数学 II 第1回 確率変数と確率分布 確率変数とは, ある確率法則に従って変動する変量のことである. 確率変数 X は, 以下で 定義される分布関数 F (x) により特徴づけられる. F (x) = P (X ≤ x), x ∈ R. 定理(分布関数の性質) (1) x1 < x2 ならば F (x1 ) ≤ F (x2 ). (2) lim F (x) = 0. x→−∞ (3) (4) lim F (x) = 1. x→∞ lim F (x) = F (a). x→a+0 確率変数は, そのとる値の種類により離散型と連続型の2種類に分けられる. 離散型確率変数 確率変数 X のとる値がトビトビでそれらに順番がつけられる場合, X を離散型確率変数 という. このとき X のとる値とその値をとる確率は次のような表にして表される. X のとる値 x1 x2 · · · xn · · · その値をとる確率 p1 p2 · · · pn · · · ∑∞ ここで {pi } は pi ≥ 0 (i = 1, 2, . . .), i=1 pi = 1 を満たす. 上の表の対応関係を X の確率分 布という. また f (xi ) = P (X = xi ) = pi , i = 1, 2, . . . を X の確率関数という. 分布関数と確率関数は次のようにして互いに他を定義できる. ∑ f (xi ) F (x) = {i:xi ≤x} f (xi ) = F (xi ) − F (xi−1 ). 連続型確率変数 確率変数 X のとる値が連続的に並び X の分布関数 F (x) が積分 ∫ x ∫ x F (x) = f (y)dy = lim f (y)dy M →∞ −∞ −M ∫ ∞ で与えられるとき, X を連続型確率変数という. ただし, f (x) ≥ 0 かつ f (x)dx = 1 −∞ ∫ ∞ ∫ ∞ ∫ 0 を満たすとする. (ここで f (x)dx (広義積分という)は f (x)dx = f (x)dx + −∞ −∞ −∞ ∫ ∞ ∫ 0 ∫ N f (x)dx = lim f (x)dx + lim f (x)dx により定義される.)このとき f (x) を X 0 M →∞ −M N →∞ 0 の確率密度関数という. 任意の a, b (a < b) に対して ∫ b P (a < X ≤ b) = f (x)dx a 1 が成立する. また F ′ (x) = f (x) であるから分布関数と確率密度関数は互いに他を定義できる. 確率変数の平均と分散 X の平均(または, 期待値)E[X] を離散型, 連続型に従って次のように定義する. { ∑∞ ∑ |xi |f (xi ) < ∞), i=1 xi f (xi ) (ただし E[X] = ∫∞ ∫∞ xf (x)dx (ただし −∞ |x|f (x)dx < ∞). −∞ X の平均を E[X] = µ とするとき, (X − µ)2 の平均を X の分散といい V [X] で表す. V [X] の負でない平方根を X の標準偏差といい σ[X] で表す. つまり √ V [X] = E[(X − µ)2 ], σ[X] = V [X]. また V [X] = E[X 2 ] − µ2 が成り立つ. 定理 a, b を定数とするとき, 以下が成立する. (1) E[aX + b] = aE[X] + b. (2) V [aX + b] = a2 V [X]. 定理 g(x) を任意の関数とするとき, 以下が成立する. { ∑∞ ∑ |g(xi )|f (xi ) < ∞), i=1 g(xi )f (xi ) (ただし E[g(X)] = ∫∞ ∫∞ g(x)f (x)dx (ただし −∞ |g(x)|f (x)dx < ∞). −∞ 以下, 確率分布の例をあげる. 離散型確率分布の例 1.離散一様分布 1個のサイコロを投げる試行において出る目の数を X で表すと X は離散型確率変数で, そ の確率関数は 1 f (i) = , i = 1, 2, . . . , 6, 6 となる. X の平均, 分散は次のようになる. E[X] = 6 ∑ E[X 2 ] = 7 if (i) = , 2 i=1 6 ∑ i2 f (i) = i=1 91 V [X] = − 6 91 6 ( )2 7 35 = . 2 12 2 だから 2. 二項分布 B(n, p), 0 < p < 1 1回の試行で事象 A が起こる確率を p, 起こらない確率を q = 1 − p とする. この試行を独 立に n 回行ったとき, 事象 A が起こる回数を X で表すと X は離散型確率変数で, その確率関 数は f (i) = n Ci pi q n−i , i = 0, 1, 2, . . . , n, となる. このとき確率変数 X は二項分布 B(n, p) に従うといわれる. これについては E[X] = np, V [X] = npq が成立する. 