ナバックレター養豚版 第88号

ナバックレター 養豚版 Vol.88
消化管の健康状態に関する腸管細胞の重要性-IPEC研究(2)
Dr. R. Davin, Grup de Recerca en Nutrició, Universitat Autònoma
de Barcelona, 08193 Bellaterra, Spain.
IPEC にどのように付着するか
Shierack ら(2006)によって性状決定されて以来、IPEC-J2 の利用はさらに増えてきています。その後、15 以上の論文で様々
な細胞および免疫分子の発現が報告され、20 以上の論文で微生物感染の腸上皮細胞モデルとして IPEC-J2 が使用されています。
性状決定以前は、クラミジア攻撃感染でも観察されたように、侵入・増殖するため、豚増殖性腸疾患(Lawsonia intracellularis)
感染症モデルとして IPEC-J2 細胞が使用されていました。Shierack らが(2006)IPEC-J2 細胞の性状決定をした時、IPEC 細
胞は、様々な種のサルモネラ菌の取り込みおよび E.colli の付着を支持することも証明しました。これらの細菌が炎症および免疫
反応を誘導する能力(サイトカインや TLR の発現など)については、IPEC-J2 細胞を用いたその後の試験で繰り返し証明されて
います。また、IPEC-J2 単層培養の透過性(経上皮電気抵抗:TEER)が毒素原性大腸菌(ETEC)によって低下することも明ら
かにされています。
大腸菌、サルモネラおよびクラミジアは、養豚業にとって重要であり、高度で多様な感染症戦略を担う代表的な病原菌です。そ
れは IPEC-J2 細胞株がなぜこれらの病原菌と豚の腸上皮との相互作用を示す優れたモデルとなっているかを表すもっとも重要
な理由の1つです。IPEC-J2 細胞における ETEC 毒素についても詳細に検討されており、細菌付着における役割が Johnson ら
(2009)によって明らかにされています。コロニー形成の前段階として ETEC の腸粘膜への付着が不可欠であることから、接着
性は重要なポイントです。
腸上皮細胞
CCL20
樹状細胞
IL-8
TNF-α、β
CXCL1
CXCL2
CXCL5
CCL28
CCL11
CCL5
好中球
好酸球
GM-CSF
CX3CL1
CXCL9
CCL2
単球
IL-1α, β TGF-β
CXCL10
IL-6
CCL22
IL-7
CCL25
IL-10
CCL28
IL-12
CCL5
IL-15
CCL7
IL-18
リンパ球
図 1 IEC から産生されるサイトカイン類およびケモカイン類のまとめ
(1)SPI-1を介して侵入
胆嚢上皮細胞
(3)好中球流入
サルモネラ菌
(4)上皮細胞の
壊死および
傷害
サルモネラを含む液胞;SCV
(2)局所性前炎症反応
図 2 サルモネラ菌は上皮細胞に侵入できる(第 1 段階)。この細胞内感染によって局所炎症反応が誘導され(第 2 段階)、
好中球を介して(第 3 段階)、その後の組織傷害および上皮細胞壊死(第 4 段階)が生じる(Gonzalez-Escobedo et al., 2011)
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最近になって高濃度のデオキシニバレノール(フザリウム属の真菌が産生す
る毒素)が豚の腸上皮細胞の生存率を抑制することが IPECJ-2 細胞を用い
て明らかになりました。これは、豚の栄養を考えるにあたり興味深い知見
100
です。というのは、デオキシニバレノールによる穀物の汚染はしばしばみ
られ、豚の下痢や増体抑制の原因となっているからです。
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プロバイオティックの IPEC-J2 細胞への接着性、または特定の病原体に起
因する炎症反応に対するプロバイオティックの抑制作用に注目し、プロバ
強化酸化亜鉛
HiZox Animine
96
%
イオティック微生物の可能性について調べる目的で IPEC-J2 細胞が使用さ
れることが増えています。このようなプロバイオティックとしては、腸球
