(A1-2) 公益財団法人山口大学後援財団 「教員・研究者による研究

(A1-2)
公益財団法人山口大学後援財団
「教員・研究者による研究プロジェクトに対する助成事業」 [成果報告書]
平成 26 年 4 月 30 日
1.研究代表者
ふりがな やまもと ゆい
所属 山口大学大学院医学系研究科
職名 助教
氏名 山本 由似
2.研究課題名
前部帯状皮質神経細胞における FABP3 による認知・情動行動調節機構の解析
3.研究実施の成果(本財団の助成がもたらした効果についても記載してください。)
脂肪酸は生体に必要不可欠な栄養素で、あらゆる生命現象に関与する。不飽和結合を 2 つ以上有する多価不飽和
脂肪酸 (PUFA) の多くは、食餌からの摂取に依存する必須脂肪酸として知られている。生体膜リン脂質を構成して
いる脂肪酸の PUFA 含有率が高いほど流動性が増し、神経細胞においては情報伝達効率が高まる。PUFA 摂取不足は
様々な全身症状を引き起こす。疫学調査から、統合失調症、双極性障害やうつ病など精神疾患において、脳内 PUFA
が低下していることが明らかになった。しかし、以上の疫学データと精神疾患の関連を結ぶ分子や制御機構は不明
である。
我々は、PUFA の認知機能を含めた高次脳機能に及ぼす影響と、その制御機構を解明する鍵としてとして、脂肪酸
結合蛋白質(FABP)を見出した。FABP は、水に不溶な脂肪酸や脂肪酸代謝物の細胞内取り込み・輸送・代謝の調節を
介して、様々な細胞機能に関わっていると考えられている。すなわち脂肪酸が機能を発揮するための制御分子であ
る。中枢神経系の神経細胞には、PUFA に親和性が高い FABP3 が特異的に発現する。FABP3 遺伝子欠損(KO)マウス
では認知・情動行動異常が起こる。さらに FABP3 は、外界からの情報統合を司る前部帯状皮質に高発現し、GABA 性
の抑制性神経において、特徴的な発現を示す。前部帯状皮質神経活動の認知機能や情動表出への関与は多く報告さ
れているが、FABP3 によって制御される前部帯状皮質神経細胞内の脂質代謝変化と、前部帯状皮質に関連する情報
処理との関係について不明な点が多い。そこで本研究では、FABP3 が、神経細胞の脂質恒常性をいかに制御し、認
知・情動行動にどのような生理的意義を持つのか FABP3 KO マウスの解析を中心に検証した。
本研究では、以下の点を明らかにすることができた。前部帯状回皮質のパルブアルブミン(GABA 作動性抑制性神
経のマーカー)陽性細胞の約 80%は、FABP3 を発現していた。FABP3 KO マウスの前部帯状皮質では、GABA 合成酵素
のグルタミン酸脱炭酸酵素 67(GAD67)のタンパク質及び mRNA が、野生型マウスと比べて有意に増加していた。
GAD67 の上昇と一致して、GABA の量も増加していた。一方、興奮性神経の神経活動を主に反映する、カルシウム/
カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II の活性は低下していた。一致して、興奮性アミノ酸のグルタミン酸の
放出量が低下していることが、マイクロダイアリシス法を用いた解析から明らかになった。これらの結果は、FABP3
KO マウスの前部帯状皮質では、神経細胞の興奮と抑制機構のバランスが破たんし、その結果として、前部帯状皮質
が重要な役割を果たす認知・情動行動に異常を来たした可能性を示唆するものである。
貴財団からの助成により、抗体・試薬等の購入に際し多大なる貢献をいただき、本研究を実施することができた。
4.研究課題の今後の展望
本研究では、前部帯状回皮質の抑制性神経細胞における、FABP3 の詳細な発現と機能を明らかにできた。しかし
ながら、その詳細な分子機構は不明なままである。今後は本研究をもとに、FABP3 の抑制性介在神経における機能
修飾の詳細な分子機構を明らかにしていきたい。