- HK 1 - 研修報告書 (小学校・図画工作) 富谷町立あけの平

研修報告書
(小学校・図画工作)
富谷町立あけの平小学校
針生 克之
1 研修テーマ 児童の表現したいという思いを育て,絵画表現力を高める授業を目指して
- 宮城の伝統工芸品を題材とした対象物の形と色を正確に捉えさせる指導の工夫を通して
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2 目指す授業像
(1) 児童の表現したいという思いを高めることができる授業
(2) 児童の絵画表現力を高めることができる授業
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研修テーマ・目指す授業像に迫るために
図画工作科において児童が絵をかく場合,大きく分けて二つの種類がある。一つは見たものをで
きるだけ正確にかく「造形的な特徴をとらえて写実的にかく絵」,もう一つは心に描いた情景や像
などから形や色を考える「イメージを具体化した絵」である。これまでの実践から苦手としている
児童が多いのが前者の方であるということを感じていた。上手くかけないと訴える児童の絵のかき
方を見ると二つの問題点が見えることが多かった。一つは対象をじっくりと見ていないためにかく
ときに形をうまく再現できないこと,もう一つは葉は緑,木は茶色などという単純化した固定観念
の影響で,対象の色をしっかりと確認しないまま色を塗ってしまうことである。そのため,児童が
かきたいと願う絵と実際にかいた絵に違いができてしまい,児童が「絵をかいてみたい」という意
欲をもてないでいることも多いと思われた。
そこで,児童が「絵をかいてみたい」「表現したい」という思いを育て,絵画表現力を高める授
業を目指したいと考えた。絵画表現力とは,児童がかきたいと願う絵と実際にかいた絵を近づける
ことができる力と捉えた。思いを育てるという観点からは,題材の出会わせ方の工夫を行うこと,
絵画表現力をつけることに関しては,単に技法の指導に偏ることなく,自分の思いを絵画で表現す
るために児童が対象物の形と色を正確に捉えられるような指導を実践していきたいと考えた。これ
により児童は意欲を持続することができ,さらに絵をかいてみたいという思いにつなげることがで
きるのではないかと考えた。
これらのねらいのもとに,題材としては「宮城の伝統工芸品」を扱いたいと考える。学習指導要
領図画工作科第5学年及び第6学年の内容B鑑賞(1)アに「自分たちの作品,我が国や諸外国の親
しみのある美術作品,暮らしの中の作品などを鑑賞して,そのよさや美しさを感じとること。」と
あるように,郷土の伝統文化は,児童の豊かな人間性を育て,創造性をはぐくむ観点からも,地域
の活性化の観点からも極めて重要であるとして授業でも様々な学習場面で取り入れられている。本
校においては,昨年度の社会科で「宮城の伝統工芸品」を学習しており,児童の多くが興味・関心
をもって取り組んでいた。具体的には「こけし」や「松川だるま」「十二支仙台張り子」を扱いた
いと考える。これらの伝統工芸品は形が単純で,観察するときに手に取ることができる。また,多
くの工芸品は木や紙でできていて暖かみがある素材だということも,絵画制作の題材として適切で
あると考えた。絵画表現の活動を通して,自分たちのふるさとに古くから伝わっているもののよさ
に目を向けさせたいとの願いがある。
Ⅰ期からⅢ期の計画については,絵画の構成要素の中から「形」「色」「空間」の3つの要素を
児童が絵画表現力を高めるために必要であると捉え,この要素をⅠ期からⅢ期までの実践授業に分
けて指導を行うことにした。実践授業の中で対象物の形を注意深く捉えることができるようにした
り,自分の表現に近い色の作り方やものの見え方と角度との関係などを理解したりすることで,Ⅲ
期を通して総合的に児童の絵画表現力を高めることができれば,研修テーマ・目指す授業像に迫る
ことができると考え,以下の視点で実践に取り組むことにした。
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(1) 表現したいという思いを高めるために
児童と題材との出会いを工夫し,題材に興味・関心や親しみを感じられるようにしたい。具体的
には,導入で絵にかくための題材が何かを当てさせるゲーム,伝統工芸品の背景となる代々受け継
