ZE25A-14 低放射化鋼における He の影響 木下博嗣 1,實川資朗 1,鈴木茂和 1 木村晃彦 2,近藤創介 2,橋富興宣 2,大村高正 2 1 2 福島工業高等専門学校 機械工学科 京都大学 エネルギー理工学研究所 1. 目的 経済の発展に伴うエネルギー消費の拡大から、化石燃料による発電によって二酸化炭素の放出量が 増加しており、地球規模での二酸化炭素放出削減が求められている。また,二酸化炭素放出を抑制し つつ,資源の乏しい日本がエネルギーを安定供給するためには,核融合や原子力,再生可能エネルギ ーを中心としたエネルギー構成にする必要がある.特に核融合発電については人類全体のエネルギー 構造の転換を可能とする新エネルギー技術であり,実用化に向けた研究開発が行われている. 核融合炉等のエネルギープラントに用いられる構造材料として、低放射化フェライト鋼、ODS 鋼の開 発が進められている。これらの材料が炉内で中性子の照射を受けると、機械的特性劣化を生じる事か ら、損傷による微細組織変化を明らかにする事が重要で有る。また、核変換反応による生成ヘリウム の影響についても検討する事も重要で有る。このような研究において、中性子の模擬照射として、超 高圧電子顕微鏡を用いた電子線照射実験が用いられている。ヘリウムが存在する時の挙動は、電子線 照射前にヘリウムイオンを予注入し、電子線照射実験によって検討する事が可能で有る。本研究では 低放射化フェライト鋼を供試材として、加速器を用いてヘリウムイオンを予注入し、その後超高圧電 子顕微鏡内において、電子線を照射しながら組織変化を in-situ で観察することを目的とした。微細 組織については、照射後 200keV 透過型電子顕微鏡にて組成分析等詳細な観察を行った。 2. 実験方法 試料は、低放射化を目的に作製された Fe-Cr-Mn(W, V)合金で、その組成を以下に示す。 Fe-12Cr-17Mn-O.3C-O.1N-1.ONi-2.3W-1.8V Ni の代わりとして Mn を添加して低放射化材とした。W, V を添加することで、組織の安定性を可能 とした。また、Ni の添加は、引張試験における伸びを確保するために、添加した。0.2mm 厚さまで冷 間圧延後、直径 3mm のディスクに打ち抜き、6×10-6Pa の真空中で 1323K、1 時間容体化処理を行った。 組織はフェライト単相で有った。超高圧電顕による電子線照射実験は、加速電圧 1300keV、照射温度 6783K と 773K とした。照射量は、10 dpa までとし、損傷速度は 2×10−3 dpa とした。ヘリウムの予注 入は、室温で行い、注入量は 20 appm/dpa である。電子線照射と同時に組織観察を行う in-situ 実験 を行った後は、200keV 透過型電子顕微鏡にて組成分析、組織の詳細な観察等を行った。 3. 実験結果と考察 Fig.1 は、673K で電子線照射した時の組織変化を示す。上段がヘリウムを注入していない場合で、 下段がヘリウムを予注入した試料における組織で有る。どちらの場合も、照射初期から格子間原子タ イプの転位ループの形成が認められ、照射量の増加に伴い、数密度が増加し、成長も認められる。 ヘリウムを注入した場合と、しない場合を比較すると、照射初期からループの数密度が明らかに異 なる。すなわち、図の下段に見られるように、ヘリウム予注入試料においては、かなり高いループの 数密度が認められる。それらループの数密度は、照射の増加に伴いわずかな上昇にとどまっている。 ヘリウム未注入の試料では、初期のループ数密度は低いが、照射に伴い明らかな増加が認められる。 また、その成長も早い。 すなわち、ヘリウムの効果として、ループ核の形成を明らかに促進する事が明らかで有る。 − 40 − ZE25A-14 Fig.2 は、ヘリウムを予注入した試料における照射量とボイドの平均径および数密度の関係を示した グラフである。照射量の増加に連れてボイドのサイズはわずかに増加するが、その成長速度は遅いこ とが明らかである。高温での照射においては、低温照射に比較して、平均径の増加が大きい。また、 数密度は、低温の場合の方が、明らかに高くなっている。 Fig. 1. Development and growth of dislocation loops and voids in alloy by irradiation at 673 K Fig. 2. Dose dependence of void mean size and void number density at 4. まとめ 低放射化 Fe-Cr-Mn(W, V)合金を電子線照射した結果、 ・ヘリウムを予注入した試料において、転位およびボイドの形成が促進された。 ・ヘリウムが試料中に存在すると、ボイドの数密度が増加する。 ・ヘリウムを予注入した試料においては、粒界での偏析量が減少する。 − 41 −
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