現在のトピックス BTL

現在のトピックス BTL
BTL とは、Biomass to Liquid の略で、バイオマスから軽油などの運輸用液体燃料を作るこ
とである。下記の天然ガスから液体燃料を作ることを GTL、石炭からの場合 CTL などと言う。
1920 年代にドイツのミュルハイムにウィルヘルム皇帝石炭研究所を設立したフィッシャー
教授と同所の研究主任トロプシュ博士が一酸化炭素(CO)を液化することに成功した。
この方法は両者の頭文字を取って FT 合成(Synthesis)と呼ばれている。1940 年の初めには
60 万トンもの液体炭化水素がドイツの施設で生産されたということである。現在、南アフ
リカやアメリカ、マレーシアなどで、天然ガスを一旦 CO+H2 の形に変えて、液体炭化水素
にするパイロットプラントが稼動している。わが国でも苫小牧、勇払で金属鉱物資源機構
が炭鉱のガスを利用し、パイロットプラントで国産 FT 油の基礎技術を確立した。
なお、2009 年 10 月、カタール航空が GTL 燃料を使用するという記事があった。
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BTL とは有機物をガス化して FT 合成により液体燃料をつくること Biomass To Liquid の略。
とりあえず、CO:H2=1:2 の混じり物のない純粋なガス体ができれば、FT 合成ができる。
BTL 過程
バイオマスから運輸用液体燃料を作る工程は、次の図 1 のように示される。
混合液体
蒸留
ディーゼル油
灯油
ガソリン
FT 合成
ガス洗浄
ガス化
熱分解
バイオマス
図 1 フィッシャー・トロプシュ液体生産の工程
ガス化工程
BTL はバイオマスをガス化することから始まる。この過程は、熱分解である。木材の組成は
50%が炭素 C、6%が水素 H、40%が酸素 O である。木材に含まれる水分も熱分解されるので、
生成ガスは CO2,CO,H2 を多く含む。FT 合成には CO:H2=1:2 くらいが理想とされるので、水
素の足りない場合には、スチームを吹き込んで補填する必要がある。
熱分解で出来るガスの組成は熱分解のやり方によって異なる。熱分解の方法は大体次のよ
うに分類できる。
・ 材料自体を燃焼させてその熱で分解する
 空気で燃やす
窒素の多い乾燥したガスになる
 酸素で燃やす
窒素がなく、水素の多い湿り気のあるガスになる
・ 材料以外の高熱のガス体の熱で分解する
 高熱の水蒸気を吹き付ける
窒素がなく、水素の多い湿り気のあるガスになる
 高熱の炭酸ガスを吹き付ける 窒素がなく、中程度の水素が含まれ、湿り気のあ
るガスになる。
ガス化プロセスの複雑さは種々のゾーンで起こるさまざまな化学的反応によって特徴づけ
られる。(追加記事参照)
ガス洗浄
木材の熱分解でできたガス体は、純粋な一酸化炭素 CO と水素 H2 のみのガス体であれば、
申し分ないのであるが、スス微粒子、窒素化合物、硫黄化合物など多くの差雑物を含むの
が普通で、とくに問題となるのはタールである。このタールを取り除くことがガス洗浄の
最重要課題である。そのために多くの工夫が凝らされており、後に述べるオーストリア東
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部ギュッシングの BTL 用ガス化炉はウィーン工科大学へアマン・ホフバウア教授のグルー
プが開発したもので、ガス化室と燃焼室が分けられており、ガス化室で生じた炭化物を燃
焼室に送って燃焼させ、燃焼室の高温の流動床材をガス化室に送って熱分解に使うと言う
循環タイプのものである。
ガス化室には木質チップを投入し、燃焼室から送られる高温の流動床材によって加熱され、
熱分解を起す。同時に高熱の水蒸気を下から吹き込んで、熱分解を補助するとともに、水
蒸気の熱分解によって水素の発生を促す。ガス化室で炭化した炭とタールを含むガスは燃
焼室に回されてさらに燃焼する。燃焼室で使用された高温の流動床材はガス化室に回って
熱分解に使われる。
図 2 ウィーン工科大学へアマン・ホフバウア教授開発のガス化システム
