室内照明のみによる高速度カメラ撮影の検証

神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014
室内照明のみによる高速度カメラ撮影の検証
電子技術部 電子制御チーム 石
田 博 之
高速度カメラの撮影においては,通常は高輝度照明を用いる.しかし人と接する状態で作動するロボットを人と
合わせて撮影する場合,人の眼に危険な高輝度照明を当てることは望ましくない.そこでそのような撮影条件の目
安を得ることを目的に,高輝度照明無しで実用的な映像を撮影できるか検証を行った.その結果,撮影速度 500 コ
マ/秒(シャッター速度 1/1,000 秒)で,実用的な映像を撮影できることを確認した.
キーワード:高速度カメラ,撮影,屋内照明
2.3 方法
1 はじめに
実験は,高速度カメラで対象を撮影し,その映像から静
高速度カメラは,機械や装置の高速動作の観察に用いら
止画像を取り出して,輝度のヒストグラム分布を確認した.
実験は平成 26 年 6 月 25 日,午前 10 時から 12 時にか
れてきた.通常は高輝度照明を当てて撮影を行うことが多
いが,人と接する状態で作動するロボット等を撮影対象と
けて行った.当日の天気は晴れであった.
した場合,人の目に危険な高輝度照明を当てることは望ま
撮影対象は,生活支援ロボット等を人と接した状態で撮
しくない.そこでこのような撮影条件の目安とすることを
影する場合の目安を得ることを目的としているので,画質
目的に,昨年度導入した高速度カメラを用いて,高輝度照
評価用テストチャートではなく人の動きを対象とし,全身
明無しで実用的な映像が撮影できるか検証を行った.
が入る様,高さ 2m 程度の範囲を撮影することとした.
カメラのレンズはニコンの Ai Nikkor 35mm F 1.4 を
2 実験
使用し,カメラから被写体までの距離は 4.5 m とした.
また,カメラの高さは床から 1 m とした.
2.1 高速度カメラ
実験に使用した高速度カメラは,(株)ナックイメージテ
また高速度カメラの設定は,撮影速度 500 コマ/秒,シ
クノロジー製 MEMRECAM HX-6(カラー,内蔵メモリ
ャッター速度 1/1,000 秒,撮影解像度 2,560×1,920 画素,
8 GB モデル)である.主な仕様は,撮影速度(最大映像
ゲインは Normal とした.なおこの撮影速度は,人と接
解像度)が 1,000 コマ/秒(2,560×1,920 画素),2,000
した状態で作動するロボットの能動的な動きの検証や,人
コ マ / 秒 ( 1,920×1,080 画 素 ) , 3,500 コ マ / 秒
とぶつかった時の受動的な挙動の検証に十分な速度である.
(1,280×1,024 画素),10,000 コマ/秒(768×576 画素),
撮影は,外光の影響が異なる 2 つの条件で行った.条
70,000 コマ/秒(512×112 画素)等,記録時間は 1 秒~
件 1 は,廊下側の壁から距離 1 m の位置で西側壁に向い
数十秒(撮影速度と映像解像度による),撮影感度は
た対象を撮影(外光の影響が少ないと考えられる),条件
ISO 2,000 相当(2×2 画素合成増感モード ISO 8,000 相
2 は,廊下側の壁から距離 1 m の位置で北側窓に向いた
当),レンズマウントはニコン F マウントである.
対象の撮影(外光の影響が大きいと考えられる)である.
2.2 実験環境
それぞれの撮影で,レンズの絞りを 3 段階(F 1.4(開
実験を行った場所は,当センター実験棟 3 階の北側に
放),F 2,F 2.8)に変えて撮影した.なお,条件 1 の被
位置する情報処理実験室である.部屋の大きさは東西方向
写体正面(高さ 1 m)の照度は 670 lx,条件 2 の被写体
12 m × 南北方向 9 m,天井高は 3 m である.部屋の南側
正面(高さ 1 m)の照度は 1,060 lx であった.
