学 位 記 番 号 栄博論第 2013001 号

天使大学大学院
氏
名
杉田 淳
学 位 の 種 類
博士(栄養学)
学 位 記 番 号
栄博論第 2013001 号
学位授与年月日
2014 年 3 月 14 日
学 位 論 文 名
ヒト褐色脂肪組織でのエネルギー消費と体脂肪に対する天国の種抽出物摂取の
効果
Effects of grains of paradise (Aframomum melegueta) extract on brown
adipose tissue, whole-body energy expenditure and adiposity in humans.
論文審査委員
主 査
大久保 岩男
副 査
斉藤 昌之
論
文
副
内
容
査
武藏 学
の 要 旨
[背景と研究目的]
肥満は、食事の過剰摂取のみならずエネルギー消費の低下も原因である。褐色脂肪組織(以下褐色
脂肪と略す)は寒冷刺激や食事摂取により誘発される非震え熱産生の特異的部位として、体温やエネ
ルギー消費の調節に関与している。最近、がんの画像診断法である 2-fluoro-2- deoxyglucose (FDG)
-positron emission tomography (PET)/computed tomography (CT)を利用して褐色脂肪を検出・評
価することが可能となり、成人にも寒冷刺激によって活性化される褐色脂肪が存在しており、全身の
エネルギー消費や体脂肪の自律的調節に寄与していることが明らかになった。更に、寒冷刺激の受容
体である transient receptor potential channel (TRP)を化学的アゴニストで刺激することによって
褐色脂肪を活性化できること、特に、トウガラシの辛味成分カプサイシンが TRPV1 に作用して褐色
脂肪を活性化しエネルギー消費を増やし体脂肪を減少させることが立証された。
申 請 者 は 、 香 辛 料 の 中 か ら 西 ア フ リ カ 産 の シ ョ ウ ガ 科 の 天 国 の 種 ( grains of paradise;
Aframomum melegueta, GP)に着目した。GP は、カプサイシン類と構造が類似した 6-paradol、
6-gingerol および 6-shogaol が多く含まれているので、トウガラシ類と同様のエネルギー代謝亢進効
果や体脂肪減少効果が期待される。そこで本研究では、1)健常成人を対象として GP 抽出物を単回摂
取した際のエネルギー消費応答を調べ、FDG-PET/CT で評価された褐色脂肪活性との関係を解析し
た。更に、2)GP の長期摂取によりエネルギー消費量や体脂肪量がどのように変化するのかについて
も検討した。
[研究方法、研究結果及び考察]
1)健康な若年成人男性 19 名を被験者として、寒冷刺激を 2 時間与えてから FDG-PET/CT 検査を行
ったところ、12 名に褐色脂肪が検出されたが残りの 7 名では検出できなかった。そこで、褐色脂肪
とエネルギー消費への GP の効果を明らかにするために、GP 抽出物を含むカプセル(40mg/回)又は
プラセボカプセルを経口摂取してからのエネルギー消費量の変化を 2 時間に渡って追跡し、褐色脂
肪の検出群と非検出群とで比較・検討した。その結果、1) 非検出群では、GP 摂取によるエネルギ
ー代謝量の変化は認められなかったが、検出群でのみ GP 摂取 30 分後から 2 時間までエネルギー消
費量が増加した。2) プラセボ摂取では、検出群及び非検出群いずれにおいて、エネルギー消費量へ
1
天使大学大学院
の影響は見られなかった。3)呼吸商については、GP とプラセボ摂取、及び検出群と非検出群、い
ずれの比較でも有意な差は認められなかった。これらの結果から、GP を摂取すると直ちに褐色脂肪
が活性化しそれによってエネルギー消費が亢進すると結論した。
2)GP の単回摂取により褐色脂肪の活性化を介したエネルギー消費の亢進が確認されたので、次に
GP を慢性摂取した際の安静時代謝量および体脂肪量の変化について検討した。健康な若年女性 19
名を対象に、プラセボを対照としたクロスオーバー試験により、GP カプセル(30 mg/day)を 4 週間
摂取させた。その結果、1)プラセボ摂取では内臓脂肪量が増加したのに対し、GP 摂取では有意に内
臓脂肪量が減少した。2)またその減少量は摂取開始前の内蔵脂肪量と負に相関していた。3) プラセ
ボ摂取では、安静時代謝量の変化は認められなかったが、GP 摂取にでは有意な増加が認められた。
これらの結果から、GP を長期間摂取するとエネルギー消費量が増えて内臓脂肪を減らす効果がある
ことが示された。
[結論]
本研究により、GP は褐色脂肪を活性化させてエネルギー消費を高め、更に長期的に摂取すること
で安静時代謝を亢進させて内臓脂肪を低減させる効果を有することが明らかとなった。したがって、
GP はヒト肥満の軽減・予防に利用できる有望な素材であると思われる。
2
天使大学大学院
Background and Objectives:
Obesity develops when food intake chronically exceeds total energy expenditure. Brown
adipose tissue (BAT) is the site of metabolic thermogenesis during cold exposure and
spontaneous overfeeding, and thus an intriguing target for the treatment of obesity. Recent
studies using fluoro-deoxyglucose (FDG) - positron emission tomography (PET) revealed the
existence of cold-activated BAT in adult humans. In addition to cold, some food ingredients have
been reported to activate BAT. Typical example is a pungent principle of hot pepper capsaicin,
which was demonstrated to increase energy expenditure (EE) through the activation of BAT via
action to transient receptor potential vanilloid 1 (TRPV1) and to reduce body fatness.
