関数解析

関数解析
ゆきみ
http://yukimigo.com/
2014 年 9 月 15 日
現在進行形でやってるセミナーの記録です.
1 ノルム空間
Definition 1.1 (ノルム). X を線型空間とする. このとき,
∥·∥:X →R
が X のノルムとは, 以下を満たすときにいう:
1. ∥x∥ ⩾ 0, ∥x∥ = 0 ⇔ x = 0
2. ∥αx∥ = |α|∥x∥
(x ∈ X),
(α ∈ C, x ∈ X),
3. ∥x + y∥ ⩽ ∥x∥ + ∥y∥
(三角不等式).
X にノルムが定義されているとき, X を (線型) ノルム空間という.
X がノルム空間のとき,
d(x, y) ··= ∥x − y∥
によって距離が定義され, X は距離空間になる. よってこの距離に関する収束が定義でき
る. つまり, (xn )n が x に X のノルムで収束するとは,
∥xn − x∥ → 0 (n → ∞)
となることとする. 極限の一意性や演算の連続性は三角不等式からすぐわかる.
ノルムはひとつとは限らないのでそれぞれ収束の位相はちがうが, もし X が有限次元
のときはすべてのノルムが同値になる.(証明は黒田 [2] など) ここでいう同値とは, X のノ
1
ルムをそれぞれ ∥ · ∥1 , ∥ · ∥2 としたとき, ある正数 c1 , c2 で
c1 ∥x∥1 ⩽ ∥x∥2 ⩽ c2 ∥x∥1
ということ.
これから単にノルム空間というときはおおむね無限次元の場合を想定する. 念のために
いうと無限次元というのは, 任意の n 個の一次独立なベクトルが存在するという意味. た
とえば連続関数の空間 C([0, 1]) は無限次元となる. じっさい, fn (x) = xn−1 はどんな n
個も一次独立な元になる.
Definition 1.2 (Cauchy 列). X をノルム空間とする. (xn )n が X の Cauchy 列とは,
∥xn − xm ∥ → 0 (n, m → ∞)
となることとする.
収束列ならば Cauchy 列だが, 逆は一般に成り立たない.
Definition 1.3 (Banach 空間). すべての Cauchy 列が X の中に極限をもつとき, X は
完備 (complete) という. とくに, 完備なノルム空間を Banach 空間という.
2 Banach 空間の例
Example 2.1. Rn はノルム

∥x∥ ··= |x| = 
n
∑
1/2
x2j 
j=1
によって Banach 空間になる.
proof. ノルム空間になることは Schwarz の不等式から出る. 完備性を示そう. (x(j) )j =
(j)
(j)
(x1 , . . . , xn )j を Rn の Cauchy 列とする. 定義から
(j)
(k)
|xi − xi | ⩽ |x(j) − x(k) | → 0 (j, k → ∞)
(j)
となるので, 各 i について (xi )j は R の Cauchy 列. よって R の完備性からある xi ∈ R
(j)
で xi
→ xi (j → ∞) となる. これを並べて
x = (x1 , . . . , xn )
2
とすれば明らかに x ∈ Rn であり,
|x
(j)
− x| =
2
n
∑
(j)
|xi − xi | → 0 (j → ∞)
i
より Rn は完備になっている. よって Banach 空間となる. ♡
同様にして Cn が Banach 空間になることもわかる.
Example 2.2. Ω ⊂ Rn を有界開集合とする. Ω 上連続な関数の全体を C(Ω) とかくと,
これは一様ノルム
∥f ∥C ··= sup |f (x)|
x∈Ω
について Banach 空間になる.
proof. ノルム空間になることはすぐわかる. (fj )j を C(Ω) の Cauchy 列とする. このと
き定義から
|fj (x) − fk (x)| ⩽ ∥fj − fk ∥C → 0 (j, k → ∞)
によって (fj (x))j は C の Cauchy 列になっている. よって C に極限をもち, それを f (x)
としよう. このとき f (x) は連続になる. じっさい, fj (x) は有界閉集合 Ω 上連続であるか
ら, 一様連続になるので
|f (x) − f (y)| ⩽ |f (x) − fj (x)| + |fj (x) − fj (y)| + |fj (y) − f (y)|
と評価すればよい. また, 任意の ε についてある N ∈ N で
|fj (x) − fk (x)| ⩽ ∥fj − fk ∥C < ε
(j, k ⩾ N )
となるから,
|fj (x) − f (x)| ⩽ |fj (x) − fk (x)| + |fk (x) − f (x)|
< ε + |fk (x) − f (x)| (j, k > N )
で k → ∞ とすれば,
|fj (x) − f (x)| ⩽ ε
となり, sup をとれば C(Ω) 上 fj → f となる. ♡
3
(j > N )
3 Lp 空間
Definition 3.1. 1 ⩽ p < ∞, Ω ⊂ Rn を開集合とする. Ω 上 Lebesgue 可測で
∫
|f (x)|p dx < ∞
Ω
をみたすもの全体を Lp (Ω) とかく. ただし, f = g a.e.x となる f と g は同一視する. こ
の空間に
∥f ∥p ··=
(∫
)1/p
|f (x)| dx
p
Ω
とノルムを入れて, Banach 空間になることを見ていこう.
Remark 3.2. Lp (Ω) の元というのは関数ではなく同値類で, それはときどき意識したほ
うがよい.
