有限要素法による 3 次元定常温度分布解析に関する研究 A-3 木川 芳徳 1. はじめに ハイパーサーミア 1)、2)とは腫瘍部を加温し、治療 する温熱療法のことである。現在、外科治療、化学 治療、放射線治療に続く第 4 の癌治療方法として期 待されている。細胞は 42 [℃]以上に加温させると死 滅していくため、加温は 42 [℃]以上、30~60 分程 度を目標に設定する。ハイパーサーミアでは、体内 で熱を発生させ治療を行うため、正常な細胞への不 必要な加温を防ぐ必要がある。そのため、生体内で 形成される温度分布を予測する必要がある。温度分 布は有限要素法等によって解析的に求められるが、 より高精度な温度分布を得るには 3 次元解析を行 う必要がある。そこで、本研究では発熱体の配置方 法を変えた場合について、3 次元定常温度分布解析 を行った。 2. 有限要素法による温度分布解析 2.1 解析対象と条件 1 辺が 200 [mm]の立方体の解析領域に、40 [mm] 四方、厚さ 4 [mm]の発熱体を 1 [枚]、2 [枚]、3 [枚]、 4 [枚]、5 [枚]、6 [枚]と配置し、それぞれの場合に おいて、発熱体間隔を変化させて解析を行った。な お、解析には汎用の有限要素解析プログラム COMSOL を使用した。 本研究においては、材料特性は人体の約 7 割が水 であるため組織の物理量は水に等しいとし、熱伝導 率を 0.6 [W/m・K]、比熱を 4.2×103 [J/kg・K]、密度 を 1.0×103 [kg/m3]と設定した。 2.2 解析モデルと境界条件 図 1 は発熱体数 2 [枚]のときの解析モデルである。発熱 体数 1 [枚]のときは中央に発熱体を配置した。発熱体数 4 [枚]の場合は中央より均等に配置した。 解析領域の最外部において温度固定条件 37 [℃]を設定 し、発熱体温度を 50 [℃]とした。 (家名田研究室) 3. 発熱体数に関する検討 発熱体数が 1 [枚]の場合の解析結果の一例を図 2 に示 す。同図は解析領域の中央部の線分 AB を含む面で表示 してある。 図 3 は発熱体数 2 [枚]において、発熱体温度を 50 [℃] 一定とし、 発熱体間隔を 20 [mm]~100 [mm]まで変化させ た場合の図 1 における線分 AB 上の温度分布である。横 軸は線分 AB の長さであり中心を 0 とした。同図より発 熱体の間隔が広がるほど温度も低下していくこと、発熱 体間隔が近い程、中心温度も高くなることがわかる。 さらに、発熱体で挟まれた領域の温度は 42 [℃]以上 の有効温度となっていることがわかる。 3.1 発熱体の配置に関する検討 発熱体の配置方法を変化させた場合について検 討を加えた。図 4 に発熱体を複数配置した解析モデ ルの一例を示す。同図(a)のように発熱体 3 [枚]を中 心を軸に三角柱状に配置し、40 [mm]から 120 [mm] まで 20 [mm]毎に間隔を変化させた場合の温度解析 結果を行った。結果を図 5 に示す。図 4 (b)のように 四角柱状に発熱体を配置した場合も同様に解析を 行った。結果を図 6 に示す。図 5 と図 6 を比較する と発熱体間隔が小さい場合は両者の差はさほどな いが、間隔を大きくすると 3 [本]の方が温度低下が 大きいことがわかる。 さらに図 4 (c)、(d)に示されるように、3 [枚]配置、 4 [枚]配置の上下を発熱体で板ばさみした 5 [枚]、6 [枚]配置の温度解析を行った。結果を図 7、図 8 に 示す。両図より、発熱体で囲まれた領域の温度は高 く、42 [℃]の有効温度を得られる最大発熱体間隔は 5 [枚]の場合は 140 [mm]、6 [枚]の場合は 160 [mm] である。 B A S 図1 解析モデルの一例 図2 解析結果の一例(発熱体 1 [枚]) 発熱体間隔 = 60,80,100,120,140[mm] 発熱体温度 = 50[℃] 発熱体間隔増加 51 49 発熱体間隔増加 45 43 41 51 49 47 45 43 41 39 37 -100 -50 0 50 100 中心からの距離[mm] 39 37 -100 図 6 温度分布(発熱体 4 [枚]) -50 0 50 100 中心からの距離[mm] 発熱体間隔 = 40,60,80,100,120[mm] 温度[℃] 図 3 温度分布(発熱体 2 [枚]) 51 発熱体温度 = 50[℃] 発熱体間隔増加 49 47 45 43 41 39 37 -100 -50 0 50 100 中心からの距離[mm] 図 7 温度分布(発熱体 5 [枚]) (b) 4 枚配置 発熱体間隔 = 60,80,100,120,140,160[mm] 温度[℃] (a) 3 枚配置 (c) 5 枚配置 (d) 6 枚配置 図 4 発熱体配置の一例 51 49 47 45 43 41 39 37 -100 51 発熱体温度 = 50[℃] 発熱体間隔増加 49 47 45 43 41 39 37 -100 -50 0 50 100 中心からの距離[mm] 図 8 温度分布(発熱体 6 [枚]) 発熱体間隔 = 40,60,80,100,120,140[mm] 発熱体温度 = 50[℃] 温度[℃] 温度[℃] 47 温度[℃] 発熱体間隔 = 20,40,60,80,100,120[mm] 発熱体温度 = 50[℃] 発熱体間隔増加 -50 0 50 中心からの距離[mm] 図 5 温度分布(発熱体 3 [枚]) 100 4. まとめ 以上、有限要素法による生体内温度分布解析につ いて述べた。発熱体数、配置方法などを変化させる ことにより加温可能領域も変化するが、3 次元解析 により温度分布を求めることが可能であることを 明らかにした。複数個の発熱体を使用した場合、発 熱体間隔を広げると、中心の温度が低下するが、 発熱体数 5 [枚]では 140 [mm]、6 [枚]では 160 [mm]の間隔まで設定可能である。 文献 1) 松本英敏:体電磁工学概論,p. 121 (コロナ社,1999) 2) 尾沢栄三:Clinical Engineering, vol. 1, No. 12 (秀潤社, 1990)
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