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報告書を翻訳するコツ
ceive にすれば、「ABC を CD ラットに投与した」の英訳に使えること、「用量段階を 2, 6,
20 および 60 mg/kg/day として」の表現には、at dose levels of と前置詞は at であること
など、さまざまな情報を手に入れることができます。
“we” の出ない文章で訳す
翻訳は「意味さえわかればよい」ものではなく、用途に合った表現を使うことが求めら
報告書を参照するときは、英語を母語とする研究者の書いた論文を参照すること、複数
の報告書にあたることを心がけてください。研究者によって文章に癖がありますから、
れます。報告書を訳すなら報告書らしく訳さねばなりません。では、どのような文体が報
1 本の報告書だけに頼るのはよくありません。必ず複数の資料を参照して平均的な表現を
告書らしいのか、考えてみましょう。
目指してください。
28 ページの「論文誌サイト」などを参考にして、英語で書かれた毒性試験の報告書を手
に入れて、読んでみましょう。 “we” あるいは、試験実施者を意味する他の表現( the
author(s) など)は何回出てきましたか? とても少ないですね。
これは報告書の文体の大きな特徴です。報告書であれば行為の主体は著者ら(authors)
であるのは自明であり「我々が、我々が」と言い続ける必要がないこと、また客観性を持
たせるという目的もあるため、行為の主体を省いた表現が多用されます。
日本語の報告書の場合は、
「動物の一般状態を毎日観察するとともに、投与開始時を初回
として週 3 回、自動天秤を用い体重を測定した」など、能動的な文章から主語を省いた形
の文章が使われます。
メディカル分野の英文報告書では、受け身の形の文章を使って we の多用を避けます。
The test animals were observed twice daily for morbidity and mortality. と書き、 We
observed the test animals twice daily for morbidity and mortality. とは書かないのが普通で
す。とはいえ受動態の文章ばかり使わなければならないという規則はなく、 Groups of 10
male and 10 female rats received 0, 5, 15, 50, 150, or 500 mg XXX/kg body weight in
corn oil by gavage, 5 days per week for 13 weeks. のような能動態も、もちろん使います。
要は we の使用はできるだけ避ける方向で訳せばよいのです。
汎用の表現を使う
非臨床試験は、医薬品の承認申請のために行う試験で、どのような種類の薬でも実施が
求められるものです。このため非臨床試験の報告書は、極論してしまえば被検物質の名称
と用量と試験所見の他はほとんど同じと言えるほど似通っています。報告書を英訳すると
きは、英語の報告書を何本か手に入れて表現を参照しながら訳すようにしてください。決
して自分で作り出そうとしないこと。既に発表された文章の「まね」つまり「借文」こそ
よい翻訳者への近道です。
例えば、 Male and female CD rats (5/ sex/ dose group) received ABC at dose levels of 0
(corn oil vehicle control), 2, 6, 20 and 60 mg/ kg/ day. という文章を検討すれば、「1群あた
り雌雄各 5 匹」という表現が 5/sex/dose group でよいこと、動物を主語にして動詞を re-
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報告書を訳そう
翻訳演習 1:緒言
緒言 a
プラバスタチンナトリウムの亜急性毒性試験
これから『Pravastatin Sodium の安全性に関する研究(第 2 報)— ラットにおける 13 週
間連続投与による亜急性毒性試験— 』と題された報告書を訳します。この試験では、ラッ
トに対して13週間にわたり被検物質を投与してその間に現れる毒性症状を観察し、投与終
了後はさらに 4 週間にわたって飼育して、投与期間中に認められた影響が消失するかどう
かを検討しています。
プラバスタチンナトリウムは、コレステロールの合成を阻害することで血液中のコレス
テロールを下げる薬で、後に高脂血症の患者に広く用いられることになるスタチン系薬剤
(statins)の第一世代として大成功を収めました。
Pravastatin sodium は三共株式会社で開発された新しいコレステロール低下剤sで
ある。本剤は、コレステロール生合成系の律速酵素 d(HMG-CoA reductase)を特
異的に抑制して血清リポ蛋白のうち VLDL、 LDL を優先的に低下させ f、家族性高コ
レステロール血症の疾患モデル g といわれている遺伝性高脂血症ウサギにおいても同
様の効果をもたらす h 等、現在上市されている高脂血症治療剤とは異なる作用機序を
有しj、近い将来、動脈硬化疾患の領域において有用性の高い治療剤kの一つになるこ
とが期待されるものである 1)l。
¡0 今回、 pravastatin sodium をラットに 13 週間連続経口投与し、投与終了後に 4
