誘導表現と JACQUET 加群. 中村 健太郎* Abstract. 本稿では, まず, 誘導関手の随伴関手となる Jacquet 関手の (一般の 状況で成り立つ) 基本性質について解説する. 次に, 本稿以降 ([阿部], [佐藤]) で用 いられる幾何的補題 ([BeZe]2.12) と呼ばれる定理について解説する. Contents 1. Jacquet 関手 2. 幾何的補題 2.1. Key lemmas on G-equivariant l-sheef 2.2. 幾何的補題 References 1 4 4 6 10 本稿では Hausdorff 完全不連結局所コンパクト群のことを, l 群と呼ぶ. l 群 G に対 し, G の smooth 表現の圏を R(G) と記す. δG : ∫G → R× (つま + を G のモジュラス指標 ∫ り, 左普遍測度 µG を一つ固定したとき, 等号 G f (xg)µG (x) = δG (g) G f (x)µG (x) で定義される指標) とする. G の閉部分群 H に対して, δG/H : H → R× + : h 7→ −1 δG (h)δH (h) と定める. l 群 N がコンパクト部分群による極限 (limit of compact subgroups) とは, 任意のコンパクト部分集合 K0 ⊆ N に対して, K0 を含む N のコ ンパクト部分群が存在することと定義する. 1. Jacquet 関手 G を l 群とする. G の閉部分群 Q で, Q の正規部分群 N と閉部分群 L があり, Q = L ⋉ N (半直積) となっているものとする. さらに, N はコンパクト部分群の 極限であると仮定する. ψ : N → C× を連続指標で, 任意の n ∈ N , l ∈ Q に対し て ψ(lnl−1 ) = ψ(n) を満たすものとする. N に関する仮定から ψ(N ) ⊆ C1 := {z ∈ C× ||z| = 1} である, 特に ψ(n) = ψ(n)−1 であることに注意. G 以上の設定で, R(G) から R(L) への関手 rQ,ψ : R(G) → R(L) を以下のように 定義する. π = (π, V ) を G の smooth 表現とする. まず, V の部分 C-ベクトル空間 V (N, ψ) を V (N, ψ) := {π(n)v − ψ(n)v|n ∈ N, v ∈ V }C *北海道大学理学研究院数学部門. e-mail:[email protected] 1 と定義する (ここで, 部分集合 S ⊆ V に対し, SC を S で生成される V の部分 C-ベ クトル空間と記す). l ∈ Q に対して, ψ(n) = ψ(lnl−1 ) なので等号 π(l)(π(n)v − ψ(n)v) = π(lnl−1 )(π(l)v) − ψ(lnl−1 )(π(l)v) が成り立つ. 特に, V (N, ψ) は Q の作用で閉じている. VQ,ψ := V /V (N, ψ) とし, 自 然な商写像を jQ,ψ : V → VQ,ψ と記す. Definition 1.1. R(G) から R(L) への関手 G G (π) = (πQ,ψ , VQ,ψ ) : R(G) → R(L) : π = (π, V ) 7→ rQ,ψ rQ,ψ を 1/2 πQ,ψ (l) · jQ,ψ (v) := δG/Q (l) · jQ,ψ (π(l) · v) G G を Jacquet 関手, rQ,ψ (π) を π の (l ∈ L, v ∈ V ) と定める. 本稿では, 関手 rQ,ψ Jacquet 加群 (または, (Q = L ⋉ N, ψ) を明らかにしたいときは, (Q = L ⋉ N, ψ) に関する Jacquet 加群) と呼ぶ. 