わす ⑥ 水を止める かかった時間は? 2 2.課題の難易度を考える方法 • 活動の発展性を重視する • 同じ目的の活動だが、すぐにできる簡単で単純な ことから始め、着実に複雑で高度な段階へ • 【例】「キャッチボール」 – – – – – ① ゆっくり転がるボールをつかむ ② 速く転がるボールをつかむ ③ はずむボールをつかむ ④ 飛んできたボールをつかむ(下手投げ) ゴール:キャッチボールをする(上手投げ) 課題指導の方法 • 集中できる時間設定 – 1時間、分かるまでじっくり・・不向きな例が多い – 10分間、集中させる、短時間セッションの反復 • 和歌山大学教育ボランティア – 児童養護施設における教科学習の支援活動 – 成果を上げている – 「屋台方式」 学生の教科指導ブース – 短時間の集中学習(15~20分、3セッション) 指導のことば 援助の方法 • 「できない」ことは叱らない – うまくできないこと、時間がかかること – 悪いことをしているわけではない – できないことは、叱ってもできるようにはならない • ほめかた – 漫然とほめない – ほめるに値することをほめる – LD児には中立的なコメントの方が効果の高い例が多い • 指示は明確に – × しっかり、きちんと、うまく、ちゃんと 曖昧で通じない – ○ 具体的に表現する 「何を、どうすればよいのか」 – 1つの行動の単位で指示する • 行動の手がかりを与える – 言葉による指示、説明、注意だけでなく – 行動の見通しのヒントを与える – 【例】時間経過の目安「タイムエイド」 • タイムアウト – 学習の限界を生じたら休止する、自分で休止を図れる – パニックを生じているときはいったんその場を離れる – タイムアウトは、「罰」としては用いない • 解決のストラテジーを教える • 【例】 3桁ずつ覚えてから書き写す(記憶を使う) 3 学習課題の与え方 援助の方法 • 1.インクルージング (徐々に援助を弱める) – 最初に適切な援助を与え課題ができるようにする。 – 少しずつ援助を弱め、自分でやらなければならない部 分を増やす。 – 【長所】 初めから本人に失敗の経験をさせない。 – 自信を失わずに課題に取り組む。自信をなくしている場 合や、苦手な課題への取り組みに適する。 • ① フォーワードチェイニング – 段階的な課題に最初から一つずつ取り組ませる – 【長所】作業の順序や目標を理解しやすい。 • ② バックワードチェイニング – 最後の仕上げを自分でやらせ、途中の経過を援助する。 – 【長所】自信を失わず、本人は成功感を持たせやすい。 • 2. ディクリージング (徐々に援助を強める) – 最初は弱い援助を与えて、少しずつ援助を強める。 – できるところまで自分の力でがんばらせて、できなくなっ たら援助する。 – 【長所】どこまで自分の力でできるかを確認できる。 – 自主性を高めることができる。課題に対して子どもが意 欲的、積極的な場合に適する。 • ③ トータル・タスク – 実体験的な場面で総合的に指導する – 【長所】複雑な行動を、自然な流れの中で指導する。 – ただし、未完成な課題が多いと誤反応をくり返す。 行動上の問題との関連 • LDとADHD – 行動調整の困難 – かつてはLDの特徴の一つとして捉えられた – ADHD 独立した疾患単位 行動上の問題から診断する 読み書き等の能力の問題と区別 2つは、重複して現れることも多い 「LDとADHDの合併症状」・・・現在の医学的表現 問題行動への教師の対応 • • • • • • • 予測と方針が大切(指導の計画性) 試行錯誤に陥らない 障害の特性や心理特性を理解する コミュニケーション能力をカバーする 時間の概念の大切さ 自己対話の方法を指導(手続きを決める) 子どもの教育へのオーナーシップを育てる 4
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