まず不等式をいくつか示そう.
Lemma 3.3 (Young の不等式). a ⩾ 0, b ⩾ 0 とする. 1 < p < ∞ についてその dual
index q を 1/p + 1/q = 1 となるように定めると,
bq
ap
+
ab ⩽
p
q
となる.
proof. a, b ̸= 0 としてよい.
ϕ(a) ··=
ap
bq
+
− ab
p
q
として微分すれば ϕ′ (a) = 0 となるのは a = b1/(p−1) のときで, その点で最小値をとる.
ϕ(b1/(p−1) ) = 0
だから
ϕ(a) ⩾ 0
となってしたがう. ♡
4
Theorem 3.4 (H¨older の不等式). 1 < p < ∞, 1/p + 1/q = 1 とする. f ∈ Lp (Ω),
g ∈ Lq (Ω) ならば
∫
f gdx ⩽ ∥f ∥p ∥g∥q
Ω
がなりたつ.
proof. ∥f ∥p = 0 ないし ∥g∥q = 0 のときは f g = 0 a.e.x となるから, どちらも 0 でない
とする. Young の不等式で a = |f |/∥f ∥p , b = |g|/∥g∥q とすれば
|g|q
|f ||g|
|f |p
⩽
p +
∥f ∥p ∥g∥q
p∥f ∥p
q∥g∥qq
だから, これを積分すればよい. ♡
Theorem 3.5 (Minkowski の不等式). f , g ∈ Lp (Ω) とするとき,
∥f + g∥p ⩽ ∥f ∥p + ∥g∥p
がなりたつ.
proof. p = 1 のときは積分の性質からすぐ出る. また,
|f + g|p ⩽ (2 max{|f |, |g|})p ⩽ 2p (|f |p + |g|p )
により, f + g ∈ Lp (Ω) となることに注意しよう.
∫
∫
|f + g| dx =
∫
|f + g|
p
p−1
|f + g|dx ⩽
∫
|f + g|
p−1
|f |dx +
|f + g|p−1 |g|dx
となっている. よって 1/p+1/q = 1 と q をとると p−1 = p/q だから |f +g|p−1 ∈ Lq (Ω)
により, H¨
older の不等式が使える:
(∫
∫
|f + g|
二項目についても同様.
p−1
)1/q
|f |dx ⩽
|f + g| dx
p
∫
|f + g|p dx = 0
のときは自明な式なので, 0 でないとして
(∫
)1/q
|f + g| dx
p
で両辺を割れば 1 − 1/q = 1/p により主張がしたがう. ♡
5
∥f ∥p .
いよいよ目標の定理にうつろう.
Theorem 3.6. 1 ⩽ p < ∞ のとき, Lp (Ω) はノルム ∥∥p について Banach 空間となる.
proof. Minkowski の不等式によりノルム空間となるので完備性を示せばよい. (fj )j を
Lp の Cauchy 列とする. このとき, ある n1 で
∥fj − fk ∥p <
1
2
(j, k ⩾ n1 )
∥fj − fk ∥p <
1
22
(j, k ⩾ n2 )
1
2l
(j, k ⩾ nl )
とできる. また, n2 ⩾ n1 を
ととる. これをつづけて, nl を
∥fj − fk ∥p <
ととれる. とくに
∥fnl+1 − fnl ∥p <
1
2l
となる. gl ··= fnl としておく.
h1 (x) ··= |g1 (x)|,
hn (x) ··= |g1 (x)| +
n−1
∑
|gj+1 (x) − gj (x)|
j
とする. hn (x) は単調増加で, ∞ もふくめれば収束する. 極限を h(x) としよう. また, 三
角不等式から
∥hn ∥p ⩽ ∥g1 ∥p +
n−1
∑
∥gj+1 − gj ∥
j
だから n → ∞ とすれば単調収束定理から
∥h∥p ⩽ ∥g1 ∥p + 1
となり, h ∈ Lp だから hn (x) はほとんどいたるところ有限な値に単調に収束する. また,
k > l とすると
|gk (x) − gl (x)| ⩽ hk (x) − hl (x) → 0
より (gj )j は C の Cauchy 列となり,
gj (x) → g(x) a.e.x
6
とできる.
|g(x)| ⩽ h(x)
より g ∈ Lp で,
|gj (x) − g(x)|p ⩽ h(x)p
となって h(x)p は可積分であるから Lebesgue 収束定理が使えるので,
∥gj − g∥p → 0
となる. 最後に, 任意の ε > 0 について十分大きく N をとれば
∥fj − g∥p ⩽ ∥fj − fnk ∥p + ∥gk − g∥p
< ε + ∥gk − g∥p
(j, nk ⩾ N )
とできるから, k → ∞ として
∥fj − g∥p ⩽ ε
(j ⩾ N )
だから定理を示している. ♡
Corollary 3.7. fn ∈ Lp (Ω)(1 ⩽ p < ∞) が f ∈ Lp (Ω) に Lp (Ω) で収束しているとす
る. このとき, 部分列にうつれば fn → f a.e.x とできる.
これは上の定理の証明でとったように部分列をとればよいだけだが, 応用上しばしば
有用.