本稿では, Jacquet 加群について一般的な状況で (つまり, 一般の l 群 G に対して) 成り立つ基本性質に関するいくつかの命題を紹介する. まずは, Jacquet 関手の合成に関する命題を紹介する. l 群 G, Q = L ⋉ N , 指標 ψ を上と同様とする. R = M ⋉ U を L の閉部分群, U はコンパクト部分群の極限と し, χ : U → C× を χ(mum−1 ) = χ(u) (u ∈ R, u ∈ U ) を満たす指標とする. これか ら, 関手 L rR,χ : R(L) → R(M ) を定義することが出来る. さらに, R と N で生成される部分群 RN = (M ⋉U )⋉N = M ⋉ (U ⋉ N ) を考えると, U ⋉ N はコンパクト部分群の極限となり, 写像 χ ⊠ ψ : U ⋉ N → C× : (u, n) 7→ χ(u) · ψ(n) を定義すれば, 条件 ψ(lnl−1 ) = ψ(n) (l ∈ L, n ∈ N ) より, この写像は指標となる. よって, 関手 G rRN,χ⊠ψ : R(G) → R(M ) を定義することが出来る. Proposition 1.2. 上の状況で, R(G) から R(M ) への関手の自然な同型 ∼ L G G rRN,χ⊠ψ → rR,χ ◦ rQ,ψ が存在する. Proof. π = (π, V ) ∈ R(G) に対して, 写像 VRN,χ⊠ψ → (VQ,ψ )R,χ : jRN,χ⊠ψ (v) 7→ jR,χ (jQ,ψ (v)) が well-defined で, M の表現として同型となることを示せばよい. これは定義から 容易に従う. □ 2 l 群 N の smooth 表現 π = (π, V ) と指標 ψ : N → C× に対して, 同様に C ベクト ル空間 V (N, ψ) = {π(n) · v − ψ(n) · v|n ∈ N, v ∈ V }C と定義する. Lemma 1.3. N はコンパクト群の極限とする. このとき, v ∈ V に関して次の条 件は同値. (i) v ∈ V (N, ψ). (ii) ある N のコンパクト部分群 K が存在して, ∫ ψ(n) · π(n) · v · dK (n) = 0 K となる (ここで, ψ(n) は ψ(n) の複素共役, ψ(n) ∈ C× より ψ(n) = ψ(n)−1 となっている). Proof. まず, N の表現 π⊗ψ −1 := (π⊗ψ −1 , V ⊗ψ −1 ) を, V ⊗ψ −1 := V , (π⊗ψ −1 )(n)· v := ψ −1 (n) · π(n) · v (n ∈ N, v ∈ V ) と定義すると, V (N, ψ) = (V ⊗ ψ −1 )(N, 1) (ここで, 1 : N → C× は自明な指標) となるので, ψ = 1 の場合を示せばよい. そこで以下, ψ = 1 とする. N の任意のコンパクト部分群 K に対して, V (K) := {π(k)v − v|k ∈ K, v ∈ V }C と定義すると, N がコンパクト部分群の極限であるという仮定により, 等式 V (N, 1) = ∪K⊆N V (K) (ここで, K は N のコンパクト部分群全体を動く) が成り立つ. この等式と等式 ∫ V (K) = {v ∈ V | π(k)vdK (k) = 0}C K ([高瀬]) から補題が従う. □ G Proposition 1.4. 関手 rQ,ψ : R(G) → R(M ) は完全関手である. G Proof. rQ,ψ の定義と蛇の補題 (snake lemma) により, 関手 π = (π, V ) 7→ V (N, ψ) が完全であることを示せばよい. この完全性は前補題から容易に従う. □ 次に, Jacquet 関手と誘導表現との関係について解説する. π = (π, V ) ∈ R(L) に 対して, Q = L⋉N の表現 π ⊠ψ = (π ⊠ψ, V ) を (π ⊠ψ)(l, n)·v := ψ(n)π(l)v によっ て定義する (条件 ψ(lnl−1 ) = ψ(n) よりこれは Q の表現となる). π = (π, V ) ∈ R(Q) と指標 δ : Q → C× に対して, δ · π := (δ · π, V ) ∈ R(Q) を (δ · π)(l)v := δ(l)π(l)v と定義する. Definition 1.5. R(L) から R(G) への二つの関手 G IQ,ψ , ιG Q,ψ : R(G) → R(L) を, π ∈ R(L) に対して, −1/2 −1/2 G G G (π) := IndG IQ,ψ Q (δG/Q · π ⊠ ψ), ιQ,ψ (π) := indQ (δG/Q · π ⊠ ψ) 3 を対応させる関手と定義する. G G Proposition 1.6. 