深谷-加藤の補題と一次元 p 進リー群への帰結 村上和明 はじめに 1 本講演では許容な p 進リー拡大に対する非可換岩澤主予想が一次元の場合 の非可換岩澤主予想に帰着されることを示す. その過程でキーとなるのが, 深 谷-加藤の補題である. 本講演ではまず, 深谷-加藤の補題を認めたうえで岩澤 主予想が 1 次元の場合に帰着されることを示し, 残りの時間で深谷-加藤の補 題の証明を行う. 深谷-加藤の補題 2 2.1 設定 F∞ /F を許容な p-進リー拡大, G = Gal(F∞ /F ) とする. H を F cyc に対応 する G の部分群とする. Q1 := {U | U は G の正規部分群でかつ H の開部分群 } とおく. 2.2 深谷-加藤の補題 補題 2.1. 深谷-加藤の補題∼その 1 ([4], Proposition 1.5.1). K1 (Λ(G)) ∼ K1 (Λ(G)/J(Λ(G))n ) = lim ← − n ただし J(Λ(G)) は Jacobson 根基で, 射影極限は Λ/J n+1 → Λ/J n が誘導す る K1 の射によってとる. 実際に本講演で利用する深谷-加藤の補題は以下の形である. 補題 2.2. 深谷-加藤の補題∼その 2. K (Λ(G/U )) K1 (Λ) ∼ = lim ←− 1 U ただし U は Q1 全体を動く. 1 一次元 p 進リー群への帰結の証明 3 本節では深谷-加藤の補題を用いて非可換岩澤主予想の証明が一次元 p 進 U リー群の場合に帰着されることを示す。U ∈ Q1 に対して, F∞ を U に対応す U る F∞ /F の中間体, GU = Gal(F∞ /F ) とおく. 命題 3.1. (一次元 p 進リー群に帰着させる命題, [5] Theorem 4.1) F∞ /F を許容な p 進リー拡大で Hyp. µ = 0 を満たすとする. 以下の条件 (a) と (b) が成り立つならば, F∞ /F で非可換岩澤主予想 (NCIMC) が成立す る. U (a) 任意 U ∈ Q1 に対して, p 進リー拡大 F∞ /F において NCIMC が成り立 つ. (b) 任意 U ∈ Q1 に対して, K1′ (Λ(GU )) → K1′ (Λ(GU )S ) が単射. 注意 3.2. 仮定から以下の二つが直ちに従う ( 演習問題 ). U /F は許容な 1 次元 p 進リー拡大である. 1. F∞ U 2. F∞ /F では Hyp. µ = 0 が成り立つ. (Proposition 3.1 の証明) Burns-加藤の手法と以下の可換図式による. 0 K ′ 1 (Λ(G)) / K ′ 1 (Λ(G)S ) / lim K ′ 1 (Λ(GU )) ←−U / lim K ′ 1 (Λ(GU )S ) ←−U ∂ / K0 (Λ(G), Λ(G)S ) / lim K1 (K1 (Λ(GU )), Λ(GU )S ) ←−U 以下の二つを満たす元 ζF∞ /F ∈ K ′ 1 (Λ(G)S ) を見つければよい. ∂(ζF∞ /F ) = r ζF∞ /F (κρ ) = −[C(F∞ /F )] (1) LΣ (ρ, 1 − r) (2) F∞ /F の特性元 f ∈ K ′ 1 (Λ(G)S ) を一つとる. つまり f は ∂(f ) = −[C(F∞ /F )] をみたす元とする. f の limU K ′ 1 (Λ(GU )S ) への像を (fU )U と表すことにす ←− U る. 図式の可換性より ∂U (fU ) = −[C(F∞ /F )], ただし (∂U )U は図式下段 ′ の横矢 (∂U )U : limU K 1 (Λ(GU )S ) → limU K1 (K1 (Λ(GU )), Λ(GU )S ). ま ←− ←− U /F が存在する. ここで た仮定 (a) より, 各 U に対して p-進ゼータ関数 ζF∞ −1 U wU = ζF∞ /F fU , w = (wU ) とおく. 深谷-加藤の補題より w と対応する K ′ 1 (Λ(G)) も w と表すことにして, ζF∞ /F = f w おけば ζF∞ /F は (1) と (2) を満たす. (1) は f が特性元なので ∂(f w) = ∂(f )∂(w) = −[C(F∞ /F )] より わかる. (2) は Artin 表現 ρ の像が有限であることより, 十分小さい単位元の 開近傍 U ∈ Q1 をとれば ρ は G/U 上で定義される表現になることから従う. (演習問題 3.) ζF∞ /F が (2) を満たすことを示してください. 2 /0 4 深谷-加藤の補題の証明の概略 本節では深谷-加藤の補題の証明の概略を説明する. 講演では p 進リー群に おける完備群環に限って証明するが, もう少し一般の環に対しても深谷-加藤 の補題は成り立つ. Λ を環とし, 次の条件 (*) を満足するとする. (*) ある両側イデアル I が存在して, Λ ∼ Λ/I n (つまり, Λ は I 進位相に = lim ← − n 関して完備) であり, Λ/I n が任意の n ≥ で有限である. 注意 4.1. (*) の十分条件として, 「G が位相的に有限生成な pro-p 正規開部 分群を持つ」がある. 従って p 進整数環上の p 進リー群の完備群環は (*) を 満たしている. 証明の概略を行う前に Λ の環論的性質を挙げる. Λ はこれまでと同じく (*) を満たす環, J をその Jacobson 根基とする. • Λ は半局所環 (つまり Λ/J が半単純環). • Λ/J n は任意の n ≥ 1 で有限. • Λ は J-進位相に関して完備である. (深谷-加藤の補題の証明の概略) K 群の完全列 1 → K1 (Λ, I) → K1 (Λ) → K1 (Λ/I) → 1 より, 補題の証明はまず以下の相対 K 群の同型に帰着される. K1 (Λ, J) ∼ K (Λ/J, J/J n ) = lim ← − 1 n さらに Verserstein の結果を用いて, 次の単数部分群の同型 (特に全射) に帰着 される. ⟨h(Λ/J n , J/J n )⟩ ⟨h(Λ, J)⟩ ∼ = lim ← − n (3) この同型の証明が、深谷-加藤の補題の証明の本質である. 