Definition 3.8. f (x) についてある定数 M があって,
|f (x)| ⩽ M a.e.x
のとき f (x) は本質的に有界という. このような M の下限を ∥f ∥∞ とかき, Ω 上本質的に
有界な Lebesgue 可測関数の全体を L∞ (Ω) とかく. ただしほとんどいたるところ等しい
関数は同一視する. これもノルム ∥f ∥∞ によって Banach 空間となる.
Example 3.9 (ℓp 空間).
ℓ ··= {x = (x1 , x2 , . . . , xn , . . . ); xi ∈ C,
p
∞
∑
|xj |p < ∞}
j=1
とかく. ℓp はノルム

∥x∥ℓp ··= 
∞
∑
j=1
7
1/p
|xj |p 
(1 ⩽ p < ∞)
によって Banach 空間になる.(Lp で積分を和に変えればほとんど同様にわかる.) また,
ℓ∞ ··= {x = (x1 , x2 , . . . , xn , . . . ); xi ∈ C, ∥x∥l∞ ··= sup |xj | < ∞}
j
も Banach 空間になる.
4 内積空間
ノルムによってベクトルの「長さ」が導入されたが, 内積が定義されると「直交」とい
う概念が導入され, 幾何学的なイメージが描きやすくなる.
Definition 4.1 (内積空間). H を線型空間とする. このとき,
(·, ·) : H × H → C
が X の内積とは, 以下を満たすときにいう:
1. (正定値性) (x, x) ⩾ 0, (x, x) = 0 ⇔ x = 0,
2. (共役対称性) (x, y) = (y, x),
3. (線型性)
(x, y1 + y2 ) = (x, y1 ) + (x, y2 ),
(x, αy) = α(x, y)
(x, y, yi ∈ H, α ∈ C).
内積が定義されている線型空間を内積空間という.
Proposition 4.2.
(x1 + x2 , y) = (x1 , y) + (x2 , y),
(αx, y) = α(x, y)
は線型性と共役性からただちにわかる.
Proposition 4.3. H が内積空間のとき, ノルムが
∥x∥ ··= (x, x)1/2
と定義できて, H はノルム空間になる.
Lemma 4.4 (Schwarz’s inequality). 上で定めた ∥ · ∥ について
|(x, y)| ⩽ ∥x∥∥y∥
8
が成立する.
proof of Lemma. x ̸= 0 としてよい.
α ··= −
(x, y)
∥x∥2
とする. このとき, 定義通りに計算すれば
0 ⩽ ∥αx + y∥2
=−
|(x, y)|2
+ ∥y∥2
∥x∥2
がわかるから, 移項すればよい. ♡
proof of Proposition. 三角不等式以外はすぐわかる. Schwarz の不等式から,
∥x + y∥2 = ∥x∥2 + (x, y) + (y, x) + ∥y∥2
⩽ ∥x∥2 + 2∥x∥∥y∥ + ∥y∥2
= (∥x∥ + ∥y∥)2
だから, 平方根をとれば三角不等式がわかる. ♡
Remark 4.5. Schwarz の不等式はじつは (x, x) = 0 ⇔ x = 0 を満たさない半正定値内
積でもなりたち, ときどき使われる.
つぎのふたつはただ計算すればできる.
Proposition 4.6 (中線定理). 内積から定まるノルムについては
∥x + y∥2 + ∥x − y∥2 = 2(∥x∥2 + ∥y∥2 )
が成立する.
Proposition 4.7 (極化形式).
(x, y) =
1
(∥x + y∥2 − ∥x − y∥2 + i∥x + iy∥2 − i∥x − iy∥2 )
4
も成立.
Remark 4.8. 重要なのは内積がノルムで表されていることで, 逆に中線定理をみたすノ
ルムは極化形式で内積が定義できる.
9
Proposition 4.9 (内積の連続性). xn → x, yn → y とする. このとき,
(xn , yn ) → (x, y)
となる.
proof.
|(xn , yn ) − (x, y)| = |(xn , yn − y) + (xn , y) − (x, y)|
⩽ ∥xn ∥∥yn − y∥ + ∥xn − x∥∥y∥ → 0
だからよい. ♡
5 Hilbert 空間
Definition 5.1 (Hilbert 空間). 上に定めたノルムに関して完備な内積空間を Hilbert 空
間という.
Example 5.2. Cn , Rn はそれぞれ内積を
(x, y) ··=
n
∑
(x, y) ··=
xj yj ;
n
∑
xj yj
j=1
j=1
と定義して Hilbert 空間になる.
Example 5.3. ℓ2 は内積を
∞
∑
(x, y) ··=
xj yj
j=1
と定義できて Hilbert 空間になる. (完備性の証明は, [5] などを参照)
Example 5.4. Ω ⊂ Rn を開集合とする. L2 (Ω) は内積を
∫
(f, g) ··=
f (x)g(x)dx
Ω
と定義して Hilbert 空間になる.
∫
Remark 5.5. 数学の人は
(f, g) =
f (x)g(x)dx
のように線型性を左側につけることが多い.
今後 H とかいたら Hilbert 空間を表すものとする.
10
6 射影定理
Definition 6.1. A, B ⊂ H が直交するとは, すべての x ∈ A, y ∈ B について, H の内
積で (x, y) = 0 となっているときにいう. このとき, A ⊥ B とかく.
さらに, L ⊂ H について L⊥ ··= {x ∈ H; x ⊥ L} とする. L⊥ を L の直交補空間と
いう.
