論
文
内
容
の
要
旨
の感受性増強効果についての報告はない。まず fenofibrate の HT-29 株に対する抗腫瘍効
果について検証した。WST-8 assay では、fenofibrate は濃度依存性に細胞増殖抑制効果を
論文提出者氏名
論
文
題
渡邉
元樹
目
Novel MEK inhibitor trametinib and other retinoblastoma gene (RB)-reactivating
agents enhance efficacy of 5-fluorouracil on human colon cancer cells
示し、フローサイトメトリーでは G1 期細胞周期停止を確認した。ウェスタンブロット法で
は、ERK の脱リン酸化とともに cyclin D1 蛋白質の抑制および RB 蛋白質の脱リン酸化と TS
蛋白質の下方制御が認められた。さらに real time RT-PCR にて fenofibrate による TS mRNA
の発現抑制も確認された。以上を踏まえ、fenofibrate の 5-FU 感受性への影響について、
sub-G1 解析およびコロニー抑制試験で検討したところ、各々の単剤投与時と比較し、5-FU
論文内容の要旨
と fenofibrate 併用時ではアポトーシスの増加に加え、著明なコロニー数の減少が確認さ
<緒言>
れた。
5-fluorouracil(5-FU)は古くから DNA 合成阻害能を持つ抗癌剤として使用されてきてお
最後に我々は PI3K 阻害剤である LY294002 の 5-FU 感受性への影響について検討した。
り、大腸癌化学療法においては今もなお中心的製剤として位置づけられているが、その薬
LY294002 は大腸癌細胞株 HCT15 に対し、濃度依存的に G1 期細胞周期停止をもたらした。さ
剤感受性や副作用が問題となっている。5-FU は DNA 合成に必要な酵素である thymidylate
らに LY294002 は p27 蛋白質を誘導するとともに RB 蛋白質を脱リン酸化し、TS 蛋白質の発
synthase(TS)を標的とし、TS の発現量は 5-FU 感受性を規定する重要な因子のひとつと考え
現を抑制した。5-FU と LY294002 の併用投与では、各々の単剤投与時と比較し、アポトーシ
られている。そこで我々は、TS の発現が転写因子 E2F により制御されていることに着目し、
スの増加およびコロニー数の減少が認められた。
RB 蛋白質を再活性化し E2F の転写活性を抑制することで、TS の発現を下方制御できれば、
5-FU の感受性を増強できるのではないかという仮説を立てた。今回、我々は新規分子標的
<考察>
薬を含む、3種の RB 再活性化剤 trametinib(MEK 阻害剤)、fenofibrate(PPARαアゴニス
本研究において我々は RB 再活性化をもたらす異なる3種の低分子化合物が大腸癌細胞に
ト)、LY294002(PI3K 阻害剤)を用いて、ヒト大腸癌細胞株に対する 5-FU 感受性増強効果
おいて TS 蛋白質の発現を抑制することを確認した。次いで、それらの化合物を 5-FU と併
について検証した。
用処理することで、5-FU のアポトーシス誘導能を増強し、大腸癌細胞のコロニー形成を抑
制することを示した。trametinib は現在、悪性黒色腫に対し欧米で認可申請中の注目の MEK
<結果>
阻害剤であり、大腸癌に対しても、5-FU を用いた化学療法の増感作用あるいは副作用の軽
まず、MEK 阻害剤である trametinib の抗腫瘍効果について検証した。WST-8 assay にお
減効果が大いに期待される。fenofibrate は既に高脂血症治療薬として汎用されており、本
いて、trametinib は大腸癌細胞株 HT-29 に対し、濃度依存性に細胞増殖抑制効果を示した。
研究で用いた濃度もヒト体内での有効血中濃度と近似しており、安価で安全な 5-FU 増感剤
フローサイトメトリーを用いた細胞周期解析では、trametinib により顕著な G1 期細胞周期
としての可能性が期待される。LY294002 に関しては、大腸癌の約 30%に PIK3CA 遺伝子の
停止を認めた。ウェスタンブロット法では、trametinib による ERK の脱リン酸化とともに、
活性化変異がみられ、そのような場合に 5-FU と併用することは合理的な戦略と考えられる。
p15、p27 蛋白質の誘導、cyclin D1 蛋白質の発現抑制および RB 蛋白質の脱リン酸化が確認
以上の通り、今回我々が示した「RB 再活性化療法」は TS 蛋白質の量的制御を通じて、大
された。さらに RB 蛋白質の脱リン酸化とともに、trametinib は TS 蛋白質の発現を抑制し
腸癌細胞に対する 5-FU 感受性を増強させる可能性が期待される。実際、大腸癌患者を対象
た。real time RT-PCR にて trametinib による mRNA レベルでの TS の発現抑制も確認され、
とした多くの臨床研究において、TS の高発現と予後、あるいは 5-FU 感受性が逆相関するこ
trametinib による RB 蛋白質の再活性化が TS の転写抑制に作用していることが示唆された。
とが報告されており、大腸癌における 5-FU の感受性増強には TS 蛋白質の発現調節が重要
以上の実験データを踏まえて、trametinib の 5-FU 感受性への影響について、フローサイト
であることが示唆される。さらに近年、TS は癌遺伝子として再認識されていることを考え
メトリーによる sub-G1 解析およびコロニー形成試験にて検討した。5-FU と trametinib 併
れば、我々の提唱する「RB 再活性化療法」による TS 制御は、大腸癌の腫瘍形成そのものを
用時では各々の単剤投与時と比較し、アポトーシスの増加とともに、著明なコロニー数の
抑制する治療としても期待できるであろう。
減少が確認された。
第二の RB 再活性化剤として、我々は PPARαアゴニストとして高中性脂肪血症の治療に臨
床使用されている fenofibrate を選択した。fenofibrate は in vitro あるいは in vivo の
実験において多様な抗腫瘍効果を示すことが既に知られているが、TS の発現調節や 5-FU