また、ドイツのシュベーツ市にコーレン社が開いている BTL 製造施設のガス化炉は、低温
熱分解して炭化部分と燃焼ガスを分け、次の過程で燃焼ガスの噴出流に炭化物を吹き付け
てガス化させる Carbo-V と言う方法を取っている。
これらの方法ではタール分は燃焼ガスとともに再燃焼される。木材ではなく炭をガス化し
た場合、ほとんどタール分を含まないガスになることを利用したものであろう。
しかし、タールが 100%除去されているのかどうかは不明である。
いずれも、ガス洗浄装置を備えているが、洗浄方法については明らかにされていない。
図 3 ドイツ、シュベーツ市コーレン社 Carbo-V システム
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熱分解ガスの組成
熱分解の方法別の生成ガス組成をウィーン工科大学へルマン・ホフバウア教授は表 1 のよ
うに示している。
空気燃焼型ガススチーム噴きつ酸素による燃焼
型ガス化
け型ガス化
化
浮動床
固定床
カロリー
MJ/Nm3
4-8(23-46%)
12-14(68-80%)
10-12(57-68%)
H2
%
11-18
35-45
23-28
CO
%
13-18
22-25
45-55
CO2
%
12-18
20-23
10-15
CH4
%
2-6
9-11
<1
N2
%
45-60
<1
<5
表 1 ヘルマン・ホフバウア教授の示した生成ガス組成 炭素の発熱量 393.5MJ/kmol は
17.567MJ/Nm3 になる。この値を分母にした比率%をカロリー欄のカッコ中に記した。
熱分解ガスで出来ること
タールを除去した熱分解ガスには、次のような使い道がある。
・ 冷暖房・給湯 熱分解過程で生じる熱を利用した温水暖房および吸収式冷凍機を用いた
冷水冷房
・ 発電 熱分解ガスを用いたガスエンジンまたはガスタービンによる発電
・ 都市ガス 熱分解ガスをメタン化して合成天然ガス(SNG 都市ガス)をつくる
・ 運輸用燃料 FT 合成により液体燃料を作る(ワックス、軽油、灯油、ガソリンなど)
・ ヂメチルエーテル(DME)
・ メタノール
・ 水素
天然ガス化(Synthetic Natural Gas)
圧力 1-5 バール、温度 300-350℃の条件下で、熱分解ガスをニッケル触媒の粒子を含む循環
流動式反応炉でメタン化(CH4)する。
FT 合成による液体燃料生成
圧力 20-30 バール、温度 200-300℃の条件下で、熱分解ガスを鉄とコバルトでできた触媒を
含む泥状の液体中を泡状にして通すことにより、-CH2-CH2-CH2-CH2-の形の炭化水素鎖を生
じさせる。この連鎖の長さを炭素 C 数で表すが、短い方はナフサなどの軽いもの、長くな
るにしたがってガソリン、灯油、軽油、ワックスと変わって行く。
表 2 ノルウェー科学技術大学オラフ・オプタル氏の C 連鎖数による油種分類
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その生成量をホフバウア教授は次の図 4 のように示している。
図4
FT 合成で生成される各種炭化水素の量割合
ギュッシングのデモプラント
オーストリア国、ブルゲンラント州、ギュッシングでは、ウィーン工科大学ヘアマン・ホ
フバウア教授グループ開発のガス化装置(図2)を導入し、2002 年から稼動をしているが、
このガスを使って、デスクプラントにより、合成天然ガス(Synthetic Natural Gas, SNG)
の製造および FT 合成によるガソリンと軽油の製造に成功した。そして、それぞれのデモプ
ラントを作り、2009 年 6 月から合成天然ガスを 140m3/時、8 月からはガソリンと軽油をそ
れぞれ 200 万ℓ/年製造することになっている。
図5 (左)ガス化装置と SNG デモプラント建屋と(右)FT 合成デモプラント建屋
すでにデスクプラントで製造されているガソリンや軽油は職員によって試用されているが、
現在までのところ、とくに問題は発生していないと言うことである。
