6月の症例

<今月の症例>
60 代女性。右背部痛、右胸水貯留で当院を紹介受診。CT にて骨盤内腫瘤を指摘された。
【腹部単純 CT(キーフィルムのみ)】
【腹部造影 MRI(左上より順に T1WI, T2WI, 脂肪抑制 T1WI, Gd 造影後脂肪抑制 T1WI)】
あなたの診断は?
【画像所見】
腹部単純 CT:骨盤内に多結節状で内部がやや不均一な低吸収腫瘤を認める。
右胸水(画像は割愛)の他、腹腔内、骨盤内に腹水貯留が認められた。
骨盤造影 MRI:腫瘤は T1WI 低信号、T2WI ではやや不均一な低信号を呈し、内部に変性等と思われる T2WI 高信号
域を認めた。Gd 造影では淡く不均一な増強効果を認めた。
【経過など】
当院産婦人科で右付属器切除術を施行された。術後の病理組織学的検査にて、線維腫の診断であった。悪性を疑
う所見はみられなかった。
【診断】
卵巣線維腫
【解説】
卵巣線維腫は胎生期生殖索および間質に由来する性索間質性腫瘍のうち半数以上を占める良性腫瘍である。同群
の莢膜細胞腫とは病理組織学的にも脂肪染色により腫瘍細胞内のステロイド成分を検出しないと鑑別困難で、しばし
ば線維莢膜細胞腫(fibrothecoma)といった病理診断を得る。悪性の線維肉腫は線維腫中の 1%と希で基本的に良性
腫瘍である。
画像上は腫瘍細胞自体が膠原線維を産生するし、MRI では T1WI・T2WI ともに低信号を呈するが、種々の変性・浮腫
は希ではなく、変性部分が広範で嚢胞主体の病変も時に経験される。Gd 造影後 Dynamic study では豊富な線維成
分を反映し、遅延性の淡い増強効果を示す。
尚、本症例のように良性の卵巣腫瘍に胸腹水を伴う病態は Meigs 症候群と呼ばれ、原因は未だ不明であるが、巨大
腫瘍に伴う腹水の turn over の障害やサイトカイン産生などが挙げられている。卵巣線維腫/莢膜細胞腫に伴うものが
有名であるが、漿膜下子宮筋腫や播種を伴わない悪性腫瘍でも報告があり、psuedo-Meigs 症候群として区別され
る。
(放射線科 甲斐 聖広)
参考文献)
画像診断別冊 婦人科 MRI アトラス(編著:今岡いずみ・田中優美子)