Proposition 6.2. L⊥ は H の閉部分空間になっている.
proof. 閉であることをみればよい. xn ∈ L⊥ , xn → x とする. 任意の y ∈ L について
(x, y) = lim(xn , y) = 0
n
だから, x ∈ L⊥ ♡
また,
Proposition 6.3 (ピタゴラスの定理). x ⊥ y ならば
∥x + y∥2 = ∥x∥2 + ∥y∥2
がなりたつ.
これはすぐわかるので証明略.
重要なのはつぎの定理で, だいたいこれから出る.
Theorem 6.4 (射影定理). L ⊂ H を閉部分空間とするとき,
H = L ⊕ L⊥ ,
つまり, 任意の x ∈ H はある y ∈ L, z ∈ L⊥ で
x=y+z
と一意的に分解できる. y = PL x などとかく.
proof. x ∈ H とする. δ ··= inf ξ∈L ∥x − ξ∥ としておく. 下限の性質から, ある ξn ∈ L で
∥x − ξn ∥ → δ とできる. また, 中線定理から
∥(x − ξn ) + (x − ξm )∥2 + ∥(x − ξn ) − (x − ξm )∥2 = 2(∥x − ξn ∥2 + ∥x − ξm ∥2 )
11
となっている. L は部分空間であるから, (ξn + ξm )/2 ∈ L に注意すると,
0 ⩽ ∥ξn − ξm ∥2
2
ξm + ξn = 2(∥x − ξn ∥ + ∥x − ξm ∥ ) − 4 x −
2
2
2
⩽ 2(∥x − ξn ∥2 + ∥x − ξm ∥2 ) − 4δ 2
→0
によって, (ξn )n は Cauchy 列になっている. よって ξn → y ∈ H とできるが, L は閉だ
から y ∈ L. よって, ノルムの連続性から ∥x − ξn ∥ → δ = ∥x − y∥ となる.
z ··= x − y として z ∈ L⊥ をたしかめよう. 任意に ξ ∈ L をとり, γ ··= (ξ, z) とする.
γ = 0 であればよい. t ∈ R について ϕ(t) ··= ∥z − tγξ∥2 とする. y + tγξ ∈ L だから,
δ 2 = ϕ(0)
⩽ ϕ(t) = ∥z∥2 − 2t|γ|2 + t2 |γ|2 ∥ξ∥2
と計算できる. ここで γ ̸= 0 とすると, t < 2/∥ξ∥2 のとき ϕ(t) < δ 2 となって, 下限であ
ることに反するから γ = (z, ξ) = 0. つまり z ∈ L⊥ となっていて, x = y + z だから分解
できている.
一意性をみよう.
とするとき,
だから,
x = y + z = y′ + z′
y − y′ = z − z′
∥y − y∥2 = (y − y ′ , z − z ′ ) = 0
によって y = y ′ , z = z ′ となるから一意性も O.K. ♡
Corollary 6.5. L ⊂ H を部分空間とする. このとき,
L⊥⊥ = L
となる.
proof. たとえば [5] の Proposition 15 など. ♡
12
7 正規直交系
Definition 7.1. (xj )∞
j ⊂ H が H の正規直交系 (ONS) とは, (xj , xk ) = δjk のときに
いう.(δjk はクロネッカーのデルタ.)
√
Example 7.2. L2 (0, 1) で ( 2 sin πjt)∞
j は ONS.
proof. これは直接計算すればすぐわかる. ♡
同様に,
Example 7.3. L2 (0, 1) で (e2πijt )∞
j は ONS. ここで i =
√
−1.
つぎの不等式はよく使う.
Theorem 7.4 (Bessel’s inequality). (xj )j を H の ONS とする. このとき, すべての
x ∈ H について
∑
|(xj , x)|2 ⩽ ∥x∥2
j
が成立.
とくに (xj , x) → 0.
proof. αj ··= (xj , x) とする.
0 ⩽ ∥x −
n
∑
αj xj ∥ = ∥x∥ −
2
2
j
だから,
n
∑
n
∑
|αj |2
j
|(xj , x)|2 ⩽ ∥x∥2
j
となる. 正項級数は単調非減少でいま有界になっているから, n → ∞ とすればただちに
したがう. ♡
Definition 7.5 (完全正規直交系). (xj )j が H の ONS とするとき, これが完全とは, す
べての x ∈ H が
x=
∑
(xj , x)xj
j
とかけているときにいう. このとき, (xj )j を完全正規直交系 (CONS) という.
13
もし H が有限次元のときは CONS として基底が取れる. 無限次元空間の場合基底を
明示するのはむずかしいので, その展開でかけるという意味で基底のかわりをするのが
CONS になる. 応用で使われる Hilbert 空間ではおおむね CONS が存在するが, それを
示すためにいくつか準備がいる.
まずつぎを示しておこう.