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追加情報
インターネット上では、次の3つ関連記事が見える。
呉の産総研が BTL のデスクプラントの製造に成功し、引き続き、DME 製造施設や車載型の小型移動式の BTL プラントの
製造に挑戦している。
呉産総研の(左)DME デスクプラントと(右)FT 合成器
長崎総合科学大学の坂井正康教授をリーダーに、新しい水蒸気による熱分解ガス化装置を開発し、メタノールの製造に
成功した。農林バイオマス3号。
坂井教授とメタノール製造機
厚木のマイクロ・エナジー社(橋本芳郎氏)が電気加熱を利用し、熱分解温度を 1000∓5℃に保つことによってタールフ
リーの木質ガス化装置の開発に成功し、BTL に挑戦している。
橋本氏と電気加熱式ガス化システム
工業化学に詳しい金川哲夫氏の書いてくれた FT 合成についての説明
FT合成について
・ 1926年ドイツのFischerが考案(鉄系触媒)
・ メタンガスからの合成ガス製造技術(3種の異なった方法がある)
水蒸気改質法
CH4+H2O→3H2+CO
触媒はニッケル系・反応は吸熱反応につき反応器を加熱する必要あり。
部分酸化改質法
CH4+1/2O2→2H2+CO
触媒不要。部分酸化の熱で反応する(約1000度)
。反応器の材質が問題。
自己熱改質法
CH4+3/2O2→2H2O+CO
CO+H2O→H2+CO2
反応器内で部分酸化改質と水蒸気改質の両方を組み合わせて効率的に改質する方法。
FT油の製造法
・ 液体化(GTL:Gas To Liquid)
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鉄系触媒では、軽質オレフィンやナフサの製造が主体。触媒のコストは安いが触媒の寿命が短い。
コバルト系触媒では、ワックス分が多く水素化分解をすることで、ナフサ・灯油・軽油をある程度自由に作り分け
る。コバルト触媒は寿命が長いがコストが高い。
FT反応は気体と液体が混合するから、反応条件の制御が難しい。触媒の充てん方法は固定床とスラリー床があり、
それぞれに特徴がある。
・ メタノール
CO+2H2→CH3OH
1966年にICIが開発。酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミの混合触媒を用いて、温度240度、圧力 5MPa
で反応させる。
・ ジメチルエーテル(DME)
3H2+3CO→CH3OCH3+CO2
1989年日本鋼管が開発。
FT油の種類
・ FTナフサ
石油由来のナフサに比べ形質で硫黄分が全く含まれず、パラフィンが主体(石油系は芳香族が主体)オクタン価が
低いのでガソリン原料には適しない。将来、燃料電池の燃料には適しているようだ。
・ FT軽油
ディーゼル車用燃料として環境問題から注目される。セタン価が高く硫黄や芳香族分が少ないので、石油製品の硫
黄分低下の基材に利用されている。排気ガスに含まれるHC、CO、NOX、微粒子は石油系の軽油に比べ少ない。
ただ潤滑性が低いのが欠点である。
・ FT灯油
FT灯油の煙点は50ミリと高く ススの発生が少ない。臭気も少ないので暖房用燃料に適している。
・ メタノール
ホルマリンやオクタン価向上剤のMTBEの原料、その他ポリアセタール樹脂などの原料として利用される。
・ ジメチールエーテル
フレオンに代わるスプレーの噴霧剤。常温ではガス状であり、ボンベにつめて搬送ができる。
FT油の事業場
・ サソール社(南アフリカ・ヨハネスブルグ)
原料:石炭
合成ガス製造装置:ルルギ社(ドイツ)製の部分酸化改質法
反応条件・・1000度、30MPa ・鉄系触媒
FT油合成装置:循環式スラリー床反応器、
反応条件・・300度、3MPa・鉄系触媒
生産能力・・15万 bbl/日
・ ペトロSA社(南アフリカ・ジョージ)
原料:天然ガス(海底から)
合成ガス製造装置:前段・水蒸気改質法(ルルギ・ドイツ)
、後段・自己熱改質(トプソー・アメリカ)
FT油合成装置:循環式スラリー床反応器(サソール)
反応条件・・300度、3MPa・貴金属系触媒(?)
