汚染水処理後のセシウム吸着材を安全に保管する

福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発
1- 19 汚染水処理後のセシウム吸着材を安全に保管する
-吸着材の性状を推定し、水素発生と容器腐食を評価する-
(a)吸着塔断面図
(b)温度分布
水素混合空気排出
(℃)
211
ベント管
プラグ
遮へい体
水入口管
空気流入
水出口管
放射性吸着材
残留水
(c)水素濃度
最高 211 ℃
(%)
1.59
192
1.44
174
1.28
156
1.12
137
0.96
119
0.80
101
0.64
82
0.48
64
0.32
45
0.16
27
0.00
最大 1.6%
図 1-39 残留水で水出口管が閉塞した吸着塔内の温度,水素濃度の定常解析例
設定条件(崩壊熱 504 W, 水位 24 cm, 水素発生率 20.5ℓ/日,底面吸収線量率 755 Gy/h)での解析結果です。残留水で
水出口管が閉塞した場合でも、水入口管からの空気流入とプラグ等からの水素/空気混合ガスの流出により、吸着塔内
の最高温度は自己着火温度(500 ∼ 571 ℃)を十分に下回り、水素濃度も爆発下限界(4%)を下回ることが分かりまし
た。また、容器底部の水温は 47 ℃と評価されました。
0.8
SUS316Lと吸着材
(Herschelite)
接触条件
60 ℃
希釈人工海水
0.6
電位
自然浸漬電位
局部腐食発生
リスク存在
局部腐食発生電位
5 kGy/h
0.4
(V)
0.2
図 1-40 ステンレス鋼の局部腐食発生電位と Cl- 濃度の関係
海水中で吸着材と接触させたステンレス鋼に対する電気化学的試験の結果
です。Cl- 濃度が増大すると局部腐食発生電位が低下し、自然浸漬電位を下
回る領域では、局部腐食発生リスクが存在すると評価することができます。
しかし、吸着塔容器底部の水温を 60 ℃以下,吸収線量率を 755 Gy/h と
すれば、海水相当の約 20000 ppm の Cl- 濃度では、直ちに腐食は発生し
ないと考えられます。
750 Gy/h
局部腐食発生
リスク無し
400 Gy/h
0 Gy/h
0
2
10
10
3
4
10
5
10
‒
Cl 濃度
(ppm)
東京電力福島第一原子力発電所事故の汚染水処理では、
セシウム
(Cs)除去性能が高い鉱物系吸着材
(Herschelite
等)をステンレス鋼製容器に充てんした吸着塔が使用さ
れています。
使用済みの吸着塔は強い放射線を出すため、
遮へい体に入れて一時保管されています
(図 1-39
(a)
)
。
初期の吸着塔は海水を含む汚染水を処理しており、長期
保管を達成するためには、水の放射線分解による水素発
生や容器材料の腐食評価を早急に行う必要があります。
吸着材の性状として、Cs 吸着係数,熱伝導率,水素
発生 G 値等を取得し、Cs が吸着塔内に均一に吸着した
時の崩壊熱,吸収線量率,水素発生率等の評価条件を
設定しました。これを基に、吸着塔内の温度と水素濃
度を解析した結果の例を図 1-39
(b)と
(c)に示します。
吸着塔内の最高温度は 211 ℃で、水素の自己着火温度
(500 ∼ 571 ℃)を十分下回ること、この温度分布での
水素濃度は、
1.6% 以下
(爆発下限界は 4%)
となりました。
ベント管,プラグ,水入口管を開放した状態であれば、
水入口管から空気が流入し、プラグ等から水素と空気の
混合ガスが流出するため、塔内水素濃度の上昇が抑えら
れることが分かりました。
局部腐食発生の評価には、電気化学的手法を用いま
す。海水中で吸着材と接触させ測定したステンレス鋼
の局部腐食発生電位と塩化物イオン
(Cl-)
濃度の関係を
図 1-40 に示します。Cl 濃度が増大すると、局部腐食
発生電位が低下し、自然浸漬電位を下回ると腐食が発生
する条件を満足しますが、図 1-40 から吸着塔容器底部
の水温 60 ℃以下、吸収線量率 755 Gy/h(図 1-39 の
解析結果と設定条件)
では、海水相当の約 20000 ppm の
Cl 濃度では直ちに腐食は発生しないと考えられます。
本研究は、経済産業省からの受託事業「平成 25 年度
発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備(事故廃棄物処
理・処分概念構築に係る技術検討調査)
」の成果を含み
ます。
●参考文献
Yamagishi, I. et al., Characterization and Storage of Radioactive Zeolite Waste, Journal of Nuclear Science and Technology, vol.51,
issues 7-8, 2014, p.1044-1053.
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原子力機構の研究開発成果 2014