Kobe University Repository : Kernel Title 腰痛のメカニズムの解明と治療に関する研究 (助成研究 報告) Author(s) 高田, 徹 / 西田, 康太郎 / 前野, 耕一郎 / 角谷, 賢一朗 / 土 井田, 稔 / 黒坂, 昌弘 Citation 神戸大学医学部神緑会学術誌, 25: 66-68 Issue date 2009-08 Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 Resource Version publisher URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81006735 Create Date: 2015-02-01 助成研究報告 「腰痛のメカニズムの解明と治療に関する研究」 神戸大学大学院医学研究科器官治療医学講座運動機能学 高 田 徹(平成6年卒),西 田 康太郎(平成4年卒),前 野 耕一郎(平成9年卒) 角 谷 賢一朗(平成12年卒),土井田 稔(昭和59年卒),黒 坂 昌 弘(昭和52年卒) はじめに けの sham 群を作成した.物理刺激による疼痛過敏は 腰痛の原因には様々な疾患があるが,その中でも椎 1) von Frey Hair を使用した.また,温度刺激による疼 間板ヘルニアは全人口の約1%が罹患し ,その治療 痛過敏は54℃のホットプレートを使用して温度刺激か コストは日本の医科診療における全運動器疾患のコス ら疼痛過敏を示すまでの時間を測定した.これらを術 トの9.%,全脊椎疾患の.3%を占める 2) とされ, 前,術後1,3,5,7,14日目に評価した. 腰痛の原因の大きなものとされている.椎間板ヘルニ 2.椎間板自家移植モデル アは変性した脱出椎間板による神経根の圧迫とヘルニ 椎間板が宿主免疫にさらされた時の椎間板におけ ア組織によって惹起された炎症により腰痛,下肢痛, る in vivo でのマクロファージ集積と TNFalpha,IL- 麻痺症状などの症状が起きるが,健常ボランティアの 6,IL-8,PGE産生を調べるために椎間板自家移植モ 3) に椎間板の脱出は認められることから, デルを作成した.尾椎椎間板を摘出しSDラット背 椎間板ヘルニアの症状は主に椎間板ヘルニア組織によ 部へ自家移植した.術後0,1,3,5,7,14日目に って惹起された炎症によって起きると考えられてい 移植した椎間板を摘出し,real timePCR を使用して る.しかしながら椎間板ヘルニア組織由来の炎症の正 TNFalpha, IL-6,IL-8,COXの mRNA を定量し, 体は判然としていない.一方,椎間板ヘルニア組織に ⊿⊿ Ct 法を使用して比較した.これとは別に椎間板 はマクロファージを始めとする炎症細胞が多数認めら から凍結切片を作成し,免疫染色を行い,CD68陽性 れること,椎間板ヘルニア組織では TNFalpha,IL-6, 細胞,すなわち,マクロファージを免疫染色し,400 IL-8,PGEなどの炎症惹起物質が産生されており, 倍に拡大して検鏡,連続5視野におけるマクロファー これらが症状と相関することが報告されている.そこ ジの数を定量,比較した. で我々の仮説は1.椎間板ヘルニアモデルでは脱出椎 3.椎間板・マクロファージ共培養モデル 間板にマクロファージが集積し,TNFalpha,IL-6,IL- 椎間板とマクロファージの相互作用をさらに追及す 8,PGEが産生され椎間板ヘルニアの症状,特に疼痛 べく椎間板・マクロファージ共培養実験を行った.ラ の元となる,2.椎間板とマクロファージの相互作用 ットの腹腔内から採取したマクロファージと自家椎間 によって TNFalpha, IL-6,IL-8,PGEが産生されて 板と共培養してこれらを6群に分け0,3,6,1,18, いる,3.TNFalpha が椎間板とマクロファージの中 4時間後にそれぞれ培養上清を回収し酵素免疫測定法 心的な役割をしている,のである. で TNFalpha,IL-6,IL-8,PGEを測定した.これと 40 ~ 70% は別に抗 TNFalpha 中和抗体を椎間板培養上清に添 材料と方法 加し,その60分後にマクロファージとの共培養を開始 1.椎間板ヘルニアモデル した.さらに4時間後に培養上清を回収し,酵素免疫 椎間板ヘルニアにおける神経根の圧迫と椎間板由来 測定法に使用し IL-6,IL-8,PGEを測定した. の炎症を再現し得る椎間板ヘルニアモデルを作成し た.SD ラットを使用して L 5横突起を切除してL5 結 果 神経根を露出し10-0 ナイロンで神経根を結紮した. 1.椎間板ヘルニアモデルにおいては神経根結紮単独 同時に尾椎椎間板を摘出しこれを神経根直上に自家移 群,神経根結紮に椎間板移植を併用した群ともに 植した.この方法を用いて神経根結紮単独群,神経根 Sham 群と比較して優位な疼痛過敏を示した.神 結紮に椎間板移植を併用した群,神経根を露出しただ 経根結紮に椎間板移植を併用した群は術後1日目 - 66 - 神緑会学術誌 第 5 巻 009 年 から14日目まで神経根結紮単独群と比較して優位 を誘導する炎症惹起物質となった.2.自家移植され な疼痛過敏を示した.この差が椎間板由来の炎症 た椎間板には TNFalpha の発現に引き続いて IL-6,IL- によって惹起されたものと考えられる.神経根結 8,PGEが産生された.3.椎間板とマクロファージ 紮に椎間板移植を併用した群における疼痛過敏は の共培養で2.と同様の状態が再現された.4.抗 術後5日目に最高となり以後は改善に向かってい TNFalpha 中和抗体は IL-6,PGEの産生量を減じる た.温度刺激による疼痛惹起は術前と優位差を示 ことができるが,IL-8産生には無効であった. さなかった. 椎間板は健常状態では無血管組織であり,宿主免疫 2.自家移植椎間板においては術後1日目からマクロ からは隔絶されているが,手術中に摘出されるヘルニ ファージの浸潤が強く観察され,術後7日目をピ ア組織にはマクロファージが多く認められる4,5). ークとして減少に向かっていた.