4. 線形空間 II—部分空間 4.1. 線形部分空間の定義 線形部分空間の定義 F 上の線形空間 V の(空でない)部分集合 W が,V における演算に関してそれ自身 で F 上の線形空間となっているとき,W を V の線形部分空間(または部分空間)と いう. ◁ ⥺ᙧ✵㛫䛾ᐃ⩏䛾᮲௳䜢㒊 䝏䜵䝑䜽䛩䜛ᚲせ䛒䜛䛾䠛䠛 部分空間であることを示すための簡潔な条件 線形空間 V の(空でない)部分集合 W が線形空間であることを示すにあたって,線形 空間のすべての条件の成立を示す必要はなく,下記のように W が V の和とスカラー 倍に関して閉じていること(演算結果が自分自身の中に入ること)を示せばよい. (1) x, y ∈ W ならば x + y ∈ W , (2) x ∈ W , k ∈ F ならば kx ∈ W . なお,条件 (1), (2) は,まとめて (3) x, y ∈ W, k, ℓ ∈ F =⇒ kx + ℓy ∈ W と書いてもよい. [証明] W において,線形空間の条件 [I]-(1)∼(4),[II]-(1)∼(4) が成り立つことを示す. 8つの条件 [I]-(1)∼(4),[II]-(1)∼(4) のうち,以下の6つの条件は,W が V の和とスカ ラー倍に関して閉じていること(演算結果が自分自身の中に入ること)から,成立する. [I]-(1) x, y, z ∈ W =⇒ (x + y) + z = x + (y + z). [I]-(2) x, y ∈ W =⇒ x + y = y + x. [II]-(1) k, ℓ ∈ F, x ∈ W =⇒ (k + ℓ)x = kx + ℓx. [II]-(2) k ∈ F, x, y ∈ W =⇒ k(x + y) = kx + ky. [II]-(3) k, ℓ ∈ F, x ∈ W =⇒ (kℓ)x = k(ℓx). [II]-(4) x ∈ W =⇒ 1 x = x. 残りの2つの条件 [I]-(3) W における零ベクトル 0 の存在 [I]-(4) x ∈ W に対する逆ベクトル −x ∈ W の存在 については,講義でやったパズル (i) 0 x = 0, (iii) (−1) x = −x,および, 「(2) x ∈ W , k ∈ F ならば kx ∈ W 」から,成立することは明らか. [証明終わり] 1 線形部分空間の例 例 4.7 線形空間 V において,{0} および V 自身は V の部分空間である.これ以外の部分空間を 真の部分空間という. 例 4.8 線形空間 R3 において,原点を通る 直線,原点を通る 平面は,R3 の部分空間である. (な お,原点を通らない直線,平面は部分空間ではない) 例 4.9 A を (m, n) 型実行列とする.このとき, W = {x ∈ Rn | Ax = 0} = 斉次方程式 Ax = 0 の解全体 は Rn の部分空間である. [証明] 部分空間になるための条件 (3) x, y ∈ W, k, ℓ ∈ F =⇒ kx + ℓy ∈ W を示す. x, y ∈ W ⇐⇒ Ax = Ay = 0.したがって A(kx + ℓy) = kAx + ℓAy = k0 + ℓ0 = 0. ゆ えに,kx + ℓy ∈ W . 例 4.9 実数列の全体が成す線形空間 S において, W = { 実数列 {xn }∞ n=0 | xn+2 − xn+1 − xn = 0 (n = 0, 1, 2, . . .) を満たす } は,S の部分空間である. ∞ ∞ [証明] 部分空間になるための条件 (3) {xn }∞ n=0 , {yn }n=0 ∈ W, k, ℓ ∈ F =⇒ k{xn }n=0 + ∞ ∞ ℓ{yn }∞ n=0 ∈ W を示す.{xn }n=0 , {xn }n=0 ∈ W ⇐⇒ xn+2 −xn+1 −xn = 0, yn+2 −yn+1 −yn = 0.これより,k(xn+2 − xn+1 − xn ) + ℓ(yn+2 − yn+1 − yn ) = (kxn+2 + ℓyn+2 ) − (kxn+1 + ∞ ℓyn+1 ) − (kxn + ℓyn ) = 0. ゆえに,k{xn }∞ n=0 + ℓ{yn }n=0 ∈ W . 線形部分空間に関する例題 例題 4.1 実線形空間 R3 において,次の集合 W が部分空間であるかどうかを調べよ(部 分空間であるか否かを述べ,その根拠も示せ). x 1 (1) W = x2 ∈ R3 x 3 x 1 (3) W = x2 ∈ R3 x 3 x1 (5) W = x2 ∈ R3 x 3 x 1 x1 = 0, 3 (2) W = x2 ∈ R x1 + x2 + x3 = 1 x1 − x2 + 2x3 = 0 x 3 x 1 3 2 2 2 x1 + x2 = x3 (4) W = x2 ∈ R x1 ≥ x2 ≥ x3 x 3 x1 , x2 , x3 :整数 基本戦略 (1) x, y ∈ W ならば x + y ∈ W , (2) x ∈ W , k ∈ F ならば kx ∈ W の成否をチェックする. 2 [解答] x1 y1 x1 + y1 • W の任意の 2 つのベクトルを x = x2 ,y = y2 とするとき,x + y = x2 + y2 x3 y3 x3 + y3 であるから,条件 (1) の成否は,x1 , x2 , x3 および y1 , y2 , y3 が W を定義する条件を満たすとき, x1 + y1 , x2 + y2 , x3 + y3 もその条件を満たすかどうかチェ ックすれば分かる. x1 kx1 • W の任意のベクトルを x = x2 とするとき,kx = kx2 であるから,条件 (2) の成否は, x3 kx3 x1 , x2 , x3 が W を定義する条件を満たすとき,kx1 , kx2 , kx3 もその条件を満たすかどうかチェック すれば分かる. (1) 条件 (1) の成否について: x1 = 0, x1 − x2 + 2x3 = 0, y1 = 0, y1 − y2 + 2y3 = 0 とするとき, x1 + y1 = 0, (x1 + y1 ) − (x2 + y2 ) + 2(x3 + y3 ) = 0 が成り立つかどうかをチェックすればよい.