結合型 KP ヒエラルキーから導かれた結合型戸田格子とその簡約 東京大学大学院数理科学研究科 Fund for Scientific Research, Flanders (Belgium) ウィロックス・ラルフ (WILLOX Ralph)∗ 結合型 KP ヒエラルキーに付随して、結合型戸田格子のような非局所的な可積分系の構成が可能 であることを示し、その結合型戸田格子の局所的な簡約を実例を挙げて説明する。特に、簡約で得 られている結合型 sinh-Gordon 系 や 結合型 Tzitzeica 系とこれらの Lax pair や Pfaffian 型 tau 函数に対する双線形方程式を議論する。 1. 結合型 KP ヒエラルキーの拡張 広田良吾・太田泰広両氏の 1991 年の論文 [HO] によって、 [D14 − 4D1 D3 + 3D22 ]τ · τ = 24¯ σσ 3 [D1 + 2D3 + 3D1 D2 ]σ · τ = 0 [D3 + 2D − 3D D ]¯ σ·τ =0 1 3 1 (1) 2 結合型 KP と呼ばれている可積分系が Pfaffian で表される τ -函数を持つことが示された。この 方程式は、その発見以前に、Jarmo Hietarinta 氏によって普通の KP 方程式と “higher order Davey-Stewartson” 方程式の結合系として提出されたものである [Hi]。 0 という無限次元のリー代数から構成できる 結合型 KP 方程式は、代数的な面から見れば、D∞ [JM, K1, K3] (本節の内容は、筧 三郎氏との共同研究に基づいてる。)。 このリー代数を自由フェ ルミオン作用素を用いて記述すると、 ψi , ψj∗ (i, j ∈ Z) : 0 D∞ ={ X [ψi , ψj∗ ]+ = δij , X ai,j : ψi ψj∗ : + i,j∈Z i,j∈Z [ψi , ψj ]+ = [ψi∗ , ψj∗ ]+ = 0 bi,j ψi ψj + X ci,j ψi∗ ψj∗ } i,j∈Z という定義になる。 自由フェルミオンによる定式化から出発すると、結合型 KP 方程式とそのヒエラルキーに対す る τ -函数 τn (x) は次のように定義される: 0 X ∈ D∞ , g = eX : H(x) = ∞ X n=1 τn (x) = hn|eH(x) g|`i xn X ∗ ψj ψj+n , (n = ` mod 2, ` = 0, 1, n ∈ N) x = (x1 , x2 , x3 , . . . ) j∈Z KP ヒエラルキーのように、τ -函数の定義における hn| や |`i は、自由フェルミオン代数のフォック表 現の “heighest weight” ベクトルである。そうして、結合型 KP (1) に現れる τ, σ ¯ , σ は、τ = τn (x), σ ¯ = τn+2 (x), σ = τn−2 (x) という風に上述の τ -函数に関連する。 ∗ E-mail : [email protected] 1 H(x) というハミルトニアンに加えて、新しい “negative weight” と呼ばれる時間発展パラメー ¯ ター y によるハミルトニアン H(y) を導入し、 ¯ H(y) = ∞ X n=1 yn X ∗ ψj ψj−n , y = (y1 , y2 , y3 , . . . ), j∈Z 2次元格子 (n, `) 上の τ -函数を (n, ` ∈ Z) ¯ ¯ τn,` (x, y) = hn + `|eH(x) eH(y) g e−H(y) |n − `i と定義する。上記の結合型 KP の τ -函数は τn,0 (x, y = 0) としてこの定義に含まれている。従っ 0 の構造を利用し、結合型 KP の2次元格子上の拡張が構成できる。この 2 次元格子上の て、D∞ 発展方程式が次の双線形恒等式から得られる。∀x, y, x0 , y0 , ∀n, `, n0 , `0 : I 0 0 1 dk [Vn,` (x, y) Vn∗0 ,`0 (x0 , y0 ) eξ(x−x ,k)+ξ(y−y , k ) ] C I + dk ∗ [Vn+1,`+1 (x, y) 0 −ξ(x−x0 ,k)−ξ(y−y0 , k1 ) 0 Vn0 −1,`0 −1 (x , y ) e (2) ] = 0, C P∞ ∗ (x, y) は、k = ∞ と k = 0 という得意点の近傍に τ (x, y) ξ(x, k) = n=1 xn k n 。Vn,` (x, y), Vn,` n,` で記述できる。 ( n+` k τn,` (x − ε[k −1 ], y), k≈∞ Vn,` (x, y) = k n−` τn+1,` (x, y − ε[k]), k≈0 ( −n−` k τn,` (x + ε[k −1 ], y), k ≈ ∞ ∗ Vn,` (x, y) = k `−n τn−1,` (x, y + ε[k]), k ≈ 0, 2 3 ε[k] = (k, k2 , k3 , . . . ) 。線積分に現れる C という積分路は k = ∞ と k = 0 を周回している。 