がれてきた歴史や制作方法の紹介,視聴覚機器の効果的な使用,教室に伝統工芸品を置き児童がい
つでも手に取れるようにしておくことなどで,表現したいという児童の意欲につなげたいと考えた。
(2) 絵画表現力を高めるために
① 対象物を注意深く捉える
実物を見ながら,ワークシートに「形」「色」「模様」などの特徴を記入したり,他の児童と
話し合ったりすることで,自分が気付かなかった対象物の特徴に注意深く目を向けることができ
ると考えた。
② 表現方法を知る
大まかな形を最初にかいてから細かい所をかくなど,対象物の形の基本的なかき方や水彩画の
技法の指導をするとともに,ものの見え方と角度について指導することで,児童がかきたいと願
う絵と実際にかく絵を近づけることができるのではないかと考えた。
4 Ⅰ期の取組について 【実践題材名 宮城の伝統工芸品「こけし」をかいてみよう】
(1) 研修テーマに迫るための手立てと具体的な取組
① 表現したいという思いを高めるための工夫について
ア こけしの入った箱の中身を児童に当てさせるゲームを行い,自由に答えさせていく中で徐々
に正解に近づけていった。そのときの言葉のやりとりの中に「こけし」に関するエピソードや
歴史を織り込むなどして,児童の興味・関心を高めていくことを目指した。
イ 宮城県の拡大地図を示しながら,前学年での社会科の授業を思い出させ,こけし作りの有名
な地域を答えさせた。担任が実際に行ったこけし記念館の写真を見せたり,こけし工人が実際
に「こけし」を制作しているビデオ資料を見せたりしながら,さらに「こけし」についての興
味・関心を高めることを目指した。
ウ 作者がどんな思いでその作品を作ったのかを想像させて話し合わせることで,対象物に対す
る思いを深めさせることを目指した。
②
絵画表現力を高めるための工夫について
ア 対象物を注意深く捉える
(ア) 系統ごとの「こけし」を飾り,児童に自由に鑑賞をさせた。その後自分の気に入ったこけ
しを選ばせ,その「こけし」がどうして気に入ったのかを「形」「色」「模様」「その他」に
ついてワークシートに理由を書かせ,発表させることで,対象物を見る視点に気付かせてい
くことを目指した。
(イ) 同じ「こけし」を選んだ友達同士でグループを作らせ,選んだ「こけし」を自由に手に取
らせて観察させた。グループで話し合いながら,自分が気付かなかった「形」や「模様」の
特徴についてもワークシートに書かせ,対象物の多様な特徴に気付かせることを目指した。
イ 表現方法を知る
(ア) ワークシートの「形」「色」「模様」「その他」のこけしの見方の内容を想起させ,最初に
「こけし」全体の大まかな形をかかせてから細かい部分をかかせるようにした。
(イ) 量感と質感が感じられる絵画にするために,「こけし」に横から光を当てて,陰影の部分
を意識させながらかかせた。また鉛筆の濃さによる描線の違いについても指導し,自分の表
現の意図に合った硬さの鉛筆を選ばせた。
(2) 成果と課題(成果○ 課題●)
① 表現したいという思いを高めるための工夫について
○ 導入で「こけし」の入った箱の中身を児童に当てさせるゲームを行ったところ,児童の題材
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に対する期待感が非常に高まった。このことは児童の対象物に対する興味・関心を高めるのに
効果的であった。
○ 担任が実際に行ったこけし記念館の写真や,担任が撮影したビデオ資料で工人のこけし制作
の様子を見せた。児童の身近な存在である担任が作成した資料を通して,児童も「こけし」を
身近に感じることができたと考える。
● 普通教室で授業を行ったため,鑑賞しながらワークシートを使用するという授業場面で,興
味のある「こけし」をじっくりと見ることができない児童がいた。普通教室ではない広い場を
用意し,児童の活動がスムーズになるようにすべきであった。
② 絵画表現力を高めるための工夫について
ア 対象物を注意深く捉える
○ 「形」「色」「模様」「その他」の特徴が記入できるワークシートを使ったことで,観察の
視点が分かり,対象物の特徴をじっくりと捉えることができた児童が多かった。
○ 同じ「こけし」を選んだ児童同士でグループを作り,話し合いながら「形」「色」「模様」
「その他」の特徴についてワークシートに記入をさせたところ,自分が気付かなかった対象
物の特徴について書き込んでいる児童が多かった。対象物の多様な特徴に気付かせるのに有
