日 本 地 下 水学 会 2007 年度 秋 季 講 演会 講 演 要旨 講 演 番 号 34 pp148− 49 よ り 引 用 34. 幌延における地下水の地球化学特性 -沖積層基底の砂礫層を対象にして○ 井 岡 聖 一郎 (幌 延 地圏環 境 研 究 所)・ 酒 井 利 彰(同 )・ 石 島洋二 (同 ) 1. は じ めに 北 海 道 に おけ る 地 下 水に お い て 水道 水 質 基 準に 不 適 格 にな る 項 目 は,鉄 が 最も多 く ,色度,濁 度 が こ れ に 続く 。そ の ため 効 率 的 かつ 経 済 的 に除 鉄 が で きれ ば 地 下 水利 用 が 大 幅に 増 加 す る可 能 性が ある る 2) 1) 。 鉄 な ど の 金 属元 素 の 地 下水 中 で の 移行 特 性 は ,地 下 水 の pH や 酸 化 還元 状 態 に 関連 し て い 。こ れ ら の 物 質 を効 率 的 に 除去 す る た めに は ,な ぜ地 下 水 中 に存 在 し て いる の か ,また ど のよ うな化学形態で存在しているのかを明らかにするための基礎情報の一つとして地下水の物理化学 パ ラ メ ー タで あ る pH や 酸 化 還 元電 位( Eh)が 重 要 で ある 。し か しな が ら ,従来 の 地 下 水の 地 球化 学 特 性 に 関す る 研 究 では , Eh の報 告 は 非 常に 少 な い 3) 。 そ こ で ,本 研 究 で は, 北 海 道 天塩 郡 幌延 町 に お け る地 下 水 を 対象 に し て,地 下 水 の 地球 化 学 特 性の 物 理 化 学パ ラ メ ー タ( 水 温,pH,電 気伝 導 度( EC),Eh,溶 存酸 素 濃 度,濁 度 )を明ら か に し,地 下 水 中 の鉄 濃 度 を 規定 し て い る要 因 に つ い て 考 察 する こ と を 目的 と す る。本 報 で は,特 に 沖 積 層基 底 の 砂 礫層 に お け る結 果 に つ いて 述 べ る。 2. 研 究 地域概 要 ・ 方 法 水 理 地 質構 造 や 地 下水 の ポ テ ンシ ャ ル 分 布,及 び 地下水 の 地 球 化学 特 性 を 把握 す る た めに ,2007 年 3 月 , 北海 道 天 塩 郡幌 延 町 下 沼地 区 に , スク リ ー ン 深度 が 異 な る観 測 孔を 4 本 (12∼ 14m:S2, 18 ∼ 19m:S3, 35∼ 37m:S4, 43∼ 45m:S1)設 置 し た。本 研 究 で は S4 観 測 孔 を使 用 し た 。 S4 観 測 孔 のス ク リ ー ン は ,砂 /シ ル ト 互層 ( 砂 優 勢) ∼ 砂 礫 層中 に 位 置 して お り 開 口率 は 約 2%で あ る 。 地上測定時における地下水と大気との接触や脱ガスによる地下水の物理化学パラメータ値への 影 響 を 避 ける た め に ,セ ン サ ー プロ ー ブ (HORIBA, W-22XD)を 孔 内 深度 36.0∼ 36.5m に 設 置 し , 原 位 置 測 定 を約 8 日 間 実施 し た 。 セン サ ー プ ロー ブ 使 用 に際 し て , 測定 前 に pH の 2 点 校 正, 亜 硫 酸 ナ ト リ ウ ム溶 液 を 用 いた 溶 存 酸 素の ゼ ロ 校 正,ま た フ タル 酸 塩 + キン ヒ ド ロ ン溶 液 を 用 いて 白 金電 極 の 動 作 確認 を 実 施 し,測 定 終了後 再 度 溶 液を 用 い て セン サ ー プ ロー ブ の 動 作確 認 を 行 った 。地下 水の溶存無機成分の化学分析を行うために物理化学パラメータを測定した後に地下水を採取して 実 験 室 に 持ち 帰 っ た 。 Fe 2+ と S 2- は 現 地 で HACH, DR2800 を 用 い て 測 定し た 。 3. 結 果 ・考察 沖 積 層 基 底の 砂 礫 層 にお い て 原 位置 に お け る地 下 水 の 物理 化 学 パ ラメ ー タ を 測定 し た 結 果, pH, EC, 水 温 は , 測 定 開 始後 す ぐ に 7.99, 222µS/cm, 10.8℃ と そ れ ぞ れ 安定 し た 値 を示 し た (図 1)。 一 方 , Eh は, 測 定 開 始か ら 5 日 間減 少 し 続 けた 後 , 急 激に 減 少 し て -259mV で 安 定 し た 。 Eh の こ の 急 激 な 減 少 は , 濁 度 の 顕 著 な 増 加 と 一 致 し て い た 。 