∑n
Theorem 7.6. (xj )j を H の ONS とする. L0 ··= { j αj xj ; αj ∈ C} と xj で生成さ
れる部分空間をかいて, その閉包を L としておく. このとき, x ∈ H に対して,
∑
PL x =
(xj , x)xj
j
となる. さらに, x, x′ ∈ H について,
(PL x′ , PL x) =
∑
(xj , x′ )(xj , x)
(絶対収束)
j
がなりたつ.
proof. αj ··= (xj , x) としておく. n < m とすると, Bessel’s inequality から
2 2
∑
m
n
m
∑
∑
=
α
x
−
α
x
α
x
j
j
j
j
j
j
j
j
j=n+1
=
m
∑
|αj |2
j=n+1
→ 0 (n, m → ∞)
∑n
となるから, (
j
αj xj )n は Cauchy 列になっている. よって極限が存在し, それを y とす
る. 任意の k について
(xk , x − y) = (xk , x) − (xk , x) = 0
は (xj )j が ONS であることからすぐわかる. よって, x − y ⊥ xk で, 定義からその一次
結合全体である L0 とも直行している: x − y ⊥ L0 . 一方, L は L0 の閉包であるから, 任
意の ξ ∈ L に対してある ξn ∈ L0 で ξn → ξ とできる. 内積の連続性から
(ξ, x − y) = lim(ξn , x − y) = 0
n
⊥
だから, 結局 z = x − y ∈ L
となっている. よって, 射影定理の一意性から
PL x = y =
∑
αj xj =
j
∑
(xj , x)xj
j
14
が示された.
また, αj′ = (xj , x′ ) とすると, C での Schwarz の不等式から
n
∑

|αj′ αj | ⩽ 
1/2 
1/2
n
∑
|αj′ |2  
|αj |2 
n
∑
j
j
j
′
⩽ ∥x ∥∥x∥ (Bessel’s inequality)
だから, n → ∞ とすれば絶対収束していて,
(PL x′ , PL x) =
∑
αj′ αj =
∑
j
(xj , x′ )(xj , x)
j
がわかる. ♡
Theorem 7.7 (CONS の同値条件). (xj )j を H の ONS とする. (xj )j で生成される閉
部分空間を L とすると, つぎは同値になる:
1. (xj )j は H の CONS.
2. すべての x, x′ ∈ H について,
(x′ , x) =
∑
(xj , x′ )(xj , x). (絶対収束)
j
3. (Parseval の等式)
∥x∥2 =
∑
|(xj , x)|2 .
j
4. すべての j について, (xj , x) = 0 ならば, x = 0.
5. L = H.
proof. (1 ⇒ 2): x ∈ L だから前の定理より
(x′ , x) = (PL x′ , PL x) =
∑
(xj , x′ )(xj , x)
j
となる.
(2 ⇒ 3): x = x′ とすればよい.
(3 ⇒ 4): すべての j で (xj , x) = 0 とすると,
∑
|(xj , x)|2 = ∥x∥2 = 0
j
15
となる.
(4 ⇒ 5): x ∈ L⊥ なら, すべての j について (xj , x) = 0 となる.(定義から xj ∈ L)
よって x = 0 だから, L⊥ = {0} になる. よって, 射影定理からただちに H = L になる.
(5 ⇒ 1): 前の定理から,
x = PL x =
∑
(xj , x)xj
j
となる. ♡
2
Example 7.8. 単位ベクトル (ej )∞
j は l の CONS.
proof. ONS はすぐわかる.
∑
|(ej , x)|2 = ∥x∥2
j
がわかるから, Parseval により CONS になる. ♡
8 Schmidt の直交化
Theorem 8.1 (Schmidt の直交化). (yj )j をたかだか可算個の H の一次独立な元とす
る. このとき, つぎの性質をもつ H の ONS (xj )j を一意的に構成できる:
1. 各 xn は y1 , . . . , yn の一次結合でかける.
2. 各 yn は x1 , . . . , xn の一次結合でかける.
proof. 線型代数なのでかんたんに述べる.
x1 =
x2 =
xn =
y1
,
∥y1 ∥
y2 − (y2 , x1 )x1
,
∥y2 − (y2 , x1 )x1 ∥
yn −
∥yn −
······
∑n−1
j=1 (yn , xj )xj
∑n−1
j=1 (yn , xj )xj ∥
として n についての帰納法で示せる. ♡
すこしだけ一般的な定義をしておこう.
16
Definition 8.2. Banach 空間 X が可分とは, X において稠密な可算集合が存在すると
きにいう.
たとえば, 有界閉集合上の連続関数の空間や, Lp (Ω)(1 ⩽ p < ∞) など応用で使われる
空間は“だいたい”可分だが, ちゃんと示すには多少の準備がいるのでここでは立ち入ら
ない.
Theorem 8.3. H が可分な Hilbert 空間とするとき, 可算個の元からなる CONS が存在
する.
proof. (zj )j を H の稠密な可算部分集合としよう. まず, これをつぎのようにして一次
独立にする: z1 = 0 ならのぞき, そうでないならのこす. zn が z1 , . . . , zn−1 の一次結合で
かけるならのぞき, そうでないならのこす. こうしてのこったものを (yj )j とかくと, つく
りかたからこれは任意の n で y1 , . . . , yn は一次独立になる. Schmidt の直交化を適用し
てえられる ONS を (xj )j とする. これが CONS であることをみるために, すべての j に
ついて (xj , x) = 0 と仮定しよう.(同値条件の 4 をたしかめる) 各 xn は (yj )n
j の一次結合
でかけるから, (yj , x) = 0 (j = 1, 2, . . . ) としてよい. さらに, 任意の k で
zk =
k
∑
yj
j=1
(n)
とかけているから, (zk , x) = 0 となっている. (zj )j は H で稠密なので, zk
→ x (n →
∞) となるものがとれるから, 内積の連続性により,
(n)
(x, x) = lim (zk , x) = 0
n→∞
となるから, x = 0 により (xj )j は H の CONS になる. ♡
Remark 8.4. H が有限次元のときは, もちろん CONS は有限個でよい.
