消去イデアルの応用IV - Research Institute for Mathematical Sciences

消去イデアルの応用 IV∗
高橋 正
Tadashi Takahashi†
甲南大学 知能情報学部
Department of Intelligence and Informatics, Konan University
Abstract
2次元複素射影空間において特異平面4次曲線のパラメータをもつ定義方程式の制限を求めるために、
その定義方程式から構成される多項式イデアルを求め、その多項式イデアルに対して変数を消去した消去
イデアルを求める。このイデアルは、その定義方程式で定まる特異点をもつ平面4次曲線のパラメータの
制限であり、その消去イデアルの表現と現れる特異点の個数と種類を明らかにする。
1
はじめに
まず、消去イデアルと拡張定理に関する基礎的事項を確認する([1])。
f1 , f2 , · · · , fs を変数 x1 , x2 , · · · , xn の複素数係数の多項式とし、連立代数方程式 f1 = 0, f2 = 0, · · · , fs = 0
に付随するイデアルを I とする。1 変数多項式に関しては、基底は 1 つであり、ある多項式 h(xj ) が存在
して、
I ∩ C[xj ] = {a(xj )h(xj ) | a(xj ) ∈ C[xj )]} = 〈h(xj )〉
となる。したがって、h(xj ) の解全体が I ∩ C[xj ] の解全体に一致する。つまり、h(xj ) の解全体は、連立
代数方程式 f1 = 0, f2 = 0, · · · , fs = 0 の解の xj 成分全体である。これを一般の場合で考えれば、
xn を消去した消去イデアルは I ∩ C[x1 , x2 , · · · , xn−1 ] ,
xn , xn−1 を消去した消去イデアルは I ∩ C[x1 , x2 , · · · , xn−2 ] ,
..
.
xn , · · · , x3 を消去した消去イデアルは I ∩ C[x1 , x2 ] ,
xn , · · · , x2 を消去した消去イデアルは I ∩ C[x1 ] ,
となり、下から解いていけば連立代数方程式 f1 = 0, f2 = 0, · · · , fs = 0 の解がすべて得られる。このこと
は、以下の拡張定理によって保証されている。
定理 1 (拡張定理)
I を多項式イデアル、V (I) が有限集合であるとし、変数全体の集合を X 、消去したい変数全体の集合を
Y ⊂ X とする。α が V (I) の元であれば、α から変数 Y に対応する成分をとった β は V (I ∩ C[X \ Y ])
の元となる。
逆に、β を V (I ∩ C[X \ Y ]) の元とすれば、必ず、V (I) の元 α が存在して、α から変数 Y に対応する
成分をとったものが β となる。
∗本研究の一部は平成
25 年度私立大学等経常費補助金特別補助「大学間連携等による共同研究」の支援で行われている。
†[email protected]
1
この定理の逆に以降は、解の個数が有限個の場合にのみ一般に成り立つ。特に、
I ∩ C[x1 ] = 〈g1 (x1 )〉,
I ∩ C[x1 , x2 ] = 〈g1 (x1 ), g2 (x1 , x2 )〉,
..
.
I ∩ C[x1 , · · · , xn−1 ] = 〈g1 (x1 ), · · · , gn−1 (x1 , · · · , xn−1 )〉,
I = 〈g1 (x1 ), · · · , gn (x1 , · · · , xn )〉
となる場合が三角形式である。
I ∩ C[x1 , · · · , xi ] の生成元を求めることは、グレブナー基底の計算により得ることができる。I のグレブ
ナー基底を G とすると、G ∩ C[x1 , · · · , xi ] が消去イデアル I ∩ C[x1 , · · · , xi ] の生成元(グレブナー基底に
もなっている)になることが知られている。
2
特異点を持つ4次曲線の分類
パラメータをもつ特異点の定義方程式において、そのパラメータがある条件を満たすとき、その方程式に
よって定義される特異点の位相型が変化する。そのような変化が生じない(パラメータの)条件を、特異点
定義方程式の(パラメータの)制限という。
パラメータをもつ特異点定義方程式の制限を導出するには、その定義方程式から構成される多項式イデ
アルのグレブナー基底を求め、そのグレブナー基底で構成される多項式イデアルから変数を消去した消去
イデアルを求めることで制限を得ることができる。
以下に、分類過程における1つの事例を示す。
事例:
f := x2 z 2 + xy 3 + a1 y 4 + a2 y 3 z + a3 y 2 z 2 + a4 yz 3 + a5 z 4 とし、

