平成 26 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集 O-26 フラストレート系リチウムスピネル LiCo2O4 における Li 欠損導入による新奇物性探索 Exploration for novel phenomena in frustrated lithium spinel LiCo2O4 by introduction of Li-site ○兒玉貴大¹, 村井亮太¹, 石川卓², 滝田将太², 前田穂 3, 高瀬浩一 3, 高野良紀 3, 渡辺忠孝³ *T. Kodama¹, R. Murai¹, T.I shikawa², S. Takita², M. Maeda3, K. Takase3, Y. Takano3, T. Watanabe³ Abstract: Lithium spinel LiCo2O4 is expected tobe ageometrically frustrated magnet with spin,orbital, and charge degrees of freedom. This compound exhibits a magnetic phase transition at Tm = 30K, We explore novel phenomena in LiCo2O4 by introduction of Li-site deficiency. 1.はじめに ーションは, ワイス温度の絶対値|Θw|が磁気相転移温 幾何学的フラストレーションとは, 磁性体にお 度 Tm に比べて大きいほど強いとされる. これまでの いて磁性イオン間の最近接相互作用が反強磁性的で 我々の研究では, LiCo2O4 のワイス温度は Θw= -102K ある時, 結晶構造の幾何学的制約により反強磁性秩 と 磁 気 転 移 温 度 の 約 3.5 倍 大 き い 値 を 得 て お り , 序を形成できない状態をさす. このような幾何学的 LiCo2O4 がフラストレーションの強い系であることが フラストレーションの強い磁性体は, 強いスピン揺 示唆されている. 本研究は, LiCo2O4 について Li サイ らぎによる新奇かつ多彩な量子現象と基底状態の発 トへの欠損の導入, すなわち Co サイトへのホールド 現が期待されるため,活発に研究がなされている. 中 ープによって新奇物性を探索することを目的とする. でもスピネル酸化物 AB2O4 は, 最も盛んにフラストレ ーション研究が進められている物質群である. スピ ネル構造は空間群 Fd3m の立方晶構造であるが, その B サイトは頂点共有の四面体から構成されるパイロク ロア格子を形成する(Figure 1). このパイロクロア格 子は, 非常に強い幾何学的フラストレーションを生 じる構造として知られている. 本研究では, リチウムスピネル LiCo2O4 を対象物質 として, 幾何学的フラストレーションに由来する新 奇物性の探索を行っている. LiCo2O4 は, A サイトを非 Figure 1. Crystal structure of spinel oxide AB2O4. 磁性 Li1+, B サイトを磁性 Co3.5+が占めている.ここで B サイトの Co3.5+は, Co3+と Co4+が B サイトを半数ずつ占 めていることを意味している. Figure 2 に LiCo2O4 の Co サイトのスピン状態を示すが, Co サイトは電荷の 自由度に加えて Co3+サイトに軌道の自由度も有して いることがわかる. このことから LiCo2O4 はスピン, 軌道, 電荷の複合自由度を有する幾何学的フラスト レート磁性体であることが期待される. 我々がこれまでに行った研究から, LiCo2O4 は Tm = Figure 2. Spin state of Co3.5+ in LiCo2O4. 30K で磁気相転移を示すことがわかっている. 一般に, 幾何学的フラストレート磁性体におけるフラストレ 1:日大理工・学部・物理 2:日大理工・院・物理 3:日大理工・教員 1271 平成 26 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集 2.実験方法 LiCo2O4 多結晶の作製は, まず水溶液中での化学反 Pressed-Powder a = 8.037Å 応により LiCo2O4 微粒子の水溶液を作成し, 続いてこ に, LiCo2O4 微粒子の水溶液を, タンタル箔を被せたア 10 40 50 2 [deg.] 60 (6 2 0) (5 5 1) (5 3 0) (6 2 2) 70 LiCo2O4 粉末多結晶を作製した. 作製した LiCo2O4 粉末 Figure 4. XRD patterns of powder and pressed-powder 多結晶は, 粉末 X 線回折測定(XRD 測定)で構造評価を LiCo2O4 poly crystals. 0.010 抗率測定により物性評価を行った. 0.009 M/H [emu/mol Oe] 行い, 磁化率測定, さらには圧粉した試料での電気抵 Tm = 31 K 80 0.009 0.008 0.008 0.007 0.007 0 20 40 0.006 (4 4 4) a = 8.026Å (4 4 0) (5 3 1) 30 (3 3 3) 20 ルミナボートに移し, Figure 3 の条件で焼成して (4 2 2) (2 2 0) せることにより LiCo2O4 微粒子の水溶液を作成した.次 (1 1 1) Simulation て水溶液を作製し, この水溶液を混合して化学反応さ (4 0 0) LiNO3 と Co(NO3)2・6H2O の粉末をモル比 1:2 で秤量し a = 8.027Å (3 3 1) を用いた. 具体的な試料の作製手順としては, まず Powder (3 1 1) 製した.原料は LiNO3(99.9%)と Co(NO3)26H2O(99.9%) (2 2 2) Intensity [a.u.] の水溶液を空気中で焼成して LiCo2O4 粉末多結晶を作 0.005 0.004 LiCo2O4 H =1 T 0.003 0.002 0 50 100 150 200 250 Temeperature [K] Figure 3.Sintering condition of LiCo2O4. Figure 5. Temperature dependence of magnetic 3.実験結果 Figure susceptiblities in poly-crystalline LiCo2O4. 4 に LiCo2O4 の粉末多結晶とその圧粉体の XRD パターンを示す. いずれの試料も主相としてスピ 1200 ネル構造が得られていることが確認された. Figure 5 に 1/ LiCo2O4 粉 末 多 結 晶 の 磁 化 率 の 温 度 依 存 性 を 示 す . Tm~31K で磁気相転移に伴う磁化率の変化が確認され W = -95 K 800 ただし1/ = H/M 400 た. また, T>~31K ではキュリーワイス的な振舞いを示 0 -100 し, Figure 6 に示す逆磁化率の温度依存性から得たワ 0 100 200 300 Temeperature [K] イス温度は ΘW ≅ -95 K と反強磁性的であった. 当日の発表では, LiCo2O4 の Li サイトに欠損を導入 Figure 6. Temperature dependence of inverse magnetic した試料の実験結果についても報告する予定である. susceptibility in poly-crystalline LiCo2O. 1272 300 90
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