証明は非可換群の 複雑な計算を行うことによって示される. 補題 4.2. (1) n ≥ 1 で ⟨h(Λ, J n )/(⟨h(Λ, J/J n+1 )⟩⟨h(J, J n )⟩), ⟨h(J, J n )/(⟨h(J, J n+1 )⟩) は可換群になる. (2) x, y ∈ Λ, z ∈ J n ならば h(x + y, z) ≡ h(x, z)h(y, z) mod ⟨h(Λ, J/J n+1 )⟩⟨h(J, J n )⟩. 3 以下の補題は (3) の全射性を示すうえで本質的である. 補題 4.3. 写像 ϑ: s ∏ J → ⟨h(Λ, J)⟩; ((xi )i 7→ i=1 s ∏ h(ci , xi )) i=1 は全射である. ただし (ci )1≤i≤r は加法群 Λ/J の (任意の) 生成系, (ci )r+1≤i≤s は加法群 J/J 2 の (任意の) 生成系である. これらの補題を使って証明は完成される. 補足 5 この節では本講演で証明なしで利用する事柄を並べる. 5.1 K1 (R), K1 (R, I) K2 (R) の定義 (復習) R を環, I を R の両側イデアルとする. Mn (R) : = R 成分の n × n 行列全体, GLn (R) : = {A ∈ Mn (R) | ∃ B ∈ Mn (R) ei,j (a) : = En + aE(i, j) (i ̸= j), AB = BA = En }, とおく. 但し a ∈ R, En は単位行列, E(i, j) は (i, j) 成分が 1 でその他の成分 は 0 である行列, En (R) := ei,j (a) : で生成される GLn (R) の部分群である . ( ) g 0 を使って 埋め込み GLn (R) → GLn+1 (R) ; g 7→ 0 1 GL(R) : = GL(R, I) : = E(R) : = E(R, I) : = lim −→n GLn (R), {A ∈ GL(R) | ∃ n A ≡ En mod I}, lim −→n En (R), {ei,j (a) ∈ E(R) | a ∈ I} を含む GL(R) の最小の正規部分群 と定義する. このとき K1 (R), K1 (R, I) K2 (R) を以下のように定義する. 定義 5.1. (K1 (R), K1 (R, I) K2 (R) の定義) K1 (R) : = GL(R)/[GL(R), GL(R)], K1 (R, I) : = GL(R, I)/E(R, I), K2 (R) : = H2 (E(R), Z). 4 5.2 K 群の性質 命題 5.2. (K 群の完全列 [6] Theorem 6.2) K2 (R) → K2 (R/I) → K1 (R, I) → K1 (R) → K1 (R/I) → · · · は完全列である. さらに R/I が半局所環ならば K1 (R) → K1 (R/I) は全射. 命題 5.3. (K2 の性質) K2 ( 有限体 ) = 0 である. 命題 5.4. ( 森田同値 ) K2 (R) ∼ = K2 (Mn (R)). 5.3 射影極限 命題 5.5. (射影極限の完全列) 0 → {An } → {Bn } → {Cn } → 0 をアーベル群の逆系の完全列とすれば, 0 → lim An → lim Bn → lim Cn ← − ← − ← − n n n は完全列である さらに以下の条件の一方を満たすなら, 0 → lim An → lim Bn → lim Cn → 0 ← − ← − ← − n n n は完全列. (1) {An } が全射的 (任意の n で An+1 → An が全射) (2) An が任意の n で有限 参考文献 [1] John Henry Coates, Peter Schneider, Ramdorai Sujatha and Otmar Venjakob edt., Noncommutative Iwasawa Main Conjectures over Totally Real Fields, Springer Verlag (2012). [2] Charles Whittlesey Curtis and Irving Reiner, Methods of Representation Theory: With applications to finite groups and orders, Volume 1, Wiley, New York (1981). [3] Charles Whittlesey Curtis and Irving Reiner, Methods of Representation Theory: With applications to finite groups and orders, Volume 2, Wiley, New York (1987). 5 [4] Takako Fukaya and Kazuya Kato, A formulation of conjectures on padic zeta functions in noncommutative Iwasawa theory, Proceedings of the St. Petersburg Mathematical Society, Vol. XII, 1-85, Amer. Math. Soc. Transl. Ser. 2, 219, Amer. Math. Soc., Providence, RI (2006). [5] Mahesh Ramesh Kakde, The main conjecture of Iwasawa theory for totally real fields, Invent. Math., 193, no.3, 539-626 (2013). [6] John Willard Milnor, Introduction to Algebraic K-theory, Annals of Mathematics Studies, Princeton University Press, Princeton (1971). 6
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