通常酸化亜鉛(ZnO)
菌類、サッカロミセス類、または複数の種類のラクトバチルスなどがあり
ます。生体で試験したプロバイオティックを用いた論文がまだ発表されて
いないため、これらの研究が本当に正しいかどうかは現時点ではまだわかっ
ていません。
94
92
最近の発表では、種々の飼料(小麦ふすま、カゼイングリコマクロペプチド、
マンナン - オリゴ糖、イナゴマメ抽出物および Aspergillus oryzae 発酵抽出
物)は ETEC が IPEC-J2 に付着するのを抑制し、自然炎症反応を阻害する
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ことが可能でした。別の研究では、フィチン酸が腸上皮細胞株の膜の完全
性に及ぼすデオキシニバレノールの有害作用を低減したことが明らかにさ
れています。IPEC 試験で使用された種々の飼料または飼料添加物の中で、
我々は腸上皮における亜鉛の使用および影響に関して特に注目しています。
0.75
1.5
1L当たりの酸化亜鉛量(mg)
図 3 毒素原性大腸菌(ETEC)の
IPEC-J2 細胞への付着率の低下
亜鉛の添加量および供給源
特に ETEC K88 に起因する子豚の離乳後下痢の発生率および重症度の低減を目的として、薬理学的レベルの酸化亜鉛(ZnO、
2500∼3000 ppm)を飼料添加して利用することは、養豚業界において広く受け入れられています。しかし、その治療メカニ
ズムはまだよくわかっていません。ヒトの腸細胞株である Caco-2 を用いた最初の試験管内試験研究では、ZnO 濃度が上昇する
と ETEC K88 の細胞株への付着および取り込みが減少しました。ZnO は、ETEC によって誘導される密着結合の透過性亢進お
よび ETEC による複数の炎症反応遺伝子の発現を阻害することも確認されました。この試験では ZnO の抗菌作用は明らかでは
ありませんでしたので、ZnO を飼料添加した豚で離乳後下痢の発生率が抑制されることについて別の機序が存在しています。
しかし、上述のように、Caco-2 はヒトの腸細胞株ですが、一方、ETEC K88 は豚に特異的な病原菌です。最近の研究の中には、
ETEC で攻撃感染した IPEC-J2 に及ぼす ZnO 添加量と供給源の影響を検討することを目的としたものもあり、この試験法が豚
研究モデルとしてより望ましいものであったことから、ZnO 添加または非添加条件下における ETEC 腸感染の試験管内試験モ
デルの1つとして IPEC-J2 細胞が使用されました。
遺伝子解析により、ETEC 暴露に反応して種々の自然免疫反応遺伝子の発現亢進(サイトカイン遺伝子など)が確認されましたが、
細胞が一斉に ZnO に暴露された場合には抑制されました。ZnO は、低濃度では代謝作用により IPEC-J2 細胞を形態学的に変化
させることがあり、高濃度では細胞生存率を抑制します。宿主細胞への ETEC 付着のわずか 2 時間後に測定した時、ZnO 添加
はまったく効果を示しませんでした。しかし、長時間測定した場合には、IPEC-J2 の形態に影響を及ぼさない濃度の ZnO は
ETEC の付着を抑制しました。以上の所見は、ZnO の添加量と供給源が IPEC-J2 と病原体代謝の両方に顕著な影響を及ぼし、
IPEC-2 が攻撃感染を受けた場合は炎症性遺伝子の発現も抑制することを示しています。
以上をまとめると、
●腸上皮細胞は外部環境からの防御の第一線であり、炎症反応に重要な役割を果たす。
●試験管内試験モデルとしての上皮細胞株の使用は近年増加してきている。
●豚特異的な病原体に起因する炎症反応に及ぼす飼料の影響を検討する場合、IPEC-J2 細胞株は豚特異的な実験モデルとして優
れている。
●IPEC-J2 およびその他の細胞株の使用は今後増加することが予想される。IPEC-J2 は ZnO の治療メカニズムを調べるための
優れた実験モデルである可能性がある。
これは「International Pig Topics, Vol.28, Number2」を抄訳したものです。
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