不動点定理とかんたんな応用 ゆきみ http://yukimigo.com/ 2014 年 4 月 29 日 学部四年のセミナーで話した内容の一部です. Definition 1. f を集合 Ω から Ω への写像とする. f (x) = x をみたす x ∈ Ω を f の 不動点 という. たとえば x(t) = t + 1 sin x(t) 2 (−1 ≤ t ≤ 1) (1) をみたす [−1, 1] 上の連続関数 x(t) が存在するか, という問題は f (x)(t) = t + 1 sin x(t) 2 (−1 ≤ t ≤ 1) (2) なる f が不動点をもつか, という問題に帰着される. そのためにもっとも簡単なのは f が 縮小写像の場合である. Theorem 2 (Banach の不動点定理). (X, d) を完備距離空間とする. f : X → X が縮小 写像, つまりある 0 < k < 1 で d(f (x), f (y)) ≤ kd(x, y) (x, y ∈ X) (3) となるとき, f は X に一意的な不動点をもつ. proof. 仮定により d(f n (x), f n (y)) ≤ kd(f n−1 (x), f n−1 (y) ≤ · · · ≤ k n d(x, y) (4) である. 三角不等式により d(f n (y), f n+p (y)) ≤ d(f n (y), f n+1 (y)) + · · · + d(f n+p−1 (y), f n+p (y)) ≤ (k n + · · · + k n+p−1 )d(y, f (y)) 1 (n, p ≥ 0). (5) ∑∞ n=1 kn = k 1−k < ∞ より n, p → ∞ で上式右辺 → 0 だから {f n (y)} は Cauchy 列であ る. よって X の完備性からある x ∈ X で f n (y) → x となる. d(x, f (x)) ≤ d(x, f n+1 (y)) + d(f n+1 (y), f (x)) ≤ d(x, f n+1 (y)) + kd(f n (y), x) → 0 as n → ∞ (6) より左辺は n と関係ないから f (x) = x である. 一意性も三角不等式と f n (x) = x により わかる. ♡ 上の問題の場合, 完備距離空間として [−1, 1] 上の連続関数の全体 C([−1, 1]) をとれば, 任意の x, y ∈ X について微分積分学の基本定理より 1 f (y)(t) − f (x)(t) = 2 1 = 2 ∫ ∫ 1 0 d sin(x(t) + s(y(t) − x(t)))ds ds 1 (7) cos(x(t) + s(y(t) − x(t)))ds(y(t) − x(t)) 0 だから max をとることにより k = 1/2 で f が縮小写像となることがわかる. [−1, 1] から自分自身への連続関数は一般に縮小写像でないが不動点をもつことが中間 値の定理によりわかる. 実際, g(x) ··= x − f (x) とおけば g(−1) ≤ 0, g(1) ≥ 0 であるか ら, どちらかが等号成立のときは対応する点が不動点となり, g(−1) < 0, g(1) > 0 ならば g(x0 ) = 0 となる x0 が区間 (−1, 1) に存在するから, その点が不動点となる. このことを 有限次元空間に一般化したのが Brouwer の不動点定理である. Theorem 3 (Brouwer の不動点定理). Ω を Rn の有界凸閉集合, f : Ω → Ω が連続写像 であれば f は Ω に不動点をもつ. これにより代数学の基本定理などが証明される. 証明は初等的なものと写像度を使うも のとあるけど, どっちにしろたいへんなので略します. 増田 [1] 見てください. Brouwer の不動点定理は一般に無限次元空間では成立しないが, 無限次元空間における 不動点定理として Schauder の不動点定理を示そう. Lemma 4. X をノルム空間, Ω を X の空でない凸集合, K を Ω のコンパクト集合 とする. このとき任意の ε > 0 に対して K の元 x1 , . . . , xm を適当に選べば K から Kconv ··= conv[x1 , . . . , xm ] への連続写像 P で ∥P x − x∥ < ε (x ∈ K) (8) なるものがある. ここで conv[x1 , . . . , xm ] は x1 , . . . , xm をふくむ最小の凸集合 (凸包) で ある. この P を Schauder 射影作用素という. 2 proof. K はコンパクトより全有界であるから, ある K の元 x1 , . . . , xm で K⊂ m ∪ ε B(xj , ) 2 j=1 (9) とできる. ここで B(xj , ε/2) は中心 xj , 半径 ε の開球である. さらに 2 µj (x) ··= max{1 − ∥x − xj ∥, 0}, ε µ(x) ··= m ∑ µj (x) (10) j=1 とおくと, 各 x ∈ K に対して µj (x) > 0 なる j がひとつはある. 