 
 ′ 
x
1 α β
x

 
 ′ 
 y  =  0 1 γ  y 
z
0 0 1
z′
による座標変換(線型変換)を行うと、
f = x′2 z ′2 + x′ y ′3 + c1 x′ y ′2 z ′ + c2 x′ y ′ z ′2 + c3 x′ z ′3 + c4 y ′4 + c5 y ′3 z ′ + c6 y ′2 z ′2 + c7 y ′ z ′3 + c8 z ′4
となり、c1 , c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 は、a1 , a2 , a3 , a4 , a5 , α, β, γ によって、以下のように表される。
















c1 = 3γ
c2 = 2α + 3γ 2
c3 = 2β + γ 3
c4 = a1 + α

c5 = a2 + β + 4a1 γ + 3αγ





c6 = a3 + α2 + 3a2 γ + 3βγ + 6a1 γ 2 + 3αγ 2





c7 = a4 + 2αβ + 2a3 γ + 3a2 γ 2 + 3βγ 2 + 4a1 γ 3 + αγ 3



 c = a + β 2 + a γ + a γ 2 + a γ 3 + βγ 3 + a γ 4
8
5
4
3
2
1
2
上記において c3 , c7 , c8 を a1 , a2 , a3 , a4 , a5 , α, β, γ を変数とする多項式と見て c3 , c7 , c8 の多項式イデアル
〈c3 , c7 , c8 〉 から変数 α, β, γ を消去した消去イデアルを I1 とする。
このとき、I1 の生成元は一つの多項式となり、その多項式を f1 とおくと、
f1 = 256a31 a22 a23 a24 − 432a42 a23 a24 − 1024a41 a33 a24 + · · · + 34992a22 a45 + 62208a1 a3 a45 + 11664a55
を得る( f1 は、76 項の多項式である)。I1 を満たすとは、多項式 f1 が 0 に等しいときとする。
I1 を満たさないとき( f1 ̸= 0 のとき)、上記 f = 0 で定義される平面4次曲線は、射影空間 (1 : 0 : 0)
において位相型 A2 の特異点を持ち(その点以外では特異点を持たない)、この平面4次曲線のタイプは
IIIm 型になる(ただし、この条件の基で、上記 c2 = 0 とすることができる。そのため、以下では、c2 = 0
とすることも含める)。
ここで注意すべきことは、{c2 , c3 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0} とできる α, β, γ の解が存在するかどうかである。
それについては、〈c2 , c3 , c7 , c8 〉 から変数 α, β, γ を消去した消去イデアルを求める際、変数消去を段階的に
行い、α, β, γ の解の存在を確認することができる。まず、
3γ 5 − 8a1 γ 3 − 6a2 γ 2 − 4a3 γ − 2a4 ∈ V (〈c2 , c3 , c7 , c8 〉) ∩ C[γ]
により、{c2 , c3 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0} とできる解の候補としての γ が存在することが分かる。次に、
2β + γ 3 ∈ V (〈c2 , c3 , c7 , c8 〉) ∩ C[β, γ]
より、{c2 , c3 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0} とできる解の候補としの β, γ の存在を確認することができる。そして、
最後に、
2α + 3γ 2 ∈ V (〈c2 , c3 , c7 , c8 〉) ∩ C[α, β, γ]
より、{c2 , c3 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0} となる解 α, β, γ の存在を確認することができる(連立代数方程式の三角
形式の手法)。したがって f1 ̸= 0 は、f = 0 で定義される平面4次曲線が IIIm 型であるためのパラメータ
a1 , a2 , a3 , a4 , a5 の制限である。
次の段階として、{c2 , c3 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0} となるパラメータ a1 , a2 , a3 , a4 , a5 の制限を考える。
上と同様に 〈c2 , c3 , c6 , c7 , c8 〉 から α, β, γ を消去した消去イデアルを I2 とすると、I2 のグレブナー基底は、
{36a22 a3 a4 − 128a1 a23 a4 + 60a1 a2 a24 + 375a34 − 324a32 a5 + 1152a1 a2 a3 a5 − 1536a21 a4 a5 − 1440a3 a4 a5 +
2592a2 a25 , · · · , 16a21 a2 a3 a4 −48a2 a23 a4 −144a31 a24 +180a22 a24 −80a1 a3 a24 −144a21 a22 a5 +512a31 a3 a5 −108a22 a3 a5 +
