9. 燃料電池の電気的特性 ■ 自由エネルギー(Gibbs free energy) ギブスの自由エネルギー(Gibbs free energy)は. H :エンタルピー T :温度 S :エントロピー G = H − TS (1) によって定義される量であり,G の微小変化(微分)は, dG = d(U + pV ) − d(T S) = dU + pdV + V dp − T dS − SdT (2) と書くことができる. 一方,系が周囲に対して行う微小仕事を δL,系に流入する熱を δQ とすれば,熱 力学第一法則(エネルギー保存則)より dU = δQ − δL (3) が成り立つ.ただしここでは,系が行う微小仕事 δL として,周囲の圧力 pex に抗 して系の体積が増加することで行われる微小仕事 pex dV の他に,化学反応による 微小仕事 dLch も考慮に入れてある.すなわち δL = pex dV + dLch (4) である.したがって,(2) に (3) と (4) を代入すれば, dG = δQ − (pex dV + dLch ) + pdV + V dp − T dS − SdT (5) の関係が得られる. ■ 可逆変化のもとでの自由エネルギーの変化 ところで,たいていの場合,化学反応は等温・等圧の条件下(dp = 0,dT = 0)で 行われる.そのときの G の微小変化は,(5) より, dG = δQ − pex dV − dLch + pdV − T dS (6) と表される.ここで,系が可逆的に膨張するとき,すなわち,系の圧力と周囲の圧 力とが等しい状態(pex = p)で系が膨張するとき,系の行う膨張仕事は最大とな ることに注意しておく.また,そのとき熱の流入も可逆的に行われるので, δQ = δQrev , δQrev = T dS (7) が成り立つ.以上から,化学反応が等温・等圧下で可逆的に進行する場合,自由エ ネルギーの微小変化は dG = δQrev − pex dV − dLch + pex dV − T dS = −dLch (8) となることがわかる.すなわち,温度・圧力一定のもとで,可逆的な 化学反応よっ て行われる仕事は自由エネルギーの変化量と等しく,なおかつそのとき自由エネル ギーは減少すること(dLch > 0 より dG < 0)がわかる.例えば,25◦ C,1 bar の 定温・定圧のもとで水が生成される反応は, 1 H( 2 g)+ O( 2 g)→ H2 O(l),∆G = −237kJ/mol 2 (9) と書かれるから,この反応の場合,系は膨張仕事以外に 237 kJ の仕事ができると 考えられる. 1 ■ 燃料電池の起電力(電池電位) アボガドロ数を NA ,電気素量を e としたとき, F = NA e = 9.648 × 104 C/mol は 1mol 当りの電気量を表す.こ れをファラデー定数という. いま,化学反応によって,n mol の電子が電位差 E の電極間を移動したとすると, そのとき電子が電場からされる仕事 We は We = nNA (−e) · E = −nF E (10) で与えられる.これがすべて化学反応によって行われたとすれば,We を自由エネ ルギーの変化量 ∆G に等しいとおくことができるので, ∆G = −nF E すなわち E = − ∆G nF (11) となり,理論的に達成可能な起電力 E が求められる.例えば,先ほどの (9) に基 づく水 1 mol の生成反応の場合,各電極では下記の反応 1 陰極: H2 → 2H+ + 2e− , 陽極: O2 + 2H+ + 2e− → H2 O 2 が生じているので,電極間を 2 mol の電子が移動することになる.したがって,こ のときの起電力は E= 237kJ = 1.228V 2 × 9.648 × 104 C と評価することができる. ■ 燃料電池の効率 温度一定のもとで生じるギブスの自由エネルギーの変化量 ∆G は,(2) より, ∆G = ∆H − T ∆S (12) と書くことができる.すなわち,自由エネルギーの変化量 ∆G は,そのときの化 学反応によって生じるエンタルピーの変化量 ∆H から,エントロピー変化に伴う 熱 T ∆S を差し引いたものであり,結果的に T ∆S の分は仕事として取り出せない ことを示している.このことから,燃料電池の理論効率 η は η= ∆G T ∆S =1− ∆H ∆H (13) によって計算できることがわかる.ここで再び,水の生成反応を例にとれば, 1 H( 2 g)+ O( 2 g)→ H2 O(l),∆H = −286kJ/mol 2 (14) であるから,25◦ C,1 bar における燃料電池の理論効率(電力への変換効率)は, η= 237kJ/mol = 0.83 286kJ/mol (15) となる.このように低温で高い効率を有する点は,熱機関と異なる燃料電池の大き な特徴といえる. なお,以上の議論は,化学反応が可逆的に行われることが前提となっている.すな わち,電流が全く流れない状態での電池電位(起電力)を求めていることに注意 する. 2
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