関手 rQ,ψ は関手 IQ,ψ の左随伴関手である. つまり, 任意の π = (π, V ) ∈ R(G), τ = (τ, W ) ∈ R(L) に対して, 関手的な同型 ∼ G G HomG (π, IQ,ψ (τ )) → HomL (rQ,ψ (π), τ ) が存在する. G G →τを (τ ) に対して, L-加群の射 Fφ : rQ,ψ Proof. G-加群の射 φ : π → IQ,ψ Fφ (jQ,ψ (v)) := φ(v)(eG ) (v ∈ V ) と定義すれば (ここで, eG ∈ G は G の単位元), この射が well-defined であり, 同型 ∼ G G (π), τ ) を与えることを容易に示すことが出来る. HomG (π, IQ,ψ (τ )) → HomL (rQ,ψ □ 2. 幾何的補題 G を l 群とする. 前章では G の閉部分群 Q = L ⋉ N と指標 ψ : N → C× で前章 G の仮定を満たす組 (Q, ψ) に対して Jacquet 関手 rQ,ψ を定義した. この章では, 同じ 仮定を満たす G の閉部分群 R = M ⋉ U と指標 χ : U → C× の組 (R, χ) がもう一 組あったときに, 合成関手 (誘導関手をとってから Jacquet 関手をとったもの) G rQ,ψ ιG M,χ R(M ) −−→ R(G) −−→ R(L) を逆の順序の合成関手 (Jacquet 関手をとってから誘導関手をとったもの) によって 具体的に記述する幾何的補題 (geometric lemma [BeZe] 2.12) と呼ばれる定理 (補 題?) を紹介する. この定理は, [阿部], [佐藤] の稿で用いられる重要な定理であるが, 定理の証明の議論 ([高瀬] で解説している l 層の理論を用いる) は本稿以降の内容と はあまり関係ないように思われる. そこで, 初見の読者は, 証明を飛ばして定理の 主張を理解するのみにとどめて, [阿部], [佐藤] の稿で実際にこの定理がどのような 状況で用いられているかを理解した後に (証明が気になる人がいれば) 証明の部分 を読む, という風にした方が理解がスムースに得られるようになると思われる. 2.1. Key lemmas on G-equivariant l-sheef. 幾何的補題の証明では, [高瀬] で 解説している l-層の理論が必要となる. まず, この §2.1 では, 幾何的補題の証明で 用いる l-層に関するいくつかの補題を紹介する. ∞ X を l 空間 (完全不連結局所コンパクト Hausdorff 空間) とし, CX を X 上の複 ∞ 素数値 smooth 関数のなす C-代数の層とする. X 上の l-層とは CX -加群のことで あった. X 上の l-層 L に対して, X 上コンパクト台を持つ切断のなす部分空間を Γc (X, L) := {s ∈ Γ(X, L)|supp(s) : compact} とおいたとき, 対応 L 7→ Γc (X, L) は, X 上の l-層の圏から Cc∞ (X) · L = L となる Cc∞ (X)-加群 L たちからなる圏への圏同値を与えていた. h : Y → X を l 空間の間の射, L を Y 上の l-層とする. このとき, Cc∞ (Y )-加群 Γc (Y, L) は C ∞ (Y )-加群でもあるが, h により誘導される環準同型 h∗ : Cc∞ (X) → C ∞ (Y ) を用いて (h が固有射, つまり X の任意のコンパクト部分集合 K に対して 4 h−1 (K) がコンパクトという性質を持たない場合は, h∗ (Cc∞ (X)) ⊆ Cc∞ (Y ) となら ないことに注意), Γc (Y, L) に Cc∞ (X)-加群の構造を f · s := h∗ (f ) · s (f ∈ Cc∞ (X), s ∈ Γc (Y, L)) によって定義する. これは, Cc∞ (X)·Γc (Y, L) = Γc (Y, L) を満たすことが容易に分かる. そこで, 前段の圏同値により対応する X 上の l-層が 存在するが, 本稿ではそれを記号で h! L と表す (つまり, h! L は Cc∞ (X)-加群として Γc (X, h! L) = Γc (Y, L) となる唯一の X 上の l-層). h が固有射の場合は h! L = h∗ L となる. Y ⊆ X を l 空間 X の開集合, Z := X \ Y とし, 自然な埋め込みを j : Y ,→ X, i : Z ,→ X と記す. X 上の l-層 L に対して Cc∞ (X)-加群の自然な完全列 0 → Γc (Y, j ∗ L) → Γc (X, L) → Γc (Z, i∗ L) → 0 が存在するが, これより対応する X 上の l-層の完全列 0 → j! j ∗ L → L → i∗ i∗ L → 0 を得る. N を l 群でコンパクト群の極限となるもの, ψ : N → C× を smooth 指標. X を l 空間とし, X への N の連続作用 X × N → X : (x, n) 7→ x · n が与えられていると する. L を X 上の N -同変 l-層とする. 以上の状況で, 次の二つの Key lemma を紹介する. まず, f : X → Y を l-空間の間の射で, 任意の n ∈ N, x ∈ X に対して f (x · n) = f (x) を満たすものとする. このとき, Cc∞ (Y )-加群かつ smooth N -加群である Γc (X, L) の部分空間 Γc (X, L)(N, ψ) と商空間 Γc (X, L)N,ψ := Γc (X, L)/Γc (X, L)(N, ψ) も Cc∞ (Y )-加群となる. そこで, Cc∞ (Y )-加群 Γc (X, L)(N, ψ) と Γc (X, L)N,ψ に対応 する Y 上の l-層をそれぞれ L(N, ψ), LN,ψ と記す. 最初の Key lemma は, l-層 LN,ψ の茎に関するものである. Lemma 2.1. 各 y ∈ Y に対して, 自然な同型 ∼ (LN,ψ )y → Γc (h−1 (y), L|h−1 (y) )N,ψ が存在する. Proof. 茎を取る関手は完全なので, Cc∞ (Y )-加群の完全列 0 → Γc (X, L)(N, ψ) → Γc (X, L) → Γc (X, L)N,ψ → 0 により, 完全列 0 → (L(N, ψ))y → (h! L)y → (LN,ψ )y → 0 ∼ を得る. l-層の一般論により, 自然な同型 (h! L)y → Γ(h−1 (y), L|h−1 (y) ) が存在する が, この同型による同一視により (L(N, ψ))y = Γ(h−1 (y), L|h−1 (y) )(N, ψ) であるこ とも容易に分かる. これより補題は従う. □ 5 次に, N が X へ推移的に作用している場合に, Γc (X, L)N,ψ に関する補題を紹介 する. x ∈ X に対して, Nx := {n ∈ N |x · n = x} とする. x での茎 Lx は smooth Nx -加群となることに注意. Lemma 2.2. N の X への作用が推移的とする. このとき, 各 x ∈ X に対して, (R× + 倍を除いて自然な) 同型 ∼ Γc (X, L)N,ψ → (Lx )Nx ,ψ が存在する. Proof. 自然な商写像を jNx ,ψ : Lx → (Lx )Nx ,ψ と記す. N の L への作用は, 各 n ∈ N , x′ ∈ X に対して同型 ∼ Lx′ ·n → Lx′ : a 7→ n · a を誘導する. この記号を用いて, まずは, Γc (X, L) から (Lx )Nx ,ψ への射を ∫ Γc (X, L) → (Lx )Nx ,ψ : φ 7→ ψ(n) · jNx ψ (n · φ(x · n))dNx \N (¯ n) Nx \N と定義する (ここで, n ∈ N は Nx \ N ∋ n ¯ の任意の持ち上げとする. 