応用物理学特別演習 平成 26 年 10 月 21 日 トポロジー工学研究室 黄川 久義 Charge Ordering in Organic ET Compounds Hitoshi Seo Institute for Solid State Physics, University of Tokyo, Minato-ku, Tokyo 106-8666 Journal of the Physical Society of Japan 69, 805 (2000) 有機ドナー分子と陰イオン分子から成る電荷移動錯体である有機導体は、単位格子が大き いことから、キャリア密度が単体金属の 1/1000 程度である。そのため、静電遮蔽が効きにく く、伝導電子間の長距離(オフサイト)クーロン相互作用の効果が期待される。その特徴的な現 象が、電子が数サイトおきに局在化する電荷秩序である。電荷秩序は 1 次元有機導体 (DI-DCNQI)2Ag における NMR 測定[1]によって報告され、ドナー分子 1 つおきに電子の多い 箇所ができることが観測された。これは、伝導電子間のクーロン相互作用が長距離に及び、 移動積分すなわち電子の運動エネルギーを上回った際、電子が 1 つまたは数サイトおきに局 在化することにより長距離クーロンエネルギーを得することと理解される。一方、2 次元系 では自由度が高まり、様々な電子の配列を取ることが予想される。本論文の目的は、2 次元 有機導体において発生する電荷秩序がどのような配列を取り、またその配列を決めるのはい かなる要因なのかを導き出すことである。 Seo は、実験的に電荷秩序が示唆されている θ 型、θd 型、α 型のドナー配列を持つ 2 次元有 機導体に対し、移動積分 t とオンサイトクーロン相互作用 U、オフサイトクーロン相互作用 V を考慮した拡張ハバードモデルを用いて理論的に解析した。ここでは、それぞれの物質でバ ンド計算を行い、t の異方性を評価している。 一般的に、V が t よりも大きい場合、電荷秩序が安定となる。最も簡単な電子構造を持つ θ 型のドナー配列に対して、t と V の異方性を考慮し た結果、図 1 に示す電荷秩序パターンの相図を得 た。図 1 では、電荷秩序パターンをドナー積層方 向の移動積分 tc と V に対する相図として表してい る。それを見ると、電荷秩序パターンはいずれも ストライプを構成し、ドナー積層方向に対し vertical (垂直)、horizontal (水平)、diagonal (斜め)の 3 つである。V が大きい場合、ストライプ内で交換 エネルギーを得するため、diagonal となる。V が小 さい場合、tc の増加によって vertical から horizontal へ変化する。また、似た分子配列の θd 型、α 型有 機導体でもほぼ同じ関係を持つことがわかった。 [1]K. Hiraki et. al. Phys. Rev. Lett. 80, 4737 (1998) 図 1:ストライプ構造の tc-V 相図。 応用物理学特別演習 平成 26 年 10 月 21 日 ソフトマター工学研究室 小林 史明 Memory function of turbulent fluctuations in soft-mode turbulence Takayuki Narumi,1,* Junichi Yoshitani,1 Masaru Suzuki,1 Yoshiki Hidaka,1,† Fahrudin Nugroho,1,2 Tomoyuki Nagaya,3 and Shoichi Kai1 1 Department of Applied Quantum Physics and Nuclear Engineering, Kyushu University, Fukuoka 8190395, Japan, 2Physics Department, Gadjah Mada University, Yogyakarta 55281, Indonesia 3 Department of Electrical and Electronic Engineering, Oita University, Oita 870-1192, Japan PHYSICAL REVIEW E 87, 012505 (2013) 負の誘電異方性を有する液晶に電圧を印加すると現れる 液晶電気対流は偏光顕微鏡とビデオカメラで観測できる時 