Page 1 Page 2 Page 3 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 腫瘍細胞増殖

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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Hexokinase 2 and VEGF expression in liver tumors :
correlation with hypoxia-inducible factor-1α and its
significance( Abstract_要旨 )
Yasuda(An), Seiichi
Kyoto University (京都大学)
2005-03-23
http://hdl.handle.net/2433/144696
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
やす
氏
学位(専攻分野)
学位記番号
名
だ
せい いち
安 田 誠
博 士(医 学)
論 医 博 第1873号
学位授与の要件
平成17年 3 月 23 日
学位規則第 4 条第 2 項該当
学位論文題目
HexokinaseIIandVEGFexpression享nlivertumors‥COrrelationwith
学位授与の日付
hypoxia−inducible factor−1αanditsslgnificanceに関する研究
(肝癌,転移性肝癌におけるへキソキナーゼⅢ及びVEGFの発現と,HIF−
1α発現との関連性)
)
論文調査委貞 平岡眞寛 教授千葉 勉 教授藤田 潤
論 文 内 容 の 要 旨
腫瘍細胞増殖のエネルギー獲得には新生血管増生による好気的代謝が重要である。しかし臨床の場では腫瘍血管が乏しい
にもかかわらず増殖の速い腫瘍が経験され,このような腫瘍では解糖系による嫌気的代謝でのエネルギーの獲得が推察され
る。最近の分子生物学的解析では,hypoxia−induciblefactorl(HIF−1)はa,βsubunitからなる転写因子で,低酸素で
誘導され,VaSCularendothelialgrowthfactor(VFGF)やhexokinaseII(HKII)を含めた血管新生因子や解糖酵素の発
現を促進し,これらは多くの痛で高発現していることが報告されている。申請者は,腫瘍血管新生と解糖系との関係を明ら
かにするため,肝細胞癌と転移性肝癌の臨床標本を用いて,腫瘍血管数とHKII,VEGFの発現がいかに関連しているか,
さらにHIF−1α蛋白がどのように関与しているかを検討した。
対象は当科で1992年がら2001年に切除された肝細胞病症例40例,転移性肝癌症例30例である。肝細胞癌症例40例のうち,
術前にTAEが施行された症例は22例であった。一方転移性肝癌症例では術前TAE施行症例は1例のみであった。reaト
tim。定量RT−PCR法でHKIImRNA,VEGFmRNAの発現を定量化した。腫瘍血管数はパラフィン切片を抗factor
VIII関連抗原抗体で免疫染色を行い,microvesseldensity(MVD)として評価した。HIF−1α蛋白発現の強さは,抗HIFT
lα抗体による免疫染色で核染色される癌細胞の割合が1%未満のものを0,1−10%のものを1+,10−50%のものを2+,
50%以上のものを3十として評価した。細胞増殖能は,抗proliferatecellnuclearantigen(PCNA)抗体による免疫染色に
より評価した。
MVDは肝細胞癌群で有意に高値であり(P<0.0001),肝細胞痛群のVEGFmRNA発現とのみ有意な正の相関を示した
(,=0.367,P=0.022)。一方,HKIImRNA発現は転移性肝癌群で有意に高かったが(P<0.0001),肝細胞癌群のうち
4症例がHKIImRNAの著明な高発現を示しこれらは全てTAE施行症例であった。HIF−1a蛋白の発現は転移性肝癌群
では30例中21例で,肝細胞癌群では40例中TAEが施行された6例でのみ発現を認め,肝細胞痛詳ではTAE施行症例で有
意にHIF−1α蛋白が高発現していた(ア=0.035)。免疫組織学的検討で,HIF−1α蛋白発現は転移性肝癌症例では中心壊死
部近傍で,肝細胞病症例ではTAEにより生じた壊死部近傍の癌細胞で高発現しており,その局在はHKII蛋白と一致し
た。一方,腫瘍血管は両腫瘍において腫瘍辺縁部で豊富であったが,PCNA蛋白発現はその腫瘍辺縁部と同様にHKIIが
高発現しでいる壊死部近傍においても高い発現を認めた。またHIFTlα蛋白発現の強さは両腫瘍群においてHKIImRNA
発現値と有意な相関を認めたが(肝細胞癌群:r=0.453,P=0.005,転移性肝癌群:r=0.414,ア=0・026),VEGF
mRNA発現値とは,両腫瘍群とも有意な相関は認めなかった(肝細胞痛群:P=0.471,転移性肝癌群:P=0・057)。以上
から,腫瘍細胞増殖のエネルギー獲得を転移性肝癌では主に嫌気的代謝である解糖系に依存し,HIF−1αの関与が考えられ
た。肝細胞癌ではVEGFにより誘導された新生血管からの好気的代謝に主に依存しているが,TAE後の症例では,急激
な腫瘍血管の喪失により生じた低酸素状態がHIF−1αを誘導し,解糖系が克進し嫌気的代謝でエネルギーを獲得し細胞増殖
しうるphenotypeに変化する可能性が示唆された。
−1941−
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
腫瘍細胞増殖エネルギー獲得には新生血管増生による好気的代謝が重要だが臨床の場では腫瘍血管が乏しいが増殖の速い
腫瘍が経験され,解糖系による嫌気的代謝でのエネルギー獲得が推察される。Hypoxia−inducible factorl(HIF−1)は低
酸素で誘導され,VaSCularendothelialgrowthfactor(VEGF)やhexokinaseII(HKII)を含めた血管新生因子や解糖酵
素の発現を促進し,多くの痛での高発現が報告されている。申請者は肝細胞痛40症例と転移性肝癌30症例において,腫瘍血
管数とHKII,VEGF発現との関連性及びHIF−1α蛋白発現の関与について検討した。
HKIImRNA,VEGF mRNAの発現はreal−time定量RT−PCR法で定量化し,腫瘍血管数,HIF−1a蛋白発現,細胞
増殖能は免疫組織学的に評価した。
腫瘍血管数は肝細胞痛群で有意に高値で,VEGF mRNA発現値と有意な相関を示した。HKIImRNA発現値は転移性
肝癌群で有意に高く,肝細胞癌群では4症例のみが著明な高発現を示し全てTAE施行症例であった。HIF−1α蛋白発現は
両腫瘍とも壊死部近傍で高発現し,その局在はHKII蛋白と一致したが肝細胞痛群ではTAE施行症例のみで発現してい
た。腫瘍血管数は両腫瘍とも腫瘍内部より辺縁部で高値であったが,細胞増殖能は辺綾部と同様に壊死部近傍でも高かった。
以上の結果は腫瘍細胞増殖の主なエネルギー獲得機序が転移性肝癌と肝細胞癌では異なっていることを意味している。即
ち転移性肝癌では嫌気的代謝が主でHIト1の関与が考えられる。一方肝細胞痛では新生血管からの好気的代謝に主に依存
するが,TAE後は急激な腫瘍血管の喪失で生じた低酸素状態がHIF−1αを誘導し,嫌気的代謝でエネルギーを獲得しうる
phenotypeに変化する可能性が示唆される。
以上の研究は,腫瘍環境に応じた痛のエネルギー代謝変化の解明に貢献し,腫瘍環境に応じた癌治療の発展に寄与すると
ころが多い。
したがって,本論文は博士(医学)の学位論文として価値あるものと認める。
なお,本学位授与申請者は,平成17年2月9日実施の論文内容とそれに関連した研究分野並びに学識確認のための試問を
受け,合格と認められたものである。
−1942−