被積分関数 に現れている関数 N → C : n ¯ 7→ ψ(n) · jNx ψ (n · φ(x · n)) は, 各 n0 ∈ Nx に対し て, 等式 ψ(n0 n) · jNx ψ (n0 n · φ(x · n0 n)) = ψ(n0 )ψ(n)(ψ(n0 )jNx ,ψ (n · φ(x · n))) = ψ(n)jNx ,ψ (n · φ(x · n)) が成り立つので, Nx \ N 上の関数であることに注意). この 射は, Γc (X, L)(N, ψ) 上ゼロで, 同型 ∼ Γc (X, L)N,ψ → (Lx )Nx ,ψ を誘導する (詳細は略, 証明は難しくない). □ 2.2. 幾何的補題. l 群 G の二つの閉部分群 Q = L ⋉ N , R = M ⋉ U と, Q 及び R の共役作用でそれぞれ不変な指標 ψ : N → C× , χ : U → C× を考える. N, U はコ ンパクト群の極限とする. g ∈ G と G の閉部分群 H に対して, g H := gHg −1 , H g := g −1 Hg と記し, π = (π, V ) ∈ R(H) に対して, g π := (g π, V ) ∈ R(g H) を g π(h)v := π(g −1 hg)v (h ∈ g H, v ∈ V ) と定義する. π g ∈ R(H g ) も同様に定義. 本節では, 次の仮定 (1), (2), (3) の下で合成関手 ιG R,ψ G rQ,ψ R(M ) −−→ R(G) −−→ R(L) を記述する幾何的補題を紹介する. (1) 両側剰余類の集合 R\G/Q は有限集合, つまり, ある r ∈ Z≧1 , {g1 , g2 , · · · gr } ⊆ G が存在し, G = ⊔ri=1 Rgi−1 Q と書ける (以下, このような {g1 , g2 , · · · gr } を固定する). 6 (2) 各 1 ≦ i ≦ r, H = R, M, U に対して, gi H ∩ Q = (gi H ∩ L) ⋉ (gi H ∩ U ) が成立する. 同様に, H = Q, L, N に対して, H gi ∩ R = (H gi ∩ M ) ⋉ (H gi ∩ U ) が成立する (これらはそれぞれ, H ∩ Qgi = (H ∩ Lgi ) ⋉ (H ∩ U gi ), H ∩ gi R = (H ∩ gi M ) ⋉ (H ∩ gi U ) と同値である). (3) 共通部分で ψ と χ の共役は等しい. つまり, 各 1 ≦ i ≦ r に対して, gi χ|gi U ∩N = ψ|gi U ∩N が成り立つ. 仮定 (2) によって, L の閉部分群 L ∩ gi R = (L ∩ gi M ) ⋉ (L ∩ gi U ) と指標 gi χ : L ∩ gi U → C× に対して, 関手 ιLL∩gi R,gi χ : R(L ∩ gi M ) → R(L) が定義できる. 同様に M の閉部分群 M ∩ Qgi = (M ∩ Lgi ) ⋉ (M ∩ N gi ) と指標 ψ gi : M ∩ N gi → C× により関手 gi M rM ∩Qgi ,ψ gi : R(M ) → R(M ∩ L ) を得る. ιG R,ψ G rQ,ψ 以上の準備の下, 合成関手 R(M ) −−→ R(G) −−→ R(L) に関する次の定理を紹 介する. Theorem 2.3. (幾何的補題 [BeZe]2.12) (1) {gi }ri=1 の番号付けを適当に変えることで, 各 1 ≦ j ≦ r に対して, ⊔ji=1 Rgi−1 Q が G の開集合となるようにできる. G (2) ((1) を満たす番号付けを固定したとき) π ∈ R(M ) に関して関手的な, rQ,ψ ◦ G ιR,χ (π) の部分 smooth L 加群によるフィルトレイション G 0 =: F0 (π) ⊆ F1 (π) ⊆ F2 (π) ⊆ · · · ⊆ Fr (π) := rQ,ψ ◦ ιG R,χ (π) で, 各 1 ≦ i ≦ r に対して, ∼ 1/2 1/2 M gri F• (π)(:= Fi (π)/Fi−1 (π)) → ιLgi R∩L,gi χ (δN/(gi M ∩N ) · gi (δU/(U ∩Lgi ) · rM ∩Qgi ,ψ gi (π))) となる (つまり, 関手 gri F• : R(M ) → R(L) は合成関手 1/2 M δU/(U ∩Lgi ) ·rM ∩Qgi ,ψ gi 1/2 δN/(gi M ∩N ) ·gi (−) ιL gi R∩L,gi χ R(L) −−−−−−−−−−−−−→ R(M ∩ L ) −−−−−−−−−−→ R(gi M ∩ L) −−−−−−→ R(L) gi と同型である) ものが存在する. 