Hilbert 空間は CONS で特徴づけられるが, ちょっとびっくりなつぎの定理がある. (証
明は [5] の最後の定理など.)
Theorem 8.5. H を可分な無限次元 Hilbert 空間とすると, H は ℓ2 と同型.
じっさいは ℓ2 と同型だから問題がかんたんになる, ということはあんまりなかったりす
る. (ℓ2 もむずかしい)
17
Example 8.6 (Legendre Polynomials).
1, t, t2 , . . . , tn , . . .
を L2 (−1, 1) で直交化することを考える. yn (t) = tn−1 としよう. Schmidt の直交化を
使っていくと,
√
∥y1 ∥2 =
1
x1 = √ ,
2
2,
となり, また (x1 , y2 ) = 0 から
y2 (t)
x2 (t) =
=
∥y2 ∥2
√
3
t
2
と順に xn が計算できる.(x3 は?)
ここで Legendre 多項式 Pn (t) を
Pn (t) ··=
1 dn 2
(t − 1)n
2n n! dtn
と導入しよう. 部分積分によって
][ n
]
∫ 1[ m
d
1
d
2
m
2
n
··=
(t − 1)
(t − 1) dt
Pm (t)Pn (t)dt = m+n
2
m!n! −1 dtm
dtn
−1
[
( m−1
)( n
)]1
1
d
d
2
m
2
n
= m+n
(t − 1)
(t − 1)
2
m!n! dtm−1
dtn
−1
] [ n+1
]
∫ 1 [ m−1
d
d
1
2
m
2
n
(t − 1)
(t − 1) dt
− m+n
2
m!n! −1 dtm−1
dtn+1
∫
Imn
1
となるが, (t2 − 1) = (t + 1)(t − 1) だから, [·]1−1 の項は 0 になる. よってこれを m 回く
りかえして, つぎのようになる:
Imn
1
= (−1) m+n
2
m!n!
∫
[
1
m
(t − 1)
2
−1
m
]
dn+m 2
n
(t − 1) dt.
dtn+m
ここで n < m のときは t の最高次数より多く微分しているので, 右辺は 0 になる. m < n
のときも同様.
n = m としよう. このときは, 微分を t2n のところだけ考えればよいから,
[ 2n
]
∫ 1
1
n
2
n d
2
n
Inn = (−1) 2n
(t − 1)
(t − 1) dt
2 (n!)2 −1
dt2n
∫ 1
n (2n)!
(t + 1)n (t − 1)n dt
= (−1) 2n
2 (n!)2 −1
18
となっている. ここで t = 2x − 1 と変換すると,
Inn
2(2n)!
= (−1) 2n
2 (n!)2
∫
1
n
2(2n)!
(2x − 2) (2x) dx =
(n!)2
n
0
∫
1
(1 − x)n xn dx
n
0
がわかる. ここで B 関数と Γ 関数の性質を使おう (たとえば [6] などを参照).
2(2n)!
B(n + 1, n + 1)
(n!)2
(
)
2(2n)! [Γ(n + 1)]2
Γ(p)Γ(q)
=
B(p, q) =
(n!)2 Γ(2n + 2)
Γ(p + q)
2
2(2n)!
(n!)
=
(Γ(s + 1) = sΓ(s))
2
(n!) (2n + 1)Γ(2n + 1)
2
=
2n + 1
Inn =
と計算される. よって, まとめると
∫
1
−1
Pn (t)Pm (t)dt =
2
δnm
2n + 1
がわかった.(δnm はクロネッカーのデルタ.)
ここで
(
xn+1 =
1
n+
2
)1/2
Pn (t)
とすると,
1
x1 (t) = √
2
√
3
x2 (t) =
t
2
······
となるが, この (xn )n は Schmidt の直交化で構成される ONS の条件を満たし, 直交化の
一意性からこの (xn )n がもとめるものになっている!
ちなみに Legendre 多項式は Legendre 微分方程式
(1 − t2 )
d2
d
y(t) − 2t y(t) + n(n + 1)y(t) = 0
2
dt
dt
の解になっているが, ここではそこまで立ち入らない.(たとえばグライナー [1] など参照.)
19
9 線型作用素
以下 X, Y を Banach 空間とする.
Definition 9.1. D を X の部分空間とするとき, T : D → Y が線型作用素とは
(x, y ∈ D, α, β ∈ C)
T (αx + βy) = αT x + βT y
をみたすときにいう. D = D(T ) を T の定義域といい, R(T ) ··= {T x ; x ∈ D} を T の値
域という.
T, S : D → Y が線型作用素とするとき,
(T + S)(x) = T x + Sx
(αT )(x) = αT x
(x ∈ X)
(α ∈ C)
と定義する.
T : D → Y が連続とは xn → x in X ならばつねに T xn → T x in Y となるときに
いう.
Example 9.2. X = Y = D = C([0, 1]) とする.
(T x)(t) ··=
∫
t
x(s)ds
(x ∈ X)
0
とすれば T は明らかに連続線型作用素. (xn → x in X の意味は?)