週間の休薬 ¡1 による回復性 ¡2 も含めて安全性 ¡3 を検討したのでその結果を報告する ¡4。
なお、試験は低量と高量追加試験の 2 回に分けて実施した。
出典:ライフサイエンス出版「薬理と治療 vol. 15 Pravastatin Sodium の安全性に関する研究(第
2 報)—ラットにおける 13 週間連続投与による亜急性毒性試験—」より抜粋(翻訳は DHC
の責任にて行われています)。
文献:1) Tsujita Y. et al. : Pravastatin sodium, a competitive inhaibitor of 3-hydroxy-3-
methylglutaryl coenzyme A reductase: tissue-selective inhibition of sterol synthesis and hypolipidemic effect on various animal species, Biochim. Biophys.
Acta 877: 50 ∼ 60(1986)
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✎
ポイント
a「緒言」は introduction と訳します。
s「コレステロール低下剤」は a cholesterol-lowering agent やanticholesterol drug (agent)
や anticholesteremic agent (drug)などと訳せますが、「高脂血症治療薬」にあたる lipid-
lowering agent、hypolipidemic agent、 antihyperlipidemic agent を使って表現する場
合もあります。
d「コレステロール生合成系の律速酵素」の「系」の処理がわからないときは、 Google で
[“rate-limiting enzyme” cholesterol]として検索をかけてみましょう。「律速酵素」と
「コレステロール」で検索すれば原文に似た内容がヒットするだろうという予測での検
索でしたが、次のような表現が多く見つかりました。
HMG-CoA reductase is the rate-limiting enzyme in cholesterol biosynthesis.
Previously solved structures include: The catalytic domain of HMG-CoA reductase
which is the rate limiting enzyme in cholesterol biosynthesis;...
the rate limiting enzyme in cholesterol biosynthesis でよいようです。「系→ system?」
と考えるより、確実な用語を使って同じ状況を探し出す検索方法を考えましょう。
f「(HMG-CoA reductase)を特異的に抑制して……VLDL、LDL を優先的に低下させ」
の「特異的」とは HMG-CoA reductase しか抑制しないという意味で、 specific を使
います。「優先的」は VLDL (超低比重リポ蛋白)や LDL (低比重リポ蛋白)以外に
も低下させるが、特に VLDL と LDL に対する効果が大きいという意味に訳すとよい
でしょう。
g「疾患モデル」とは、病気にかかったヒトと同じ病態を示す動物のことをいいます。高
血圧のモデルとして有名な自然発症高血圧ラット
(spontaneous hypertensive rat, SHR)
は、成長するにつれ高血圧症を発症します。「遺伝性高脂血症ウサギ」は heritable hy-
perlipidemic rabbit と訳しましょう。
h「同様の効果」は「VLDL、LDL を優先的に低下させ」ることと判断できます。前半で
VLDL と LDL が優先的に低下するとの結果が得られた実験材料は、疾患モデルでは
ない普通の実験動物であると考えられましょう。文字化されていない情報を組み上げ
て、整理してから訳してください。
j「現在上市されている高脂血症治療剤とは異なる作用機序を有し」の「上市」は「(当局
の承認を受けて)市場に出す」という意味の業界用語です。
「上市する」は launch と
訳すことがありますが、ここでいわれる「上市」は「現在使われている」という意味で、
currently available や、 conventional と訳せます。
「作用機序」は薬の効くしくみのことで、 mode of action と訳しますが、act という動
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詞を使って訳す方法もあります。
k「動脈硬化疾患の領域において有用性の高い治療剤」とは、「動脈硬化疾患の治療に有用
な薬」と読み替えてよいでしょう。「治療剤の一つになることが期待される」の「なる」
The toxicities of pravastatin sodium, a new hypolipidemic peroral agent under developing, were evaluated in the male and female F344 rats ... から始まっています。
¡4「∼したのでその結果を報告する」は、 The present paper concerns the results of ... と訳