は廊下となっており,出入り扉は 1.8 m × 2.2 m の扉が 2
3 結果と考察
箇所で扉の半分ほどがガラスとなっている.部屋の北側は
2 つの撮影条件での撮影画像と輝度ヒストグラムを図 1,
外に面した 2 m × 2 m の窓が 4 箇所ある.室内照明は天
井に 40 型 37 W の 120 cm 管蛍光灯 3 本の照明器具が 12
図 2 に示す.また,それぞれの画像の輝度ヒストグラム
箇所あり,廊下側から 1 m 位置の照明直下の床面照度は
から得られる輝度の平均値と標準偏差を表 1 に示す.
660 lx,机上(高さ 80 cm)の照度は 760 lx,頭上(165
撮影条件 1(壁向き)では,レンズの絞り F 1.4 と F 2
cm)位置の照度は 1,210 lx であった.照度は,(株)トプ
においては十分に明るい画像を取得できているが,輝度ヒ
コンテクノハウスのデジタル照度計 IM-2D で計測した.
ストグラムを見るとやや低輝度に偏っており,良好な画像
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であるがやや暗いと言える.また F 2.8 においては,暗す
4 おわりに
ぎて良好な画像ではないと言える.
撮影条件 2(窓向き)では,絞り F 1.4 では明るくて良
高速度カメラで,人と接する状態で作動するロボット
好な画像に見えるが,輝度ヒストグラムを見るとやや高輝
を人と合わせて撮影する際の目安とするために,高輝度照
度に偏っており,やや明るすぎると言える.また絞り F 2
明無しで実用的な映像が撮影できるか検証を行った.
の画像は,輝度ヒストグラムが中央に位置しており,良好
その結果,撮影速度 500 コマ/秒(シャッター速度
な画像と言える.絞り F 2.8 の画像は,十分に明るい画像
1/1,000 秒)で,実用的な映像を撮影できることが確認で
であるが,輝度ヒストグラムを見ると低輝度に偏っており,
きた.今後は県内大学との共同研究において,人と接する
良好な画像であるがやや暗いと言える.
ロボットの高速度カメラ撮影を,高輝度照明無しで行う予
定である.
この結果から,室内で高輝度照明をあてずに高速度カ
メラ撮影を行って,実用的な映像を撮影できることが確認
できた.しかしレンズの絞りの開放(F 1.4)は被写界深
度が浅くなるため,撮影に際してはより絞った状態で撮影
を行うことができる明るい環境で行うことが望ましい.
実験では,北向きの部屋で窓から遠い位置での撮影で
表 1 撮影条件 1 と 2 の画像の輝度の平均値と標準偏差
あっても外光の影響が大きいことが確認できたので,より
撮影条件
良好な映像の撮影のためには,晴れの日の正午前後に,南
向きの窓の多い部屋で,窓際に設置したカメラで,窓に向
かった撮影対象を撮影することが推奨される.
1
壁向き
参考までに実験日の午後 2 時頃,南に面した他の部屋
で照度を計測したが,窓から 4.5 m 離れた地点で,窓に
2
窓向き
向いた被写体正面の照度は 1,800 lx であり,より被写界
深度を深くした映像や,撮影速度を上げた映像を撮影する
レンズ絞り
輝度平均値
F 1.4 が開放
0(黒) - 255(白)
中央値 128
F 1.4
F2
F 2.8
F 1.4
F2
F 2.8
98.3
85.4
55.7
157.8
135.0
93.7
標準偏差
42.7
39.7
31.1
47.0
47.8
41.5
ことが可能になると考えられる.
a)
レンズ絞り F 1.4 の画像
b) 輝度ヒストグラム
a)
レンズ絞り F 1.4 の画像
b) 輝度ヒストグラム
c)
レンズ絞り F 2 の画像
d) 輝度ヒストグラム
c)
レンズ絞り F 2 の画像
d) 輝度ヒストグラム
e)
レンズ絞り F 2.8 の画像
f) 輝度ヒストグラム
e) レンズ絞り F 2.8 の画像
f) 輝度ヒストグラム
図 2 撮影条件 2(窓向き)の画像と輝度ヒストグラム
図 1 撮影条件 1(壁向き)の画像と輝度ヒストグラム
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