近代ドイツのとある商業都市における文化事業経営

専修大学経営研究所第4回定例研究会 2014/10/07
はじめに 「あなたの名前(での寄付)がなくちゃ はじまりません」 近代ドイツのとある商業都市 における文化事業経営 !   歴史研究 !   19世紀のフランクフルト !   文化事業の経営基盤 櫻井文子(経営学部講師) 2014年10月7日
専修大学経営研究所第4回定例研究会 ゼンケンベルク自然研究協会 !
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1817年 創立 1821年 付属博物館 自発的結社(Verein) 自然誌・動物学研究 “フランクフルトの哺乳類のコレクションはブリティ
ッシュ・ミュージアムのものより優れていると私は
考えます。種の数ではなく…四足動物の良質な標
本でということです。特に北アフリカ産のもので
は、フランクフルトのコレクションに敵うものはあり
ませんし、パリのコレクションでさえそうでしょう。” –John Gould, in: Parliamentary Papers, Reports from Commi;ees: Fi=een Volumes. (4) BriCsh Museum. Session 4. Feb. -­‐ 20. Aug. 1836, vol. 10, p. 185. 財源 !   収入 ca. 4,000-­‐4,500 fl. !  会費収入 ca. 3,000 fl.(年会費11 fl.) !  助成金 1,500 fl.(講義) !   ギムナジウム教授の年収 ca. 1,400 fl. “これまでのところ、自然誌コレクションの全ては
寄付によって集められたものです。毎年の会費収
入から購入されたことは一度もありませんし、毎
年発行される報告によれば、この収入は建物の
維持、従業員の給与、書籍コレクションの拡充、
そして金利と借入金の返済にあてられていま
す。” –Eduard Rüppell an SNG, Frankfurt am Main, 1852, Archiv der SNG, No. 41. 1
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寄付 !   財政支援 !   名誉会員 有力者 !   eg. 銀行家モーリッツ・フォン・ベートマン
(1768-­‐1826) 博物館建設費 3,000 fl.(1820) 標本の寄贈 !
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エドゥアルト・リュッペル(1794-­‐1884) 銀行家子息 アフリカ(1822-­‐7, 1831-­‐4) 総額 ca. 6万 fl. !   標本の寄贈 文化事業と寄付 “大変ありがたいことに、私の呼びかけに対し
て10名の紳士にご賛同いただきまして、私と
ともに共同でこのすばらしい、遥か昔に絶滅
した爬虫類の購入をしていただきました。こ
の標本は、私どものコレクションの特別な誉
れとなるだけでなく、古生物学研究上大変有
益な見本でもあります。” !   1816年 シュテーデル美術館 ca. 140万fl. !   1826年 図書館新築 ブロナー&ベートマン !   1812年 ベートマン美術館 –Eduard Rüppell, ‘Oeffentliche Rede, gehalten am 22. November 1842,’ Museum Senckenbergianum, Bd. 3 (1845), S. 204. 持てる者の責務 !   食糧権(Nahrungsschutz) !   公共心(Gemeinsinn) !   救貧・医療 “不確かなものに全てを賭けてしまわないように、
彼らは自らの富の一部を安全なところに移すので
す。金庫の中では何の意味も持たない余剰が、
その結果、貧しい者の手で百倍もの価値を得る
のです。ミダス王よりも幸いなことに、彼らは金を
パンに変えることを知るため、全てを失ってしまっ
ても、人に与えたものが残されるのです。” –Anton Kirchner, Ansichten von Frankfurt am Main, Bd. 2, Frankfurt am Main, 1818, S.116-­‐7. 2
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狭い世界 !   都市共和国:自由都市(1816年)、旧帝国都市 !   商業・銀行業 !   市民の特権:参政権、税制(1/3% 50 fl.)、就業、土地所有 !   市民・準市民・ユダヤ人・村落部住民・「外国人」 !   1823年 市民5,416人/その他44,625人 !   1858年 市民8,094人/その他66,300人 “どんなすげない拒絶にも彼は動じなかったし、…また後日
にと言い逃れようとする者も、彼を諦めさせることは不可
能だった。何度だって彼は戻って来るのだから。是非とも
協賛してもらわないといけない、とある有力者にそんな風
に丁重にお断りされたことがあるが、その時彼はいかにも
彼らしい、親しみのこもった冗談で応酬した。あなたにも私
どもにも手間がかかっしまうのは遺憾なことですが、この…
企画にはあなたの名前がなくちゃはじまりませんので、後
援の署名をなさるまで私どもはあきらめませんよ、と。この
言葉にはっとした紳士は破顔し、相当の額の寄付を認め、
その後は誠実な後援者になった。” –Johann Mappes, Zum Andenken an Dr. Philipp Jakob Cretzschmar, Frankfurt am Main, ca. 1846. 遺産管理 !   1883年 ボーゼ伯爵夫人(Louise Wilhelmine Emilie Bose, 1813-­‐1883)の遺贈金 !   ゼンケンベルク協会、ベルリン大学、イエナ大学、マールブルク大学 各80万 M !   ca. 4%の利子収入 ca. 3万2,000 M/年: !   1万 M 協会 おわりに !   寄付の伝統 !   断絶と残滓 !   歴史記述 !   1万2,000 M 夫ボーゼ伯爵とその子孫 !   8,000 M 夫ボーゼ伯爵(当人限定) !   複数の年金支払い、慈善事業への寄付、経費 !   目的 相続争いの回避 3