Grains of paradise (Aframomum melegueta, GP), a spice of zinger family, contain pungent,
aromatic ketons such as 6-gingerol, 6-pardol and 6-shogaol. As these phenolic compounds have a
similar chemical structure to capsaicin, it might be expected that GP activates BAT, increases
EE and decreases body fat. In the present study, I examined the effects of GP extract ingestion
on EE by indirect calorimetry in healthy human subjects and analyzed its relation to BAT
activity assessed by FDG-PET/CT. Moreover, I examined the effects of repeated ingestion of GP
extract on EE and body fat.
Methods and results:
1) Nineteen young healthy male subjects underwent FDG-PET/CT examination after2-hr cold
exposure. BAT was detected in 12 (BAT-positive), but not in 7 (BAT-negative), subjects. Within 4
weeks after FDG-PET/CT examination, whole-body EE was measured at 27 ºC before and after
oral ingestion of GP extract (40mg) for 2h. EE before GP ingestion was comparable in the
BAT-positive and –negative groups, while after GP ingestion, EE increased significantly in the
BAT-positive group but little in the BAT-negative group. Placebo ingestion produced no EE
change in either groups. The respiratory quotient was not changed after GP and placebo
ingestion. These results indicate that GP extract can potentially increase EE through the rapid
activation of BAT in healthy humans.
2) In order to examine the effects of repeated ingestion of GP, body fat content and whole-body
EE were measured before and after daily ingestion of GP extract (30mg/day) for 4 weeks in 19
young healthy female subjects in a placebo-controlled crossover design. Four-week daily
ingestion of GP and placebo decreased and increased slightly the visceral fat area at the
umbilicus level, respectively. The GP-induced change was significantly different from those
induced by placebo, and negatively correlated with the initial visceral fat area. Neither GP nor
placebo ingestion affected subcutaneous and total fat areas. The daily ingestion of GP, but not
placebo, increased whole-body EE. These results suggest that GP extract may be an effective tool
for reducing body fat, mainly by preventing visceral fat accumulation.
Conclusion:
Oral ingestion of GP extract increases energy expenditure through the activation of BAT, and
repeated ingestion of GP extract decreases visceral fat. Thus, GP is expected as a food-related
anti-obesity tool.
3
天使大学大学院
論
文
審
査 結 果
ヒトを含む哺乳動物には,エネルギーを貯蔵する白色脂肪組織と寒冷刺激等に際してエネルギーを熱と
して消費する褐色脂肪組織(褐色脂肪)が存在する。最近,がんの画像診断法である FDG-PET/CT を利
用して褐色脂肪を検出・評価することが可能となり,成人にも寒冷刺激によって活性化される褐色脂肪が
存在し,トウガラシ由来のカプサイシンによる刺激でも活性化され,エネルギー消費が増加し,体脂肪が
減少することが立証された。
申請者は,西アフリカ産のショウガ科の「天国の種(GP)」に着目し,GP にはカプサイシン類の構造
類似体である 6-paradol,6-gingerol および 6-shogaol が多く含まれていることから,エネルギー代謝亢
進効果や体脂肪減少効果が出現するか否かを 2 種類の実験で検証した。
1)健康な若年成人男性 19 名を被験者に,寒冷刺激を 2 時間与えてから FDG-PET/CT 検査を行った
ところ,12 名に褐色脂肪が検出されたが, 7 名では検出されなかった。褐色脂肪への GP の効果を証明
するために,GP 抽出物を含むカプセル又はプラセボを経口摂取してからのエネルギー消費量の変化を追
跡し,褐色脂肪検出群と非検出群とで比較・検討した。その結果,① 非検出群では、GP 摂取によるエネ
ルギー代謝量の変化は認められなかったが,検出群でのみ GP 摂取 30 分後から 2 時間までエネルギー消
費量が増加した。② プラセボ摂取では,検出群及び非検出群双方で,変化は見られなかった。③呼吸商
については,GP とプラセボ摂取,及び検出群と非検出群,いずれの比較でも有意差は認められなかった。
以上の結果は,GP 摂取による褐色脂肪の活性化と,それによるエネルギー消費亢進を示していた。
2)健康な若年女性 19 名を対象に,プラセボを対照としたクロスオーバー試験により,GP カプセルを
4 週間摂取させた。その結果,① プラセボ摂取では内臓脂肪量が増加したのに対し,GP 摂取では有意に
内臓脂肪量が減少した。② プラセボ摂取では,安静時代謝量は変化しなかったが,GP 摂取では有意な増
加が認められた。これらの結果は,GP を長期間摂取するとエネルギー消費量が増えて,内臓脂肪を減ら
す効果があることを示していた。
申請者は,GP が褐色脂肪を活性化させてエネルギー消費を高め,長期摂取により内臓脂肪を減らし,
ヒト肥満の軽減・予防に応用可能な素材であることを明らかにした。
以上の研究結果は,栄養学分野で大きく貢献するものである。従って,審査員一同は本研究を博士論文
として認めるものである。
4