効だった。
● 同じ「こけし」を選んだ児童でグループを作り,観察をしながら特徴について話し合う段
階で,グループによって人数が偏ってしまい,じっくりと「こけし」を手にとって観察する
ことができない児童がいた。児童の思いと実際の指導の場面をもっと予想するべきであると
感じた。
イ 表現方法を知る
○ 実際に教室の明るさの違う場所に「こけし」を持っていき,陰のでき方を見せた。また黒
板に貼った画用紙に担任が「こけし」の形をかきながら,陰ができることで立体に見えるこ
とを指導したことは,児童が量感のある絵を制作することに役に立った。
○ 「こけし」のおおまかな形を全体の場で確認したために,児童は戸惑うことなく「こけし」
の形をかくことができていた。
● 鉛筆の硬さによる描線の違いを全体指導した上で鉛筆を選択させたが,ほとんどの児童が
柔らかい鉛筆を使用していた。鉛筆の硬さとその効果について児童が実感するような指導の
時間を設け,自分の表現にふさわしい鉛筆を選択できるようにする必要があった。
5 Ⅱ期の取組について 【実践題材名 宮城の伝統工芸品「松川だるま」をかいてみよう】
(1) 研修テーマに迫るための手立てと具体的な取組
① 表現したいという思いを高めるための工夫について
ア 担任が実際に行った「松川だるま」の工房での写真とビデオを見せながら,「松川だるま」
についての歴史と制作工程を学習することで,伝統工芸品に興味をもたせることを目指した。
イ 「松川だるま」の絵とともに,普段お世話になっている家族に向けて感謝のメッセージと自
分の頑張りたいことをかくようにし,児童が意欲的に絵画表現に取り組むことを目指した。
② 絵画表現力を高めるための工夫について
ア 対象物を注意深く捉える
(ア) 「松川だるま」を鑑賞させながら,「形」や「色」の特徴についてワークシートに記入す
る。その後グループで話し合い,拡大したワークシートに記入することで,自分が気付かな
かった特徴について学ばせることを目指した。
(イ) いつでもだるまの特徴を感じ取れるように,教室にだるまを飾り,自由に触れることがで
きるようにした。
イ 表現方法を知る
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(ア) 実物の「松川だるま」と,アで記入したワークシートを見ながら,「松川だるま」全体の
大まかな形をかかせてから細かい部分をかかせるようにした。
(イ) 自分の表現したい色とより近い色を彩色させるために,短冊状の画用紙を準備し作った色
を実物と比較しながら色の調整ができるようにした。
(ウ) だるまの絵の彩色に入る前に,重色や混色による色の違いや水彩画の様々な技法について
学習し,実践する時間を確保した。
(2) 成果と課題(成果○ 課題●)
① 表現したいという思いを高めるための工夫について
○ 担任が実際に取材した松川だるま制作過程のビデオを見せたことで,「松川だるま」が一体
一体手作りで思いを込めて作られていることを理解することができ,「松川だるま」に対する
児童の思いを高めることができた。
○ 事前に「お家の方への感謝のメッセージ」「自分の頑張りたいこと」を考えさせたことで,
だるまをかく理由が明確となり,児童の表現したいという意欲を高めるのに有効であった。
● 「だるま」の歴史的背景を指導したとき,驚きの声が上がった。「松川だるま」の由来や歴
史をさらに深く指導し,長い時間をかけて受け継がれてきた伝統工芸品であるという視点を
児童の中に明確に位置付けたかった。
② 絵画表現力を高めるための工夫について
ア 対象物を注意深く捉える
○ 実際の「松川だるま」や「松川だるま」のカラー写真が印刷されたワークシートを観察さ
せ,「形」「色」「模様」「その他」の特徴について書かせたところ,児童は大変集中してワ
ークシートに記入していた。対象物を見る視点に気付くことができ,有効であった。
○ 児童にグループで話し合わせながら「形」「色」「模様」「その他」の特徴について拡大し
たワークシートに記入をさせた後,他のグループの拡大ワークシートを自由に見せた。児童
は自分が気付かなかった対象物の多様な特徴について気付かせるのに有効だった。
● 他の児童が書いた特徴を書き写すことはできているが,思うように自分でワークシートに
書くことのできない児童が数名いた。ワークシートの「形」「色」などの項目ごとに分けて