こういう風に “negative weight” の時間発展を導入したことによって恒等式 (2) から拡張された ヒエラルキーの双線形方程式が得られる。次のような系は、そのヒエラルキーの代表的な方程式で ある。 1 Dx Dy τn,` · τn,` = (τ 2 − τn+1,` τn−1,` ) + τn,`+1 τn,`−1 n,` 2 (3) Dy τn+1,`+1 · τn,` + Dx τn+1,` · τn,`+1 = 0 ここで、x と y は、x1 = x, y1 = y と省略したものである。方程式系 (3) の第一番目の関係式は、 2次元戸田格子(“n” という方向)と2次元 molecule Toda と呼ばれている有限戸田格子(“`” と いう方向)との結合のように見える。その結果、θn , v¯n , vn という従属変数により、 θn (x, y; `) := log v¯n (x, y; `) := τn+1,`+1 , τn,` 2 τn,` τn+1,` τn−1,` , vn (x, y; `) := 結合型戸田格子のような(非局所的な)可積分系が得られる。 2 τn−1,`−1 , τn,` (θ ) = 2(vn+1 v¯n−1 − 1)e−θn − (vn+2 v¯n − 1)e−θn+1 − (vn v¯n−2 − 1)e−θn−1 n xy (¯ vn )y = (¯ vn−1 )x e−θn + (θn + 2∆−1 [θn ])x v¯n−1 e−θn (v ) = (v ) e−θn − (θ + 2∆−1 [θ ]) v e−θn n y n n+1 x n x (4) n+1 この方程式系は、` という格子座標によらないことに注意する。それに、この方程式における非局 所的な項 ∞ X −1 ∆ [θn ] := − θn+j j=0 によると、(4) 式 や この方程式を基づいてる双線形方程式系 (3) は、(n, `) 平面上では、 ` = 0 に 平行している “strip” に定義されている可積分系である。この可積分系に関する Lax pair も双線 型恒等式から導き出せる。 à ! à !à ! ψn (Vn )x + S v¯n S ψn = −1 −1 χn −vn S (Vn−1 )x − S χn x à ! à !à ! ψn e−θn S −1 v¯n−1 e−θn S ψn = −θ −1 −θ n n χn −vn+1 e S e S χn y ここで、 Vn (x, y; `) = log τn+1,` , τn,` θn = Vn−1 − Vn , そして、S は n 上の “shift” である: S : f (n) → f (n + 1)。 2. 局所的な簡約 適当な簡約を課すと、上述の方程式 (4) は局所的な可積分系に制限される。その簡約は2つの大 (1) きなタイプに分けられる。一つは、普通の(A 型)KP ヒエラルキーから An のアフィン リー代 数に対応する可積分系へのような簡約である。それ以外には A-型 KP から B-型 KP へと同じよ うな簡約も可能である。 2.1 周期的な簡約 τn+p,` に周期性を課すと (∀x, y, n, `) τn+p,` = τn,` ⇒ p−1 X θn = 0 (p ∈ N), n=0 上記の結合型戸田格子 (4) は、局所的な格子に簡約される。こいう τ -函数を生成している代数は 0 {X ∈ D∞ | [adX , ιp ]− = 0 } , ⇔ ιp : ψj → ψj−p , ∗ ψj∗ → ψj−p 0 {X ∈ D∞ | ai+p,j+p = ai,j , bi+p,j+p = bi,j , ci+p,j+p = ci,j } 0 の) sub algebra である。一方、2次元戸田格子の場合と異なり、当周期的な簡約は結 という (D∞ 合型 KP ヒエラルキーの p−reduction を伴っていない。すなわち、τn+p,` = τn,` ⇒ / τ xn = τy n = 0 。 3 周期 p = 2 の場合は、上述の簡約の良い実例である。この場合には、結合型 sinh-Gordon のよ うな系が得られる。 τn+2,` = τn,` ⇒ θ0 + θ1 = 0, θ2 = θ0 , θ−1 = θ1 , . . . θxy = 2(v1 v¯−1 − 1)e−θ − 2(v¯ v − 1)eθ v¯y = (¯ v−1 )x e−θ vy = (v1 )x e−θ (v1 )y = vx eθ (¯ v−1 )y = v¯x eθ (5) ここで、θ , v , v¯ , v1 , v¯−1 という従属変数は6つの独立の τ -函数 τ0,` , τ0,`+1 , τ0,`−1 , τ1,` , τ1,`+1 τ1,`−1 によって定義される。 τ0,` τ1,` τ0,`+1 , v¯−1 = τ1,` τ0,`−1 , v1 = τ1,` θ := θ0 = 2 log τ1,`+1 τ0,` τ1,`−1 v= τ0,` v¯ = その6つの τ -函数に対する双線形方程式は、次の形になる。 