実際, そうでないと すると ε/2 ≤ ∥x − xj ∥ となり, (9) に反する. よって µ(x) > 0 である. ノルムの連続 性より µj (x) は x について連続であるから, λj (x) ··= µj (x)/µ(x) も K 上連続である. Kconv = { ∑m j=1 λj xj ; λj ≥ 0, ∑m P x ··= j=1 λj = 1} であるから, m ∑ (x ∈ K) λj (x)xj (11) j=1 と定めると, P は K から Kconv への連続写像である. ∥P x − x∥ ≤ m ∑ λj (x)∥xj − x∥ (12) j=1 だが, ∥xj − x∥ ≥ ε/2 なら µj (x) = 0 だから ∥x − xj ∥ < ε/2 についての和だけ考えれば よく, ε∑ ε ∥P x − x∥ < λj (x) = < ε 2 j=1 2 m (13) である. ♡ Theorem 5 (Schauder の不動点定理). X をノルム空間, Ω を空でない X の凸集合とす る. ある Ω のコンパクト集合 K があって, f : Ω → K が連続写像ならば f は Ω の中に 不動点をもつ. proof. Ω は凸集合で K ⊂ Ω と Kconv が x1 , . . . , xm をふくむ最小の凸集合であること ∑m から Kconv ⊂ Ω である. Rn の有界凸閉集合 S ··= {σ = (σ1 , . . . , σm ) ∈ Rn ; j=1 σj = 1, σj ≥ 0} から Kconv への連続写像を Jσ ··= m ∑ j=1 3 σj xj (14) で定めると, 補題の λi で g(σ) ··= (λ1 (f (Jσ)), . . . , λm (f (Jσ))) (15) は λi , f , J はすべて連続だから S から S への連続写像となる. したがって Brouwer の不 動点定理より g は不動点 σ ε を S の中にもつ. つまり, λj (f (Jσ ε )) = σjε (σ ε の j 成分) (16) である. これによって ε P (f (Jσ )) = m ∑ ε λj (f (Jσ ))xj = j=1 m ∑ σjε xj = Jσ ε (17) j=1 だから, xε ··= Jσ ε は P (f (x)) の不動点である. さらに, xε ∈ Kconv ⊂ Ω より, 定理の仮 定から f (xε ) ∈ K である. よって補題の ∥P x − x∥ < ε により ∥xε − f (xε )∥ = ∥P (f (xε )) − f (xε )∥ < ε. (18) K はコンパクトであるから {f (xε )} から ε → 0 のとき収束する部分列 {f (xε′ )} がとれ る. f (xε′ ) → x0 とすれば, K は閉だから x0 ∈ K であり, ∥xε′ − x0 ∥ ≤ ∥xε′ − f (xε′ )∥ + ∥f (xε′ ) − x0 ∥ ≤ ε′ + ∥f (xε′ ) − x0 ∥ → 0 as ε′ → 0 (19) となり xε′ → x0 である. f は連続であったから f (xε′ ) → f (x0 ) である. よってもともと f (xε′ ) → x0 だったから f (x0 ) = x0 であり, x0 は f の不動点である. ♡ Schauder の不動点定理を微分方程式に応用しよう. Theorem 6 (Peano の存在定理). 常微分方程式の初期値問題 dy = g(y, t) ; dt y(t0 ) = y0 (20) は g が D ··= {(y, t) ; t0 ≤ t ≤ t0 + a, |y − y0 | ≤ b} で連続のとき I ··= [t0 , t0 + a′ ] に解を もつ. ここで M = max |y(t)| ; (y,t)∈D である. 4 a′ = min(a, b ) M (21) proof. I で定義された Rn への連続写像の全体 C(I, Rn ) は max ノルムにより Banach 空間 X となる. B ··= B(y0 , b) = {y ∈ X ; ∥y − y0 ∥ ≤ b} (22) は閉球であるから明らかに X の凸閉集合である. B 上の写像 f を f (y)(t) ··= y0 + ∫ t g(y(s), s)ds (23) t0 と定めると, y ∈ B から f は I 上の連続関数として意味をもち, ∫ t ∥f (y) − y0 ∥ ≤ ∥g(y(s), s)∥ds t0 (24) b =b ≤ M (t − t0 ) ≤ M a′ ≤ M M より f (y) ∈ B である. さらに, ∫ t ∥f (y)∥ ≤ ∥y0 ∥ + g(y(s), s)ds t0 (25) = ∥y0 ∥ + ∥f (y) − y0 ∥ ≤ ∥y0 ∥ + b より一様有界である. また, ′ ∫ |f (y)(t) − f (y)(t )| ≤ t t′ |g(y(s), s)|ds ≤ M |t − t′ | (26) から f は同程度連続である. したがって, Ascoli-Arzel` a の定理により f (B) は相対コンパ クトである. よって Schauder の不動点定理の K として f (B) の閉包を取ることによって f は B の中に不動点 y をもつ. 問題の常微分方程式は ∫ t y(t) = y0 + g(y(s), s)ds t0 と同等であるから, y はその解でもある. ♡ 参考文献 [1] 増田久弥『非線型数学』(新数学講座 15), 朝倉書店, 1985. [2] 増田久弥『関数解析』(数学シリーズ), 裳華房, 1994. [3] 宮島静雄『関数解析』, 横浜図書, 2005. 5 (27)
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