第14回資料(2)(01/04 up)

9. 燃料電池の電気的特性
■ 自由エネルギー(Gibbs free energy)
ギブスの自由エネルギー(Gibbs free energy)は.
H :エンタルピー
T :温度
S :エントロピー
G = H − TS
(1)
によって定義される量であり,G の微小変化(微分)は,
dG = d(U + pV ) − d(T S) = dU + pdV + V dp − T dS − SdT
(2)
と書くことができる.
一方,系が周囲に対して行う微小仕事を δL,系に流入する熱を δQ とすれば,熱
力学第一法則(エネルギー保存則)より
dU = δQ − δL
(3)
が成り立つ.ただしここでは,系が行う微小仕事 δL として,周囲の圧力 pex に抗
して系の体積が増加することで行われる微小仕事 pex dV の他に,化学反応による
微小仕事 dLch も考慮に入れてある.すなわち
δL = pex dV + dLch
(4)
である.したがって,(2) に (3) と (4) を代入すれば,
dG = δQ − (pex dV + dLch ) + pdV + V dp − T dS − SdT
(5)
の関係が得られる.
■ 可逆変化のもとでの自由エネルギーの変化
ところで,たいていの場合,化学反応は等温・等圧の条件下(dp = 0,dT = 0)で
行われる.そのときの G の微小変化は,(5) より,
dG = δQ − pex dV − dLch + pdV − T dS
(6)
と表される.ここで,系が可逆的に膨張するとき,すなわち,系の圧力と周囲の圧
力とが等しい状態(pex = p)で系が膨張するとき,系の行う膨張仕事は最大とな
ることに注意しておく.また,そのとき熱の流入も可逆的に行われるので,
δQ = δQrev , δQrev = T dS
(7)
が成り立つ.以上から,化学反応が等温・等圧下で可逆的に進行する場合,自由エ
ネルギーの微小変化は
dG = δQrev − pex dV − dLch + pex dV − T dS = −dLch
(8)
となることがわかる.すなわち,温度・圧力一定のもとで,可逆的な 化学反応よっ
て行われる仕事は自由エネルギーの変化量と等しく,なおかつそのとき自由エネル
ギーは減少すること(dLch > 0 より dG < 0)がわかる.例えば,25◦ C,1 bar の
定温・定圧のもとで水が生成される反応は,
1
H(
2 g)+ O(
2 g)→ H2 O(l),∆G = −237kJ/mol
2
(9)
と書かれるから,この反応の場合,系は膨張仕事以外に 237 kJ の仕事ができると
考えられる.
1
■ 燃料電池の起電力(電池電位)
アボガドロ数を NA ,電気素量を
e としたとき,
F = NA e
= 9.648 × 104 C/mol
は 1mol 当りの電気量を表す.こ
れをファラデー定数という.
いま,化学反応によって,n mol の電子が電位差 E の電極間を移動したとすると,
そのとき電子が電場からされる仕事 We は
We = nNA (−e) · E = −nF E
(10)
で与えられる.これがすべて化学反応によって行われたとすれば,We を自由エネ
ルギーの変化量 ∆G に等しいとおくことができるので,
∆G = −nF E すなわち E = −
∆G
nF
(11)
となり,理論的に達成可能な起電力 E が求められる.例えば,先ほどの (9) に基
づく水 1 mol の生成反応の場合,各電極では下記の反応
1
陰極: H2 → 2H+ + 2e− , 陽極: O2 + 2H+ + 2e− → H2 O
2
が生じているので,電極間を 2 mol の電子が移動することになる.したがって,こ
のときの起電力は
E=
237kJ
= 1.228V
2 × 9.648 × 104 C
と評価することができる.
■ 燃料電池の効率
温度一定のもとで生じるギブスの自由エネルギーの変化量 ∆G は,(2) より,
∆G = ∆H − T ∆S
(12)
と書くことができる.すなわち,自由エネルギーの変化量 ∆G は,そのときの化
学反応によって生じるエンタルピーの変化量 ∆H から,エントロピー変化に伴う
熱 T ∆S を差し引いたものであり,結果的に T ∆S の分は仕事として取り出せない
ことを示している.このことから,燃料電池の理論効率 η は
η=
∆G
T ∆S
=1−
∆H
∆H
(13)
によって計算できることがわかる.ここで再び,水の生成反応を例にとれば,
1
H(
2 g)+ O(
2 g)→ H2 O(l),∆H = −286kJ/mol
2
(14)
であるから,25◦ C,1 bar における燃料電池の理論効率(電力への変換効率)は,
η=
237kJ/mol
= 0.83
286kJ/mol
(15)
となる.このように低温で高い効率を有する点は,熱機関と異なる燃料電池の大き
な特徴といえる.
なお,以上の議論は,化学反応が可逆的に行われることが前提となっている.すな
わち,電流が全く流れない状態での電池電位(起電力)を求めていることに注意
する.
2