観察するように声掛けすることが必要であった。
イ 表現方法を知る
○ 自由に使える細い筆を多く用意したところ,ほとんどの児童が使用しており,細かい彩色
をするために非常に効果があった。
● 水彩絵の具の用い方や,彩色の手順,重色,混色の方法について指導する時間を確保し
たが,個人的なスキルの差があり,学習したことを生かすことのできない児童がいた。
6 Ⅲ期の取組について 【実践題材名 宮城の伝統工芸品「十二支仙台張り子」をかいてみよう】
(1) 研修テーマに迫るための手立てと具体的な取組
① 表現したいという思いを高めるための工夫について
ア 「十二支仙台張り子」の制作工程の写真を見ながら「仙台張り子」の伝統や「十二支」につ
いて学習させ,対象物に興味・関心をもたせることを目指した。
イ 「十二支仙台張り子」を教室内に常に置き,自由に手に取ることのできる環境を作った。
② 絵画表現力を高めるための工夫について
ア 対象物を注意深く捉える
(ア) 鑑賞させた後,「十二支仙台張り子」を手に取り,「形」や「色」の特徴についてワーク
シートに記入することで,対象物の形や色を実感をもって捉えさせることを目指した。
(イ) 友達のワークシートの記述を自由に見る時間を確保し,新しく気付いたことを自分のワー
クシートに記入した。また,対象物の形や色について,児童同士でスムーズに話合いができ
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るようなグルーピングを行うことで対象物の形や色を学び合うことができるようにした。
イ 表現方法を知る
(ア) より自分の表現したい色に近づけるため,対象物の色と自分が作った色を比べたり,絵
の具に混ぜる水分の量を確認できるようにしたりすることのできる小さな画用紙を用意した。
(イ) 針金フレームを使用して,対象物を様々な角度から見せることで,ものの見え方と角度の
関係に気付かせ,より自分が表現したい対象物の向きを見つけさせることを目指した。
(2) 成果と課題(成果○ 課題●)
① 表現したいという思いを高めるための工夫について
○ 「十二支仙台張り子」の制作工程の写真を見ながら,「仙台張り子」の伝統や「十二支」に
ついて学習した。実践後のアンケートでは「こんなふうに作られているんだと思うと早くかい
てみたいと思った」などの記述が複数あり,児童は対象物に興味・関心をもつことができたと
考えられる。
○ 「十二支仙台張り子」を教室内に常時置き,自由に手に取ることのできる環境を作った。
児童は休み時間になると張り子を使って物語を作って遊ぶなど親しみをもって対象物と向き
合っていた。
②
絵画表現力を高めるための工夫について
ア 対象物を注意深く捉える
○ 鑑賞させた後,「十二支仙台張り子」を手に取らせながら,「形」や「色」の特徴につい
てワークシートに記入させたり,他の児童のワークシートを自由に見る時間を確保し,新し
く気付いたことを自分のワークシートに記入させたりした。対象物について児童同士で自然
に話ができるようになったことは,対象物の「形」や「色」の特徴に目を向けさせるのに有
効であった。
● 対象物の「形」や「色」について,児童同士でスムーズに話合いができるようなグルーピ
ングを目指した。活発に話合いがなされるグループが多かったが,話合いを積極的に進める
児童がおらず活動が停滞するグループも少数ながら存在した。
イ 表現方法を知る
○ 多くの児童は自分の作った色と対象物の色を比較するための画用紙を使用していた,自分
の表現したい色を確認してから彩色していたため,色作りで迷う児童が少なかった。
○ 針金フレームを使用させ,対象物を様々な角度から見せることで,ものの見え方と角度の
関係に気付くことができた。横向きの対象物だけではなく,様々な角度からかかれた作品が
多くあり,自分が表現したい対象物の向きを見付けさせるために有効であったと考えられる。
● 対象物を見下ろすような角度に気付かせるために,針金フレームを支える洗濯ばさみを
多く用意し,児童に自由に使用させた。しかし,洗濯ばさみを組み合わせることに夢中に
なってしまい,フレームを通して対象物を見るという本来の目的から離れる児童がいた。
7 1年間の総括
(1) 研修の成果
① 表現したいという思いを高めるための工夫について
授業の導入では,児童が絵にかく対象物の宮城の伝統工芸品の制作工程や歴史などを学習した。