明らかに,この等式は成り立つので,条件 (1) は成立 する. 条件 (2) の成否について: x1 = 0, x1 − x2 + 2x3 = 0 とするとき, kx1 = 0, kx1 − kx2 + 2kx3 = 0 が成り立つかどうかをチェックすればよい.明らかに,この等式は成り立つので,条件 (2) は成立 する. 以上より,W は部分空間である. (2) 条件 (1) の成否について: x1 + x2 + x3 = 1, y1 + y2 + y3 = 1 とするとき, (x1 + y1 ) + (x2 + y2 ) + (x3 + y3 ) = 1 が成り立つかどうかをチェックすればよい.しかし,x1 + x2 + x3 = 1, y1 + y2 + y3 = 1 のとき (x1 + y1 ) + (x2 + y2 ) + (x3 + y3 ) = 2 であり,この等式は成り立たない.したがって,条件 (1) は 成立しない. 条件 (1) が成り立たないので,W は部分空間でない. (3) 条件 (1) の成否について: x21 + x22 = x23 , y12 + y22 = y32 とするとき, (x1 + y1 )2 + (x2 + y2 )2 = (x3 + y3 )2 が成り立つかどうかをチェックすればよい.しかし,x21 + x22 = x23 , y12 + y22 = y32 のとき,(x1 + y1 )2 + (x2 + y2 )2 − (x3 + y3 )2 = (x21 + 2x1 y1 + y12 ) + (x22 + 2x2 y2 + y22 ) − (x23 + 2x3 y3 + y32 ) = 2(x1 y1 + x2 y2 − x3 y3 ) ̸= 0(一般には)であり,この等式は成り立たない.したがって,条件 (1) は成立しない. 条件 (1) が成り立たないので,W は部分空間でない. (4)(5) は自分で! 3 1次結合の定義 F 上の線形空間 V において,V のベクトル x1 , x2 , . . . , xm に対して, c 1 x1 + c 2 x2 + · · · + c m xm (c1 , c2 , . . . , cm ∈ F ) の形のベクトルを x1 , x2 , . . . , xm の 1 次結合(または線形結合)という. ◁ ベクトルから生成される部分空間の定義 F 上の線形空間 V において,V のベクトル x1 , x2 , . . . , xm の 1 次結合の全体 {x ∈ V | x = c1 x1 + c2 x2 + · · · + cm xm (c1 , c2 , . . . , cm ∈ F )} は V の部分空間である.これを x1 , x2 , . . . , xm により生成される部分空間(あるいは, x1 , x2 , . . . , xm が張る部分空間)といい, ⟨x1 , x2 , . . . , xm ⟩ または Span(x1 , x2 , . . . , xm ) と表す. また,ある部分空間 W が,あるベクトル x1 , x2 , . . . , xm を用いて, W = Span(x1 , x2 , . . . , xm ) と書けるとき,x1 , x2 , . . . , xm を W の生成元という. ◁ [W = Span(x1 , x2 , . . . , xm ) が部分空間であることの証明] 部分空間になるための条件 (3) x, y ∈ W, k, ℓ ∈ F =⇒ kx + ℓy ∈ W を示す. x, y ∈ W ⇐⇒ x = c1 x1 + c2 x2 + · · · + cm xm , y = c′1 x1 + c′2 x2 + · · · + c′m xm .これより, kx + ℓy = k(c1 x1 + c2 x2 + · · · + cm xm ) + ℓ(c′1 x1 + c′2 x2 + · · · + c′m x) = (kc1 + ℓc′1 )x1 + (kc2 + ℓc′2 )x2 + · · · + (kcm + ℓc′m )xm ∈ Span(x1 , x2 , . . . , xm ) = W. 部分空間の和 F 上の線形空間 V において,W1 , W2 , . . . , Wm を V の部分空間とするとき W = {x ∈ V | x = x1 + x2 + · · · + xm , xi ∈ Wi (i = 1, 2, . . . , m)} は V の部分空間である.これを W1 , W2 , . . . , Wm の和といい, W1 + W2 + · · · + Wm で表す. 部分空間の共通部分 F 上の線形空間 V において,W1 , W2 が部分空間であるとき,それらの(集合とし ての)共通部分 W1 ∩ W2 は,V の部分空間である.この部分空間を部分空間 W1 , W2 の共通部分という. ◁ W1 , W2 が部分空間であるとき,W1 ∪ W2 は一般には部分空間とならない. 4
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