384a1 a23 a5 − 972a1 a2 a4 a5 − 225a24 a5 + 1152a21 a25 + 864a3 a25 }
となる。
I2 のグレブナー基底は 6 つの多項式である。ここでも {c2 , c3 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0} とできる α, β, γ
の解の存在を調べる。
15γ 4 − 24a1 γ 2 − 12a2 γ 2 − 4a3 ∈ V (〈c2 , c3 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[γ]
により、{c2 , c3 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0} となる解の候補としての γ が存在することが分かる。次に、
8β 2 − 2a2 β − 3a4 γ + 8a5 ∈ V (〈c2 , c3 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[β, γ]
より、{c2 , c3 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0} となる解の候補としの β, γ の存在を確認することができる。
そして、最後に、
2α + 3γ 2 ∈ V (〈c2 , c3 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[α, β, γ]
3
より、{c2 , c3 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0} となる解 α, β, γ の存在を確認することができる。
I2 を満たすとは、I2 のすべての多項式が 0 に等しいとすると、I1 を満たし、I2 を満たさないとき、f = 0
で定義される平面4次曲線は、射影空間 (1 : 0 : 0) において位相型 A2 、 (0 : 0 : 1) において位相型 A1 の
特異点を持ち(この 2 点以外では特異点を持たない)、その平面4次曲線のタイプは IIIk 型になる。
ここで、I2 のグレブナー基底を、f2 , f3 , f4 , f5 , f6 , f7 とすると、f1 ∈ 〈f2 , f3 , f4 , f5 , f6 , f7 〉 である。
さらに、{c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0} となるパラメータ a1 , a2 , a3 , a4 , a5 の制限を考える。上と
同様に 〈c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 〉 から α, β, γ を消去した消去イデアルを I3 とすると、I3 のグレブナー基底は、
{16a23 −45a2 a4 +144a1 a5 , 3a22 −8a1 a3 +30a5 , 2a2 a3 a4 −15a1 a24 +8a1 a3 a5 +162a25 , 2a1 a2 a4 −25a24 −32a21 a5 +
72a3 a5 , 4a1 a2 a3 −24a21 a4 −10a3 a4 +81a2 a5 , 6a21 a24 −10a3 a24 −16a21 a3 a5 +81a2 a4 a5 −324a1 a25 , 16a21 a3 a4 −
75a2 a24 − 96a21 a2 a5 + 216a2 a3 a5 − 60a1 a4 a5 }
となる。
I3 のグレブナー基底は 7 つの多項式である。ここでも {c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0} となる
α, β, γ の解の存在を調べる。
5γ 3 − 4a1 γ − a2 ∈ V (〈c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[γ]
により、{c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0} となる解の候補としての γ が存在することが分かる。次に、
4β 2 + a4 γ + 4a5 ∈ V (〈c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[β, γ]
より、{c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0} となる解の候補としの β, γ の存在を確認することができる。
そして、最後に、
2α + 3γ 2 ∈ V (〈c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[α, β, γ]
より、{c2 , c3 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0} となる解 α, β, γ の存在を確認することができる。
I3 を満たすとは、I3 のすべての多項式が 0 に等しいとすると、I2 を満たし、I3 を満たさないとき、f = 0
で定義される平面4次曲線は、射影空間 (1 : 0 : 0) において位相型 A2 、 (0 : 0 : 1) において位相型 A2 の