7 Proof. まず (1) の証明について. l 空間の一般論により, 「l 空間 X に l 群 H が連続 に(左から)作用していて剰余類の集合は有限 X = ⊔ri=1 H · xi となるとき, ある i が存在して Hxi が X の開集合となる」ことが知られている. この事実を, X = G, H = R × Q, H の X への作用を (m, l) · g := mgl−1 (m ∈ R, l ∈ Q, g ∈ G) とした 場合へ適用することで, Rgi−1 Q は G の開集合となる gi を選ぶことが出来る. 番号 付けを変えて gi = g1 とする. 次に, X ′ = ⊔ri=2 Rgi−1 Q , H = R × Q に上の事実を適 用することで, (番号付けを変えて) Rg2−1 Q が ⊔ri=2 Rgi−1 Q の開集合とできる. この とき, 補集合 ⊔ri=3 Rgi−1 Q は ⊔ri=2 Rgi−1 Q の閉集合で, さらに, ⊔ri=2 Rgi−1 Q は G の閉 集合なので, ⊔ri=3 Rgi−1 Q も G の閉集合, よって ⊔2i=1 Rgi−1 Q は G の開集合となる. 以下, 帰納的にこの議論を繰り返すことで (1) の主張を得る. 次に (2) を証明する. まず, l-層と誘導表現の関係 ([高瀬]) により, (π ∈ R(M ) に G −1/2 対して) ιG R,χ (π) = indR (δG/R · π ⊠ χ) に対して, R \ G 上の G 同変 l-層 L で, R-加 群として ∼ −1/2 L[R] → δG/R · π ⊠ χ で (ここで, g ∈ G に対して (R \ G ∋)[Rg] を g の定める剰余類とする), G-加群と して ∼ Γc (R \ G, L) → ιG R,χ (π) となるものが存在する. ここで (1) の空間の分割を用いて, Γc (R \ G, L) のフィル トレイション −1 0 ⊆ Γc (R\Rg1−1 Q, L) ⊆ Γc (R\⊔2i=1 Rgi−1 Q, L) ⊆ · · · ⊆ Γc (R\⊔r−1 i=1 Rgi Q, L) ⊆ Γc (R\G, L) を得る. ここで, R\⊔ji=1 Rgi−1 Q は Q の作用で閉じているので, このフィルトレイショ G ンは部分 smooth Q 加群によるものである. これに完全関手 rQ,ψ : R(Q) → R(L) j −1 G G G を施し, Fj (π) := rQ,ψ (Γc (R \ ⊔i=1 Rgi Q, L) とおけば, rQ,ψ ◦ ιR,χ (π) の部分 L 加群 によるフィルトレイション G 0 =: F0 (π) ⊆ F1 (π) ⊆ · · · ⊆ Fr (π) := rQ,ψ ◦ ιG R,χ (π) を得る. 構成により, この定義は明らかに π に関して関手的である. よって, あと はこのフィルトレイションの次数 i 成分が (2) の条件を満たすことを示せばよい. G まず, Γc (−, L) の性質と rQ,ψ の完全性により, smooth L-加群としての同型 ∼ G gri F• (π) → rQ,ψ (Γc (R \ Rgi−1 Q, L)) を得る. よってあとは, smooth L 加群の同型 ∼ M G (Γc (R \ Rgi−1 Q, L)) → ιLgi R∩L,gi χ (δN/(gi M ∩N ) · gi (δU/(U ∩Lgi ) · rM rQ,ψ ∩Qgi ,ψ gi (π))) 1/2 1/2 を示せばよい. ここでは, 簡単のため両辺の表現空間が同型となることのみを示す (L 加群とし て同型となることも, この証明から容易に分かる). まず, 左辺の表現空間は Γc (R \ Rgi−1 Q, L)N,ψ である. 