実験学生の好奇心を刺激する FA 制御の実習 登 一 奈良工業高等専門学校 技術支援室 1. はじめに 本校の電気工学科では 2010 年度から学生実験のテーマの1つに「電子制御に関する実験」と題して FA 機器のシーケ ンス制御に関する基礎学習と実践的な課題を PBL(Problem Based Learning)形式の実験を行っている.PBL 形式の実験 を実施するにあたり学生の自主性を高めるためる好奇心を刺激するような課題設定が必要となった.そこで学生からの フィードバックを重ねて本テーマの改良を繰り返してきた.ここでは,これらの改良のもとに現在運用している実験内 容について紹介する. 2. 実験の内容について 実験中の手待ち学生を生じさせずに実験を遂行させるため 1 グループを基本 2 名として各グループに 1 セットの実験用機 材を使用するものとした. 2.1 基礎学習 基礎学習は 2008 年にオムロン㈱から「ものづくり技術者の 育成」で寄贈された「ベーシック FA 学習キット」(図 1)を用 いた. 内容は 4 種類のセンサに関する特性測定の実験と PLC (Programmable Logic Controller)のシーケンスプログラムをコ ンピュータでラダー図方式により入力する初心者向け実習形 式の基礎学習を行っている.この基礎学習には実際に「オム ロン FA 実践セミナ」でも使用されている本機材用のテキスト をベースに各種センサの基礎実験及び PLC の基本操作に関す 図 1 ベーシック FA 学習キット る項目を抜粋したものを基礎学習用の実験指導書として採用 した. 表 1 実験おいて使用するベーシック FA 学習キットの機材詳細 機材 ベーシック FA 学習キット(本体) 内容 コンベアベルト(1 個) 照光式スイッチ(4 個) 表示灯(3 個) セレクタスイッチ(1 個) その他(端子台、DC 電源 等) 光電センサ 拡散反射型,メーカー:オムロン㈱,型番:E3Z-D62 透過型,メーカー:オムロン㈱,型番:E3Z-T61A 回帰反射型,メーカー:オムロン㈱,型番:E3Z-R61 誘導型近接センサ メーカー:オムロン㈱,型番:E2E-X5ME1 2.2 応用課題 1(材質識別装置) 材質識別装置は約φ20[mm]×長さ 50[mm]の透明アクリルパイプとアルミパイプ,鉄パイプのワークを各種センサと ラダー図方式のプログラムを駆使して,材質の識別結果をランプに表示するものとなっている. 課題はコンベア上に識別用のワークを置いてから開始スイッチを押すことでコンベアが駆動を開始する.ワークが識 別用に設置したセンサの前を通過すると PLC 内に識別情報が記憶され,指定位置でワークが停止すると同時に材料識別 された結果を指定のランプを点灯するものとした.また停止/リセットのスイッチを押すことで動作を停止し,PLC 内で 全ての自己保持されている状態を解除できるものとした. 実際に学生が実験に取り組む様子を図 2 に示す. 図 2 応用課題 1(材質識別装置)の様子 図 3 応用課題 2(尺取虫ロボット)の様子 2.3 応用課題 2(尺取虫ロボット) 尺取虫ロボット(図 3)は屈曲部に取り付けられた DC モー タの極性を制御することで尺取虫のように屈伸運動を繰り返 す.またに一方向のみに回転する車輪を採用することでロボ ット屈伸運動が前後の車輪を交互に回転させてロボット自体 も一方向に進む仕様となっている. 課題は外部に設けた開始スイッチを押すことで屈伸運動を 開始させ.それから指定回数の屈伸運動を行った後に停止す る.それから再び開始スイッチが押させるのを待機するもの とした. また課題の解決には単純にロボットに開脚と閉脚の限界検 知用のマイクロスイッチをそれぞれ取り付けてロボットに屈 図 4 尺取虫ロボット 伸させて閉脚検出スイッチの検出回数をカウントする方法の 他に、閉脚検出スイッチだけ取り付けて開脚時間をタイマで制御する方法やロボットの屈伸を全てタイマで制御する方 法など,ロボットの制御方法に数通りパターンがある.こうすることで,それぞれの制御方法の違いによる長所と短所 を習得できるのとなっている. 実際に学生が実験に取り組む様子を図 3 に示す. 3. おわりに 本実験テーマの実施において単純に基礎学習で行った各項目を組み合わせれば解決できる難易度を低くした課題であ ったのにもかかわらず,成績上位の学生であっても基礎学習で行った内容の組み合わせが柔軟に行えずに苦戦している 様子が複数見受けられた.また一方では電気系専門科目に対して苦手意識がありながら「ものづくり」には関心を寄せ ている学生が積極的に参加して課題を楽々と解決する姿もあった.これにより実験では基礎学習能力に加えて創造力や 応用力が必要とされるため,技術者として不可欠な創造力や応用力の必要性を学生自身が気付く良い機会になったと考 えられる. 今後も学生からのフィードバックを重ねて本テーマの更なる改良を加え課題の内容を充実し,時代の流れと共に進化 し続ける電子制御技術にも追従しながら実験の内容も柔軟に進化させて行く予定である. 参考文献 1) 平成 22 年度 全国高専フォーラム 電子制御技術教材活用プロジェクト報告会概要集 「課外活動グループ学生との協同によるカリキュラム検討」 ,P21~24 2) 平成 23 年度 神戸大学 実験・実習技術研究会 報告集「PBL による電子制御実験の導入事例」,P287~288 3) 平成 24 年度 愛媛大学総合技術研究会報告集「レゴブロックを用いたシーケンス制御教材の構築」,P072A
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