3. ポアソン分布 Po (λ), λ > 0 確率変数 X の確率関数が f (i) = e−λ λi , i! i = 0, 1, 2, . . . で与えられるとき X はポアソン分布 Po (λ) に従うといわれる. これは二項分布で平均 np を 一定値 λ として, n → ∞, p → 0 としたときに得られる極限分布である. ポアソン分布 Po (λ) については E[X] = λ, V [X] = λ が成立する. 連続型確率分布の例 4. 一様分布 U (a, b), a < b 確率変数 X の確率密度関数が 1 , a≤x≤b f (x) = b−a 0, その他 で与えられるとき X は区間 [a, b] 上の一様分布 U (a, b) に従うといわれる. これについては E[X] = a+b , 2 V [X] = (a − b)2 12 が成立する. 5. 指数分布 EX (λ), λ > 0 確率変数 X の確率密度関数が { f (x) = λe−λx , x ≥ 0 0, その他 で与えられるとき X は指数分布 EX (λ) に従うといわれる. これについては E[X] = 1 , λ V [X] = 3 1 λ2 が成立する. 6.正規分布 N (µ, σ 2 ), µ ∈ R, σ > 0 確率変数 X の確率密度関数が (x−µ)2 1 e− 2σ2 , f (x) = √ 2πσ x ∈ R, で与えられるとき X は正規分布 N (µ, σ 2 ) に従うといわれる. これについては V [X] = σ 2 E[X] = µ, が成立する. 特に µ = 0, σ = 1 のとき X は標準正規分布に従うといわれる. 定理 X が正規分布 N (µ, σ 2 ) に従うとすると以下が成立する. (1) Y = aX + b (ただし a ̸= 0)は正規分布 N (aµ + b, a2 σ 2 ) に従う. (2) Z = (X − µ)/σ は標準正規分布 N (0, 1) に従う. 問題 [1] 確率変数 X に対して E[X] = µ, V [X] = σ 2 > 0, Z = E[Z] = 0, V [Z] = 1 となることを確かめよ. X −µ とおくとき, σ [2] 確率変数 X が二項分布 B(n, p) に従うとき, φ(t) = E[tX ], t ∈ R, という関数を考える. φ(t) = (pt + q)n (ただし q = 1 − p)を示し, これを用いて E[X] = np, V [X] = npq となる ことを確かめよ. ∞ ∑ λi [3] λ > 0 に対して e−λ = 1 となることを認めて, 確率変数 X がポアソン分布 Po (λ) i! i=0 に従うとき, E[X] = λ, V [X] = λ となることを確かめよ. ∫ ∞ ∫ 0 ∫ T [4] 一般に f (x)dx = lim f (x)dx + lim f (x)dx と理解する. 指数分布 EX (λ) S→∞ −S T →∞ 0 −∞ ∫ ∞ の確率密度関数 f (x) が実際に f (x)dx = 1 を満たすことを確かめよ. また, X が EX (λ) −∞ 1 1 , V [X] = 2 となることを確かめよ. (ヒント: まず λ λ lim T e−λT = lim T 2 e−λT = 0 を示し, これを用いる.) T →∞ T →∞ √ [5] 確率変数 X が指数分布 EX (λ) に従うとき確率変数 Y = X の分布関数と確率密度 関数を求めよ. に従う確率変数のとき, E[X] = [6] 確率変数 ( X )の密度関数が fX (x) のとき Y = aX + b (a ̸= 0) の確率密度関数は 1 fY (y) = |a| fX y−b であることを示せ. a 4 確率変数と確率分布:問題解答 [1] Z = 1 σX − µ σ 1 σ, だから最初の定理の (1) において a = b = − σµ とすれば 1 µ 1 µ µ µ E[Z] = E[ X − ] = E[X] − = − = 0 . σ σ σ σ σ σ 1 σ2 V また定理 (2) より V [Z] = σ2 σ2 [X] = = 1. [2] 2項定理より n ∑ X φ(t) = E[t ] = n ∑ i P (X = i)t = i=0 i n−i n Ci p q ·t = i i=0 n ∑ i n−i n Ci (pt) q = (pt + q)n . i=0 両辺を t で微分していくと ∑ d φ(t) = iP (X = i)ti−1 = np(pt + q)n−1 ; dt i=1 n ∑ d2 φ(t) = i(i − 1)P (X = i)ti−2 = n(n − 1)p2 (pt + q)n−2 . 2 dt i=2 ∑n 第1の式で t = 1 とおくと, p + q = 1 より i=1 iP (X = i) = np, すなわち E[X] = np. 同様に第2式で t = 1 ∑n とすると i=2 i(i − 1)P (X = i) = E[X(X − 1)] = n(n − 1)p2 . したがって n V [X] = E[X 2 ] − (E[X])2 = E[X(X − 1)] + E[X] − (E[X])2 = n(n − 1)p2 + np − (np)2 = np(1 − p) = npq を得る。