実践終了後の児童へのアンケートでは「心をこめて大切に作られているので,絵も心をこめてか
けた」「歴史を学んだらすごい歴史で『かきたい』と思った」などの記述があり,児童は対象物
に作り手の思いが込められていることや,自分の住んでいる宮城県に古くから伝わっているもの
であることに気付いたと考えられる。また,教室にその伝統工芸品を常時置き,自由に触れるこ
とのできる環境を作ったことが,対象物に対して親しみをもたせるとともに大切に思う気持ちを
育むことにつながった。また「ものをかくことはきらいだったけど,伝統工芸品をかいたらとて
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も好きになった。」との記述もあり、児童の心に生まれた対象物に対する親しみが,表現したい
という思いを高めることにつながったと考える。
② 絵画表現力を高めるための工夫について
ア 対象物を注意深く捉える
「形」「色」「模様」「その他」などの特徴を記入できるワークシートを用いて,対象物をじ
っくりと観察させたり,他の児童のワークシートを互いに見合いながら対象物の特徴について
学び合いをさせたりした。実践終了後の児童へのアンケートでは,「ワークシートがあると,
真剣に見ることができるので,特徴や色を絵にかくときうまくかけた」「自分の気付かなかっ
たことが分かって特徴を知ることができた」等の記述があり,児童はワークシートを使用する
ことで対象物を捉える視点が分かり,じっくりと向き合うことが可能になった。また,対象物
の特徴を捉えることが苦手な児童も他の児童と話をすることにより,対象物の特徴を「形」
「色」
「模様」「その他」などの視点に分けて捉えることが可能になったと考える。
イ 表現方法を知る
下絵を彩色する前に,対象物と比較しながら色を作れるような小さな画用紙を準備したこと
で,多くの児童が「塗る前に色を確かめられるのでよかった」「試し塗りをすることで実物の
色と近づけるためにどうすればよいか分かった」とアンケートに記述していた。また,針金フ
レームを使用したことに対して「かっこいい角度にかけた」「フレームを画用紙として見るこ
とができたのでかきやすかった」「いろいろな角度から見て,自分の一番しっくりくるところ
を探すことができた」との記述があり,手立てにより,自分がかきたいと願う絵と実際にかく
絵が近づいたと考えられる。
さらに,Ⅰ~Ⅲ期の授業を通して普段絵をかくことを苦手とする児童も集中して授業に取り組む
様子が見られた。5月と実践終了後の12月に行った意識調査では「けしきやものを見て本物そっ
くりに絵をかくこと」について「好き,どちらかというと好きで得意である」という児童が26%
から47%に増加し,「好き,どちらかというと好きだが苦手である」と い う 児 童が 6 2 % か ら
41%に減少した。児童はどのようにかいたらよいかが分かり,自分がかきたいと願う絵に近づけ
てかくことができるようになったと思われる。このことは,多くの児童の絵画表現力を高めること
につながったのだと考えられる。
(2) 今後の課題
水彩絵の具の扱い方に関する個に応じたさらなる支援が必要であった。児童の実態の差が予想以
上に大きかったことが理由に挙げられる。今後は児童の実態を十分に把握した上で「表現したい色
の作り方の指導」「絵の具と水の量の関係の指導」等の細かい支援を指導案に載せる必要があると
考えている。また,一単位時間の授業の中で何を児童に学習させたいのかをさらに吟味し明確に捉
えておく必要があった。児童にとって必要であると考えていた教具が,逆に授業のねらいを不明瞭
化してしまったことや児童のつぶやきや反応を十分に活かせないことがあったためである。授業の
場面ごとにねらいを明確にして取り組む必要があると考える。
以上のことを来年度からの課題として,さらに授業実践に励みたいと考えている。
主な参考文献
[1]文部科学省:「小学校学習指導要領解説 図画工作科編」
日本文教出版
2008
[2]髙﨑尚昭:「水彩画これ一冊で 形のとり方がわかる!~初歩からの透視図」
日貿出版社
2006
[3]視覚デザイン研究所・編集室:「見てすぐ描ける水彩スケッチ 下図から完成までの手順が
わかるモチーフガイド」
視覚デザイン研究所 2005
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