鋼構造技術者育成講習会 質問者への回答

鋼構造技術者育成講習会
建築 02(K04)
質問者への回答
関講師
Q:溶接部(熱)のHTBへの影響について、設計時に考慮する場合、具体的にどのよう
な検討が必要になってくるのか? 軸力を 0.8 倍したものについて、検討を行うとい
ったことになるのでしょうか?
A:保有耐力接合では滑った後のせん断耐力での検討がされているので問題はないこと。
また、許容応力度設計時には、すべり耐力以下であることを確認する必要があるので、
何らかの考慮をする必要があることは説明した通りです。しかし、入熱により導入軸
力がどの程度低下するかが判っていない現状では、実験により具体的な値を把握し計
算に反映させるか、許容応力度設計時のみ計算上の曲げ負担はフランジだけで処理で
きる(ウェブに曲げを負担させない)ようにしておくぐらいの対応ではないでしょう
か?
建築 03(K03)
林講師
Q:建築設計者の低減を法の緩和で対処・フォローが進むのは、とても危険な方向だと思
う。
A:国の方針は、構造設計者の数を求めているのではなく、技術者として能力があって倫
理観を持った構造設計者の確保を最優先しています。また、法の緩和ではなく、偽装
問題再発防止で厳格化した法令の見直しが主な目的であり、合わせてその他の修正を
加えているのです。
Q:2011 年建築確認手続きの運用改善「第二弾」2.規制改革等の要請への対応 太陽光発
電に係る取扱⇒これがどんな内容か、気になりました。
A:東北地方太平洋沖地震の原発事故を受けて原発以外の電力の確保が国の政策であり、
その一つである太陽光発電の普及を積極的に図っています。このため、の建築基準法
における規制を緩和して普及を後押ししています。
具体的には、
・建築物に設置される太陽光発電設備等は、工作物としない。
・地上の太陽光発電設備等は、建築物としない。
・屋上に設置される太陽光発電設備等は、高さに算入しない。
建築 04-05(K07-K08)
北村講師
Q:ダンパーについて、履歴系よりも粘性系の方が性能はよいように思える。
履歴系のメリットは何かあれば教えて下さい。
A:
(コストメリット等、構造以外の理由は除いて)履歴系は変形を小さくする効果が高い。
粘性系は加速度の上昇を抑えながら変形を小さくできる。
建築 08(K09)
横山講師
Q:高力ボルトの接合部について
摩擦面処理の方法としてブラスト処理があるが、粗さ 50μmRz 以上とは、どのように
して確認を行うのでしょうか。
A:①対象部材のブラスト処理を行う場合、同時に、別途の小片の板(例えば 100 ㎜角)
を用意してブラストを処理を行う。これを表面あらさ測定器(無い場合は、ボルトメ
ーカーに依頼する。
)で測定し、表面あらさを確認する。
②毎回①を行うのは合理的でないので、その工場が使用するブラストにより 50μmRz
以上の表面あらさが測定された標準試験板を製作し、実際の対象部材のブラスト処理
がこの標準試験板より粗いことを毎回確認する。
以上、2つの方法があると思います。
Q:溶接時の留意点について、他に何かあれば教えてほしい
A:「溶接」の講義で十分な説明があると思います。
土木 09(D10)
長井講師
Q:接合部のずれと破断は同じ係数で照査されていますが、ずれも許容しないということ
ですね。つまり、今の設計では、ちょっとした損傷でも許容しないという安全すぎる
設計ではないでしょか。
A:接合部の設計にあたり、溶接部では、降伏強度が終局強度で、材料破断でなく、材料
が降伏に達したとき、安全性能が失われたとみなします。また、高力ボルト(摩擦接合)
設計では、「すべり」または「母材や連結板の降伏」が終局強度となります。つまり、
ボルト群のどこかにすべりが生じた状態で、あるいは、鋼材が降伏した状態で安全性
能が失われたとみなします。降伏以降の挙動、あるいは「ボルトすべり」以降の挙動
は設計には考慮されません。
「安全すぎる設計」については、そのような疑問をもつの
は当然かと思います。降伏や、すべり以降の最終破断、崩壊までの挙動を考慮できる
設計手法へのシフト、検討が望まれます。欧米の設計は、そのようになっています。
上記の内容が十分でない場合、JSSC 事務局経由でご連絡ください。
≪参考≫
現行、道路橋示方書(許容応力度設計法)では、安全性能の照査は(一般的に)、
Σf ≦ h・fa = h・min{fy, fcr(≦fy)}/1.7
で行われます。f は作用応力度、Σは各種作用の和、h は許容応力度(fa)の割増係数、fy
が鋼材の降伏強度、fcr が座屈強度、
1.7 は基準安全率(無知係数、未知係数とも呼ばれる)。
また、min{a, b}は、a,b のうち小さい方を採用。
作用応力の合計と、終局強度{鋼材降伏強度または部材[梁、柱、無補剛板、補剛板]座屈
強のうち小さい方の値}を約 1.7 で除した値、つまり許容応力度(複数の荷重作用の場合、
割増し係数が考慮される)との大小関係で性能照査を行います。両者(作用と抵抗)の間に、
一定の比率約 1.7 を設定しています。死・活荷重作用の場合、h = 1.0 で、
fD
+ [L +I]
≦
{fy, fcr(≦ fy)}/1.7
min.
で安全性能が照査されます。
一方、講習会で説明した通り、AASHTO LRFD では、降伏やすべりは、
「使用限界状態」で、
破断、崩壊が「終局限界状態」です。