は、子どもが大人になるように効かない薬が効くようになるという意味ではなく、有用
す方法もありますが、省略して差し支えありません。英語論文の Introduction は、 We
性が確立される、あるいは立証されると読むべきでしょう。
conducted a randomized, controlled clinical trial to compare ... や We used the XX data
l 肩付き数字は、参考文献の数字を表します。読者にとって大切な情報なので、訳文にも
忘れずつけてください。
¡0 この文章には 2 センテンス分の情報が詰めこまれています。① 13 週間連続経口投与を
行って安全性を検討した、②投与終了後に 4 週間の休薬期間をおき回復性を検討した、
base to study ... など、日本語の最終文から「∼したのでその結果を報告する」を省い
た文章で締めくくられることが多いためです。
✒
訳例
の 2 つに整理して訳出するとよいでしょう。
¡1「休薬」とは、被検物質を投与せずに動物を飼育することを言い、休薬期間は a recov-
Introduction
ery period と表現します。回復性試験(a recovery test)とは休薬期間を設けて、投与
Pravastatin sodium is a new cholesterol-lowering agent developed by Sankyo Co., Ltd.
期間中に現れた毒性変化の可逆性(reversibility =毒性変化が消失するかどうか)を検
This agent decreases the levels of VLDL and LDL to a significantly greater extent than
討します。
those of other serum lipoproteins by specifically inhibiting the rate-limiting enzyme in
ICH ガイドライン S6 の“「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評
cholesterol biosynthesis, HMG-CoA reductase, in common experimental animals as well as
価」について”には、次のような表現があります。
in heritable hyperlipemic rabbits, a model of familial hypercholesterolemia. These findings
indicate that pravastatin has a mode of action that differs from that of conventional
A recovery period should generally be included in study designs to determine the
hypolipidemic agents. Pravastatin is expected to be established as useful for the treatment
reversal or potential worsening of pharmacological / toxicological effects, and /or po-
of arteriosclerosis.1)
tential delayed toxic effects.
In this set of studies in which lower and higher doses were evaluated in two separate
sessions, we evaluated the toxicity of pravastatin in rats receiving this drug for 13 weeks,
薬理作用及び毒性作用の可逆性又は増悪作用の可能性の有無、さらに遅発毒性の可能
as well as the reversibility of toxic effects during a 4-week recovery period.
性の有無などを明らかにするため、通常、試験計画の中に回復期間を設けなければな
らない。
¡2「回復性」とは、毒性変化が消えるかどうか(reversibility of the toxicological changes)
という意味です。
¡3 この文章の「安全性」は safety ではなく toxicity と訳したほうが意味が通ります。動
物実験のことを「安全性試験」や preclinical safety study とも呼びますが、このよう
な試験で検討するのは被検物質の toxicity です。動物実験では、確実に毒性が現れる
量を投与して毒性所見を検討するので「(動物での)safety を evaluate する」と訳すと
おかしくなります。動物実験で検討するのはヒトでの safety であって、動物での safety
ではないからです。ちなみにこの論文の英語原題は Toxicological Studies of Pravastatin
Sodium (Ⅱ) — Thirteen Weeks Oral Toxicity Studies in Rats — であり、英語抄録は
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