Example 9.3. X = Y = C([0, 1]), D = C 1 ([0, 1]) とする.
(T x)(t) ··=
d
x(t)
dt
(x ∈ D)
とすれば T は線型作用素だが, 連続ではない. じっさい, たとえば xn (t) = 1/n sin nt を
考えればこれは連続にならない.
Proposition 9.4. T : D → Y が線型作用素とする. このとき, T が連続というのは T
が有界であることと同値. ここで有界とは
∥T x∥Y ⩽ M ∥x∥X
となる M が存在することをいう.
20
(x ∈ D)
proof. まず T を連続であり, 有界でないとして矛盾を出そう. このとき, 任意の n につ
いてある xn ∈ D で
∥T xn ∥Y > n∥xn ∥X
とできるが,
xn
yn ··= √
n∥xn ∥X
とすれば yn → 0 in X だが.
∥T xn ∥X
n
∥T yn ∥Y = √
> √ →∞
n∥xn ∥X
n
となって, これは連続性に反する.
逆に T を有界としよう. このとき, xn → x in X とすると, 線型性から
∥T xn − T x∥Y ⩽ M ∥xn − x∥X → 0
(n → ∞)
となって, 連続となる. ♡
Definition 9.5. 有界線型作用素で D(T ) = X なるものの全体を L(X, Y ) とかく. 今後
有界線型作用素といったら D(T ) = X なものとする. L(X, X) = L(X) とかく.
また, T を有界線型作用素としたとき, その有界定数の下限をノルムとして定める. つ
まり,
∥T ∥L(X,Y ) ··= sup
x̸=0
∥T x∥Y
∥x∥X
と定義する. これがノルムとなることはすぐわかる.
Proposition 9.6.
∥T ∥ = sup ∥T x∥Y
∥x∥X =1
が成立.
これは線型性と x/∥x∥X のノルムが 1 であることに注意すればよい.
Theorem 9.7. L(X, Y ) は上で定めたノルムに関して Banach 空間となる.
proof. 完備性のみ示せばよい. (Tn )n を L(X, Y ) の Cauchy 列とする. つまり, 任意の ε
に対してある N があって,
∥Tn − Tm ∥ < ε
21
(n, m ⩾ N )
とする. このとき,
∥Tn x − Tm x∥Y < ε∥x∥X
だから (Tn x)n は Y の Cauchy 列. よって, Y の完備性により極限が存在する. T x ··=
limn→∞ Tn x とすれば T は明らかに線型. また,
∥Tn x − T x∥ ⩽ ∥Tn x − Tm x∥ + ∥Tm x − T x∥
で m → ∞ とすれば,
∥Tn x − T x∥ ⩽ ε∥x∥X
となり,
∥T x∥ ⩽ ∥Tn x − T x∥ + ∥Tn x∥ ⩽ (ε + ∥Tn ∥)∥x∥
によって T は有界線型作用素.
∥Tn x − T x∥ ⩽ ε∥x∥
で両辺割って supx̸=0 をとれば,
∥Tn − T ∥ ⩽ ε
となり, 完備性となる. ♡
Proposition 9.8. T , S ∈ L(X) とするとき,
∥T · S∥ ⩽ ∥T ∥∥S∥
がなりたつ. さらに,
∥T n ∥ ⩽ ∥T ∥n
も成立.
proof.
∥T Sx∥ ⩽ ∥T ∥∥Sx∥ ⩽ ∥T ∥∥S∥∥x∥
と帰納法からすぐわかる. ♡
10 有界線型作用素の例
Example 10.1 (かけ算作用素). k ∈ L∞ (Ω) とする. Ω は Rn の開集合. このとき,
(T x)(t) ··= k(t)x(t) (x ∈ Lp (Ω))
22
とすれば, T は有界線型作用素で
∥T ∥ = ∥k∥∞
となる.
proof.
∥T x∥p ⩽ ∥k∥∞ ∥x∥p
から ∥T ∥ ⩽ ∥k∥∞ はすぐわかる. また, ess.sup の定義からある Ω0 ⊂ Ω があって, すべ
ての t ∈ Ω0 について
∥k∥∞ − ε ⩽ |k(t)|
とできる. ここで
{
x(t) ··=
とすれば, ∥x∥p = 1 で,
∥T x∥pp
1
=
|Ω0 |
1
|Ωo |1/p
t ∈ Ω0
0
else
∫
|k(t)|p dt ⩾ (∥k∥∞ − ε)p
Ω0
だから,
∥k∥∞ − ε ⩽ ∥T x∥p ⩽ ∥T ∥
によって, 逆の不等式も成り立っている. ♡
Example 10.2 (Hilbert-Schmidt 作用素). Ω を前とおなじものとする. k = k(t, s) ∈
L2 (Ω × Ω) とする.
(T x)(t) ··=
∫
k(t, s)x(s)ds (x ∈ L2 (Ω))
Ω
と定義すると, T は有界線型作用素. この k(t, s) を Hilbert-Schmidt 型の核, T を Hilbert-
Schmidt 型積分作用素という.
proof. Schwarts の不等式から
(∫
)1/2
|T x(t)| ⩽ ∥x∥2
|k(t, s)| ds
2
Ω
となるから, これを積分すれば
(∫
)1/2
∥T x∥2 ⩽ ∥x∥2
|k(t, s)| dsdt
2
Ω×Ω
となる. ♡
23
11 逆作用素
Definition 11.1. T : X → Y を線型作用素とする. S : Y → X が T の逆作用素とは,
(y ∈ Y, x ∈ X)
T Sy = y ; ST x = x
のときにいう. このとき T は全単射. S = T −1 とかく.