移植椎間板に ま た,TNFalpha,IL-6,IL-8,PGE は そ れ ぞ れ 疼 お け る TNFalpha,IL-6,IL-8,COX の mRNA 痛の惹起および伝導に関与する炎症惹起物質である 発現量を,術後14日目の発現量を1とした相対量 6,7,8) で表すと,移植直後は IL-8は15%,COXは68% の相互作用のみが TNFalpha,IL-6,IL-8,PGEを誘 しか検出されず,TNFalpha,IL-6は検出されな 導し得ることを示し,椎間板ヘルニアの症状,特に かった.しかし,これらの発現量は時間を経る 疼痛にはマクロファージと椎間板の相互作用による に従って増大し,TNFalpha は移植後1日目に TNFalpha,IL-6,IL-8,PGE産生が大きな影響を持 発現量最大となり,その発現量は14日目の576.5 っていると考えられた.臨床研究では椎間板ヘルニ 倍となった.移植後3日目には IL-6,IL-8そして ア患者に対する抗 TNFalpha 抗体を使用したプロス COXmRNA 発現量が最大となった(IL-6:14日 ペクティブスタディーではプラセボ群と比較して有 目の53.5倍,IL-8:14日目の617倍,COX:14 意な症状改善がなかった9).今回の我々の結果からは 日目の113倍). TNAalpha と独立した炎症経路が存在することが示唆 .我々の実験結果はマクロファージと椎間板 3.椎 間 板 と マ ク ロ フ ァ ー ジ の 共 培 養 実 験 で は され,椎間板とマクロファージの相互作用の更なる研 TNFalpha 産生量は共培養後6時間で最大とな 究は今後の新しい椎間板ヘルニアの治療に大きく寄与 り,以後速やかに培養前と有意差が無いレベル すると考えられる. まで低下し,以後は低値が持続していた. 一 方 IL-6,IL-8は椎間板とマクロファージの共培養 結 語 後に経時的に産生量が増えていっている様子が 椎間板とマクロファージの相互作用は椎間板ヘルニ 観察された.PGEは産生量が共培養3時間後ま アの症状にかかわる重要な炎症惹起物質を誘導し,そ で上がり,以後産生量は4時間後まで保持され の過程には TNFalpha 非依存性の炎症経路が存在す た.以上の実験結果から TNFalpha が in vivo, in る. vitro ともに椎間板とマクロファージの相互作用 によって早期に発現することが示唆された.そこ 謝 辞 で TNFalpha が椎間板とマクロファージの相互 本研究を実施するにあたり,前田盛理事長をはじめ 作用において重要な役割を演じていると考え,抗 とする神緑会の皆様に多くのご協力をいただきまし TNFalpha 中 和 抗 体 に よ る IL-6,IL-8,PGE産 た.ここに,心より感謝の意を表します. 生への影響を調査した.IL-6,PGE産生量は抗 TNFalpha 抗体の容量に依存してその産生量が低 文 献 下することが判明した.しかし,IL-8産生量は抗 1)McCulloch, J. A.,(1996): Focus issue on lumbar TNFalpha 中和抗体の影響を受けず,その産生量 disc herniation: macro- and microdiscectomy. Spine, は変化が無かった. 1, 45S-56S. 2)厚生労働省 平成17年社会医療診療行為別調査結 考 察 果 我々の実験結果は以下の4点にまとめられる.1. 3)Boos, N., R. Rieder, V. Schade, et al.,(1995) 自家移植されて宿主の免疫にさらされた椎間板には早 : The diagnostic accuracy of magnetic resonance 期からマクロファージの集積が始まり,疼痛関連行動 imaging, work perception, and psychosocial factors - 67 - in identifying symptomatic disc herniations. Spine, 0, 613-65. hyperalgesia. Br J Pharmacol, 107, 660-664. 7)Sachs, D., F. Q. Cunha, S. Poole, et al.,(00) 4)Woertgen, C., R. D. Rothoerl A. Brawanski, : Tumour necrosis factor-alpha, interleukin-1beta (000): Influence of macrophage infiltration of and interleukin-8 induce persistent mechanical nociceptor hypersensitivity. Pain, 96, 89-97. herniated lumbar disc tissue on outcome after 8) Ferreira, S. H., M. Nakamura , ( 1 9 7 9 ): I - lumbar disc surgery. Spine, 5, 871-875. Prostaglandin hyperalgesia, a cAMP/Ca+ 5)Doita, M., T. Kanatani, T. Harada, et al., dependent process. Prostaglandins, 18, 179-190. (1996): Immunohistologic study of the ruptured intervertebral disc of the lumbar spine. Spine, 1, 9)Korhonen, T., J. Karppinen, L. Paimela, et al., (006): The treatment of disc-herniation-induced 35-41. 6)Cunha, F. Q., S. Poole, B. B. Lorenzetti, et al., sciatica with infliximab: one-year follow-up results (199): The pivotal role of tumour necrosis of FIRST II, a randomized controlled trial. Spine, factor alpha in the development of inflammatory - 68 - 31, 759-766.
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