1 2 2 Dx Dy τ0,` · τ0,` = τ0,`+1 τ0,`−1 + (τ0,` − τ1,` ) 2 1 2 2 ) − τ0,` Dx Dy τ1,` · τ1,` = τ1,`+1 τ1,`−1 + (τ1,` 2 Dy τ1,`+1 · τ0,` + Dx τ1,` · τ0,`+1 = 0 Dy τ0,`+1 · τ1,` + Dx τ0,` · τ1,`+1 = 0 Dy τ1,` · τ0,`−1 + Dx τ1,`−1 · τ0,` = 0 Dy τ0,` · τ1,`−1 + Dx τ0,`−1 · τ1,` = 0 尚、結合型 sinh-Gordon (5) に関する Lax pair は 4 × 4 の行列で記述できる。 1 0 λ λ¯ v ψ0 ψ0 − 2 θx χ 0 1 1 1 − 2 θx − λ v − λ χ0 0 = ψ1 λ λ¯ v−1 12 θx 0 ψ1 1 χ1 x 0 χ1 − λ1 v1 − λ1 2 θx 1 −θ ψ0 λ¯ v−1 e−θ ψ0 0 0 λe χ 0 1 −θ −θ 0 − λ v1 e −λe χ0 0 = 1 θ θ ψ 1 ψ 1 λe λ¯ ve 0 0 1 θ θ − λ ve −λe 0 0 χ1 y χ1 さらに、(5) 式に v¯ = v, v¯−1 = v1 という条件を課すことも可能である。 θ = 2(v12 − 1)e−θ − 2(v 2 − 1)eθ xy v¯y = (¯ v1 )x e−θ (v ) = v eθ 1 y x 4 この方程式に対応する τ -函数は “coupled KdV” という可積分系 [HS,K2] の τ -函数と同じものだ と思われている。 2.2 半無限格子への簡約 0 の要素に対応する τ -函数は半無限格子上に制限される。 以下の条件を満たす D∞ 0 {X ∈ D∞ | σ0 [X] = X } , ⇔ σ0 : ∗ ψj → (−)j ψ−j , ψj∗ → (−)j ψ−j 0 {X ∈ D∞ | ai,j = (−)1+i+j a−j,−i , bi,j = (−)i+j c−i,−j } ¯ ) = (x|xeven =0 , y|yeven =0 ) という変数に限ると、τ (¯ ¯ ) が特別な対称性を持つ。 独立変数を (¯ x, y x, y ¯ ) = (−)` τ1−n,−` (¯ ¯) τn,` (¯ x, y x, y けれども、一般的には、この対称性から得られた格子は局所的ではないが、` = 0 という線の上 では、簡約を行った方程式は局所的な系になる。 こうして、得られた格子をさらに単純にするため、まず上述の簡約を行い、それに (例えば、p = 3) の周期的な条件を課すと τ−2,` = τ1,` = (−)` τ0,−` , 次の方程式が得られる: θxy = e2θ (1 + ν 2 ) − e−θ (1 − ωω ∗ ) νy = (ωx + ωθx )e−θ ωy + (ω ∗ e−θ )x = 0 ω ∗ + ν e2θ = 0 x y (6) この方程式は、結合型 Tzitzeica [Tz,NW] のような可積分系である。ここで、θ , ν , ω , ω ∗ と いう従属変数は5つの独立の τ -函数 τ0,0 , τ−1,0 , τ−1,−1 , τ0,1 , τ0,−1 によって定義される。 θ = log ν= τ−1,−1 , τ0,0 ω= τ0,0 τ−1,0 τ0,−1 , τ0,0 5 ω∗ = τ0,1 τ−1,0 この5つの τ -函数に対する双線形方程式は、次の形になる。 1 2 Dx Dy τ0,0 · τ0,0 = (τ0,0 − τ0,0 τ−1,0 ) + τ0,1 τ0,−1 2 1 2 2 2 Dx Dy τ−1,0 · τ−1,0 = (τ−1,0 − τ0,0 ) − τ−1,−1 2 − Dy τ0,−1 · τ0,0 + Dx τ0,0 · τ0,1 = 0 Dy τ0,1 · τ−1,0 − Dx τ0,0 · τ−1,−1 = 0 D τ ·τ +D τ ·τ =0 y 0,0 −1,−1 x 0,−1 −1,0 尚、結合型 sinh-Gordon (6) に関する Lax pair は 6 × 6 の行列で記述できる。 ψ0 ψ 1 ψ 2 χ 0 χ1 χ2 y ψ0 ψ0 0 0 λ 0 0 − λ1 ω 1 ∗ θx 0 0 0 ψ1 ψ1 λ λω 1 ψ2 0 λ −θx 0 −λν 0 ψ2 = 1 χ 0 −λν 0 −θx − λ 0 χ0 0 0 λω ∗ 0 θx − λ1 χ1 χ1 0 χ2 0 0 χ2 x −λω 0 0 − λ1 1 ∗ −θ 1 −θ 0 0 0 ψ0 0 λe λω e 1 1 2θ 2θ − λ νe 0 0 ψ1 0 0 λ λe 1 −θ 1 −θ e 0 0 0 − λ ωe 0 λ ψ2 = −θ −θ −λωe 0 0 0 −λe χ0 0 0 −λνe2θ −λe2θ 0 0 χ1 0 λω ∗ e−θ 0 0 0 −λe−θ 0 χ2 References [Hi] J. 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