Proposition 11.2. T ∈ L(X, Y ), S ∈ L(Y, X) でそれぞれ逆作用素が存在するとき,
(T S)−1 = S −1 T −1
となる.
proof.
(T S)(S −1 T −1 ) = T T −1 = I
などからすぐわかる. ♡
Theorem 11.3 (C. Neumann 級数). T ∈ L(X), ∥T ∥ < 1 とすると, (I − T )−1 ∈ L(X)
が存在し,
(I − T )−1 = I + T + T 2 + . . .
でさらに
∥(I − T )−1 ∥ ⩽
1
1 − ∥T ∥
が成立. つまり形式的に展開できる感じになっている.
proof.
∑
j=0
∥T ∥j < ∞ に注意しよう. m > n とすると
∥
m
∑
j=0
により (
∑
T −
j
n
∑
T ∥⩽
j
j=0
m
∑
∥T ∥j → 0 (n, m → ∞)
j=n+1
j = 0n T j )n は L(X) の Cauchy sequence. よって極限があって
とかける. このとき
ST = T S =
∑
Tj =
j=1
∑
Tj − I = S − I
j=0
だから
I = S(I − T ) = (I − T )S,
24
∑
j
Tj = S
i.e., S = (I − t)−1 , and
∑
∥(I − T )−1 ∥ = ∥S∥ ⩽
∥T ∥j =
j=0
1
.
1 − ∥T ∥
♡
Example 11.4 (Fredholm 型積分作用素). Let [a, b] be a bounded interval, y = y(t) ∈
C([a, b]), k(t, s) を [a, b] × [a, b] で連続な関数とする.
M ··= max |k(t, s)| <
a⩽s,t⩽b
ならば
∫
1
b−a
b
y(t) = x(t) −
k(t, s)x(s)ds
a
は X = C([a, b]) に一意解をもつ.
proof.
(Kx)(t) ··=
∫
b
(Fredholm 型積分作用素)
k(t, s)x(s)ds
a
とする.
∫
b
|Kx(t)| ⩽ ∥x∥X
|k(t, s)|x(s)ds ⩽ M (b − a)∥x∥X
a
から ∥K∥ < 1 がわかる. よって C. Neumann の定理から (I − K)−1 ∈ X が存在し,
x ··= (I − K)−1 y とすれば
∫
b
y(t) = x(t) −
k(t, s)x(s)ds
a
となっている. ♡
Theorem 11.5 (常微分方程式の境界値問題). ODE
{
x′′ (t) + r(t)x(t) = y(t)
x(a) = α, x(b) = β
を考える. ここで α, β ∈ C, y, r ∈ X = C([a, b]) は与えられているとする.
M ··= max |r(t)| <
a⩽t⩽b
ならば, この ODE は一意解をもつ.
25
4
(b − a)2
proof.
{
g(t, s) ··=
(s−a)(b−t)
b−a
(b−s)(t−a)
b−a
とする. さらに
z(t) ··= −
∫
a⩽s⩽t
t⩽s⩽b
b
g(t, s)y(s)ds
a
とすれば z(a) = z(b) = 0 で, 計算すれば z ′′ (t) = y(t) がわかる.
x(t) ··= α
b−t
t−a
+β
−
b−a
b−a
∫
b
g(t, s)y(s)ds
a
として y(s) を y(s) − r(t)x(s) とかえて,
b−t
t−a
x(t) = α
+β
−
b−a
b−a
h(t) ··= −
∫
b
g(t, s)[y(s) − r(t)x(s)]ds
a
k(t, s) ··= g(t, s)r(s),
∫
b
g(t, s)y(s)ds + α
a
とすれば
∫
t−a
b−t
+β
b−a
b−a
b
x(t) −
k(t, s)x(s)ds = h(t)
a
となり, これは Fredholm 型の方程式になる.
|k(t, s)| ⩽
M
1
(b − a) <
4
b−a
が出るので, 前に見たように上の方程式は一意解をもつ. さらに
d2
dt2
∫
b
k(t, s)x(s)ds = −r(t)x(t)
a
と
h′′ (t) = y(t)
から x は C 2 なのでこれをいれればほしい結果が出る. ♡
12 ぜんぜん関係ない話
だんだん飽きてきたので基礎理論から離れてもっと応用っぽいこと話します.
26
参考文献
[1] Walter Greiner. 『量子力学概論』. 丸善出版, 2012. 伊藤伸泰・早野龍五 監訳.
[2] 黒田成俊. 『関数解析』. 共立数学講座 15. 共立出版, 1980.
[3] 増田久弥. 『関数解析』. 数学シリーズ. 裳華房, 1994.
[4] 宮島静雄. 『関数解析』. 横浜図書, 2005.
[5] ゆきみ. 『hilbert 空間概要』, 2014. http://yukimigo.com/math/.
[6] ゆきみ. 『n 次元球の体積と表面積』, 2014. http://yukimigo.com/math/.
27