A-14 3 次元定常温度分布解析に基づく発熱体構成に関する基礎的研究 山口 聖 1. はじめに ハイパーサーミア 1)とは腫瘍部を加温して治療す る温熱療法のことである。人の細胞は 42 [℃]以上に 加温されると急速に死滅する。この原理を利用して 腫瘍組織(腫瘍細胞)のみを 42 [℃]以上に加温し、死 滅させる治療法である。体内で熱を生じさせ加温を 行うため、正常細胞への不要な加温を防ぐ必要があ る。そのため生体内で形成される温度分布を予測す ることが必要となる。温度分布は有限要素法等によ って解析的に求められるが、より高精度な温度分布 を得るには 3 次元解析を行う必要がある。 本研究では発熱体の配置方法や発熱体の形状を変 化させた場合について、3 次元定常温度分布解析を 行った。 2. 有限要素法による温度分布解析 図 1 に解析モデルの一例を示す。本研究では、解 析領域を直径 100 [mm]の球とし、後述する各条件に したがい発熱体を配置し、温度分布解析を行った。 また、解析領域の温度固定条件を 37 [℃]とし、発熱 体温度を 50 [℃]とした。また、比熱や密度等の物理 定数は水の値を使用した。なお、解析には汎用の有 限要素法プログラム“COMSOL”を使用した。 以下の条件について温度分布解析を行った。 条件① 球状発熱体の間隔(Lh)を変化 条件② 板状発熱体の間隔(Lh)を変化 (家名田研究室) 条件① 図2 条件② 断面 S 上の温度分布 間隔(Lh) 図3 発熱体間隔の定義 4. 解析方法 図 4 に温度分布を求める線分を示す。線分 Y は発 熱体を配置している軸である。線分 Z は発熱体の間 の温度分布を見ることができる。 Y Z 図4 ①球状 断面 S (a) 解析領域 図1 ②板状 (b) 発熱体 解析モデルの一例 3. 解析条件 図 2 に図 1 で示した解析領域中央の断面 S 上の温 度分布を示す。条件①では、直径 3 [mm]の球状発熱 体を解析領域の中央に 2 つ配置する。条件②では、 幅 5.2 [mm]×高さ 5.2 [mm]×厚さ 0.5 [mm]の板状発 熱体を解析領域の中央に 2 つ配置する。条件①、条 件②とも発熱体同士の間隔を Lh=10 [mm]、20 [mm]、 30 [mm]と変化させて解析した。発熱体間隔の定義を 図 3 に示す。 温度分布の求め方 5. 解析結果 5.1 球状発熱体の間隔に関する検討 図 5、図 6 は球状発熱体の間隔(Lh)を変化させた場 合の解析結果である。図 5 をみると、Lh=20 [mm]と Lh=30 [mm]では中心で約 1.2 [℃]の温度差があるの に対して、Lh=10 [mm]と Lh=20 [mm]では約 3.4 [℃] の温度差となっている。また、図 6 においても同様 の温度差がみられる。以上の結果から、発熱体の間 隔(Lh)はより狭いほうが有効な加温が可能であると 考えられる。 5.2 板状発熱体の間隔に関する検討 図 7、図 8 は板状発熱体の間隔(Lh)を変化させた場 合の解析結果である。図 7 をみると、Lh=30 [mm]と Lh=20 [mm]では中心で約 1.6 [℃]の温度差があるの に対して、Lh=10 [mm]と Lh=20 [mm]では約 3.7 [℃] の温度差となっている。また、図 8 においても同様 の温度差がみられる。以上の結果から、発熱体の間 隔(Lh)はより狭いほうが有効な加温が可能であると 考えられる。 50 45 発熱体同士の間隔(Lh) 10 [mm] 20 [mm] 30 [mm] T [℃] 5.3 板状発熱体の形状に関する検討 図 9、図 10 は板状発熱体において、発熱体形状を 幅 4 [mm]×高さ 7 [mm]×厚さ 0.5 [mm]とし、発熱体 の間隔(Lh)を変化させた場合の解析結果である。図 9 をみると、Lh=20 [mm]と Lh=30 [mm]では中心で 1.6 [℃]の温度差に対して、Lh=10 [mm]と Lh=20 [mm]で は約 3.7 [℃]の温度差がある。また、図 10 において も同様の温度差がみられる。これらの結果は第 5.2 節で述べた結果と合致するが、中心の温度が条件② に比べ、細長い板状発熱体の方が、それぞれの間隔 で 0.1 [℃]ずつ高くなっていることがわかった。 以上の結果から球状発熱体と板状発熱体を比較す ると、板状発熱体の方がより加温できることが示唆 される。 40 Lh 増加 35 -50 -25 0 25 50 dv [mm] 図8 線分 Z 上の温度分布 50 50 発熱体同士の間隔(Lh) 10 [mm] 20 [mm] 30 [mm] 45 T [℃] 発熱体同士の間隔(Lh) 10 [mm] 20 [mm] 30 [mm] T [℃] 45 40 Lh 増加 40 Lh 増加 35 -50 35 -25 0 25 50 dh [mm] -50 -25 0 25 50 図9 dh [mm] 図5 線分 Y 上の温度分布 線分 Y 上の温度分布 50 50 45 T [℃] 発熱体同士の間隔(Lh) 10 [mm] 20 [mm] 30 [mm] T [℃] 45 発熱体同士の間隔(Lh) 10 [mm] 20 [mm] 30 [mm] 40 Lh 増加 40 Lh 増加 35 -50 35 -50 -25 0 25 50 線分 Z 上の温度分布 50 45 T [℃] 発熱体同士の間隔(Lh) 10 [mm] 20 [mm] 30 [mm] 40 Lh 増加 0 25 50 dv [mm] 図 10 線分 Z 上の温度分布 dv [mm] 図6 -25 6. まとめ 以上、3 次元定常温度分布に基づく発熱体構成に 関する基礎的研究について述べた。 その結果、3 次元解析が可能であることを明らか にした。また、発熱体の間隔(Lh)が狭いほど、42 [℃] 以上の有効温度に加温が可能であることが判明した。 今後より人体に近い形状のモデル、さらに外気の 温度や対流等も考慮したモデルを実現できれば、よ り正確な解析を行えることが期待される。 文献 35 -50 -25 0 25 dh [mm] 図7 線分 Y 上の温度分布 50 1) 松木英敏:体電磁工学概論,p. 121,コロナ社 (1999). 2) 佐々木裕介:有限要素法を用いた 3 次元定常温度分布解 析に関する基礎的研究 (東北文化学園大学卒業論文、 2010).
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