生産能力・・3万 bbl/日
・ シェル社(マレーシア・ビンツル)
原料:天然ガス(海底から)
合成ガス製造装置:自社製の部分酸化方式
反応条件・・1400度、5MPa
FT油合成装置:自社開発の固定床式
反応条件・・200度、3.5MPa・コバルト系触媒
生産能力・・1.5万 bbl/日
・ エクソンモービル社(米・バトンルージュ)
製油所内で天然ガスを利用して、合成ガス製造装置(流動接触分解式の自己熱改質法)、FT油製造
装置(コバルト触媒を用いたスラリー床)のパイロットプラントが稼動している。
・ シントロリウム社(米・チェリポイント)
天然ガスを利用して、エクソンモービル社と同様 70bbl/日のパイロットプラントが1999年
から稼動している。 合成ガス製造装置(自己熱改質法)
、FT油製造装置(コバルト系触媒・20
0度、3.5MPa)
・ 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(日本・北海道、勇払)
炭鉱のガスを利用。10bbl/日のパイロットプラントで国産FT油の基礎技術を確立した。
原料:炭田のガス(CO2を多く含む)
合成ガス製造装置:固定床の水蒸気改質法・コバルト、マンガン系触媒
FT油合成装置:スラリー床
反応条件・・250度、2MPa・独自に開発したルテニウム系触媒
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ガス化工程の化学反応
ノルウェー科学技術大学 オラフ A オプダル氏のレポートからガス化過程の反応式を引用しておく。
酸化ゾーンでは、次の二つの異質な化学反応が起こる。
C + O2 = CO2 + 393.8 kJ/mol
(1)
C + 1/2 O2 = CO + 123.1 kJ/mol
(2)
この二つの発熱反応が後の吸熱反応に十分な熱を与えることになる。
空気中の水蒸気と原料の乾燥と熱分解によって生じた水蒸気が以下の水とガスの等式のように熱炭素と反応する。
C + H2O + 118.5 kJ/mol = CO + H2
(3)
次の Boudouard 反応はもうひとつの重要な還元反応である。
C + CO2 +159.9 kJ/mol = 2CO
(4)
他の吸熱反応には、水ガス変質反応とメタン化反応が含まれる。
CO2 + H2 + 40.9 kJ/mol = CO + H2O
(5)
C + 2H2 = CH4 + 87.5 kJ/mol
(6)
等式(7)と(8)はガスの熱価を下げる反応なので、避けたいものである。
CO + 1/2 O2 = CO2 + 283.9 kJ/mol
(7)
H2 + 1/2 O2 = H2O + 285.9 kJ/mol
(8)
三つの酸化体はバイオ合成ガス、空気、酸素と水蒸気の生産に適用される。フィッシャー・トロプシュ合成には、一酸
化炭素と水素が望ましいガスである。Prins(2005)は酸素比の違いを考慮して、いくつかの代替法の効果を比較した。そ
の結果、熱力学的な効果は比較的小さいことがわかった。スチームによるガス化から生まれるガスに含まれる高いメタ
ン含有率はフィッシャー・トロプシュ合成には望ましくないとし、このレポートは空気の使用を勧めているが、空気に
よるガス化では生成ガスが少なくとも 38%の窒素を含むことになる。これは純酸素を用いることで避けられるが、これ
は別に酸素発生プラントを作らなければならないため、高価なものになる。とくに小規模の場合負担が大きい。
フィッシャー・トロプシュ反応
FT 合成の基本科学式についてはオラフ A オプダル氏のレボートを引用しておく。
Bartholomew(2006)から、フィッシャー・トロプシュ合成の基本的化学式は以下のセットによって記述される。
CO + 3H2 = CH4 + H2O
ΔH298°= -247 kJ / mol
(9)
nCO + 2nH2 = CnH2n + nH2O
(10)
CO + H2O = CO2 + H2
ΔH298°= -41 kJ / mol
(11)
2CO = C + CO2
ΔH298°= -172 kJ / mol
(12)
反応 9 はメタン化、反応 10 はメタンより重い炭化水素の生成、反応 11 は水分解反応(water gas shift:WGS)、そして
12 は Boudouard 反応である。メタン化(9)反応と Boudouard 反応(12)は望ましくない反応であり、反応 10 が望ましいも
のである。そして、コバルトをベースにした FT 触媒の場合には 10 反応が主になる。鉄をベースにした触媒では、WGS
が起こりやすい。鉄のみの触媒では、WGS 反応が多くなり、低温での反応を可能にする。さらに平衡計算によると、メ
タンの発生は分子量の大きな炭化水素の生成しやすくなるために、メタン以外の炭化水素を多く生成するように触媒を
設計する必要がある。コバルト、鉄、ルテニウム(Co,Fe,Ru)触媒がこの要求に沿ったものになる。反応 10 は炭化水素の
連鎖形成反応である。以下に連鎖形成プロセスを概念的に示す。
入口:
CO →
CO →(+H2)→
CH2 + H2O
|
|
連鎖形成
と
終了:
CH2 →(+H2)→ CH4
↓
(+CH2)
↓
C2H4←(d)← C2H4 →(+H2)→ C2H6
↓
(+CH2)
↓
C3H6←(d)← C3H6 →(+H2)→ C3H8
↓
↓
etc.
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