そ の た め , 例 え ば 地 下 水 中 の 浮 遊 粒 子が Eh 測 定 用 の 白金 電 極 に 付着 し て , 白金 電 極 に よる Eh の 測定 結 果 に 影響 を 与 え た可 能 性 が ある と考え られた 4) 。ま た ,溶存酸 素 濃 度 は,測 定 期間中 少 し ず つで あ る が 減少 し 続 け た。こ の 溶存酸 素 濃 度 の 減 少 傾 向の 理 由 と して は ,セ ンサ ー プ ロ ーブ 設 置 時 の酸 素 の 混 入や ,本 研 究で 使 用 し た W-22XD の 溶 存 酸 素 電 極 は 隔 膜 式 で あ る た め , 安 定 し た 値 を 得 る た め に は 一 定 の 流 速 が 必 要 で あ る が,S4 観 測 孔 内 では , そ の 一定 の 流 速 が得 ら れ な かっ た た め に生 じ た と 推察 さ れ た 。 350 EC (µS/cm) pH 9.0 8.5 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 0 1 2 3 4 5 6 300 250 200 150 100 50 7 0 1 2 3 4 5 Elapsed time (day) Elapsed time (day) 6 7 6 7 溶存酸素濃度 (mg/L) 0 Eh (mV) -50 -100 -150 -200 -250 -300 0 1 2 3 4 5 6 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0 7 1 2 80 Tem. (℃) 濁度 (NTU) 100 60 40 20 0 0 1 2 3 4 5 6 7 0 図‐2 4 5 16 14 12 10 8 6 4 2 0 1 2 Elapsed time (day) 図‐1 3 Elapsed time (day) Elapsed time (day) 3 4 5 Elapsed time (day) 6 7 地下水の物理化学パラメータ測定結果 沖積層基底の砂礫層の地下水の水質組成 化学分析の結果,沖積層基底の砂礫層中の 地 下 水 は Na-HCO 3 型 で あ っ た( 図 2)。そ の 他 , HS - は 0.16mg/L , Fe 2+ は 0.3mg/L , NH 4 + は 図‐3 pH-Eh ダ イ ア グ ラ ム 1.0mg/L, Si は 23.6mg/L で あ っ た 。 地 下 水 中 の鉄 濃 度 を 規定 し て い る要 因 に つ いて 考 察 す るた め に ,Geochemist’s Workbench 6.0.4( 熱 力 学 デ ー タベ ー ス は thermo. data0.3245r46 を もと に 作 成 )を 用 い て 解析 を 行 っ た( 図 3)。そ の結 果 , 沖 積 層 基 底の 砂 礫 層 にお け る 地 下水 中 の 鉄 濃度 は , FeS 2 の 溶 解 度 に依 存 し て いる と 推 察 され た 。 参考文献 1)宍 戸 政 仁 ・ 疋 田 貞 良 ・ 伊 東 佳 彦 ・ 鈴 木 哲 也 ・ 二 平 聡 ( 2001): 北 海 道 に お け る 農 業 用 地 下 水 開 発 と 地 質 . 北 海 道 開 発 土 木 研 究 所 月 報 , 577, 12-20. 2)Brown, C.J., Coates, J.D. and Schoonen, M.A.A. (1999): Localized sulfate-reducing zones in a coastal plain aquifer. Ground Water, 34, 505-516. 3)核 燃 料 サ イ ク ル 開 発 機 構 ( 1999): わ が 国 に お け る 高 レ ベ ル 放 射 性 廃 棄 物 地 層 処 分 の 技 術 的 信 頼 性 -地 層 処 分 研 究 開 発 第 2 次 取 り ま と め -分 冊 1 わ が 国 の 地 質 環 境 . 4)Whitfield, M. (1974): Thermodynamics limitations on the use of the platinum electrode in Eh measurements. Limnology and Oceanography, 19, 857-865.
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