テーマ概要 - 宇宙ステーション・きぼう

募集区分
テーマ名
代表研究者
テーマ概要
国の戦略的研究募集区分 「ヒト疾患に関連するエピゲノム研究」
新規な質量分析イメージングによる筋・骨格系疾患の発症機構解明
東京農工大学大学院工学研究院 宮浦 千里
宇宙の微小重力下では、何故、骨や筋が著しく減少するのか、未だ
解明されていない。本研究では、微小重力環境で骨や筋量の減少に
関与する反応性分子を最新の質量分析イメージング法を駆使して決
定し、mRNA(タンパク質合成の遺伝情報を写し取って伝える RNA)や
タンパク質発現解析を組み合わせた“メカノオミックス解析(トランスク
リプトミクス・プロテオミクス・メタボロミクス) *1)”により骨粗鬆症及びサ
ルコペニア*2)の発症解明につなげる。
「きぼう」の微小重力下で約 1 か月間飼育したマウスから四肢(大腿
骨・脛骨及び筋)を採取する。四肢サンプルは質量分析イメージング
法解析を用い、宇宙環境で変動する脂質やタンパク質の網羅的な組
織分布解析を行う。さらに、同一サンプルを用いてメカノオミックス解析
を行ない、重力に反応する分子を解明し、センサー分子の同定を目指
す。地上実験では、不動性骨粗鬆症マウス(尾部懸垂)を用いて同様
の解析を行い、不動と微小重力による反応性分子の差異を比較す
る。
提案者は、これまでに、プロスタグランジン E(PGE)*3)が骨や筋のメ
カニカルストレス(機械的刺激)に反応することを検討してきた。上記の
網羅的解析で得た PGE の変化と地上実験で PGE 合成酵素遺伝子欠
損マウスを尾部懸垂して得た結果を併せ、骨と筋のメカノセンシング
(機械的刺激を感知すること)における PGE の役割を解明する。
*1)
メカノオミックス解析:メカニカルストレス(機械的刺激)に着目した生命現象を
包括的に調べる解析。トランスクリプトミクス(遺伝子発現の網羅的解析)、プロ
テオミクス(タンパク質の網羅的解析)、メタボロミクス(代謝物の網羅的解析)
よりなる。
*2)
サルコペニア:全身の骨格筋量・骨格筋力の低下を特徴とする症候群。
*3)
プロスタグランジン E:炎症関連因子であり、種々の生体反応を制御する。
成果の活用、 
目指すビジョ
ン

宇宙の微小重力環境で起こる骨量減少と筋萎縮の原因となって
いるセンサー分子を決定し、その機構を解明することにより、高齢
化で大きな社会的課題となっている骨粗鬆症やサルコペニアの発
症機構解明につなげることができる。
メカノセンシングの視点からの創薬(PGE 合成・受容体阻害剤な
ど)を可能とし、宇宙飛行士の骨・筋の健康維持、骨粗鬆症やサ
ルコペニアの予防に有用な機能性食品の開発、ならびに新規治
療薬の開発に貢献することができる。