ここで用いた関数 φ(t) は2項分布の確率母関数とよばれる。ちなみに母関数を用いずに直接 E[X], E[X(X − 1)] を計算すると次のようになる: n ∑ E[X] = i n Ci pi q n−i = i=0 = np i=0 n ∑ i=1 n−1 k=0 = np(p + q) = n ∑ ∑ n(n − 1)! n! pi q n−i = pi q n−i i!(n − i)! (i − 1)!(n − i)! i=1 n i ∑ (n − 1)! (n − 1)! pi−1 q (n−1)−(i−1) = np pk q n−1−k (i − 1)!(n − i)! k!(n − 1 − k)! n−1 E[X(X − 1)] n ∑ = np . ∑ n(n − 1)(n − 2)! n! pi q n−i = pi q n−i i!(n − i)! (i − 2)!(n − i)! i=2 n i(i − 1) i=0 n−2 ∑ = n(n − 1)p2 r=0 (n − 2)! pr q n−2−r = n(n − 1)p2 (p + q)n−2 = n(n − 1)p2 . r!(n − 2 − r)! i [3] X のとる値が i = 0, 1, 2, . . . で P (X = i) = e−λ λi! だから E[X] = ∞ ∑ ie i=0 E[X(X − 1)] = i −λ λ i! ∞ ∑ i=0 =e −λ ∞ ∞ ∞ ∑ ∑ ∑ λi λi−1 λk −λ −λ i = λe = λe =λ. i! (i − 1)! k! i=1 i=1 i(i − 1) e k=0 i −λ λ i! 2 −λ =λ e ∞ ∞ ∑ ∑ λi−2 λr 2 −λ =λ e = λ2 . (i − 2)! r! r=0 i=2 V [X] = E[X(X − 1)] + E[X] − (E[X])2 = λ2 + λ − λ2 = λ . [4] 指数分布の密度関数は x < 0 において f (x) = 0 だから ∫ ∫ ∞ T f (x)dx = lim T →∞ −∞ f (x)dx 0 である。部分積分により ∫ ∫ T T f (x)dx = 0 よって limT →∞ 同様に ∫T 0 λe−λx dx = [−e−λx ]T0 = 1 − e−λT . 0 f (x)dx = 1. } { 1 1 −λT −λT + , E[X] = lim λxe dx = lim −T e − e T →∞ 0 T →∞ λ λ { } ∫ T 2 2 E[X 2 ] = lim λx2 e−λx dx = lim −T 2 e−λT − T e−λT + 2 (1 − e−λT ) T →∞ 0 T →∞ λ λ ∫ T −λx となる。ところで x > 0 に対して ex > 1 + x > x であることは容易にわかる。これより 0 ≤ √ すなわち挟みうちにより limx→∞ xe−x = 0. したがって lim T e−λT = T →∞ √ x ex < √ x x √ = 1/ x. √ √ 2 2 lim ( λT /2e−λT /2 )2 = lim ( xe−x )2 = 0 ; λ T →∞ λ x→∞ lim T 2 e−λT = lim (T e− 2 T )2 = 0 . λ T →∞ T →∞ さらに limT →∞ e−λT = 0 であるから E[X] = 1 , λ E[X 2 ] = 2 . λ2 従って V [X] = E[X 2 ] − (E[X])2 = [5] Y = 2 1 1 − ( )2 = 2 . λ2 λ λ √ X の確率密度関数を fY (y) とすると明らかに y < 0 に対しては fY (y) = 0. また y > 0 に対しては d d d d fY (y) = FY (y) = P (Y ≤ y) = P (X ≤ y 2 ) = dy dy dy dy ∫ y2 λe−λx dx = 2λye−λy . 2 0 [6] 確率変数 X, Y の分布関数をそれぞれ FX (x), FY (y) とする. a > 0 ならば ( (y − b) y − b) FY (y) = P (Y ≤ y) = P (aX + b ≤ y) = P X ≤ = FX a a だから fY (y) = (y − b) d 1 ′ (y − b) 1 FY (y) = FX = fX . dy a a |a| a 一方 a < 0 ならば ( ( ( y − b) y − b) y − b) FY (y) = P (aX + b ≤ y) = P X ≥ =1−P X < =1−P X ≤ . a a a 最後の等号は P (X = (y − b)/a) = 0 による. したがってこの場合も fY (y) = (y − b) d 1 ′ (y − b) 1 FY (y) = − FX = fX . dy a a |a| a
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