特異点を持ち(この 2 点以外では特異点を持たない)、その平面4次曲線のタイプは IIIj 型になる。
ここで、I3 のグレブナー基底を、f8 , f9 , f10 , f11 , f12 , f13 , f14 とすると、fi ∈ 〈f8 , f9 , f10 , f11 , f12 , f13 , f14 〉
(1 5 i 5 7) である。
この事例の最後に {c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0, 0} となるパラメータ a1 , a2 , a3 , a4 , a5 の制限
を考える。上と同様に、〈c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 〉 から α, β, γ を消去した消去イデアルを I4 とすると、I4 の
グレブナー基底は、
{a24 − 4a3 a5 , 4a3 a4 + 27a2 a5 , a2 a4 − 2a1 a5 , 8a23 + 27a1 a5 , 2a2 a3 − a1 a4 , 8a1 a3 − 27a5 , a22 + a5 , 2a1 a2 +
a4 , a21 + a3 }
となる。
I4 のグレブナー基底は 9 つの多項式である。{c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0, 0} となる α, β, γ
の解の存在を調べる。
3γ 2 − 2a1 ∈ V (〈c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[γ]
より、{c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0, 0} とできる解の候補としての γ が存在することが分かる。
次に、
2β 2 + a5 ∈ V (〈c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[β, γ]
4
より、{c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0, 0} となる解の候補としての β, γ の存在を確認することがで
きる。そして、最後に、
2α + 3γ 2 ∈ V (〈c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 〉) ∩ C[α, β, γ]
より、{c2 , c3 , c4 , c5 , c6 , c7 , c8 } = {0, 0, 0, 0, 0, 0, 0} となる解 α, β, γ の存在を確認することができる。
I4 を満たすとは、I4 のすべての多項式が 0 に等しいとすると、I3 を満たし、I4 を満たさないとき、f = 0
で定義される平面4次曲線は、射影空間 (1 : 0 : 0) において位相型 A2 、 (0 : 0 : 1) において位相型 A3 の
特異点を持ち(この 2 点以外では特異点を持たない)、その平面4次曲線のタイプは IIIb 型になる。
ここで、I4 のグレブナー基底を、f15 , f16 , f17 , f18 , f19 , f20 , f21 , f22 , f23 とすると、fi ∈ 〈f15 , f16 , f17 , f18 , f19 ,
f20 , f21 , f22 , f23 〉 (1 5 i 5 14) である。
このプロセスをすべての事例において繰り返すことで、分類を行うことができる。
3
結果と現状
上記事例において、連立代数方程式における三角形式を用いて解 α, β, γ の存在を確認した。解 α, β, γ の
存在にパラメータの制限が関与する場合がある。この手法は、特異点を持たない平面4次曲線(非特異4次
曲線)のパラメータの制限を求める際にも用いた( [2] )。しかし、上記事例においては、
2α + 3γ 2 , 2β + γ 3 ∈ 〈c2 , c3 , c7 , c8 〉
であり、初期の段階で γ の解が存在すれば、α, β の解は自動的に存在することになる。したがって、解の
存在判定に必要なことは、このような場合は、連立代数方程式における共通解 γ の存在判定のみであった。
この手法( γ の解の存在のみを確認し、α, β の解の存在は、三角形式を用いるのではなく初期のイデアル
の基底で確認する手法)の方が容易いことが分かった。グレブナー基底は等価でありかつ解きやすい多項式
として求められるものであり、グレブナー基底の本質からみれば上記事例での解の存在確認は冗長な確認で
あった。
現在、非特異平面4次曲線のパラメータの制限を含め、これまで分類を行ったすべてのプロセスを、この
手法で再度検証している。それらの検証を行い平面4次曲線のパラメータの制限をグレブナー基底の表現
で統一的に表現することを目指している。
参 考 文 献
[1] 野呂正行・横山和弘, グレブナー基底の計算 基礎篇 計算代数入門. 東京大学出版会, 2003.
[2] T. Takahashi, A Note on the Application of Elimination Ideal II. Mathematical Sciences International
Research Journal, Vol. 1, No. 1, pp. 21-48, 2012.
5