日心第70回大会(2006) 高齢者の友人関係機能に関する探索的検討 丹野宏昭 (筑波大学大学院人間総合科学研究科) Key words: 友人関係機能,高齢者,接触頻度 目 的 友人関係は,われわれの生活において重要な役割を果たし ており,不可欠な対人関係のひとつである。丹野(2005)は友 人関係が内的適応の促進に果たす役割や影響を友人関係機能 と呼び,友人関係機能の下位成分を測定する尺度を作成し, 大学生の友人関係機能について検討している。その結果, 「接 触頻度の高い友人関係(High Interaction: HI 友人関係)」は大学 生の生活において道具的支援の機能を果たし, 「めったに会え ないが親密な友人関係(Low Interaction: LI 友人関係)」は長期 的な情緒的支援の機能を果たしているという示唆が得られた。 一方,高齢者の友人関係について藤田(1999)は,過去の 友人との思い出が,高齢者の自尊心や感謝心などと正の関連 があることを明らかにした。高齢者の時間的展望と友人関係 の関連について調査した柏尾(2000)は,適切な友人関係を 有していることと,過去や未来の肯定的な時間的展望と,個 人の充実感の間に正の関連があることを明らかにした。これ らの研究を概観すると,高齢者においても,LI 友人関係が高 齢者の内的適応を促進する機能を果たしていると推定される。 しかし,これまでの高齢者の友人関係研究は,HI 友人関係 に関する研究が中心であり,LI 友人関係が内的適応に果たす 具体的な機能に着目して検討されたものはみられない。そこ で本研究は,高齢者の HI 友人関係と LI 友人関係の実態を把 握し,2つの友人関係が果たしている機能について探索的に 検討することを目的とする。 方 法 回答者 北海道釧路市に在住する高齢者および茨城県つくば 市の老人センターにて活動中の集団に参加する高齢者計 20 名(男性6名,女性 14 名,年齢 67∼90 歳,平均 76.4 歳)を 調査対象とした。 手続き 筆者による個別の半構造化面接を実施した。調査の 所要時間は 30 分から 120 分であった。 調査内容 回答者の生活状況(出身地・転居歴・職業・サーク ルなどの活動について),HI 友人関係(友人の有無・会う頻度・ つきあい方・友人関係について感じていること),LI 友人関 係(友人の有無・会う頻度・連絡をとる頻度・めったに会えな い友人が大切である理由・友人関係について感じていること) について回答を求めた。 結 果 回答者の属性 釧路市の調査の回答者は7名全員が同市に 50 年以上在住していた。つくば市の調査の回答者は,同市の 在住歴が 10 年未満である回答者が6名,在住歴が 20 年以上 である回答者が7名であった。 在住歴 10 年未満である回答者 につくば市へ転居した理由を尋ねると, 「子供と一緒に住み始 めるため」 「子供の転勤のため」 のいずれかの回答をしていた。 男性の回答者5名は全員配偶者と一緒に暮らしていた。女性 の回答者のうち8名は配偶者と一緒に暮らしており,6名は 配偶者と死別し,1名はずっと独身であった。 HI 友人関係 回答者全員,HI 友人が「いる」と回答した。 HI 友人とのつきあい方は大きく2種類に分類された。第1に 「登山の会のときに会うだけ」 「クラブのときに会って話をす るぐらい」 「友人というより遊び仲間」といった,趣味や活動 を目的とした友人のつきあいが挙げられた。第2に「サーク ルがない日でも会っておしゃべりする」 「おしゃべりしにお互 いの家に行く」 「電話で話す」といった,コミュニケーション を目的とした友人のつきあいが挙げられた。 LI 友人関係 20 名中 15 名が,LI 友人が「いる」と回答した。 LI 友人の多くは「学生時代の友人・出身地の友人(13 件) 」 であった。会う機会が少ない友人であっても大切であると考 える理由は2種類に分類された。第1に, 「新しい友人よりも 気心が知れている」 「昔からのつきあいなので,互いに気楽」 といった, 「自分のことを理解している存在」を表す回答が6 件挙げられた。第2に, 「長いつきあいなので,かけがえのな い存在」 「青春時代を一緒に過ごした」 「昔話をすることがで きる」といった「人生を振り返る上で重要な存在」を表す回 答が8件挙げられた。 性別・配偶者・在住歴による差 HI 友人とのつきあい方につ いて,男性は「趣味の活動を一緒に行うつきあい」を5名全 員が挙げ, 「コミュニケーションを目的としたつきあい」を挙 げた回答者は1名のみであった。女性は全員が「コミュニケ ーションを目的としたつきあい」を挙げた。配偶者と死別し ていた女性回答者は,HI 友人と会う頻度が高く, 「コミュニ ケーションを目的としたつきあい」を頻繁に行っていた。こ れらの回答者は, 「友達とおしゃべりすることが一番楽しい」 「主人を亡くした友達と,お互いの主人の話をよくする」と いったコミュニケーションをとっていた。 同じ市に在住歴が長い回答者は,HI 友人の数が多く,HI 友人と会う頻度も高かった。出身地の近くに住んでいる回答 者から,LI 友人とのつきあい方について「年に1回程度,同 窓会で会う」 「年に1回程度,同窓会以外で会う」 「年に数回, 連絡をとる」という回答が多く得られた。一方で出身地が遠 い回答者は,LI 友人とのつきあい方について「数年に1回程 度,連絡をとる」 「年賀状のやりとり程度」 「まったく連絡を とらない」という回答を多くしていた。しかし,出身地の近 くに住んでいる回答者と遠くに住んでいる回答者のいずれも, LI 友人を重要と捉えており,LI 友人が重要である理由として 「自分のことを理解している存在」 「人生を振り返る上で重要 な存在」と回答した。 考 察 高齢者の HI 友人関係は, 「娯楽仲間」として充実感を促進 させる機能と, 「コミュニケーション欲求の充足」機能の,2 種類の機能を果たしていると推定される。男性の HI 友人関 係は「娯楽仲間」としての機能が強く,女性の HI 友人関係 は「コミュニケーション欲求の充足」機能が強いと考えられ る。特に配偶者を亡くした高齢女性にとって,HI 友人関係機 能は特に重要であると考えられる。 一方で高齢者の LI 友人関係は, 「自分のことを理解してく れる存在」 としての機能と, 「人生を振り返る上で重要な存在」 として肯定的な時間的展望の構築を促進する機能の,2種類 の機能を果たしていると推定される。出身地や在住歴,性別 に関わらず,LI 友人関係はこれら2つの機能により,高齢者 の内的適応を促進していると推定される。 (TANNO Hiroaki) 謝辞 本研究を実施するにあたり,ご指導いただいた 松井豊教授(筑波大学)に心より感謝申し上げます。
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