空間スケールを持つため,構造ゆらぎの恰好の観測対象で ある. そこで, 本研究では液晶を用いて非平衡定常系の (非熱的)ゆらぎを考察する. この系においてはあるしきい 値以上の電圧を印加すると規則正しい対流が不安定化し, Fig. 1 のようなソフトモード乱流と呼ばれる状態が出現す る. このソフトモード乱流の時空構造を解析するためビ デオカメラで撮影を行い,ゆらぎ∆𝐼(𝑥, 𝑡) = 𝐼(𝑥, 𝑡) − 〈𝐼(𝑥, 𝑡)〉 Fig. 1 ソフトモード乱流の画像 に対して画像処理を行なった. ただし 𝐼(𝑥, 𝑡) は各ピクセル 図のスケールバーは 100𝜇mである の強度である. まず,ゆらぎ∆𝐼(𝑥, 𝑡)を空間でフーリエ変換し, 𝑢𝑘 (𝑡) = ∫ 𝑑𝒙∆𝐼(𝒙, 𝑡)e𝑖𝒌∙𝒙 (1) パワースペクトル 𝑃𝑘 = 〈|𝑢𝑘 (𝑡)|2 〉を求めた.その 結果を Fig. 2 に示す.強度の強いリングが見られ るが,これは Fig. 1 のストライプ(ロール)の間 隔に対応する. 次 に , モ ー ド 時 間 相 関 関 数 𝑈𝑘 (𝜏) = 〈𝑢𝑘 (𝑡 + Fig. 2 波数空間でのパワースペクトルで矢印 が対流のロール由来の特徴的長さに対応する. 𝜏)𝑢𝑘∗ (𝑡)〉𝑃𝑘−1 を計算し(Fig. 3)、ゆらぎのダイナミクスを 議論した. ここで, 波数 𝑘として は対流のロール幅に 対応する波数をとった. Fig. 3 において, 最小二乗法よ り、𝜏 が小さいときは, 赤の実線の指数関数的緩和 (a) 𝑈𝑘 (𝜏) ∝ exp [− 𝜏⁄𝜏𝑘 ] (2) 一方, 𝜏 が大きいときは, 緑の実線の代数的緩和 (e) 𝑈𝑘 (𝜏) ∝ 1 − [−𝜏/𝜏𝑘 ] 2 (3) の2つの緩和が存在することが明らかになった. Fig. 3 𝑼𝒌 (𝝉)のグラフで丸のシンボルが 実験値で, 実線がフィッティングである. 応用物理学特別演習 平成 25 年 10 月 21 日 光量子物理学研究室 里 水里 Rapid generation of light beams carrying orbital angular momentum Mohammad Mirhosseini,1,*Omer S.Magana-Loaiza,1 Changchen Chen,1 Brandon Rodenburg,1 Mehul Malik,1 and Robert W.Boyd1,2 1 The Institute of Optics, University of Rochester 2 Department of Physics, University of Ottawa Optics Express 21, 30204-30211 (2013) 光渦とは 1992 年に L.Allen らによって提唱された光であり、軌道角運動量(OAM)lħ と呼 ばれる離散的な値を持つことで知られる。この光渦の OAM を暗号として情報通信に用いる ことは、量子鍵配送システムを実現する上での主要な候補と考えられている。量子鍵配送 を行う際、この OAM のスイッチング速度を上げることは、情報通信の高速化に繋がり非常 に重要なことである。 現在レーザー光を光渦に変換する素子としては空間位相変調器(SLM)という液晶素子が 広く用いられており、SLM 上にレーザー光を入射させ、その回折光として光渦を得ている。 SLM による OAM のスイッチング速度は、SLM を構成する液晶のリフレッシュ速度によっ て決まり、一般的な SLM では 60Hz 程度である。 著 者 ら は SLM の 代 わ り に Digital Micro-Mirror Device(DMD)と呼ばれる強 度のみを変調する素子を用いても、強 度・位相ともに高いクオリティーの光渦 を発生できることを示した。DMD は液 晶を用いていないため、SLM に比べて 応答速度が速い。著者らは光渦の OAM 図 1 各 OAM を検出する実験系概略図 を l = -5 , 0 , 5 の 3 種類においてスイッチ ングする実験において、切り替え速度 4 kHz を実現し、SLM を用いた場合より も早い OAM のスイッチングができるこ とを示した(図 1 , 2)。 図2 検出した各パワーの時間変化 (l=-5 , 0, 5)
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