両辺の Q-作用と両立する 位相同型 ∼ (gi R ∩ Q) \ Q → R \ Rgi−1 Q : [(gi R ∩ Q)g] 7→ [Qgi−1 g] 8 から同型 ∼ Γc (R \ Rgi−1 Q, L)N,ψ → Γc ((gi R ∩ Q) \ Q, L)N,ψ を得る. ここで, 自然な射影 (gi R ∩ Q) \ Q → (gi R ∩ Q) \ Q/N と L-作用と両立する位相同型 (gi R ∩ Q) \ Q/N = (gi R ∩ Q)N \ Q = ((gi R ∩ L) ⋉ (gi R ∩ N ))N \ (L ⋉ N ) ∼ = ((gi R ∩ L) ⋉ N ) \ (L ⋉ N ) → (gi R ∩ L) \ L (ここで, 最後の同相写像は [((gi R ∩ L) ⋉ N )(l, n)] 7→ [(gi R ∩ L)l] で定義されるも のとする) の合成を hi : (gi R ∩ Q) \ Q → (gi R ∩ L) \ L とおき, Li := L|(gi R∩Q)\Q とすると, Lemma 2.1 の前段の記号を用いて Γc (R \ Rgi−1 Q, L)N,ψ = Γc ((gi R ∩ L) \ L, (Li )N,ψ ) となる. (Li )N,ψ は等質空間 (gi R ∩ L) \ L 上の L 同変 l-層なので, 高瀬氏の稿より, L 加群としての同型 ∼ Γc ((gi R ∩ L) \ L, (Li )N,ψ ) → indL(gi R∩L) (((Li )N,ψ )[gi R∩L] ) が存在する. ここで, hi は Lemma 2.1 の条件を満たすので, Lemma 2.1 より同型 ∼ gi ((Li )N,ψ )[gi R∩L] → Γc (h−1 )N,ψ gi i ([ R ∩ L]), Li |h−1 i ( R∩L) gi gi gi が存在する. h−1 i ( R ∩ L) = ( R ∩ L) \ ( R ∩ L) ⋉ N であり, これは上の位相同 ∼ −1 型 (gi R ∩ Q) \ Q → R \ Rgi Q で移すと R \ Rgi−1 N である. よって, 同型 ∼ ((Li )N,ψ )[gi R∩L] → Γc (R \ gi−1 N, L|R\Rgi−1 N )N,ψ を得る. N は R \ Rgi−1 N に推移的に作用していて, 点 [Rgi−1 ] での固定化部分群は gi R ∩ N であるから, Lemma 2.2 より同型 ∼ Γc (R \ gi−1 N, L|R\Rgi−1 N )N,ψ → (L[Rgi−1 ] )gi R∩N,ψ を得る. また, gi R-加群の同型 ∼ ∼ −1/2 L[Rgi−1 ] → gi (L[R] ) → gi (δG/R · π ⊠ χ) がある. 以上の同型を合わせて, L-加群の同型 ∼ −1/2 G (Γc (R \ Rgi−1 Q, L)) → δG/Q · indLgi R∩L (gi (δG/R · π ⊠ χ)gi R∩N,ψ ) rQ,ψ 1/2 1/2 1/2 gi M を得る. 最後に, この右辺は ιL gi R∩L,gi χ (δ N/(gi M ∩N ) · (δU/(U ∩Lgi ) · rM ∩Qgi ,ψ gi (π))) と 同型になることが容易にチェックでき, 定理の証明が終わる. □ 9 References [BeZe] I.N.Bernstein and A.V.Zelevinsky, Induced representations of reductive p-adic groups. I, ´ Ann. Sci. Ecole Norm. Sup. (4) 10 (1977), no. 4, 441-472. [阿部] 阿部紀行, ミラボリック部分群の表現論と誘導表現の既約性・可約性, 本報告集. [高瀬] 高瀬幸一, 完全非連結群の基礎, 本報告集. [佐藤] 佐藤信夫, GLn (F ) の放物型誘導表現, 本報告集. 10
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